【なに清】二月_CM

※大量クロスオーバー現パロ
※なんでも許せる人向け

【登場人物】
片岡桜:モンハンは双剣派。
ランサー(青):モンハンよりAPEX派。
アーチャー(紅茶):モンハンよりAPEXよりバイオ。
アーサー(FGO):勝てるまでやめない。




 金糸が風に揺れる。音を立てて砂塵が舞う。
『セイバー』
 呼ばれた彼は、振り返った。
 端正な顔立ちに、碧眼がきらきらと輝く。銀の甲冑を身に着けてなお、その動きは軽やかだ。
『アーチャー!』
 背に身の丈ほどの大剣を背負った彼は小ぎれいな笑顔を浮かべた。
 白髪の美丈夫が『調子はどうだ』と低い声で問う。『上々だよ』セイバーは上機嫌で答えた。
 褐色肌に鋼色の瞳を持つ彼は迷彩柄のローブを着込み、背には矢筒を、肩には斜めに弓を携えていた。彼の足元で似たような恰好をした猫のような生き物が二足歩行をしている。己の主人に何か話しかけようとしたらしいそれは、突如鳴り響いた鐘の音に文字通り飛び上がった。
『アンジャナフだあああ!! アンジャナフが出たぞおお!!』
 それまで闘技場で腕相撲をしていた青年は、はっと息を呑んで顔を上げた。瞬き一つで長大な槍を背負い、盾を肩に担ぐ。アウイナイトの色をした髪が翻り、しなやかな体が次々と人を避け、柵を越えた。
『ランサー!! どこへ行く!!』
 鐘が鳴り響く中でも、アーチャーの低い声はよく通った。
『チェリーを拾う!! すぐ戻る!!』
 緊急事態を伝える音は、絶えることなく薪がくべられている窯がある食堂にまで鳴り響き、今まさに肉の塊にかぶりこうとした青少年の肩をすっかり装備を整えたランサーがわし掴んだ。
 なんとかランサーの腕から逃れようとした彼女は、なすすべもなくあっさりと彼の肩に担がれる。
『悪ィ、遅れた!』
『急げ!』
 青いフードを被ったセイバーが大きく手を振って二人を出迎えた。
『肉……
『我慢しろ』
 アーチャーがきっぱりと切り捨てる。彼女は渋々といった体で、三人が地面から離れた後にスリンガーを射出した。
 翼竜が彼女を運んだ先で、大型モンスターが暴れている。
『さーて、少しは楽しめそうじゃねえか』
『攻め時だな』
『本気で行こう!』
 全員がスリンガーを振りほどき、各々の武器を構える。
 モンスターの咆哮が轟いた。衝撃波が叩きつけられる。彼女の操る双剣が真正面から、画面を切り裂く。暗転したディスプレイには、ゲームタイトルと制作会社の名前が浮かび上がった。
 タイトルが消え、発売日が浮かび上がる。
 鋭いサウンドエフェクトと共に、予約特典情報のスライドが表示される。『今ならもらえる!』という文字の横に、アーチャー、ランサー、セイバー、そして双剣を己の体の一部のように扱っていた彼女を含めた四人がCGモデリングされ、それぞれで武器を構えているスクリーンショットが添えられていた。
 画面が暗転する。ぱちぱちと、まばらな拍手が部屋に響いた。
「このシーン、こういう風に使ったのか」
「すげーなぁ、俺、これやってる時、まったくカメラのこと考えてなかった」
 アーチャーと呼ばれていた男性が感心し、ランサーと叱咤されていた青年が顔を少しだけ歪める。興奮を隠しきれないらしい『セイバー』は今にも飛び跳ねそうだった。
『素晴らしい出来だね! チェリーも最後、かっこよく決まったじゃないか』
 チェリーと呼ばれた桜は、拍手をしていた手を止めた。そうしてくるりと体の向きを変え、その時カメラを操っていたスタッフに手を合わせ、頭を下げる。
「すんませんでした」
「あぁいや、もう気にしてないから! 大丈夫だよ!」
 スタッフは慌てて手を振った。その様子を見て、『アーチャー』が溜息をついた。『ランサー』は喉の奥でくつりと笑う。やり取りを見守っていた他のスタッフ達も、似たような苦笑を浮かべ、互いに目配せした。
「お疲れさん。おっ、役者さん方、お揃いで。どう、気に入った?」
 映像監督を務めていた男性がスタジオに入ってくる。スタッフが揃って「お疲れ様です」と声をかけたが、監督はのんびりとした調子で「役者さん」と呼びかけた四人の傍へ移動した。
「からかわないでくださいよ、監督。俺ら、好き勝手にやっただけだしよ」
「その通りだな」
 ランサーの言葉に、しかめつらしく頷いたのはアーチャーだ。
 アーチャーが頷いた通り、四人は芝居を生業とする役者ではなかった。アーチャーは現在国際連合の任務に従事するスタッフであるし、ランサーはアイルランドにおける槍術の代表選手だ。桜は高校三年生で、セイバーも学生である。この四人に共通しているのは、一昨年十二月に行われた総合武術世界大会に出場して各々の鎬を削ったという実績のみだった。「オリンピックに魔物がいるなら、この大会には死神がいる」とまことしやかに囁かれるほど負傷者、死傷者が出るこの大会で一定以上の戦績を残している彼らは、確実に強者であり、戦士である。
 演じるだけの役者には到底醸し出せない匂いとも言うべきそれに目をつけたのがとあるゲーム制作会社の広報担当であった。
 近日公開予定のシリーズ最新作は、架空の世界設定を元に、プレイヤー達が操る主人公が生き延びようと、世界の謎を解き明かそうと武器を取る内容だ。
 死は生と隣り合わせで、負傷、欠損は当たり前。あなたたちの世界を野蛮だとか時代遅れだとか言いたいわけではないのだと交渉担当のスタッフは熱心に語り、こうして四人のプロモーションビデオ出演を取り付けたのだった。
 監督は世界観と所謂戦場についての説明を繰り返し四人に行った。それらの情報が細かくなっていくごとに演技指導の必要がなくなっていく事実にはスタッフ全員が気付いていたが、誰も何も言わなかった。
 クランクアップからは結構な期間が経過していた。今日、出演者達が集められたのは、完成した映像を公開より一足早く見てもらうためだ。制作陣に向けての試写会という意味も含まれている。四人はすっかり慣れた現場に戻ってきたような、けれども少し場違いのような、懐かしさと気まずさがないまぜになった、何とも言えない感情を抱えていた。
「仕入れた食材もエミヤさんが全部美味い賄いにしてくれたし。いやほんとありがとうございました」
「たいした事はしていません」
 登場時とは打って変わって頭を下げる監督に、エミヤは至極真面目な顔でそう言った。その様子を見ていたランサーとセイバーは顔を見合わせ、どちらからともなく顔ごと視線を外した。
 セイバーはおそらくエミヤの言葉を分かっていないだろうが、とランサーは思案を巡らせた。
 きっと並外れた直観力で、大意は掴んだはずだ。その碧眼にどこかやりきれない色を深い場所に隠しているのを、ランサーはとっくに見抜いていた。それこそ二週間前、撮影が始まった時から。
「アーチャーさんだけじゃなく、皆さんには本当にお世話になりました。今回の撮影にご協力いただきまして、本当にありがとうございました」
「こちらこそ、貴重な体験をさせていただき、感謝している。ありがとうございます」
 アーチャーが頭を下げる。それに倣うようにして、桜も深々と礼をした。
『また機会があったら遠慮なく呼んでほしい。あのゲームのプロモーションビデオに出られるなんて、とても光栄なことだ』
『アりがトう、アーサー』
 監督はセンキュー、と何度も繰り返した。セイバーに扮していたアーサーは笑みを深めて、しっかりと監督の手を握った。
「クーフーリンには、随分助けてもらった。日本語がお上手で、正直助かりました」
「確かにな」クーフーリンと呼ばれた彼は、少しだけ苦笑した。「だが、どうってことねえよ。ただ、まぁ、そうさな、次があるならそん時はもちっとカスタムした槍がいい」
「製作班に言っておきます」
 それじゃすいません、予定があるので。本当にありがとうございました。
 最後にそう何度もお辞儀をして、監督はスタジオを急ぎ足で出て行った。
……長いようで短かったなぁ……
『同感だ』
『君たちとこんな所で会えると思っていなかったしね』
 アーサーは心底嬉しそうに破顔した。
『つーかお前、本名もアーチャーなのかよ』
『通称だ。こちらの方が何かと便利でね。そういう君だって、ランサーが本名だろう』
『そうだけどよ。お前はどうなんだ? ミドルネームとか』
『僕のミドルネームはセイバーじゃないよ。一度誰かがふざけてそのあだ名をつけようとして、後でアルトリアと揉めたんだ。それ以来、その話はしないようにしてる』
『あぁ……
『賢明な判断だな、それは』
 二人が揃って苦虫を噛み潰したような表情になる。その様子を見ていた桜は、会話に混ざることを諦めた。
 桜以外の三人が、コミュニケーションをとるために英語を利用したからだった。これは撮影中でも変わらなかった。映像の台詞も日本語ではない。この映像は世界規模で展開されるためである。
『あー、っと、また置いてけぼりにしちまった。悪いな、チェリー』
『でも、彼女にとってはいい練習の機会になったんじゃない? 日本はそろそろ試験の季節だろう?』
 肩を抱くランサーに桜は目を瞬かせた。謝ったらしい事と、何やらまた幼子扱いされたような気配は察知した。アーサーのクイーンイングリッシュには馴染みがないが、どうも試験の話をしているらしいことは分かった。
『確かにその通りだ。ならばなおのこと、彼女はここにいるべきではないと思うがね。ランサー、いい加減彼女を解放してやれ』
 べえ、とランサーは舌を出した。
「いいんだよ、チェリーは大丈夫だ。大学の入学試験なんかあっさりパスするさ」
 受験の話だったのか、と桜はようやく得心がいった。しかしこの長い間ずっと大学受験の話をしていたのか。何故。
 疑問はひとまず置いておき、桜は「もう終わってる」とどうということもないと言ったふうに告げた。アーチャーとランサーは揃って瞠目し、アーサーは少しだけ小首を傾げた。
『彼女、もう試験を終えていたらしい』
『へぇ、そうだったのか! お疲れ様、頑張ったね』
「さんくす」
 労われたらしいことは把握できた桜は、とりあえず礼を返した。
「しかし、まだ合否の結果は出ていないだろう」アーチャーはどこか困惑した表情で言葉を紡いだ。「どこを受けたんだ。有名どころか?」
 桜は首を横に振った。
「内部推薦。十二月に結果は出てた」
 桜が通う清涼学園高等部は、清涼学園大学の付属校である。清涼学園生は、学内の審査に合格すれば、清涼学園大学での席が用意される。
 桜は日本で開催されていた総合武術全国大会で数年間、連続優勝するという好成績を修めていたし、普段の成績も悪くはなかった。最後に世界大会に参加し、昨年優勝者であるランサーに勝利したという実績も桜にとっての良い武器になった。
「なァんだお前、そういうことは早く言えよ! 猪狩って来てやったのによ!」
「猪」
「美味いぜ。いや、噛み応えがあるってだけだけどな」
……気持ちだけ」
 おう、おめでとう、とランサーは桜にハグをした。桜が抵抗なく受け入れたのを見て、それなら僕もと言わんばかりにアーサーもハグをする。アーチャーは、「おめでとう」と一言、優しい声音で添えた。
「じゃ、今、時間あるんだな?」
「無い」
 桜は間髪入れずに否定した。なんでだよ、とランサーが不満げに口を尖らせる。
「特別課題が……いっぱいあって……
 桜の表情から生気が抜け落ちていく。アーサーはよく分かっていないながらも大変らしいことは察し、『ベストを尽くして』と応援した。
「そうだな、課題なんぞさっさと終わらせちまえ。そんでまた会おうぜ、あと一ヶ月あるだろ? 大学が始まるのは四月だよな? アーチャーん家で集合しようぜ、飯が美味い」
 うぐ、と桜が呻いた。何を勝手に、彼女には新生活の準備もあるんだぞと言おうとしたアーチャーは、結局それらの言葉を呑み込んだ。代わりに、仕方がないなとため息をつく。
「私だって暇ではないのだがね。事前にきちんと連絡を入れたまえよ」
「よっしゃ! お前、絶対三月までにフリーになれよ」
『よくわかんないけど、頑張って、チェリー! 決して無駄にはならないよ!』
……無理はするなよ」
 最後に喉の奥でぐるぐると唸り、項垂れるようにして頷いた桜の頭の中で、美味しそうなアーチャー手製の料理が浮かんでは消え、浮かんでは消える。早くも腹の虫が鳴き声をあげそうだ。桜は奥歯を噛んで、特別課題に立ち向かう覚悟を定めたのだった。