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桜霞
2024-04-24 16:51:34
6301文字
Public
【大量クロスオーバー】なにもない清涼学園
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【なに清】十二月
※大量クロスオーバー現パロ
※なんでも許せる人向け
【登場人物】
片岡桜:総合武術世界大会団体戦でランサーには辛勝したがオルタには負けた。グループ予選突破ならず。
ランサー:なーんだ女か、しかもティーンっぽい、と思って油断してたら勝負に勝ちかけて試合に負けた。
キャスター:日本語チョトできる。
オルタ:怪獣。
わんわん:ゲリとフレキ。ウルフドッグ。でかい。
ぱち、と音を立てて炎の中で薪が爆ぜた。
部屋の暖かさにうとうとと微睡んでいた桜は、不意に抱えていたクッションが横にずらされて、はたと目を開けた。
抑えられていた呼吸が再開され、一時だけ大きくなる。桜はクッションを抱えなおそうときょろきょろと視線を彷徨わせた。その隙に、わふ、と白い大きな犬が桜に乗り上げた。
「
……
お前か」
胡坐をかいて座っている桜の足の上に我が物顔で伏せて、ぐりぐりと体を擦りつけてくる。他よりも一回り大きいらしいウルフドッグは、この屋敷でそれはそれは厳しくも愛されて育てられていた。
甘えられるがままに撫でてやっていると、わふ、と頭に重みがかかる。
「
…………
頭はやめて
……
」
背もたれにしていたソファに乗り上げたもう一匹が、おとがいを桜の頭の上に乗せていた。
遊ばれている。多少乱暴にしても平気だとここ数日で学んだ桜は、強めの力で犬の頭をどけた。しかし犬は何事もなかったかのように再びおとがいを頭の上に乗せてくる。
「
……
」
「
……
」
犬と桜の無言の攻防が始まった。桜が押しのけて、犬が頭の上におとがいを乗せる。十にも満たない回数で桜ががくりと項垂れた。
ひとつ大きく嘆息して、「おい」と低い声を発する。あぐらの上の犬がぴくりと耳をそよがせたが、自分のことではないと分かっているのか、気にした風もなく寛いでいる。
桜は押しのけると見せかけて、その首元をわし掴んだ。
「やめろ」
ぎらりと桜の瞳が光る。途端にくうん、と犬が耳を垂れさせて、体の向きを変えた。ちょうどいい具合に犬の腹が桜の枕になるようになっている。桜は掴んでいた場所を数度優しく撫でてやった。
ぴろりん、と無機質な音が響く。
「随分手懐けてるじゃねえか」
喉の奥で笑いながらスマートフォンを操作しているのは青髪に赤目の美丈夫だ。名をクー・フーリン・ランサー。アイルランドにおける槍術の第一線を担う人物である。暖炉の傍の一人用ソファに悠々と腰かけて、何が面白いのか口端を吊り上げているこの人物がうっかりすれば死人を出すほどの使い手だということを、桜はよく忘れそうになる。
「また撮ってんの」
「いーじゃねえか減るもんじゃなし」
「テレビに出る」
桜は眉をしかめた。撮るだけならまだしも、彼は撮ったものをツイッターにアップロードする。桜はそれをあまり好んではいなかった。
「どこの世界もマスコミはがめついねえ」
「だがその分お前に直接来ることは減ったろ?」
「
……
」
ランサーとは反対方向からランサーと同じような声がした。ランサーと同じ名を持つキャスターのものだ。彼は新聞から目を離さずに言葉を続けた。
「ある程度餌を与えねえと、奴さん達は諦めが悪いからな」
「感謝しろよ、お前のプライベート守ってやってんだから」
「GO」
わん! と桜の傍にいた犬が二匹ともすさまじい瞬発力でランサーに向かって一目散に駆けて行った。
「うわ!? ちょ、こらやめろ、おい!!」
尻尾を千切れんばかりに振って、二匹はランサーに容赦なくじゃれつく。腹や鳩尾などあらぬところを踏まれて呻くランサーに、「調子に乗るからだ」キャスターが声を立てて笑った。
ぴろりん、と別の場所から音がした。ランサー、キャスターと同じ名を持つオルタだ。オルタもランサーのように撮ったものをツイッターにアップロードする。桜はこの兄弟共はと渋い顔をするが、オルタが積極的に何かを利用するのは槍術以外でこれが初めてだというぐらいに珍しいと聞いて、思わず文句を飲み込んでしまった。
ランサーが桜を勝手に撮り、桜が怒って意趣返しをし、それを喰らうランサーをオルタが撮る所までが仕様となってきているらしい。ツイッターには早くも「テンプレ乙」「いいぞもっとやれ」「わんちゃんかわいい」「もしかしなくとも:飼い主=桜ちゃん」等の反応が集まってきている。キャスターは「よくやった」という一言だけを添えて白犬の写真をインスタグラムにアップした。
不意にオルタが桜に自分のスマホ画面を見せた。ひとつのツイートが表示されているそれには、英語が綴られている。しかしアカウント名は日本語となっており、桜にとっては見慣れた名前だった。
「どうした」
「いつ帰ってくるんだって言われた」
桜はそのままオルタのスマホを操作して日付を打ち込もうとして、やめた。先程のマスコミの話が脳裏をよぎったからだった。「ありがと」桜は立ち上がって、キャスターの方へ移動する。キャスターのソファの傍に置かれている小さなテーブルに桜のスマホが置かれていた。
「あー、お前のフライトいつだっけ」
「明後日」
「じゃぁ、日本に着くのは明々後日か」
「うん」
「早かったなぁ、もう三週間経つのか」
十二月の初旬に行われた総合武術世界大会から約三週間。大会運営主催のギルガメッシュに無理矢理参加させられる運びとなった日本勢は、急な事に寄せ集められた一団とは言えないほどに善戦した。桜も招集をかけられたうちの一人である。
桜が参加した槍術部門は早々に優勝候補と謳われる昨年優勝国アイルランドと予選で激突し、健闘虚しく敗れ去った。文字通り世界は広かった。桜はランサーに辛うじて勝利したが、彼の油断と桜の対師匠用の戦闘モードがなければ惨敗を喫していただろう。槍術部門は結局オルタがほぼ全ての相手を叩きつぶす形でアイルランドが優勝した。
桜は大会が終わった後一度日本に帰国したが、冬休みに入ってすぐ、「遊びに来い」と飛行機のチケットを送りつけられて、アイルランドに至急飛ぶこととなった。年末はお師匠の道場の大掃除があるので短い間しかいられないが、桜は異国の冬を満喫した。
「今度は原田も連れて来いよ」
「うん」
送られてきたエアチケットは二人分あった。桜と、もう一枚は原田の分である。彼も世界大会に招集されていた。お師匠、桜の次に名を挙げられる槍術の使い手と言えば、宝蔵院胤舜か原田左之助である。胤舜が原田に役割を譲ったので、原田はオルタと槍をぶつけ合った。
原田は珍しく「もういやだ」と辟易していて、桜もそれに同意しかなかったが、クー・フーリン達は桜達の事をいたく気に入ったらしく、何かと接触を図っている。
結局、アイルランドに渡ったのは桜だけだった。原田はここぞとばかりに自分の教員という社会的立場を利用し、「受験シーズンが本格化するから休みが取れない」などと嘯いた。保体教師が何をほざくかと桜は無理矢理にでも連れて行こうとしたが、原田の本気の抗いを屈させるほどの気力は残っていなかった。大会直後と言って過言ではない時期だったのと、新鮮な話題に飢えているマスコミに追いかけ回されて選手たちの精神はすり減るばかりだったのだ。
「だったら行かなければいいのに」と冴美や総司達は口を揃えて言ったが、断った後に日本に来られるのも嫌だなと思ったのだ。なんせ我が国は男女が一人ずつ一緒にいるだけで何かしらの関係性を探ろうとするきらいがある。
総司にラインで帰国の日取りを伝えた桜は、暖炉の前に敷かれたラグに寝そべった。ランサーを構い倒した犬達が桜に寄り添う。この家に来て数日だが、彼らは随分桜に懐いていた。近所に野良犬として生きていたのを拾って育てたのはキャスターらしい。
桜はよくやったと犬の頭や腹をかき回した。ランサーは小さく舌を打つ。面白くない。
「来年は何年生なんだ?」
「高三」
「あ!? まだハイスクールなのお前」
「うん」
何を今さら、と桜は首を傾げた。
「えっ、じゃぁ俺、ティーンに負けたってことかよ」
アイルランドの選手を率いるスカサハの方針で、彼らは対戦国の選手情報を一切調べずに戦いに臨む。彼らは優勝を求めているのではなく、ただひたすらに強者と戦うことを望んでいるからだ。
選手の年齢や身長などの基本ステータスは観戦客には開示されるが、選手たちにはその限りではない。
「だーから油断すんなよってあれ程言ったろうが」
「遊んでくれてありがとうございました」
愕然とするランサーにキャスターが呆れて、桜が飄々と煽る。相手の全力とぎりぎり拮抗する形で闘っていたランサーは後でこってりとスカサハに絞られたことを思い出し、頭を抱えた。
「次は全力で叩き潰してやる
……
!」
「フラグか」
「フラグだな」
オルタとキャスターが容赦なく言った。負けた戦士にかける情けは無い。哀れと桜は内心で掌を合わせた。
「大学はどうするんだ、お前。留学とかするのか」
キャスターの問いに、桜は首を傾げた。進路希望調査票が配られたことを思い出す。
清涼学園では、志望大学の受験教科に合わせて、高等部三年からは選択制の授業となる。まず文系と理系に分かれ、そこからさらに私立大学か、国公立大学を志望するのかで分かれる。必修の授業はいくつかあるが、それ以外は概ね自由であった。
まだ明確に大学名や学部名まで絞れていない生徒が多い中、桜はとりあえず私立大学を志望する旨を進路希望調査票に記入した。
日本で就職するならば、学歴社会であることを考慮して大学には進学しておくべきだ。幸い経済的には何も心配することはない、遺産がこれくらいあってこういう風に貯金、投資していて、と兄から説明を受けているので、桜は両親が鬼籍に入っている高校生としては珍しく、奨学金も申請するつもりがなかった。貴重な枠は、桜よりももっと必要としている人が使うべきだろうなという考えが、漠然と桜の中にはあった。
とは言え、キャスターが聞きたいのはそういうことではないのだろうということは察せられる。桜は唸った。将来の事など未だ考えたこともない。
「まだ何も決まってない」
まっしろだ、と桜は正直に告げた。
後輩の中には、既に具体的なプランを持って大学を目指し勉学に励んでいる者もいる。柊京一郎がいい例だ。生まれ育った地元に貢献したいという思いから国の役人、官僚を目指している彼は、東京大学に入学するため勉強に武道にと、忙しく日々を過ごしている。
特に東京大学でなくてもいいのでは、と訊ねた際には、今までしてきた努力を鑑みて周りが期待してくれるならそれに応えたい、と彼はまっすぐに答えてくれた。周囲の人間などに振り回されず、むしろ振り回す勢いで生きてきた桜からしてみれば、なんてできた人間だろうと感嘆を通り越して呆れてしまった。
「皆は何してるの」
ふと気になって、桜は訊ねてみた。三人は互いに目配せしあっていたが、最終的にキャスターに説明役が押し付けられたらしい。彼は珍しく難しい顔をして、しばらく言葉を選んでいる風情だった。
「俺達は
……
その
……
なんて言ったらいいか
……
」
そんなに説明するのが難しい仕事をしているのか。普通に企業に勤めているとかそういうわけではないらしい。察した桜が無理にとは言わないと口を開こうとしたが、それより先にキャスターが言葉を紡ぐ。
「世界大戦は知ってるな」
「
……
第一次と、第二次世界大戦?」
「そうだ」
WWⅠ、WWⅡと、文字にすれば短いそれは、一言では言い表せない複雑なものだ。世界を舞台に行われた戦争は、最終的に原子爆弾を落とされた日本が降伏して終戦を迎えた。
「以来、世界各国は平和条約を締結した。もう戦争はしねえってことだ」
何故急に戦争の話になったのかがイマイチ分からないが、桜はひとまず、無言で続きを促した。
「で、まぁ、平和にはなった。表立って銃撃戦なんてのはきっとお前さんにとっては非日常だ。新聞に戦況が載ることもねえ。けど、まだ戦争状態にある地域はある」
桜の脳裏に紛争や宗教戦争で建物が爆破されたり、撃たれて血を流している人が病院に運びこまれたりするニュース映像が流れた。おそらく中東地域のものだろう。ヨーロッパに近いところでも紛争や内戦は起きているらしいが、詳しいことは桜の知識にはなかった。
「俺達の仕事場はそこだ。現場担当がランサーとオルタで、俺はサポート。元現場だったんだけどな、へましてよ」
ちょっとそこらへんで躓いてしまった、程度の軽さで、キャスターは肩を竦めた。よく言う、とオルタとランサーが目を眇めたのを桜は目敏く視認した。
同時に、成程、それで、と桜はどこか納得した。
桜の脳内では三週間前の大会で得られた映像が流れていた。ランサーと、延長戦でオルタと闘った時の視界と感触が蘇る。
あの時、桜は闘気だけでなく殺気を纏って、それを隠しもせずに、二人に噛みついていた。そうでもしなければ勝てなかったからだ。ランサーとオルタはそれに対し特に驚いた様子もなく桜を相手取った。戸惑っていたのはむしろ桜の方だった。
だって、試合は、殺し合いの場ではない。相手を殺さなければならないわけではない。相手から一本取る、ないしは判定勝ちに持ち込めれば良い。
桜は師匠から勝利をもぎ取る時も同じように心底殺す勢いで彼女と対峙した。けれどもそれは、本来ならば異質なことなのだと、身を以て知っている。
ランサー、オルタのふたりと対峙したとき、桜は相手が戸惑わないことに戸惑ったのだ。
「じゃぁ、人の
……
命に、関わったことが、あるんだ」
「
……
まあな」
答えたのはランサーだった。沈黙が降りる。
彼らはそういう仕事なのだと答えた。なるほど世界は広い。そういう仕事もあるなど、桜には思いつきもしなかった。
「
……
私には、無理だな」
桜はぽつりと零すようにして言った。
自分には、闘う意志と覚悟を持って己と真正面から対峙した人間以外の命と関わるというのは、随分重く感じた。
そして、それができているらしい彼らを、随分遠くに感じる。すごいな、と桜は素直にそう思った。
ソファから離れて桜の傍にあぐらをかいたランサーが、寝そべったままの桜の頭を押さえつけるようにして撫でる。「いたい」桜は文句を言ったが、ランサーは「撫でられとけ」と聞く耳を持たなかった。
「
……
スカサハの前で将来の話はするな」
不意にオルタが口を開いた。まっすぐ見つめられていることに気付いた桜が顔を上げる。
「あいつは、
……
あいつの周りは、お前の強さを気に入る」
何をされるか、分からない。
オルタに続いて、ランサーも口を開いた。
「あぁ、お前はそのままでいろ。ぜーったい師匠の口車に乗るなよ」
「いたい!」
人を殺したことなどない癖に、彼女は正しい重さの覚悟でもって相手と対峙する。全てを識っているわけではない。かと言って、何も知らないわけではない。一を知って十を分かった気になっている生意気さは皆無で、知らないことは思った以上にこの世に溢れていると理解している。
それでもお前の命を頂戴する、と槍の刃先を相手に向ける。その潔さはひどく心地よく、純粋で、侵しがたいと同時に、蹂躙してめちゃくちゃにしてやりたいという征服欲さえも刺激する。つくづく桜を仕込んだ師匠の手腕が窺えた。
世が世であれば彼女は迷いなく戦場に立っていただろう。しかしその時代は既に遠のきつつある。集合体の威信やら誇りやら、ナショナリズムを重視する時代から、個人の自由が優先される時代へと歴史は移り変わっていく。
他ならぬ桜が望んでいないのだ。無理にこちら側に引き込むこともあるまい。
「GO!」
本日二度目のGOサインに、わんと吠えた犬達が再びランサーに飛びかかった。
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