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桜霞
2024-04-24 16:07:06
5213文字
Public
【大量クロスオーバー】なにもない清涼学園
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【なに清】十月
※大量クロスオーバー現パロ
※なんでも許せる人向け
【登場人物】
片岡桜:最強ではない。
不知火七海:小さい頃からお師匠に世話になっている。
不知火匡(薄桜鬼):小さい頃にお師匠に拾われて面倒見てもらった。
夢水清志郎:名探偵
お師匠:おれの道はおれが決めるマン
清涼学園の制服が、ある程度の衣替えを終えた。見た目的にも軽く、薄く、涼し気で、この季節に至っては少し寒そうな格好をする者が減る。
寒さに弱い桜などはすぐにセーターを取り出し、スカートも分厚いものに変えた。夜になると昼間の暖かさが嘘のように冷え込むのだ。冬季の学園指定制服に着替えてひとつ気になることがあるとすれば、布が分厚くなったので、放課後に体を動かす時にもたつくところだ。
風に木々がしなる。それをあたたかなファミリーレストランの中から眺めながら、寒そうだな、と桜は首を竦めた。
「お待たせいたしました、ハンバーグステーキセットでございます」
「おう、こっちだ」
疲れた風情の女性店員が、営業スマイルさえ浮かべずに淡々と桜の前に湯気を立てる料理を置く。「お皿の方熱くなってございますのでお気をつけください」店員はさっさとテーブルを離れて行った。
桜はいただきますと手を合わせると、見た目ばかりが仰々しいナイフとフォークを手に取り、ハンバーグに切れ目を入れた。肉汁が溢れ、じゅう、と音を立てて気泡が弾ける。一口大に切り取ったハンバーグを口に入れようとして、桜は目の前から突き刺さる視線に気が付いた。
黒いサングラスに、ぼさぼさの頭髪。黒い背広はよろよろで、首から紐が垂れさがっている。紐の先には「名探偵 夢水清志郎」と手書きで記されていた。ひょろりとした体格からは男だとうかがえるが、彼は桜のハンバーグから目をそらしもしない。
きっと瞬きすらしていないに違いない。桜はなんとなくそう確信したが、少しだけまだぬるいハンバーグを口に放り込んだ。
「
……
夢水さん、あんたの頼んだのはまたすぐに来るさ」
「さっきドリア食べたばっかりでしょ」
夢水の隣に座る不知火匡、桜の隣に座る不知火七海が宥めすかすように言った。ちなみに二人は兄妹ではない。夢水は「わかってますよ」と涎を垂らし、ハンバーグを食い入るように見つめていた。
「お待たせいたしました、クリームパスタでございます」
「こっちだ」
不知火が夢水を差す。店員は新しいフォークを添えたが、夢水はぐわりと牙を剥いて───店員が「ヒッ」と悲鳴をあげたが仕方のないことだと思う───そのまま食らいつき、たった二口でパスタをその細い胴の中に収めた。
がしゃん、と皿が派手な音を立ててテーブルに落ちる。
「っ
……
し
……
しつれい、しました
……
」
「あぁ、こっちこそすまねぇ。ハンバーグステーキセット、追加で頼む」
かしこまりました、と震える体を押し殺して皿を下げる店員は、サービス業界における仕事人の鏡だなと桜は感嘆した。自分なら確実にこの男の頭に手刀を叩きこんでいるし、テーブルは飛び散る食材で汚れているだろう。いやこの男は食材が飛び散る前に全て食らい尽くすのでは───おそらく外れていない予想に、桜は瞬きして唾を飲み込んだ。
「
……
馴染みの店にすりゃよかったか」
「カウンター席じゃ話ができないって、あなたが言った」
七海が批難するように言った。不知火は腕を組み、渋面になって唸る。
「道場に関わることだ」と意味深長に告げられ訳も分からず連れてこられた桜からしてみれば、そこまで親しくない間柄、しかも目の前の男は初対面という、奇妙な連中と食事を共にしている最中、小競り合いが始まってしまって、ほんの少しばかり辟易していた。飯奢るから、という不知火の言葉につられたのは紛れもなく桜だが。
桜がハンバーグステーキセットを食べ終わる間、夢水はパスタ、ピザ、ドリア、チキンサラダ、ポークステーキ、カツレツ、コロッケセットなど、メニューに載っている料理は一通り頼んだのではないかと思えるほどぺろりぺろりと食材を平らげた。最後に桜と同じようにハンバーグステーキセットを幸せそうに食べ、特大パフェをこれまたてきぱきと処理し、満足そうに腹を擦る。
「
……
満足したか?」
「お姉さん、コーヒーをひとつ」
ここの会計は不知火が持つことになっているが、彼の財布は大丈夫なのだろうか。少し前に会った時と比べて服装の主張は随分大人しくなったが、その分値の張るものになっているのだろうことは桜にも見て取れた。
しかし不知火が何も言わないと言うことは大丈夫なのだろう。桜は純粋に総額がどれくらいのものなのか気になったので、後で聞いてみることにした。
「それで」桜が口火を切った。「どうしてこんなことになってるんだ」
不知火を姓に持つ二人は揃って互いに目配せしあった。七海は桜と同じ清涼生で、桜の記憶が正しければ同学年である。不知火匡は桜の槍術道場における弟弟子であり清涼学園における保体教師である原田左之助の悪友だ。道場にも時折顔を出す。そういう時は大抵原田ではなくお師匠の方に用がある時なので、桜はなんとなく師匠でないお師匠と関わりがあるのだろう、と曖昧に認識していた。
桜の問いには匡が答えた。
「ばあさん
……
お前の師匠と、師匠が持つ道場に関わりのある話だからだ」
桜は怪訝そうに匡を見やった。道場に関わりのある話に自分が呼ばれたのは理解したが、一学生の自分に何かできることがあるとは思えない。加えてこの目前で細長い指を組んだ膝の上で交差させてコーヒーを待つ男とどんな関わりがあるのかさっぱり分からない。
「まずは自己紹介しよう」
能天気な声に、一同の視線が黒背広の男に集まった。
「僕は名探偵の夢水清志郎です」
背広の裏ポケットからこれまた手書きの名刺を取り出し、まずは匡へ。「俺はもうもらってる」「私も」彼は黙って桜の方へ名刺を移動させた。
受け取って、「片岡桜」と短く名乗る。
「桜ちゃんか」
差し出された手を握り返す。握手だ。随分薄いが大きな手だと桜は思った。
「強いんだね」
よろしく、と彼が手を離す。桜はたどたどしくよろしく、とそれだけを返して、手を引っ込めた。
「宝蔵院の他に、天然無心流も?」
「
……
」
桜は驚いて瞬いた。匡を見て、七海に視線を移し、最後に夢水に戻す。
「他にもいろいろ、彼女が知っている術は全て叩きこまれているね。暗器も使うだろう」
「マジかよ、おい、いつ習ったんだ」
次々と手の内を知られていく感覚に、桜は顎を引いて警戒心を露わにした。匡の言葉に反応している場合ではない。桜の直感は手を握っただけで相手の力量を正しく測ることのできる男に最大限の警鐘を鳴らしていた。
「最近は弓と、ライフルかい? 今度猪を狩る時は連絡をくれるととても嬉しいな」
この男がどんな人柄なのか全くもって分からないが、今男の頭の中には牡丹鍋が浮かんでは消えているんだろうなとそれだけは確信した桜だった。
「
……
何の用だ」
桜の纏う雰囲気が険のあるものに変わり始めたのを手に取るように把握した匡が身を乗り出した。
「こっち側の話になるんだがな。ばあさんがそういうお偉方と仲良いのは知ってるだろ」
桜は黙って頷いた。詳しいことまで把握しているわけではないが、お師匠がセレブだとか所謂金持ちだとかそういう存在と浅くない付き合いをしていることを桜は知っている。
「詳しいことはそこまで言えないんだが」
「伏せて伝えると、おばあさまを囲おうとするひとが現れたの」
「囲う」
不知火二人が頷く。その意味を正しく受け取れないほど桜は鈍くはない。
「ばあさんと関わった連中もそれを推し進めてる。いつも利用できる味方連中が全員手を貸してくれねえ状況だ」
「おばあさまは、自分が気遣われてることをわかってる。そしてそれを無下にできる方じゃないの」
そうだろうな、と桜は己の師匠を思い浮かべた。彼女は、一度懐に入れた者をとことん甘やかす。大切に大切に育ててきたその縁から得られる何事をも傷つけなくないと慎重に動く人物だ。
「もう、随分お年を召されているし」
「で、嵌められた。大会の後、あの道場は閉じることになる」
余りにも端的に告げられた未来に、桜は咄嗟に二の句が告げなくなった。
何故ここに私一人だけなのか。確かに事実上の師範代は私で、あの道場で師匠の次に強いのは自分だ。しかし社会的、世間的には弟弟子の原田がこういう話を聞くべきではないのか。
難しい話を桜が不得手としているのを匡が知らないはずはなかった。たまにしか顔を合わせないとはいえ付き合いはなかなかに長いのだ。
百万語を視線で饒舌に語る。匡はじっとりとしたそれをものともせず、ひょいと肩を竦めて「何もしなければいずれそうなる」などと宣った。
「それで、名探偵の僕の出番というわけだね」
心なしか胸を張って、夢水が口を開いた。
「
……
弁護士とかではなく」
「名探偵だよ。名探偵は、人を幸せにする仕事だからね」
サングラスの奥の瞳がどんな色をしているのか、桜には見えなかった。
「
…………
」
けれども。
何故だか、そんな、ふざけているかのように聞こえる一言で。
「
……
わかった」
桜は、この名探偵と名乗る男を信じることに決めた。
「桜ちゃん。君に、頼みたいことがあるんだ」
うっすらと微笑んだ口元が、言葉を紡ぐ。桜はその動きに釘つけになった。
◆ ◆ ◆
「賭けだ」
しかもかなり分の悪い賭けだ。桜は珍しくしかめ面をして腕を組み、口元を覆って考え込んだ。
店員が運んできたコーヒーは、すっかり冷めてそこにあった。
君に謎解きを披露することはできない。夢水は最初にそう言った。理由はたった一つ。されど絶対の理由。それぐらいは桜にも察しがついた。お師匠は桜をこれ以上匡や七海が足を半分突っ込んでいる領分に引き込むつもりは毛頭ないのだ。
謎解きの代わりに、夢水はひとつ、桜に頼みごとがあると言った。
お師匠を囲おうとする輩から守るために、今月行われる総合武術大会で師匠を打ち負かすこと。
ついでに、お師匠を倒そうとしてくる輩を予選で叩き落してくれると嬉しい。夢水は何でもないことのようにそう告げた。
「
……
勝ったやつの言うことしか聞かないとでも言ったのか」
「そう勧めた気もするね」
桜は再び黙り込んだ。何がどうなってこういう状況になったのか知る由もないが、お師匠の自由がかかった戦いになるのだろう。きっと彼女は今までで一番と言っていいくらい本気を出すはずだ。
「
……
勝率はあるのか」
「
…………
」
匡の問いに、桜の眉間に皺が寄った。あるにはあった。しかしそれは諸刃の剣という例えすら生ぬるかった。
「君が、彼女を本気で殺そうとすればあるいは、隙が生まれるだろう」
「っ!?」
狼狽えたのは七海だった。匡は瞠目し、まじまじと夢水を見つめている。桜は小さく舌を打った。そうでもしなければ師匠から一本とれるか危うい己の力量が恨めしかった。
「でも、彼女も彼女で、それ相応の態度を取るだろうね。そうなると、桜ちゃんでも厳しいだろう」
冷静な分析に、反論の余地もない。彼女もそれなりに年を食っており、ここ最近は大会そのものに参加していなかったとはいえ、彼女を阻める猛者は果たしているのか。桜は椅子の背もたれに頭を置いて天井を仰いだ。
総合武術大会は危険な上、余りにもマイナーな部類に入る。それ故に大会参加面子は固定化されていると言っても過言ではない上に、ここ数年の優勝者は桜だ。
そして桜は、己の師匠から、一本もぎ取った試しがなかった。
夢水の依頼は、余りにも難易度が高かった。
「倒す勢いでは叩き落とされる。殺す勢いでは跳ね返される」
長い指が一本ずつ立てられる。まるでマジシャンのような手つきだと桜は思った。
「残された手段は、叩き潰すことだ」
三本目が立てられて、彼は最初に立てた二本を折りたたんだ。
は? と匡が怪訝そうに声を上げた。意味が分からない、と七海が呟く。桜は口を噤んだまま、反応を示さなかった。
「桜ちゃんは、彼女から一本取りたいかい?」
「うん」
ほぼ反射的に即答する。
「でも、
……
傷つけたい、わけじゃない」
あなたより強くなったと、師に示すのは一種の恩返しだ。桜は殺すつもりでお師匠と闘いたくはなかった。戦うことは好きでも、狂うほどというわけではない。
夢水が笑みを深めた、気がした。桜は「どうすればいい」と呟くようにして聞いた。目の前の男は確実に強者ではないのに。
「いい方法があるよ」
その代わり、と未だ折られていない指がびしりと声高に存在を主張する。
桜は盛んに瞬きを繰り返した。夢水はにやあ、とひとの悪い笑みを浮かべる。
これ、もしかするとこっちに飛び火してくるんじゃねえか?
よくあたる嫌な予感が今回もいかんなくその能力を発揮することを、匡は未だ知らなかった。
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