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桜霞
2022-10-16 16:24:41
9405文字
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【大量クロスオーバー】いろんな清涼学園
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【少陰】畢生道中膝栗毛
※少年陰陽師二次創作(後々大量クロスオーバー予定)
※オリキャラが主人公です
※現代のじい様神社に祀られているじい様しか出ません
※キャラ崩壊しとるかも
※続く予定
キンコンカンコン、鐘が鳴る。
ありがとうございましたと生徒達の声が揃う。おざなりな礼もそこそこに、学生たちはだらだらと歩き出した。体育が終わった後特有の気怠さが場を包んでいる。
「はよ帰ろ」
「すぐ着替えないとまた男子うるさいじゃん」
「更衣室ないのつらァ」
集団行動が苦手だ。
協調性はある方だと思う。空気も読める方だと思う。見た目も何か尖っているとかいうわけではない。至って普通、
……
ちょっとだけ、いわゆるボーイッシュ寄りかもしれない。スカートが苦手だから。
───今日はあの小説の最新刊が出るから、帰りに本屋寄らないと
特徴があるとすれば眼鏡だ。あとはソプラノ寄りのきんきんした声。
どれもこれも、個性という言葉一つで片づけられる、どこにでもある特徴だ。平々凡々、藤井冴美は自身のことをそう評していた。
ただ、集団行動が苦手なだけ、───と、いうよりは。
「あれ、」
はた、と瞬く。
冴美はぽかんとして、辺りを見回した。
自分の背丈以上もある本棚がずらりと壁を背に並べられ、ぎっしりと様々な本が並べられている。目の前には、平積みされた最新刊。放課後に本屋に寄って買おうと思っていたものだ。
「
……
」
冴美は自分の恰好を見下ろした。体育が終わったばかりの運動着を着ている。
「
…………
あー
……
」
壁にかけられた時計は、授業終わりの時間を指している。
───集団行動が苦手だ。
皆と一緒に、教室へ向かっていたはずだ。制服に、着替えるために。さっさと着替えて、次の授業の準備をして、
……
なのに。
「
……
また
……
やっちまったなあ
……
」
自分はいつの間にか、こうして学校から離れた本屋の、最新刊が並べられた本棚の前に立っている。
───苦手、というよりは。できない、が正しい。
藤井冴美は、ふとした瞬間に、自分でもコントロールできない無意識の中で、いわゆる瞬間移動をしてしまうときが、それなりにあった。
◆
またやったんかお前、と教師に一通りの説教を受け、すんませんすんませんと頭を下げる。瞬間移動など信じてもらえるはずもないので、冴美は稀によくサボる生徒として教師達に認識されていた。
クラスメイト達のあいつもよくやるよなあという白い目線を背中にぐさぐさ受けながら着替えを回収し、トイレへ移動する。さっさと着替えて、冴美はようやく自席に着いた。教室には、眠気を誘う教師の授業が淡々と響いている。とは言え、もうそろそろ授業も終わる。
冴美の無意識下で発動する瞬間移動は、冴美が意識的に使おうとして使えた事はない。寝坊して遅刻しかけたときとか、乗る予定だった電車の扉が目の前で閉まったときとか、めちゃくちゃに瞬間移動したいときでも、冴美に眠っているはずの力は応えてくれたことはなかった。
「んで、今日はどこからだったわけ?」
「駅前の本屋」
「ホォー、結構歩いたねえ」
お疲れさん、と労ってくれるのは向井詩織。高校に入ってからの友人で、このよくわからない体質にも疑問符を浮かべつつ「大変だね?」という言葉一つで片づけてしまう、懐が深いんだか天然なんだかイマイチよく分からない豪胆な性格をしている。
「この間はバスの中だったからまだ良かったのにね」
「今回はごまかせなかったな
……
というわけで開き直って新刊買ってきた」
「ばかでしょ」
「だってICカードに残額あったんだもん
……
」
「ばかでしょ。開き直りすぎだよ」
そりゃあ開き直りもする、というか開き直らねばやっていられない。冴美は口を尖らせた。
幼い頃から、よくあることだった。
ふとした瞬間に、ついさっきいた場所とはまるで違う場所にいる。
電車やバスを乗り継いで移動した記憶もない。移動した分の時間が経っているわけでもない。
自分でも気付けないほど、驚くほど自然に、何かに興味をひかれた幼子が繋がれていた親の手からするりと脱け出して行ってしまうように、冴美は瞬間移動を繰り返していた。
「どうにかなんねえかなこれ
……
」
人生何度目か、溜息をつきながら口癖を零した冴美に、詩織はそうだねえと呑気な相槌を打った。
「どっかにいそうだけどね。なんか
……
そういうひと」
「ふわふわしてんな
……
」
「今度の修学旅行ではぐれても困るし。あ、それこそ京都とかだったらその手のひといっぱいいそうじゃない!?」
おおよそ三か月後、冴美たちの学年は修学旅行として定番の京都へ三泊四日しに行くことになっている。確かに和風ファンタジーと言えば京都、とも言えるだろうが。
「あからさまにそういう奴等って、実際ヤバイ宗教団体だと思うぜ」
「ウーン確かに」
やっぱりだめかあ、と詩織は残念そうに言った。軽いなあと思うが、冴美は言及しなかった。これぐらいのノリで冴美と接してくれる友人は案外少ないのだ。
修学旅行ではへましないでよねと何度も釘を刺して、詩織は部活へと移動した。半分帰宅部の囲碁部に所属している冴美は、いつもの通学路をぼんやりしながら進む。
───京都。京都なあ
この体質(?)のようなものをどうにかするなら、それこそ魔術的な、陰陽術的なアレそれなのだろうか。お経を唱えられたり、よく分からない呪文を唱えられたりして、いろいろされるのだろうか。
冴美は自分の想像力を総動員して結構かなり頑張ってみたが、結局は詩織と同様、ふわふわしたイメージにもならない何かしか浮かんでこなかった。当然だ、冴美の知識の中にはファンタジーなアニメや漫画、小説の知識しかないのだから。
───京都で術と言えば陰陽師、陰陽師と言えば安倍晴明
……
どうにかならないかなと憂えて、何をどう調べてもどうにもならず。インターネットが普及して、遠くの見知らぬ知人に訊ねてみようにも白昼夢じゃないのかと病院を紹介される始末。
そうこうしているうちに冴美は十六歳。花の女子高生と呼ばれる歳になってしまった。
今はまだ学生だから問題ないが、これが社会人になって仕事中にやらかしたらどうなるんだろう、と冴美はこれまたうまく想像できないながらにちょっとどころでなくビビっていた。何せ想像できないことは怖い。未知は恐怖を連れてくる。
───とにかく、目下修学旅行先の京都で迷子にならねえように対策立てねえと
……
嘆息しながら、いつものように角を曲がって。
はた、と。冴美は立ち止った。
「
……
あれ?」
黄昏色の空。いわゆる町屋と呼ばれる縦長構造の木造建築がひしめきあって、遠く、向こうの方まで続いている。
「
……
えっ?」
本来ならば、統一性のない、見慣れた住宅街が広がっている、はずだ。
───どこだ、ここ
未知は。恐怖を連れてくる。
ざ、と音がしてしばらくしてから、冴美は自分の血の気が引いたのだと気が付いた。
だって今まで知らない場所に移動したことはなかった。ここはどこだ。こんな場所、家の近所にあるはずがない。
高速で堂々巡りを繰り返す思考。意識しないとうまくできない呼吸。動かない四肢。焦燥と混乱が、互いに互いを加速させていく。
「おや」
「ッヒ!!」
弾かれたように、体が跳ねる。腰は今にも抜けそうで、逃げ出したいのに膝は震えてどうにもならない。
冴美は、おそるおそる、声のした方を振り返った。
「おまえは
……
」
少し離れた場所に立っていたのは、青年だった。歴史の資料集などでよく見る、昔の装束───確か狩衣と言ったはず───を身に纏っている。青年はまじまじと冴美のことを見て、何度か瞬きした後、そうかと静かに呟いた。
「そうか。もう、そんなになるか」
青年の言葉の意味が分からなくて、冴美はぎゅ、と肩にかけていた鞄の紐を両手で握りしめた。
どうしよう、どうしよう、妙案が浮かばないまま、混乱がいつまで経っても落ち着かない。そうこうしているうちに青年はいつの間にか冴美との距離を少しだけ詰めて、目線が合うようによっこいせと膝を着いた。
「二度目まして、だったかな」
「、
……
え」
「怖がらせたか。大丈夫だ、取って喰いはしまいよ」
す、と狩衣の袖が差し出される。
「掴んでおいで」
「
…………
」
恐怖は、未だ拭えない。だって、このひとが恐ろしいひとだったらどうしようと、冴美の本能は先程から警鐘を鳴らしっぱなしだ。
柔く微笑んだ青年は、けれどもどこか掴めない雰囲気を漂わせていた。なんか腹黒そう、と冴美は初対面ながらに失礼な感想を抱いたが、ひくりと喉が震えるだけで、幸い音にはならなかった。
ほら、と袖が再度差し出される。それでも青年の手を取らない冴美に、彼は「ふむ、」ちょっとだけ思案する素振りを見せた。
「確か、渡りの力をうまく扱えずに来てしまったのだったか」
「、
……
?」
渡り。何のことだと疑問に思ったのが顔に出たのだろう。青年は「瞬間移動のことだ」あっけらかんとあっさり、言ってのけた。
「え、」
「唐突に、無意識に、今までいた場所とは別の場所に移動してしまうことがある。そうだろう」
「───、」
みるみる瞳を丸くさせた冴美に、青年は笑みを深くした。「話を聞こう」再三、袖が差し出される。
ごくりと生唾を飲んで。冴美は、すっかり固まって形を変えられなくなった震える指を、ようやく鞄の肩掛けから引きはがした。
がくがくと定まらない腕を、どうにか伸ばし、───袖に、触れる。
瞬間、滑らかな感触が指に伝わり、冴美は一時、混乱と焦燥を忘れた。皺をよせるのが忍びなくて、きゅ、と指で紙を挟むようにして摘まむ。
「よし。では、ちょっと寄って行くと良い」
よっこらせとどこか爺臭い仕草で立ち上がって、青年はほんの少し歩みを進めた先の町屋の扉に手をかけた。扉の横には、彼誰舎、と看板が掛かっている。
「ようこそ。黄昏小路の、彼誰舎へ」
青年の導くまま、冴美は一歩を踏み出し、敷居を超えた。
恐怖はある。混乱と焦燥は、いつでも冴美を襲える位置で、今だけは大人しくしている、───好奇心という、ばけものに睨まれて。
冴美が恐々通されたのはいわゆる京町家と呼ばれる建物だった。鰻の寝床のように家全体が細長いのが特徴だ。玄関の間口を狭くすることで、かかる税金を少しでも下げていた、という説がある。彼誰舎は玄関から奥にある庭まで土間が続いており、冴美は一番庭に近い奥の間に通された。縁側から見える庭は夕焼けの光に照らされている。いつもならホッとして、どこか気の抜ける風景であるのに、今の冴美にはどこか空恐ろしさを感じさせるものだった。
ここが冴美の生まれた世界ではないことを、体が、心が、本能が、全霊で感じているのだ。
「さて」
冴美にちょっと待っていろと一言置いて姿を消していた青年が手に盆を乗せて戻ってきた。盆には茶器が二つと、小皿にちょこんと干菓子が乗せられていた。
「少しは落ち着いたか」
「
……
いや
……
」
ことり、煎茶の良い香りがする湯呑みが冴美の前に置かれる。冴美は自然と会釈をした。お構いなく、とほんの少し震える声でどうにかこうにか言葉にする。
「こちらのものを食べても飲んでも、問題ないからな」
「えっ、あっ、はい、
……
すみません
……
」
なんのことだと瞠目した冴美の脳裏に、ギリシャ神話のハデスとペーネロペーの話が走馬灯のように流れていく。言外にここは異界だよと突きつけられて、冴美は再び思考回路と語彙を失った。これから何をどうすればいいのか、全く思いつかない。
「えと
……
いただきます
……
」
何もしない、聞かれない空間というのが居た堪れなさすぎて、冴美はとりあえず大丈夫だと言われたお茶をいただくことにした。煎茶独特の苦味が少なく、香り高い。まろやかな味わいに、自然と目が丸くなり、強張っていた体から力が抜けていく。
「
……
美味しい
……
」
「そうかそうか」
それはよかった、と青年が嬉しそうに微笑んだ。その表情を見た冴美は、瞬きして、なんだか自分の心の中の、猫のように警戒していた部分がほろほろ緩んでいくのを感じた。
先ほども思ったが、なんだかこの青年、見た目と纏う雰囲気が大分異なっているというか。
───なんか、田舎のじいちゃんみたいだな
……
。
なんだか、うまいこと、毒気を抜かれた気がする。冴美は干菓子もいただいた。これも素朴で優しい甘さが煎茶とよく合っていた。
「気に入ったなら、帰りに買って行くといい。少し歩くが、有名な店があってな」
「はぁ、そうですか
……
」
「干菓子はその辺のスーパーでも買えるらしい」
「へえー」
普段、このような干菓子類は買わないので馴染みがなかったが、今度探してみよう、と冴美は思った。
そして、素直にこの謎の青年と会話できるくらいには落ち着いてきているなと気付く。田舎のじいちゃんみたいな雰囲気に流されている自覚が芽生え、冴美は言葉に迷い、「えーと
……
」視線を彷徨わせた。
「さて。お前の気も落ち着いたところで」
「あ、はい」
ぱん、と青年があぐらをかいた膝を軽く叩く。冴美も自然、姿勢を正した。
「まずは、ここがどこかというのを話そう」
「、はい」
自分のことについて何か色々話すことになるのではと身構えていた冴美は、ほんの少し拍子抜けして、青年の話を聞く体勢を取った。
「先ほども言ったが、ここは彼誰舎だ。案内所のようなことをやっている」
「案内所、ですか」
「そうだ。玄関の前に、細い路地がずっと続いていただろう」
「はい」
「この路地と、それを含む一帯
……
つまりこの世界のことは、黄昏小路と言う」
「たそがれ小路の、かはたれ舎
……
」
「ここは、ずっと黄昏刻が続いているからな」
「あぁ、なるほど、それで」
冴美は縁側から臨める庭の方を見はるかした。庭は相変わらず、夕焼けの色に満ちている。
それまで感じていたおそれのようなものは、夕焼けの色が変わらないことへの違和感だったのだと、冴美は気がついた。違和感への原因や理由が分かれば、恐怖もゆっくりと剥がれ落ちていく。冴美はまたひとつ落ち着きを得た。
「黄昏刻
……
ということは、逢魔刻でもありますね」
「そうだ。よく知っているな」
青年が柔らかく微笑む。冴美は素直に嬉しくなった。
「えへへ、古典は得意でして
……
」
「では、何故、逢魔刻と言うのか、というのは、知っているかな?」
「え」
えーと、と冴美は首を傾げながらも思案する素振りを見せた。青年はどこか楽しそうに冴美の様子を見守っている。
「ええと。魔に、逢う、刻って書くから
……
あやかし? とか
……
そういうものに、遭遇しやすくなるから
……
とか?」
「そうだな。その考え方も間違ってはいない」
大らかに頷く青年に、冴美はよかったと胸を撫で下ろした。
「もう少し踏み込んだ答えとしては、逢魔刻とは、全ての境界が曖昧になる時間、というものがある」
「全ての境界が曖昧に
……
? 昼から夜に変わるからですか?」
「そうだ。つまり、ひとが使う昼間の時間と、主にあやかしのような異形が使う夜の時間が混ざる、ということだな。だから、ひとも異形も、互いに逢いやすい」
「なるほど」
「そして、ここは黄昏小路だ」
「つまり、いろいろなものが混ざりやすい、と」
「その通り」
お前とかな、と青年に言われて、冴美はなんだかちょっとだけバツが悪くなった。
「なんだかすみません、ご迷惑をおかけしまして」
「構わんさ。故意ではないのだし」
「それはもう本当にそうで」
冴美は心底から言った。言葉に込められた力の強さに、おお、と青年が小さく瞠目する。
「いつもいつもそうなんですよ
……
確かに本屋行きたいなとか、早くカラオケ行きたいなとか、考えてはいるんですよ
……
でも、別に、今、行きたいとか、授業サボりたいとか、思ってるわけじゃなくてですね
……
!!」
「お、おぉ、そうか」
「その割には友達との約束に遅刻しそうな時とか、ここぞって時には何にもないんですよ
……
おかげさまでサボり魔だと思われるわ変な子供だってご近所や周囲から白い目で見られるわ
……
」
「そうか。苦労したなあ」
労わるような声音に、冴美は、瞬きひとつ、言葉を失った。言いようのない感情が去来して、胸が詰まる。
どうにかありがとうございますと頭を下げて、冴美は唇を惹き結んだ。肩から要らない力が抜けて、指先が、きゅ、と自分の服にしわを寄せる。
───そうか。うち、理解してほしかったのか。
この話をまともに取り合ってくれたのは文字通り青年が初めてだった。確かに詩織は受け入れてくれたが、冴美の話を本当に理解してくれているとは言い難かった。
冴美は、よくわからないところだけど、ここに来て良かったなあと思えた。本当によくわからないところだが。なんちゃってファンタジー体験を今まさにしているが。この後どうなるかもわかったもんじゃないが。
それでも。夢でもなんでもいい、と思えるくらいに、自分は傷ついて、苦しんでいたのだと、自覚する。すん、と鼻が鳴った。なんだか少し泣きそうでもあった。
顔を上げる。青年は、変わらず微笑んでいる。冴美も、泣きそうなのをごまかすように、へへ、と笑った。
「では、まだ、自分の意のままに、どこかへ行ったり、行かなかったり、というのは、できていないんだな」
「あ、はい。そうですね
……
できるようになりたいとは思ってるんですけど
……
どうすればいいのかとか、全く分からなくて
……
」
「そうか。おそらくは、その迷いがお前をここに連れてきたのだろうな」
「なるほど
……
?」
よく分からないながらに青年の言葉を咀嚼した冴美は、ここでハタ、とあることへ思い至った。
「もしかして
……
そういうのが分からないと、ここから帰れない、とか
……
?」
さあ、と顔色を悪くさせた冴美に、青年は瞬いて「あぁ、そんなことはないぞ」とあっさりと否定した。
「お前のことは私が元の世界に連れて行ってやるとも」
「えっほんとですか。ありがとうございます
……
!」
冴美がホッと安堵の息をついて胸を撫で下ろす。ただなあ、と青年は腕を組んだ。
「きちんと自分でそれをどうにか扱えるようにならなければ、またぞろいろんなところへ意図せず飛んで行ってしまうぞ」
「アッそれはとてもどうにかしたいです
……
」
「そうだなあ。私もどうにかしてやりたいが」
むつかしそうな表情に、冴美も眉を寄せた。どうにかしてほしいと頼んでも良いものか、図りかねてのことだった。金銭を介して頼み事をすることで解決するのならまだ分かり易いが、冴美は大金持ちではない。実家もそこまで太くはない。高価な何某かを持っているわけでもないし、偉い身分でもない。どうしたものかと言葉に悩み、冴美は結局、「難しいですかね
……
」と曖昧に相槌を打った。
「難しい、と言えば難しいな」
「あの、
……
理由をお聞きしても
……
」
「うん。何故ならば」
「
……
何故ならば
……
?」
青年は、しかめつらしい顔で言った。
「分からんからだ」
それはもう、はっきりと。
「
……
はい?」
拍子抜けた冴美から、素っ頓狂な声が出る。
「え、
……
えっと、
……
分からない?」
「うん。分からん!」
「いやめちゃくちゃはっきり言うな!?」
明るくハキハキ分からないと言われて、冴美はうっかり素のままで青年に突っ込んだ。
「分かってそうな雰囲気だったのに!?」
「分からんことは分かっていたからな」
「なんっじゃそりゃ
……
」
飄々と答える青年に、冴美は思わず頭を抱えた。冴美の様子に、青年はカラカラと愉快そうに笑った。
「いやあすまん、こればっかりはなあ」
「こればっかりはって
……
ちょっと期待したのに
……
でも初対面の人にいきなり色々頼み事するのも申し訳ないなと思って悩んでたうちの時間を返せよ
……
」
「はっはっは、すまんすまん」
「楽しそうだなチキショウ!」
「ふふ、まあな」
「ま、まあなって言った
……
」
こ、こいつ、ひとをおちょくって楽しんでやがる
……
やっぱりそう簡単に信用しない方がいいのでは、と警戒心をもたげ始めた冴美に、青年はしかし、「分からんが、やれることはあるぞ」とあっさり言った。
「、え、あるの」
「うん。まぁ、対症療法のようなものだが」
根本的な解決には至らないが、現状をどうにかしのげるもの。冴美は姿勢を正して青年に向き直った。
「それって、どんな方法ですか
……
?」
「方法、というか。そうだな」
青年は外をちらりと一瞥し、「もう日が暮れる」よっこらせと立ち上がった。
「話は道すがら、ということにしよう。ついて来なさい。途中までだが、送ってあげよう」
「あ
……
ありがとうございます、」
先に行く青年を追いかけて、冴美は彼誰舎から一歩踏み出した。
「えっと
……
お邪魔しました」
ペコリと頭を下げた冴美に、青年は穏やかに目を細めて微笑んだ。
「では、行くか」
掴んでおいで、と狩衣の袖を差し出される。冴美はすみませんと言いつつ、躊躇わずに袖を掴んだ。
静かな通りはどこまでも続くかと思われた。青年は特に何か喋るということもなく、道を進んでいる。冴美は黙々とそれに続いた。どこかで曲がるかと思いきや、そういうわけでもなさそうだった。
けれど。
───あれ、
ふと、冴美は瞬いた。
言葉にはしにくい何かが、肌を、いやさ、冴美の中を、通り過ぎた、ような気が、する。
思わず立ち止まった冴美に気がついた青年も歩を止めた。そういて冴美を見下ろす。
「
……
あれ?」
冴美は、ぐるりと辺りを見回した。なんとなく控えていた、後ろを振り返るということもしてみる。
果たしてそこには、多くの車やバスが行き交う大通りが敷かれていた。
「
……
えっ!?」
思わず大声を上げる冴美に、「なかなか勘が良いなあ」と青年が笑う。
冴美は唖然として周囲を見回した。大通りは四辻になっていて、冴美の立っている歩道の隣にも車道があった。先ほどまではただの路地を歩いていて、しかもその両隣には町屋が並んでいたのに、見渡す限りそのような建物は少なく、コンクリートで出来た建物や小学校と思しき校舎が立ち並んでいる。冴美の横をすごい勢いで自転車が走り抜けたかと思えば、緑色のバスがゆっくりとそれを追いかけた。後から来た車が慣れた様子でバスを追い抜いていく。
「ここ、って
……
」
「昔の朱雀大路だ。今では千本通りと言ったかな。これは今出川通」
千本今出川ー、と間伸びしたバスの、音質の悪いアナウンスが冴美の耳に届く。
ポカンとしている冴美に、青年は斜向かいの古い建物を示した。
「あれがさっきの茶葉を出しているところだ。寄って行くか? ご家族への京土産にでもすると良い」
「───きょうみやげ!?」
「ふっ、」
京!? 冴美が素っ頓狂な声を上げる。青年はとうとう堪えきれず、アッハッハと腹を抱えて爆笑した。
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