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桜霞
2018-07-13 13:46:00
2783文字
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【刀剣乱舞】落し穴と向日葵【二次創作】
友人のネタを文にしてみた。突貫工事だったので不思議な話になってわけわかんなくなったごめんね。向日葵どこから出てきたんやろう。
※女審神者です
※いつもの創作審神者じゃないよ
少しだけひんやりした土の感触。遮られている突き刺すような日光。遠くなった蝉の大合唱。
外界から離れた場所とはまさにこの事だろう、と彼女は丸い空をぼんやりと見つめて嘆息した。
書類仕事から逃げるように庭に続く道に飛び出していくらも経っていない。直射日光に気分は下降の一途を辿るばかりで、やっぱりどこぞの誰もいない所で休もうか、でも仕事の溜まっている───もう純和風建築の日本家屋までもが憎き存在に見えてきた───部屋には戻りたくない。
天井のように見えるがその実高さの計り知れない青に、白い綿がするすると滑っていく。おそらく風が流れているのだろう。穴の中だから風なんぞ感じられないが。
(それにしても)
この穴、一体誰が掘ったのだろうか。おそらくは鶴丸だが他の本丸の彼がよくやるからと言って決めつけは良くない───いやたぶんおそらく絶対鶴丸だろうけど。だって他にこんなことするひといないもん。
よっこらせ、と起き上がった彼女は、やれやれと立ち上がった。どうにかすれば出られる高さだ。穴の縁、つまり地面は、ちょうど目の高さにあった。手を伸ばせば余裕で届く。
プールから上がるときの要領で穴からの脱出を試みようとして、「わぢっ!?」彼女は反射的に手を引っ込めた。
夏の太陽の光は人をも殺す。地面はふんだんに熱を含んでいて、彼女は恐れ戦きながら、俗に言えばドン引きながら両手をさすって熱を逃がした。
着物の袖を引っ張ってできるだけ手を覆ってから地につける。プールから上がる時の要領でどうにか体を持ちあげて、彼女はやれやれと体を伸ばした。
途端に日の光が容赦ない熱を浴びせてくる。辟易して、彼女は屋根の下、日陰へと逃げ込んだ。
「はー
……
」
一息ついて、体から力を抜く。
少しして、彼女はふと小首を傾げ、その目を瞬かせた。
「
………………
?」
妙に静かだ。
誰だったかが蔵から持ち出した風鈴の音も、蝉の大合唱も聞こえない。
ただ日輪の光が地を妬いて、それでも熱されていないかのような涼風がすり抜ける。
板張りの廊下は冷えていて心地よい。ひたりと手を這わせて、彼女はそっと姿勢を正した。
聞こえない、ばかりではない。
気配がない。
ここには、夏に溢れているはずの、きらきらと輝いて溢れんばかりの、生命の気配が、微塵もない。
「───
………
」
心臓が早鐘を打つ。唾を飲み込むことすら躊躇われる。口の中はからからに乾いて、喉はひりひりと痛みを訴える。ともすれば叫び出してしまいそうで、彼女はそれを全力でこらえた。
(────ここは
………
)
わたしのばしょじゃない。
◆
「主がいない?」
昼の仕事を終えてすっかり楽な格好になった鶴丸は、麦わら帽で自分を扇ぎながら怪訝そうに眉をひそめた。
同じように心配そうな色を醸し出している加州がそう、と頷く。
「部屋が静かだったから、昼寝でもしてるのかなって思ったんだけど、お茶を差し入れに行ったらいなくてさ。それで庭とか離れとかお風呂とか、とにかくいろいろ見てみたんだけど。知らない?」
「いや
………
」
「あっ、そうだ、庭に向日葵植えたの鶴丸? それも聞こうと思ってたんだよね」
「向日葵?」
鶴丸は今度こそ素っ頓狂な声を出した。
「向日葵は覚えがないなぁ」
「じゃぁ向日葵以外には覚えがあるんだ」
「!?」
目を剥いた鶴丸に、加州は目元を険しくさせた。
「つーるーまーるーさーんー」
「いや確証はない! 確証はないし俺は穴を掘っただけだ!」
「穴ぁ!?」
鶴丸は慌てて己を庇うように加州を制した。広げた細い五指ではなく、今までうちわ替わりにされていた麦わら帽で。加州は指でつまんでそれを少しだけ横にずらした。
「穴って落とし穴?」
「長谷部でも落ちたら面白いかな、と思ってな。最近主は根を詰めていたし、俺なりの気遣いだ」
「あんたね
…………
」
加州は嘆息して、「それで?」空気を切り替えた。
「どこに穴掘ったの」
「庭の
………
どっかそのへんだ」
「主が落ちてたらどうするの」
立ち上がって、加州は顎をしゃくった。
「ほら行くよ」
「
……
へーい」
麦わら帽をかぶり直し、鶴丸は再び袖をたくしあげて、白い肩を剥き出しにした。
◆
「ほんとに穴掘ったの? 向日葵植えたんじゃなくて?」
「あぁ、俺はお前のカマかけじゃなかったことに驚いてる。こいつぁ驚きだ」
「感心してる場合じゃないでしょ。どーすんの」
「どうもこうも
………
うーん、何があったのかわからんからどうしようもないだろう」
とりあえず抜いてみるか? と鶴丸はその場にしゃがみこんで地面に触れた。
掘った後に適当に塞いだ柔らかさはない。何度か叩いてみても、音は響かなかった。空洞はないということになる。
「
…………
向日葵が食った、とか」
「えぇ?」
やめてよ、と加州が硬い声音で言った。顔が歪んでいるのが見ずとも分かる。
「桜じゃあるまいし」
「だが現にこうして不可思議なことが起こってるからなぁ」
「鶴さんの穴のせいでしょ」
「うーん、案外、斬ればなんとかなるんじゃないか?」
「乱暴な」
「穴を掘ったのは俺だ。つまり路を敷いたのは俺だ。無意識だったとしても管理権限は俺にある。まぁ信じろ」
「嘘つけ、今てきとうに繕っただろアンタ」
「ばれたか」
にやりと笑って、鶴丸はその手に己を顕現させた。
きんとどこぞで響くものがある。加州は瞬いた。厚い雲が日を遮ったのだ。
(どこぞの何某かは知らんがな)
勝手にされては虫の居所が悪くなるというもの。
しろがねが一閃する。
瞬きひとつの後、向日葵は日の光に溶け込んだ。雲が流れて、再び明るくなる。眩しさに何度か瞬いた後に加州が見たのは、ぽかりと地面に空いた大きめの穴だった。
「
…………
」
ぽかんと呆けている加州を置いて、「口を閉じろ、間抜け面になってるぞ」鶴丸はひらりと穴に飛び降りた。誰かが落ちた後がある。
しばらくここにいた。けれども結局は立ち上がって、穴から自力で脱出した。
穴から顔を出した鶴丸は、辺りにざっと視線を走らせた。「お、」金の瞳が丸くなる。
「いたぞ、加州」
「えっ」 鶴丸が指し示した方は、本丸の家屋の、外に張り出された板張りの廊下だった。今まで誰もいなかったはずのそこに、見慣れた姿が横になっている。
「主!!」
加州は弾かれたように駆け出した。
彼が主を揺さぶって、彼女がのそりと起き上がる。鶴丸はよっこらせと穴から出ると、軽く手を叩いて土塊を落とした。
加州が何事か主に告げた。何度か瞬いて焦点を合わせた彼女がこちらを見て嘆息する。
鶴丸はバツが悪そうに頭をかいたが、詫びは入れねばならぬと足を踏み出した。
もう穴を掘るのはやめておこう、と心に決めながら。
🌻
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