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Iory
2025-01-26 16:26:42
2939文字
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氷の騎士と呼ばれる殿方と結婚することになった平凡子爵令嬢ですが、お相手は前世の旦那でした
転生系あむあず プロローグ
アリアは1人、真白な大聖堂の中を歩いていた。
茶髪で緑色の垂れた瞳、可愛らしいといえば可愛らしいが、目を引くような容姿ではない彼女は事細かに刺繍された白を身に纏って、穏やかな空を横目にコツコツとヒールを鳴らし、ゆっくりと目的の場所へと向かう。豪華絢爛な聖堂だというのに、人の気配はなく、ただアリアの足音だけが響いている。
アリアがこの場にいるのには、理由があった。
それは結婚である。
しかも相手は氷の騎士と呼ばれる帝国きっての腕折の剣士である。その実力、美貌、名声はしがない子爵令嬢が嫁ぐには遥かに格が異なる。
通常であれば、喜ぶべきところであるが、ほとんど平民と変わらない令嬢の元へアリアが嫁ぐことになったのもいわゆる"訳アリ"だからなのである。
というのも、氷の騎士にはずっと思い焦がれている方がいて、幾つもの縁談を断っているらしい。好きな人と結婚できないということはその方は令嬢ではないのだろう。身分違いの恋はこの時代には分が悪い。しかし、皇帝も流石にずっと独身であることは体裁が悪いと考えたのだろう。
アリアの家は皇帝派で、かといって伯爵家ほどの権力もなく、それでいて結婚適齢期を過ぎた女。そんな条件が見事に当てはまったアリアにちょうどよく白羽の矢が立ったのだ。
「憂鬱だわ」
アリアは1人心の中でごちた。
そしてこの結婚式に新郎は全く賛同していない。なので、人を呼ばず、2人だけで結婚式を取り行うことになっている。また、新郎の強い拒否の現れのおかげで今日まで、アリアは夫となる男とは顔を合わせていないのである。そして不幸なことに社交界をあまり好まなかったアリアは、うら若き令嬢たちの特別な場所、舞踏会にはほとんど行くこともなく、そのため氷の騎士の噂は知っていても実際に見かけることがなかった。
「顔も知らないお方と結婚するなんて、こんなこともあるのね」
渡り廊下を進み続けてふと、視界の隅に質の高い靴が目に入る。
ゆっくりと顔をあげると、そこには背の高い男がいた。
「この方が氷の騎士様
…
」
しかし、相手はアリアが近づいたことに気づいていてもこちらを見向きもせず、肘だけを突き出した。
その態度はまるであなたを新婦として認めませんと言っているようだった。
「(わたしに怒ったって意味ないのに。失礼しちゃうわ)」
アリアは怒りながらも彼の手を取った。
瞬間、扉が開き目の前のチャペルの神々しさに目が眩んだ。白をテーマに作られたであろうその場所は、床は丁寧に磨き上げられ、装飾物一つ一つが繊細な形をしている。
目線の先には牧師が一人、立っていた。
アリアと騎士は牧師に向かって歩き続ける。
荘厳な雰囲気に圧倒されながらもアリアはヴァージンロードを歩きながら意識は別の場所へと向かっていた。
これからの結婚生活、とてもではないが良いものになるとは思えない
最近巷で流行りの小説では「お前を愛すことはない」から始まるお話、なんてものがあった。旦那様の監視がないことをいいことに好き勝手生きている令嬢たちの物語を読んで、なんて逞しいのかしらと思っていた。
実際に自分が目の当たりにするとたしかに、好きに生きさせてもらうわ!という感情になる。
まずは朝から晩までガーデンで小説をいっぱい読んで!贅沢だってしちゃおうかしら!たとえば王都にある有名なサロンに行って新作のスイーツや飲み物を飲んだり
…
!とにかく!色々とやりたいことをやってやろう!
「ご令嬢?」
固く拳を握った時にふと目の前から神父の様子を伺うこえに気づいた。どうやらいつのまにかヴァージンロードを歩き終え、新郎新婦の誓いのキスの時間になっていたようだ。
流石にキスをするには相手の顔をみなければならない。
ようやく、相手を拝むことになる。
(ふん、これが"旦那様"の顔ねー
…
)
そして、ヴェールをあげられ、相手と目が合うこと3秒。
「(零さん!?)」
アリアは前世を思い出していた。
__
アリアの前世は榎本梓。
東京の米花町にある喫茶ポアロというお店でアルバイトをしていたどこにでもいる普通の女の子である。普通の、といえば普通なのだが、米花町は普通から離れていた存在だったので、窃盗、殺人事件、スリなど物騒な事件の発生は日常茶飯事であった。その中でも梓は、高校を卒業して一人暮らしを始めて五年、事件に巻き込まれたり、巻き込みに行ったりすることはあれど今まで死体を目にすることが奇跡のラッキーガールだったりもするのだ。
そんなささやかな梓の自慢は置いておいて、梓の運命が変わったなと思ったのは23歳の春だった。ポアロに新しくアルバイトとして雇われた安室透という男との出会い。初めは穏やかで優しそうな男という印象であったが、何が彼の琴線に引っかかったのか、とにかく梓に構ってもらうことが好きだったようで、ことあるごとに梓に話しかけていた。梓の知らない蘊蓄をたくさん教えてくれるのでと素直にすごい!と称賛する。あとは意外にも軽口を叩くのが好きなので、それに合わせて軽口で返したり。あとは何故か梓が怒ると嬉しそうに笑う男だった。どこの誰かが聞いているかわからないのに良いお嫁さんになりますね、だとか好きです!だとか
…
。おかげさまで男の容姿も相まって度々SNSで炎上をしたりもしたのである。噂は梓が安室に言い寄っているだったり、梓と安室は付き合っている、だったり。一度以前マスターが怪我をした際の臨時マスターに噂の審議を聞かれた時は流石に驚いた。もしかして安室と梓の噂の流出源は最も身近にいたマスターだったのではないかと疑ったりもした。
まあそんな日々だったので毎日飽きずに楽しく生活していたのだと思う。まさかその後安室、否本当の名前の降谷と結婚し、幸せになるとは思ってもみなかったが。
梓と降谷が結ばれるまでも壮大なストーリーがあったのだが、これは本筋と外れてしまうのでまた別の機会で。
そんなわけでアリアもとい梓は今、前世で夫となった男と今世でも結婚をするという奇跡に面していた。姿は前世と変わらず褐色の肌、青い瞳、そしてすらっとした美丈夫。少し違うなと思ったのは、初めて安室と会った時の柔らかな雰囲気、降谷として再開した時の砕けた雰囲気、そのどちらでもない固く冷たい雰囲気を醸し出しているからであろうか。
とは言ってもそれで仮にも何十年と一緒に暮らした男を見間違うはずがない。
こんな天文学的な偶然(そもそも前世を思い出すこともだが)なかなかない。素直に喜べば良いのだろうかとにかく気持ちは混乱していた。
「それではこれで誓いは果たされました」
どうやら、前世を思い出した瞬間の数秒の間に誓いのキスは終わったらしい。
目があって対峙した時、氷の騎士、もとい梓の前世の夫、降谷はものすごく眉を顰めていた。おそらくほとんど唇に触れ合わずにその儀式を終えたのだろう。
そして降谷はもう用は済んだ、という顔で踵を返し、さっさとチャペルを後にした。
「私この後あの人の家に帰るんですかね?」
1人取り残された梓は神父に話しかけるも、曖昧に微笑むだけであった。
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