ゑ/圓堂
2023-03-21 03:47:21
6791文字
Public 月詠サーバー(満月本丸)
 

【刀剣乱舞】チューンナップ・コーデ【笹貫×創作男審神者】

笹貫×46歳人たらしおじさん審神者の刀さに♂。主を亡くしたり、問題起こして追い出されたり、先天性の異常を抱えて顕現した刀剣男士を引き取ってる満月本丸《みちづきほんまる》という本丸のお話です。ついったで零した「内番服寒すぎ問題の笹貫に自分の服を着せてあげる審神者」というストーリーに、本丸の紹介的なものも詰め込んだらめためた長くなってしまいました。南無三。

満月本丸《みちづきほんまる》。そこは、審神者の霊力で顕現した刀剣男士の他に、様々な理由で行き場を失くした刀剣男士が集う本丸。

そんな満月本丸はその日、朝から些か騒々しい空気に包まれていた。
それというのも、本丸の主たる僕が、自室の中身をひっくり返す勢いで家捜しをしているからだ。



きっかけは、この本丸への就任からずっと、近侍として僕を支え続けてくれている歌仙兼定の一言だった。彼が慌ただしく僕のもとを訪れたのは、早番の刀剣男士達よりも少し遅めの朝食の最中の事で、いつも一緒に炊事をしてくれる燭台切光忠の作った卵焼きに舌鼓を打っていた時だった。

「あぁ主、おはよう。食事中に申し訳ないんだけれど」
「おはよう歌仙。どうしたの?」
「それがだね、あぁいや、食べながらで構わないよ。別に大したことじゃないんだ。全く、あの新入りはどうしてこうも手間をかけさせるかな」

歌仙兼定は顕現当初から変わらぬ、せかせかとした足運びで僕の傍らまでやってきて、片眉を吊り上げながら、気忙しげな早口でまくし立て始めた。他の本丸の彼が皆そうなのかは未だに分かっていないが、この本丸の初期刀であり近侍である彼は根がこういう質らしい。

「笹貫かな?」
「あぁそうだよ。君、今日はいきなり冬が一足飛びにやってきただろう。僕も大慌てで冬物の肌着を引っ張り出したさ。それで、今日は僕と笹貫が馬当番だから彼を呼びに行ったわけだ。そうしたら」
「あ、」

ふんふんと頷きながら、食事の手を止めることなく歌仙兼定の口上を聞いていた僕は、ついうっかり間に口を挟んでしまった。現世で教員をしていた頃から「他人の話を聞く時にはなるべく相槌以外の口を挟まない」を徹底していたにもかかわらず。だが、今の歌仙兼定にはその反応の方がむしろ心地よかったらしく、僕の反応に少々満足気な表情を見せた。

「そう、そうなんだよ主。あの夏男、内番服をあれしか持っていなかったんだ。何せまだこの身で冬を経験したことがないらしい。全く、そろそろその辺も政府は顕現時に支給すべきだと思わないか?あの担当官に君から言っておいてくれよ。まぁいい、問題は彼の服をどうするかだ。流石にあの恰好で無理にやらせるほど、僕も鬼じゃないからね」

歌仙兼定のいう担当官――僕を審神者として雇用している時の政府に所属する、審神者統括官という役職の男の顔を思い浮かべる。僕を中学校の教員から審神者へとスカウトし、就任から今日まで満月本丸担当としてサポートしてくれている乃木という男だ。刑事ドラマに出てくる、昔ながらの叩き上げの刑事のような彼の容貌を思い出して、彼に申し立てしたところでどうにもならないだろうなと僕は結論付けた。

そしてその次に、笹貫という名の刀剣男士の姿を思い浮かべる。彼はつい数か月前にこの本丸へと転属してきたばかりの刀剣男士だ。笹貫もまた、訳あって顕現した本丸に居られなくなり、その後もいくつかの本丸を転々とした後、この満月本丸へと連れられてきた。当初は何かとお騒がせな存在であったが、最近やっと諸々が落ち着いて、真に本丸の一員として馴染み始めたところである。そんな彼は海に関わる逸話を持つせいか、内番姿はTシャツにハーフパンツという出で立ちで、要は、寒さに全く適していないのだ。

「他の皆はいつも自分で用意してるんだっけ?」
「そうさ。僕達の趣味や嗜好を尊重してくれているんだか何だか分からないが、通年用の衣服以外は全て各自で好きなものを買っているよ。笹貫の分は来週辺りに買いに行かせようと思っていたんだけどね、季節に先を越されてしまったよ」
「確かに、僕だって今朝起きてから慌てて冬物引っ張り出したもんなぁ。こればかりは予測のしようがないもの」
「全くだ。おまけにこんな日に限って、図体のでかい者達は全員出払っているときた。取り敢えず光忠に声を掛けてみようとは思うが」
「あぁそっか、笹貫背があるもんね」
「太刀の彼には打刀の僕の服は合わないんだ」

歌仙兼定は、僕の言葉に少々語気を強めてそう念を押した。おっと失言、と僕が首を竦めると、彼は更にじとじととした目つきで僕を睨め付けた。しかし、決して彼がそれ以上は怒らないことを僕は知っている。何だかんだ言いつつも、彼は僕には少々甘いところがあるのだ。

「そんな訳で、早速今日の予定に遅れが生じているという事を僕は報告に上がった訳さ。些細な事とはいえ、報連相は大事だからね」
「いや、重要なことだよ。ありがとう。食べ終わったら笹貫の様子を見てくるよ」
「是非そうするといい。予定の滞りを棚に上げれば、中々面白い光景だからね」

食事の邪魔をしてすまない、と再度律儀に述べると、歌仙兼定は僕の居る食堂からやや軽くなった足取りで立ち去った。恐らく、燭台切光忠に衣服の貸与を打診しに、厨へ向かうのだろう。何だかんだ殆ど食べてしまっていた朝食の残りを駆け足でさらうと、僕は歌仙兼定につられるかのような急ぎ足で、朝食の膳を手に食堂を出た。




「おやおや、これは思ったより重症だね」
「たははかっこ悪いとこ見られちゃったな」

笹貫の部屋を訪れた僕が目の当たりにしたのは、まだ敷いたままの敷き布団の上で、掛け布団を頭から被り、顔以外の全身を包んだ笹貫の姿だった。普段のすらりと整った、美青年然とした彼とは違うどこか幼い行動に、僕は思わず軽く噴き出してしまった。しかし、大事ではないにせよ解決すべき問題であることに変わりはない。

「歌仙が光忠くんに服借りれるか聞いてみるって」
「マジか~、ちょっと申し訳ないかも」
「しょうがないよ、誰もこんな急に冷え込むなんて思ってなかったしね。取り敢えず今日は借り物で何とかして、あとで予定調整するから明日には冬物買いに行こう」
「みちさんと?二人で?」

刀剣男士の殆どが僕のことを『主』と呼ぶ中、笹貫は僕のことを『みちさん』と呼ぶ。元凶は審神者統括官の乃木で、彼がそう呼んでいるのを真似しているのである。由来はこの本丸の名称『満月本丸《みちづきほんまる》』の主だから、ということになっているが、実のところ元々本名が道彦であるため、現世にいた頃から使い古されている愛称なのだ。刀剣の付喪神である刀剣男士達には、真名を伏せるのが通例となっているため、笹貫を始め本丸の刀剣男士達はその事実を知らないでいる。
ちなみに、本丸の名称が満月《まんげつ》ではなく満月《みちづき》なのは、この本丸が出来上がってすぐの登録作業の段階で、政府担当者が入力ミスをしたせいなのだという。本当は望月本丸《もちづきほんまる》という名前になる予定だったのが、ローマ字の母音を誤って登録してしまい、更にそのミスに気付いた時には既に修正不可能な段階まで作業が進んでしまっていたという、何んとも気の抜ける逸話があるのだ。しかしそのおかげで、僕のあだ名は現世より受け継がれても、さして問題のないものでいられるのだが。

「僕よりも歌仙とか、刀剣男士と行った方がいいんじゃない?僕じゃ刀剣男士の身体のこと、正しく理解できかねるところがあるだろうし」
そういう問題じゃなくない?」
「じゃあどういう、」

僕の返答に納得いきかねる様子で眉根を寄せた笹貫へと、その理由を問いかけようとしたところで、相変わらずの急いた足取りで歌仙兼定がこちらへ近づいてきたことに気付いて、僕は言葉を一旦飲み込んだ。主、と僕へと呼びかける歌仙兼定の後ろには、厨仕事がひと段落したのであろう燭台切光忠もついてきていた。

「御覧の通りさ。まぁ、彼も元々南の方にいたからね。より耐性がないのも無理はないだろう。しかし笹貫、取り敢えず下は光忠に借りれそうだよ」
「主、笹くん、ごめんね遅くなっちゃって。多分僕のなら笹くん履けると思うんだけど」
「ごめんみっくん、助かる」
「全然気にしないで。ただ、僕もこんなに寒くなるなんて思ってなかったから、今日は上のスペアがなくって
「だ、そうだ」

人の好い笑顔に申し訳なさを滲ませた燭台切光忠の話を聞くに、冬は薄手の防寒肌着を上下身に付けているのだそうだが、上の方が少々くたびれてきたので、今冬に新調するつもりで殆ど処分してしまったのだそうだ。そういえば初夏の折、模様替えの際にそれにまつわる話を聞いたのだったと思い出す。確か、繁華街の衣料品店に設置されていたリサイクルボックスにいたく感動していたような。

「いや、上より下の方がサイズ合わせるの難しいから、かえって好都合だったよ。取り敢えず笹貫はそれ履いてみなさい。上だけなら僕もいけそうなのがないか探してみる」
「なっ、君のか?!それは少々無謀ではないか?!」
「そこまで言わなくてもいいじゃない。羽織ものなら少しオーバーサイズのものを着たりすることもあるんだから」

僕の提案に誰よりも早くそう反応した歌仙兼定へ、僕は精一杯の睨みを利かせた。無謀なのは重々承知である。何せ僕は歌仙兼定よりも更に小柄で貧相な体格なのだ。更に四十代も後半に突入した僕よりも、彼らの方がずっとずっと年上とはいえど、与えられた身体はずっと若く造られている。笹貫など、かつての教え子たちとそう変わらないように見えるほどだ。

それでも、だから後は男士達にお任せしよう、という風には、僕はなれない性分なのだ。教員時代からそうだったように。
そういう事情で、僕は早朝から家捜しに明け暮れているのだった。



自室に備え付けられた箪笥をあちこち開け閉めしては、存外に衣装持ちであったことを自覚させられる。本丸へと居を移す際に随分と処分したつもりであったし、本丸で生活し始めてからも、季節の変わり目ごとに衣服の整理をしてきたつもりであったが、本当にただのつもりであったことを思い知らされる。

「僕もリサイクルボックスに持って行こうかなぁ」

ひたひたと静けさが満ちる部屋に、誰にともなく独り言を零す。
捨てよう、とならないのは、物から生じた愛すべき彼らの影響に違いない。

それならやっぱり、明日笹貫と僕で街に出るか。
そう思い立ち、愈々着ることのなくなった衣服を次々に畳へと並べていく。殆どが教員時代に着ていた洋服だ。審神者となった今はすっかり和服が気に入ってしまい、これらの洋服は次第に土いじり用の作業服となっている。
思えば、現世にいた頃からどちらかといえば和服の方が好きだったのかもしれない。僕は教員を務める傍ら、実家で管理していた神社の神主のようなこともしていた。その時の白衣に袴というスタイルの方が、普段着慣れた洋服よりもずっと心地好かったように思う。そうは言っても、結局は利便性をとって洋装に甘んじていたのだが。

次第に自分の周りを、手放すことにした衣服が取り囲んでゆく。一体これまでの自分は何をやってきたのだろう、と些か虚しさが胸によぎる。一応逐一広げては、笹貫が着られないかとサイズを確かめてはいるものの、今のところ彼が着られそうな服は出てきていない。
しかし、その一方ではほのかにこの状況を楽しんでいる自覚がある。サイズ確認のために一着ずつ服を広げては、笹貫がこれを着たらどうだろうか、などと想像を巡らせてしまう。僕の服では、見目が若々しい彼には合わないだろうか。綺麗な彼のことだから、案外なんだって着こなしてしまうのではないか。

何を浮かれているんだろう、僕は」

唐突に我に返り、また独り言が静寂を破る。
下瞼からこめかみにかけて、じわりと炙られるような熱を感じて、反射的に掌で覆った。
非常事態、というのは少々大袈裟ではあるが、現状笹貫は困っているのだ。それなのに、僕ときたら。

かぶりを振って、正座のせいで少し痺れのきていた足で立ち上がる。ぱきぱきと関節の鳴る音が耳に刺さる。
ただ立ち上がるだけの動作にさえ、薄い溜息が漏れる。この世界では現世との時間の流れが違うため、僕の年齢はいつまで経っても四十六のままのはずなのだが、それでも肉体の衰えは進行してしまうのか。それとも、単純に日頃の運動不足のせいか。
己の不精を噛み締めながら、ゆっくりと目の前にそびえ立つ洋服箪笥へ近付いて、扉を引き開ける。防虫剤のつんとした匂いが鼻を掠める。クリーニング済みの証であるビニールを纏ったままの上着類や、衣類カバーにしまったままのスーツなんかが、ずらりと並んでいる。これらは主に今でも着用機会のある余所行きの洋装や、手放すには少々惜しいブランド物の服などが中心だ。
しかし、もう既にこの本丸に来てから一度も袖を通していないような服を持っていても仕方がないのではないか。このタイミングで、断捨離と洒落こむべきではなかろうか。一度そのように思い立つと、決心がつくのは案外早いもので、次々ともう着ることのないであろう服を選別してゆく。交流のある別本丸の審神者や、サイズの合う刀剣男士達に譲るのもいいかもしれない、などと思いながら。

ふと、冬物のコートやジャケットの狭間から、見覚えのない服が覗いているのが見えた。引っ張り出してみると、やたらに袖丈と身丈の長い、厚手のニットのカーディガンが姿を現した。白に近いアイボリーが、やけに眩しく見える。
暫しまじまじと眺めて、僕は思い出した。
もう何年前になるだろうか。教員だった頃、修学旅行の引率に行った時のことだ。その時も、現地で季節外れの寒さに見舞われて、慌てて手近なショッピングセンターに駆け込んで買ったものだった筈だ。寒さが凌げれば何でもよいと、一番暖かそうなものを選んだら、サイズが全く合っていなくて生徒に笑われたような。

思い出してみれば、可笑しくなって一人小さく笑う。僕とて彼と同じではないか。
ならば、彼に着せるのはこれが正しく適任だろう。
すっかり畳を埋め尽くしている布の山をそろそろと越えて、僕は自室を後にした。



「お待たせ。これ、着てごらん」

ひとまず燭台切光忠から借りた防寒スパッツをハーフパンツの下に履き、これまた燭台切光忠から借りたのであろう靴下を履いた笹貫は、布団からは脱出していたものの、今度は恐らく歌仙兼定が見兼ねて羽織らせたらしい半纏にくるまっていた。僕が差し出したカーディガンを、まるでまだものを知らぬ幼子のような顔で見ながら、それでも従順に袖を通してみせた。

「ど?」
「いやはや、こんな事もあるもんなんだなぁ。誂えたみたいにぴったりじゃない」

まるでこの時のために今まで僕の箪笥の肥やしになっていたのか、というほどに、そのカーディガンは笹貫の体躯に馴染んだ。普段見慣れぬ色を着ているせいで、似合っているかどうかは定かではないが、ブレザーの制服の男子高校生に近いものを感じた。悪くはない。

「もう僕着ないやつだから、好きに着ていいよ。ちゃんとあったかかったらいいんだけど、」

どう?と聞こうとした声が、喉で引っかかる。目の前で僕のカーディガンを着た笹貫が、唐突に両袖で顔を覆って、そのまま動かなくなったからだ。
そもそも顕現してまだ日が浅い笹貫は、時折突拍子もない行動に出ることがままある。流石にそれらにある程度慣れてきたとはいえ、タイミングがタイミングなだけに戸惑いは否めなかった。

「えっ、何、どうしたの?なんか変な匂いする?」
みちさんの」
「?」
「みちさんの、匂いがする」

生じた不安に身を任せて歩み寄った僕を、顔を上げた笹貫の鉱石のような瞳が捉える。そして、彼の発言を飲み込むまでに少々の時間を要した僕を、長い腕がするりと捕えた。
どこか動物じみた仕草で、僕の首筋に鼻を押し当てた笹貫の呼吸に、俄かに背筋が粟立った。

「うん、同じ匂い」
「、ちょ、ちょっと!」

状況を理解して、笹貫の腕から逃れんと精一杯もがいてみるものの、僕如きの力では刀剣男士である彼には到底かなわない。そうはいっても、流石にこの状態を誰かに見られでもしたら、恥ずかしくて暫く皆の前に出て来られなくなってしまう。
これがただの笹貫の一方的な戯れなのであれば、僕とてもう少し強く出られるのだが、笹貫は他の刀剣男士たちとは少々勝手が違うのだ。

「これ、内番じゃ着れないや。汚したくないし、みちさんの匂いが消えちゃうから」
「~~!!、もう、君は、またそんなわがままを」
「ダメ?」

みちさんのことが、好きなだけなんだけど。なんて。
夏の空のような深い碧の瞳を、どこか切なげに細めて言うから。
僕は。

しょうがない子だ」

また顔に集まってくる熱を隠すように、愛しい彼の胸へと埋まるしかなくなってしまった。