くこ
2025-01-25 11:08:07
3711文字
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執事(王最)

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王最ワンライを勝手にやっていこう企画
すごい、序盤…ってかんじ…でタイムアップ…









最原は料理をさせてもらえない。
トントン、コトコト、小説であれば、そのようなオノマトペで表現されているだろう。手際の良さに、なんでもできる男だな、と、改めて思う。いいにおいが漂ってきて、最原の腹がくぅと鳴った。
手元に置いたコーヒーは冷め始めており、料理が出来上がるまえに飲み干してしまおう、と、コップを傾ける。じゃっ、と、フライパンが野菜を炒める音が響いた。

最初は、最原だって、ちゃんと料理をしていた。野菜を切り、肉と炒めたり煮たりする程度ではあったが。だが、一度その様子を見た王馬は、きれいに皿を平らげたあと、にっこりと笑い、その後いっさい最原を台所に立たせなかった。
制止の言葉などは何も言わなかったが、基本的に王馬の方が行動が早いので、気がついたら先んじて料理をされており、出る幕がない。そして、なんだか悔しいことに、毎回、王馬の作る料理はおいしいので、そのままお世話になっている。すっかり慣らされた最原は、今日は何を作ってくれるのかな、と、母親の料理を楽しみにする子どものような気持ちになってきている始末だ。

ほどよく筋肉のついた背中が揺れ、フライパンをコンロに置いた。かちり、つまみを回して火を止める。

「おまたせー」

お店で出てきても違和感ないくらいに、きちんと盛り付けられた食事が並ぶ。青椒肉絲、卵スープ、もやしとほうれん草のナムル、白菜の漬物、白米。今日は中華だ。
食器を並べる手伝いをしようと近寄ってきた最原を、はいはい座っててー、と、王馬が押し返す。手伝う暇もなく、あっというまに食卓が完成した。

……いただきます」

上げ膳据え膳、とは、真にこのようなことを指すのであろう。
いまいち納得しきれない気持ちを抱えたまま、最原は両手を体の前で合わせ、しあわせそうにこちらを見て笑っている王馬にため息をついた。



本日は快晴で、お洗濯日和となるでしょう。
テレビの気象予報士が告げる声をバックミュージックに、ベランダから、ぱん、と、シーツをはためかせる音がする。

朝起きて、外が真っ青の空であることを確認した王馬の行動は早かった。普段から最原は王馬の寝顔を見ることが少ないが、さすがに、寝ているうちにシーツが変わっていることは初めてだった。自分はそのあいだ、起きなかったのか。よほど眠りが深かったか、よほど丁寧に交換されたに違いない。最原としては、後者であると信じたい。
ごうんごうんと洗濯機が働いている音を、たしかに、夢うつつに聞いていた気がする。カーテンから漏れる日差しに、ようやく最原が目を覚ました頃には、すでに王馬はベランダに居た。
高層階では洗濯物を外に干せないこともあるそうだが、このマンションでは禁止されていない。動けばいい、と、最原が中古で数万円で買った洗濯機を見た王馬が、翌日、高性能な乾燥機付き洗濯機を導入したので、干せなくても困ることは無いのだが。大物を洗う場合には別か、と、徐々に覚醒してきた頭で、ぼんやりと最原が考える。

ついでに洋服も洗濯したようで、乾燥したてのほかほかな洗濯物がクッションの上に積まれていた。
畳むことくらい手伝うか……と、のそりと起き上がり、最原は裸足でベッドから降りる。最原の起床に気がついた王馬が、最後の洗濯バサミを止めて、ベランダから戻ってきた。

「おはよー、最原ちゃん。もう寝なくていいの?」
「うん……王馬くん、ありがとう」

言葉ほどにはパッチリと開いていない最原の目を見て、王馬が笑う。その手に持ったシャツを、流れるように自然な動作で奪っていった。いつのまにか持っていたハンガーに、シャツが掛けられる。
獲物を奪われてしまった最原が、次の洗濯物に手を出そうとするが、緩慢な動きでは、王馬に敵わない。あれよあれよと王馬の手が洗濯物を片付けていき、ついに最後のひとつまで、最原が対応できることは無かった。むう、と、最原が寝ぼけ眼をこすりながら、不服そうな顔をする。

「はいはい、じゃあ、最原ちゃんはコップ出してよ。コーヒー入れるからさ」
「子ども扱いするな……

ぺしぺしと頭を撫でられ、最原がさらに頬をふくらませる。食事を楽しみにしていた己のことは、この際、棚に上げておく。
とはいえ、コーヒーひとつ取っても、王馬が淹れてくれるもののほうが、はるかに美味しいと知ってしまった。しぶしぶ、言われたとおりに、棚へと向かう。おんなじようにしているはずなのになあ、と、最原が不満そうだが、原因を知っている王馬は何も言わない。ただ、笑っていた。

せっかくブラックで美味しいのに、王馬はコーヒーに砂糖と牛乳を入れる。
そもそも、コーヒー自体をそんなに好んでいなさそうであったが、最原に合わせて、たまに飲んでいる。人に合わせることは嫌いなんじゃなかったっけ、と、デリカシーなく最原が問えば、「べつに無理して合わせているわけではない」と、苦笑しながら王馬は答えた。たしかに、毎回付き合うわけではないので、たまにはコーヒーを飲んでもいいと思うときがある、ということなのだろう。そして今日は、付き合ってもいいと思った日らしかった。

窓から、きらきらと太陽の光が差し込んでいる。少し隙間があいていたので、爽やかな風が最原の髪をさらった。




今日は朝早いでしょ?と、眼前の王馬が言った。

「かおちかい……

薄ぼんやりとする視界でもわかる顔の造形に、最原が手を差し出すと、その手を掴まれてキスをされる。起こすためのキスなので、最初からフルスロットルであった。
息苦しさに、ギブアップ、と、王馬の腕を叩くと、ようやく少しだけ顔が離される。起きた?と、目の前の王馬が尋ねた。

「おきた、から……のいて……

あまりきちんと目覚めているようには見えなかったが、体を起こそうとはしているので、最原に馬乗りになっていた王馬が退く。朝早いとは言ったものの、普段が遅いので、時刻は7時だ。それでも、最原にとっては、早起きなのだが。

寝ぼけていた頭では気が付かなかったが、ダイニングから熱を感じる。顔を洗って、歯を磨いたあとに気が付いた。
ベーコンエッグ、レタスのサラダ、ミニトマト、コーンスープ、食パン。朝食は、いつのまにか用意されていた。はいはい、ちゃっちゃと食べちゃってー、ぼんやりとテーブルの上を眺めていた最原を、王馬の声が急かす。
生返事をしながら、椅子に腰掛ける。あいかわらず、美味しい。手間のかからなさそうなラインナップとはいえ、何時に起きて用意していたのだろう。隣で寝ていたはずなのに、王馬が起きるとき、最原は察知できた試しがない。逆はよくあるので、本当は王馬は、寝ないでも生きていられる人間なのではないかと疑っている。

「スーツで行くでしょ? クリーニング出しといたから、きれいに着てよねー」
「え……ありがとう。僕、そんなことまで伝えてたっけ」

意識してスケジュールを共有しているわけではないので、普段、伝え漏らしていることも多くある。ただ、王馬は、最原の予定をよく把握している。ちょうど今のように、何時から誰との予定があって、それはこういうものである、と、最原さえ少し忘れているような細かいことまで、きちんと覚えている。
根本的に頭の使い方がちがうんだよなあ、たぶん、と、常に高速回転していそうな王馬の頭を見つめる。視線を感じた王馬が、また、笑った。

「ま、最原ちゃんのお世話は、総統のタスクに入ってるからね。これくらい、朝飯前だよー」

いつのまにか、悪の総統のタスクに入れられていたらしい。それはどうも、と、なんと反応したものか困った最原が、気の抜けたお礼を告げた。




一週間ほど日本を離れる、と、王馬が唐突に告げる。
そうなんだ、さびしくなるね。と、最原は返したが、それほど悲壮感は漂っていない。大抵の場合、そのような宣言すらなく行方をくらます方が多いので、宣言あり・期間を告げられているのは、かなりいい方だ。

「オレがいない間に浮気するなよ☆」
「しないよ……

一週間ぽっちで何をしろと言うのだ、と否定する最原に、王馬があははと笑った。
じゃあね、最原ちゃん、一週間後に! そう言って手を振り出ていく王馬を、最原も手を軽く振りながら見送った。

今日はいつも通りの出勤で良いので、まだ時間がある。王馬と付き合う前は朝食を抜くことが多かったが、すっかり朝食のある生活に慣れてしまったので、空腹を感じた。
食パンでも焼くか、と、トースターへと適当に突っ込む。お湯を沸かし、コーヒーを入れる。
コーヒーを一口含み、最原が片目を細めた。

「まず……

否、コーヒーがまずくなったのではない。王馬の淹れるコーヒーが美味しすぎて、最原の舌が肥えたのだ。味以上に苦く思いながら、最原はコップに口をつけるのをやめた。途中のカフェで、ちゃんとしたコーヒーを買おう。コンビニのものですら、納得できなさそうな己に、この先一週間のコストが予想されて目眩がした。