文野
2025-01-24 22:34:43
2951文字
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二人だけの共同作業

零敬。オメガバースパロディ。番済み巣作り編。

 

「あんたはアルファだろうが」

 朔間の奇行に蓮巳は呆れて大袈裟にため息をつく。朔間は自分の服をクローゼットから引っ張り出しては、ベッドの上に無造作に放り投げて衣服の山を作っていた。

「いいから、いいから、居心地を確かめておくれ?」

蓮巳は背中を押されてベッドの前まで辿り着き、どうしたものかと腕を組んで考え込む。

「居心地も何も、ふつうに布団で寝たほうが寝心地は良いだろう」

「うぅっ、それもそうじゃのう……

素気ない蓮巳の返答に、朔間は仕方なく引き下がる。朔間はこの後仕事に出向かなければならず、悠長に話をしていられない。次の予定の時間が迫っている。

「いいか?ヒートが始まったらいつものように連絡しておくれ、日付が変わる頃にしか帰って来られないかもしれんがのう。連絡してくれたほうが、安心するから。我輩の為だと思ってちゃんと連絡しておくれ」

「わかっている」

何度も念押ししてくる朔間に、何度目かの了承の意を示す。

「ほら、遅れるぞ?いってらっしゃい、朔間さん」

「いってくるからの、蓮巳くん。ちゃんといい子にして待ってておくれ」

「子どもじゃないんだから……

後ろ髪を引かれるように、お互い離れ難いのを騙し騙し、朔間を送り出した。

 

 蓮巳はオメガで、予定では今日からヒート期間が始まる。つがいのアルファとオメガは、ヒート期間にお互いを求める本能がある。特にオメガは、ヒート中はホルモン分泌のせいで不安定になりやすく、いつも心配をかけてしまうのが申し訳ない。しかし、仕事は仕事だ。こちらの都合に合わせて休みを取ってもらうわけにはいかない。流石にオメガの自分はヒート期間だけは大事をとって休むしかないが、ヒート期間にひとりで過ごすことには慣れている。
 本格的にヒートが始まる兆候を感じて、ふと、昼間の会話を思い出す。はじめは自分の部屋のベッドに横になっていたが、どうにも気になってしまい、コソコソする必要もないのに、忍び足で朔間の部屋に入った。 朔間の部屋は当たり前だが、朔間の香りが色濃く残っていて、入った瞬間、身体が震えるくらい強い刺激が襲ってくる。
 震える足でベッドに近づき、朔間が作った、朔間の服を山盛りに使って設られた巣にたどり着く。小さく息を吸って呼吸を落ち着け、そっとベッドに乗り上げて巣の中に落ち着く。朔間の甘く重厚な香りに包まれて、心が満たされる反面、身体に持て余した熱が更に上がった気がする。 はあはあと呼吸が荒くなるのを自覚して、自分で自分の身体を抱き締めるように蹲った。朔間さん、早く俺のところに帰って来いと願いながら。

 

 蓮巳から連絡を受けて、朔間は早めに仕事を切り上げて帰路に着いた。自宅に近づくにつれ、蓮巳の甘くどこか清廉な香りが強くなってくる。ドアを開けるとふわりと漂う香りに急かされるように靴を脱いで揃える時間も惜しんで自然と足速に蓮巳の部屋へ一直線に向かう。
 しかし、そこに蓮巳の姿はなかった。ひんやりとしたベッドに血の気が引く。どこへ行った?いや、すぐ近くにいるはず。蓮巳のフェロモンの香りは間違えようがなく、すぐ近くにいることを教えてくれる。
 まさか、と足速に今度は自分の部屋に向かう。ドアを開けた瞬間、ふわりと蕩けるような一際強い香りに眉を寄せる。ベッドの上の朔間お手製の巣の中で小さく丸まっている姿を視認して、安堵と共にどうしようもなく愛着が湧いてくる。

「蓮巳くん、今帰ったぞい」

……あ、さくま、ちがう、これは、その……

顔を真っ赤に染めて、普段では考えられないくらいおどおどとしどろもどろになっている蓮巳を巣ごと抱き締める。

「昼間は素気無かったのに、ずいぶん気に入ってくれたようで嬉しいぞい」

……ちが、俺は、」

蓮巳の頬をほろほろと涙が伝う。ヒートのせいでだいぶ情緒不安定になってしまっているようだ。

「どうしたのじゃ?何故泣いておるのじゃ?帰ってくるのが遅くなってしまったのは悪かった。我輩の作った巣では気に入らなかったかのう?」

蓮巳は勢いよく首を横に振る。目に涙をいっぱい溜め、朔間の胸に縋りついて震えながら嗚咽を漏らす。

「ちがう、あんたは悪くない……俺が、俺は、できそこないのオメガで、自分で巣作りすら満足にできなくて、全部あんたに任せて甘えて頼りきりで……こんな自分が情けない……これからは自分で巣作りできるように頑張るから、どうか捨てないでくれ……

蓮巳は堰を切ったように捲し立てる。

「ふふ、巣作りできないことそんなに悩んでおったんじゃのう。大丈夫じゃよ、そんなことで嫌いになったりはせんからのう。蓮巳くんが我輩のお部屋で待っていてくれて、可愛らしくてとっても幸せじゃよ」

「さくまさん……

蓮巳は甘えるように頭をぐりぐり擦り付けてくるので、よしよしと髪を撫でてやる。

「きっと個人差があるものじゃからそんなに自分を責めないでおくれ。ただ、ちょっとずつでいいから、できるようになってくれたら嬉しいぞい」

「うん……朔間さんの為に苦手な巣作りも頑張る、から、」

「蓮巳くんならきっと立派な巣を作れるようになると我輩は信じておるよ。蓮巳くんは人一倍努力家じゃと、我輩は知っておるからのう」

……そこまで言われると、逆にプレッシャーだな」

「落ち着いた?」

……ああ。すまない、みっともないところを見せた……

「蓮巳くんって、我輩のフェロモンですぐ落ち着いて冷静になってしまうんじゃもん。もっと甘えてくれてもかまわないぞい」

 オメガは番のアルファのフェロモンで精神が安定するのだが、蓮巳は特にそれが顕著らしい。そのかわり、少しでもつがいのフェロモンが感じられないと、強くストレスがかかる体質のようだ。
 だから、巣作りして朔間の残り香を感じていたほうが、どうしても都合で一緒にいられないときにも安定するだろうと、巣作りを促しているのだが、理性が邪魔をしてハードルが高いらしい。オメガの本能というのはアルファの自分には理解してあげられない部分も多いが、ヒート期間は少しでも快適に過ごしてもらえるよう、心を寄せているつもりだ。巣作りできないなら、はじめから用意してあげれば良いと、手を貸したつもりだったが、今回はそれが余計なプレッシャーを与えてしまったようだ。

 

「あの、もう、大丈夫だから……

 遠慮がちに離れようとする蓮巳を逃すまいと腕の中に閉じ込めて、額にキスを落とす。

「大丈夫と言っても、もうヒート始まっておるじゃろう?蓮巳くんのフェロモンでクラクラするぞい」

「う、そうだ、まだ帰ってきたばかりでシャワーも浴びてないだろうが、貴様」

 シャワーを浴びて着替えてこい、とぐいぐい背中を押されて自分の部屋を追い出される。着替えは部屋の中にあるのだが、仕方ない。とりあえず浴室に入って、バスタオル一枚で部屋に戻るとするか。どうせすぐ脱ぐことになるだろうし、などと邪なことを考える。
 朔間の愛しい人は、彼にとって唯一の番である朔間の服に埋もれ、巣の中で待っている。朔間は自然と頬を緩ませた。