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かいえ
2025-01-24 00:34:48
3349文字
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【タケミチ愛され】東京卍會の不文律 ①
本誌第277話を見て堪らなくなり書いたお話
総長代理だから相談役な代理みっちを書こうと思ったのに、出来上がりは全然違うものに…
幹部からのみっちへの愛が重過ぎて、モブが近寄れず相談役にするのを断念しましたやつです
モブ視点
3,346文字
総長代理である花垣さんの周囲は、いつも東京卍會の幹部でいっぱいだ。
とてもじゃないけれど、俺みたいな入りたてのぺーぺーは話すどころか、近くに行くことすら難しい。それに、花垣さんへ近づこうものなら、幹部から絶対零度の視線を投げかけられるからおっかないのだ。
そもそも、俺にとって花垣さんは、総長のマイキーさんや、副総長のドラケンさんと同じ雲の上の人で傍に行くなんてお恐れ多いのだけれど、でも、もし花垣さんが一人で立っていたら勇気を出して話しかけにいけるかもしれない。
けれども、花垣さんは絶対単独で動かない人だった。
特別そうしなくてはいけないという命令は、総長から出ていないらしいが、東京卍會の幹部の誰かが常に傍にいて、絶対一人にしないのだ。それこそ、お姫様のように守られてていて、俺にとっては高値の花のような存在だ。
東京卍會の幹部は、もれなく全員が暴走族の総長クラスで構成されている。そういう次第で、花垣さんの半径1メートルという狭い空間には、普通なら数百人に一人しかいない総長クラスが複数人いるという、信じられない状況が出来上がっているのだ。あれほど固いガードを俺は見たことがない。
俺はマイキーさんの横で戦う花垣さんを見て憧れて東京卍會に入隊したので、花垣さんの相棒である千冬さんが副隊長を務める壱番隊に所属していた。花垣さんと千冬さんは同級生で特に仲が良い。壱番隊に入れば、千冬さんのところに良くやってくる花垣さんを、そこそこ間近で見られる可能性が、他の隊よりあると思ってのことだ。
その雲の上の高値の花な花垣さんが、集会に向かう俺の前に何故か立っていて、しかも、一人っきりでいたものだから、俺はびっくりして立ち止まってしまった。思わず周囲を見回したが、どこにも幹部の姿がなくて、心臓がばくばくと跳ね上がり耳の後ろの脈の音がうるさくなる。
頬をつねり目を擦って再度見ても、花垣さんは一人で立っていた。
こんなことがあるだろうかと、それでも信じられなくて、俺は茫然と花垣さんを見ているしかなかった。金髪をリーゼントにして、東京卍會の黒い特服で身を包んでいる。その腕には「東京卍會総長代理」の文字があり、どこからどう見ても、やはり本物の花垣さんだった。
総長クラスの特服は、弐番隊隊長の三ツ谷さんが自ら作るのは有名な話だった。
当然ながら、花垣さんの特服は三ツ谷さんの手によって作られたもので、刺繍も全て手入れで丁寧に入れられている。三ツ谷さんが精魂込めて丁寧に刺した金色の刺繍糸が街灯の光の下で、きらきらと豪奢に輝いていた。その特別仕様の特服の袖に腕を通すのは、全一般隊員の目標で憧れだった。
今までずっと話しかけたかった相手が無防備に立っているというのに、俺は声を出すのも忘れて、ただ、そこにいる花垣さんを見つめていた。
すると、花垣さんが俺の方を見て笑みを浮かべた。花が綻ぶようなふわっとした笑みだ。
顔見知りでも何ない自分に笑いかける訳が無いと思った俺は、ハッとして我に返り背後を振り返った。こんなところを幹部に見られた日には、どんな制裁が加えられるか分かったものではないのだ。過去にはうっかり花垣さんにぶつかってしまった隊員が翌日から姿が見えなくなったこともあるらしいのだ。
けれども、背後には誰もいなかった。
ということは、つまり、間違いなく、花垣さんは俺だけに微笑んだのだとということになり、雷にでも打たれたような衝撃が全身に走った。
そして、花垣さんより先に挨拶をするべきだったと思った。それなのに、緊張して喉がからからで、声が出せなくて気が動転する。
「ねぇ、お金持ってる?」
突然のカツアゲ?
微笑まれた上に、話しかけられて、俺はキャパオーバーでおかしくなっていた。初めて聞く花垣さんの声にドキドキするし、至近距離で見る花垣さんは想像より小柄で、俺を見上げて話している事に気がついて、情緒が乱れまくっていた。
「君、東卍の子だよね? ちょっと十円を貸してもらえないかな? お金が足りなくて買えないんだ。後から返すから」
夜道に明るく光る自販機を指さして花垣さんはそう言った。
そうか、花垣さんは、飲み物が買いたいのだと、ようやく理解した俺は、特服のズボンのポケットに慌てて手を突っ込んだ。確か、さっきコンビニで買い物をしたと時に、千円でしはらったので、その残りのおつりがあった筈なのだ。指に小銭の感触があり、急いで掴んで「どうぞ!」とお辞儀をした姿勢で、震える手の平に載せた小銭を、花垣さんに向かって差し出した。
花垣さんは、俺の手の平から十円硬貨を一枚掴んで「ありがとう」と言った。その、ほんの一瞬触れた花垣さんの指先に反応して、オレの身体の中を電流が駆け抜けていきびっくりした。今のは何だったんだろうと、俺は自分の手の平をまじまじと見つめた。
花垣さんは硬貨を自販機に入れ、コーラのボタンを押した。ガタンと大きな音を立て、自販機の取り出し口にペットボトルのコーラが落ちてきていた。花垣さんは屈んで取り出すと、俺の所属している隊と名前を聞き、後から返しに行くからと、申し訳無さそうに言った。
噂通りの腰の低さに、俺は感動していた。
総長のマイキーさんも副総長のドラケンさんも格好良いし強いし尊敬できるけど、もっと見ていたいと思ったり、こんなにも心がドキドキしたりなんてしない。
もう二度と、こんな近くで花垣さんと会話が出来るチャンスなど無いかもしれないという気持ちが、無謀にも俺の背中を押していた。周囲に誰もいなかったから、余計に大胆になれたのかもしれない。
東京卍會にある「代理に近寄らない、話さない、目を合わせない」という、暗黙のルールを破ってでも、身の程知らずの俺は、もう少し花垣さんと話してみたいと思ってしまったのだ。
「あの
…
花垣さん。出来たら
…
出来たらでイイっスけど、花垣さんの左手の
…
あ、左手にある傷跡を見せてもらえませんか?」
「え? これ?」
花垣さんはきょとんとした表情で、俺に向かって左手の甲を上げた。そこには、東京卍會を裏切った清水という下衆野郎にナイフで刺された時の傷跡がしっかり残っていた。
花垣さんには武勇伝がいっぱいあるが、その手の甲の刺し傷は、花垣さんが最初に負った怪我だとされているものだ。副総長のドラケンさんを庇った時に作った傷で、花垣さんは片手を負傷したまま、自分より体格の良い清水と拳一つで戦い、見事相手を落として勝ったそうなのだ。
東京卍會の幹部は、花垣さんの勇気と男気に敬意を込めて、また絶対負けないという心意気を分けてもらう為、抗争に出向く前、その手の甲の傷跡に口づけるのだという噂まで、まことしやかに流れているくらい、その名誉の負傷による傷跡は、東京卍會において一種神聖な扱いだった。
「あ! もしかして、あの話をキミも信じてるの?」
花垣さんはおかしそうにクスクス笑った。
「いいよ、キスしても。それで、キミが頑張れるなら」
花垣さんの夏の青空のような瞳が、俺をまっすぐ見つめて微笑んでいた。
花垣さんが左手をまっすぐ俺に向けて伸ばしてきたから、俺は厳粛な面持ちで見つめた。
堪らなかった。
季節は秋も深まり、すっかり寒くなったというのに、花垣さんの蒼い瞳はあの暑い夏を思い出させる。しゅわしゅわと弾くサイダーのように俺の心を爆ぜさせた。
東京卍會の魂と称される珠玉の左手が目の前にあり、俺は震えながら両手で花垣さんの手を包み込んだ。
中指の少し下にある、ミミズ腫れになって白く膨らんだ傷跡に、そっと唇を寄せた。
その瞬間、俺はこの世界中で一番強い人間になっていた。
化け物みたいに強い東京卍會の幹部達のように、花垣さんの魂の一部を確かに貰い受けたのだと思う。
オレの人生でこれ以上幸運な事は訪れない気がした。
その後の集会の話の内容は何一つ覚えていない。
東京卍會の集会場所である神社の境内の階段の最上段、マイキーさんとドラケンさんの間に立つ花垣さんを、俺は大勢の隊員たちがいる一番後ろの位置から夢心地で眺めただけだった。
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