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みすず
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創作
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ネイあり
慣れてもらう試み。
「明璃澄、もう少し俺に慣れてみよっか」
「え゛」
自宅のソファ、隣に座った自身にほんのりと頬を染めてちょこんと小さく座る明璃澄を見て、ネイサンは微笑みながら軽く腕を広げた。
「おいで」
ぽかんと丸くなった明璃澄の目。薄く開いた唇はそのままキスしてしまいたくなる可愛らしさであったが、ネイサンはそれを堪えて「おいで」ともう一度繰り返す。
広げた腕のなかに誘われていることをようやく察したか、明璃澄は先ほどよりも顔を赤くしてうろうろと視線を彷徨わせ始める。子鹿のように震える体は哀れにも見えるが、今日はそうならないように自身に慣れてもらおうという試みである。いつもであれば明璃澄のこういう姿を見るとすぐに抱きしめてしまうが、今回は明璃澄のほうから来てほしい。
「
……
お」
「お?」
「お邪魔します
……
っ」
見るからに羞恥でいっぱいになり、涙目の明璃澄がぽすっと抱きついてくる。いや、胸に倒れ込んでくる。鎖骨の辺りに額を押し付けて、指先でつまむようにネイサンの服を握る明璃澄はちらりと覗く耳も項も真っ赤で、詰めた呼気を短く吐き出す様はともすると大仰であるが、ネイサンは明璃澄が精一杯なことをことを知っている。
抱きつくこと自体はいままでだってしてくれたことが何度もあるけれど、改めて言われると恥ずかしいのだろう。それと、ひょっとしたらまだ恐れ多いなんて、それこそ大仰なことを思っているのかもしれない。恋人になっても明璃澄のファン心理は変わらないようだから。
ネイサンは硬くなっている明璃澄の体を緩く抱きしめて、強張る背中を撫で摩る。最初はびくっと大きく跳ねた明璃澄だが、二度、三度と続ければ強張りが解けてほっと息を吐いてからネイサンへ頬を擦り寄せてくれた。
「ふふ、可愛い。ねえ、明璃澄」
「は、はい
……
」
「毎日さ、会ったとき一回は明璃澄から抱きつくってどうだろ?」
「ぇあ゛っ、だ、だきつ
……
俺っ?」
勢いよく顔を上げた明璃澄がネイサンと視線を合わせ、慌てたように俯いた。無意識にだろう、自身が選んだネイサンの服を皺くちゃになるほど握りしめる明璃澄の頭にちゅっとキスをしながらネイサンは「だめ?」と彼の耳元で訊く。
「だ
…………
めじゃないけどぉ
……
っ」
半泣きの声でふるふると小刻みに首を振る明璃澄は傍目に意地悪をされているように見えるだろう。以前、じっと見つめただけで涙目になっていた明璃澄を思い出し、ネイサンはくつくつとおかしそうに笑う。その顔は意地悪な恋人そのものだった。
「だめじゃないならお願い。ね?」
「ゔゔ
……
わ、わかった
……
」
「
……
嫌ならいいけど」
「っやじゃない!」
いまのはほんとうに意地が悪かったかもしれない。違うと分かっていて言ったネイサンに明璃澄は泣きそうに眉を下げながら「やなんかじゃない
……
」と繰り返す。
「うん、ごめんね。緊張しちゃうんだよね」
宥めるように目元へ口付け、髪を梳くように撫でれば明璃澄の目元に入っていた力が抜ける。キスで誤魔化すような真似は褒められたものではないが、分け合う体温で解けるものがあるのも事実だ。
「ん
……
ど、どきどきしちゃって
……
心臓、こわれそうだから
……
」
小動物の鳴き声のようにか細い声で言う明璃澄に、ネイサンはいっそこのまま腕のなかから出さずにいられたらと思う。デートに行くのも職場で明璃澄の仕事を見るのも好きだし、現実的な考えではないけれど、どこへ行くのにも明璃澄とくっついていられたらこんなに嬉しく可愛いことはないと思うのだ。普段、デートのときはネイサンの顔をじっと凝視している明璃澄の腰を抱いて歩いているので、既に叶っているようなものであったが。
「ちょっとずつでいいから
……
顔見てするのが緊張するなら後ろからでもいいし、隣に座っているときに寄りかかってくれるのでもいいよ」
「
…………
でも、顔
……
見たい」
むうとしながら言う明璃澄にネイサンは声を上げて笑った。
「明璃澄はほんとうに俺の顔が好きだね!」
「だ、だって! ネイトさんがか、かっこよすぎて
……
!」
「いままでこんなに俺のこと褒めてくれたの明璃澄くらいだよ」
それに、とネイサンは明璃澄の頬を撫でる。
「こんなに可愛いのも明璃澄だけだね。ふふふ、ほっぺすべすべだ」
じんわり熱を持つ明璃澄の頬を撫で、そのまま手を滑らせて手櫛の明璃澄の髪を梳く。
「カラー部分もさらさらだ。手入れちゃんとできてるんだね。俺、明璃澄の髪に触るの好きだよ。こうやって撫でるのもアレンジするのも」
「ぇゔ
……
お、おれも
……
ネイトさんに触ってもらうの、すき
……
」
ネイサンの肩口にぺたりと頬を寄せ、明璃澄はやっとネイサンの体に腕をまわす。すりすりと嬉しそうに懐いてくれる恋人のふにゃりと緩んだ表情が愛おしくてならなかった。
明璃澄を抱きしめしばらく頭を撫でたり頬をもちもちしたりと思う存分触れたネイサンは、次第に蕩けたようにくったりしてしまった彼を膝に抱く。
そうして「可愛いね」「好きだよ」と繰り返し、ネイサンは訳が分かっていなさそうな明璃澄の服の下へ手を這わせるのだ。
「
……
ぇ、え
……
っ?」
「だめ?」
ネイサンは悪い恋人の顔で微笑む。
真っ赤になって喉をきゅうと鳴らす明璃澄。ネイサンの可愛いかわいい恋人。自分になんでも許してしまって心配だ。心配だから決して離さずにいよう。大好きだから傍にいて好きでい続けてもらえるように愛情を伝えよう。それは手でも言葉でも。
「
…………
だめじゃない
……
」
抱きついてもらうほうが簡単だろうに、今度は涙目にはならず明璃澄の目はとろんと熱っぽい。
ネイサンは明璃澄をソファへ押し倒し、覆い被さって唇を何度も喰んだ。
ちゅ、くちゅと立つ水音は、いずれソファの軋む音が混ざるだろう。その頃には明璃澄から全身で抱きついてもらえるだろうと想像し、ネイサンは口角を上げる。
決して善良ではない表情は可愛い恋人にだけ見せるものだった。
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