シノハラ
2025-01-22 21:59:18
1677文字
Public カヴェアル♀
 

彼はうるさい同居人

一人暮らしが長かったせいで家で騒音を出すのに躊躇いがない男 VS 一人暮らしが長かったせいでノーブラで男の部屋に凸る女(カヴェアル♀)

 この家に住人が増えて既に一月が経過していた。突然知らない家に上げられた野良猫の如くだったカーヴェも、ようやく家に馴染んできたらしく自由にし始めたのは良いことだと思う。
 彼がこの家を自身の家のように感じられるのはまだまだ先だろうが、少しでもその状態に近づくのであればそれは当然良いことなのだ。その判断をアルハイゼンが曲げるつもりは毛頭なかった。けれど、些か自由にしすぎではないかと、真っ暗な天井を見上げながら毒づいてしまう。
 アルハイゼンと同じく、彼も長らく一人暮らしをしていたのだ。と思う最中にがきん、とアルハイゼンには音の出所すら判然としない音が聞こえてくる。それが納まると次はくぐもった調子の音がごつごつと響いて、アルハイゼンは舌打ちをしながら起き上がった。
 つまるところ、家の中で音を出すことに彼は抵抗感が全くないのだ。近隣に家があれば気にしたかもしれないが、彼にとっては都合の良いことに住宅街から離れた場所にこの家は位置している。
 数日前からアルハイゼンの耳に届き始めた音は次第に喧しくなってきていて、ヘッドホンの遮音機能を上げない限りどうにもなりそうにない。家に人が増えるのであれば、生活音を遮断するために多少の強化は必要かもしれないとは思ってはいたのだ。
 とはいえ、こんな夜中の騒音を想定は当然していなかった。せめて日中にやってほしい。
 苛立ち紛れに立ち上がったせいか、普段よりも足音が大きく響いたように思う。暗がりでスリッパを探そうとしたが面倒になって、素足のまま部屋を横断して私室の戸を開けた。そうすれば薄い木材でありながらも防音に一役買っていたらしく、響き渡る音が少々大きくなる。
 少しも行かない場所にあるカーヴェの私室の戸を二度叩くと、ぴたりと音が止まったものの中から窺っているのか彼が出てくる様子はない。静まりかえった深夜の廊下でもう一度ノックをすれば、さすがに聞き間違いではないと判断したらしいカーヴェが先ほどとは打って変わった静かさでそっとドアを開けて姿を現した。少しばつの悪そうな表情をしているからには、何が原因でアルハイゼンが自分を訪ねたのか見当がついているのだろう。
「うるさい」
 腕を組みながら文句を言えば、猫を思わせる目が丸くなってから突如として鋭さを帯びた。想定外の反応にアルハイゼンは反応を示すべきか判断に迷ってしまう。
「そもそもこんな時間に異性を訪ねてくるべきじゃないが、それにしたって適切な格好ってものがあるんじゃないか?」
 その隙を突くようにして、カーヴェがやや強ばった調子でアルハイゼンに指摘をする。少し険がありながらも、善意をもって発された苦言であるのは理解できた。思わず視線を自身の体に落とすと、柔らかい生地を下着に守られていない乳頭が緩く押し上げているのが見て取れる。
 日中はともかく、眠るときには締め付けはなければないほどいい。今はまだ夜が肌寒い時期だったために選んだ腹回りに圧迫感を覚えないワンピースが、脛の少し上辺りをふわふわと裾が擦るのを意識する。もう少し気候が良くなればこれも着なくて済むようになるので、逆にこういう事故も起きなかったかもしれない。
 廊下は常夜灯しか点いていない状態ではあるが、カーヴェの部屋は細かい作業ができるように燦々と明かりが照らしている。アルハイゼンが見えているのであれば、彼にもこの膨らみが分かってしまっているかもしれなかった。いや、分かっているからこそ怒っているのかもしれない。
……うるさい」
 たしかに彼の指摘の通り不用心だったかもしれないが、そもそも寝ている人間を起こして呼び寄せたのはそちらだろうに。そう思うと素直に受け入れるのも癪に思えてしまって、アルハイゼンは同じ言葉で異なる主張をすることにする。
 そうすれば今度はカーヴェが眉間に皺を寄せたのだけれど、そのちくちくした眼差しからしてやっぱりうるさい。なかなか本題に戻れなくなったのを感じながら、アルハイゼンは溜め息を夜の暗がりと眩い明かりの間に零すしかなかった。