アイリス
2025-01-22 05:10:40
14368文字
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俺、狩りは得意やねん

絶対BL【腐】に激ハマりしました。
三郷×主人公
IF話の仲良し設定も入ってます

大学メンツと主人公が仲いいの好き。

こんな感じの三郷君と主人公が居てもいいよね!
だってこの二次創作の小説の世界のフラグをつくるのは私だから!

三郷天晴×主人公

 突然だが夏祭りである。
 二日間続く夏祭りの内、一日は皆でわいわい騒ごうといつもの飲み会メンバーと真山、水元の九人で遊ぶことになったのだ。
 当然ながら水元はこういった祭りには行きたがらない。周りの声がうるさすぎて動けなくなるからだ。その事情を知っているのは俺と真山だけなので、二人で口裏を合わせて水元は不参加だと伝えると、最期の花火だけでもどこかで見ようと花火の時間は真山の家で過ごすことになった。
 水元だけその時間から集まるというのも面倒なので、昼の内に真山と俺、水元の三人で先に軽い食事の準備をすることにした。
 夜店で買うとはいえ酒や、つまみの準備はいるだろうというのは建前で、水元だけ一人にするのはどうも気が引けたのだ。
 本人は慣れているとはいえ、親友とまで呼ぶ仲になった俺たちはどうにか水元も楽しめないかと作戦を立てていた。
 水元の能力の詳細は本人もあまり分かっていないので、買い出しついでに色々試しているとどうやら機械越しには心の声が聞こえないことが分かった。これなら俺の心の声がうるさくてもボイスレコーダーを使えば解決できると三人で盛り上がったのはつい数時間前の事である。
 弁明させてほしいのだが、新しい発見があると人間は浮かれるものだ。
 テンションが爆アガリした状態で、何を思ったのかお揃いで安い浴衣を買って着つけて写真撮影までしたのだ。
 本当にどうにかしていた。
 酒すら入っていないのに浴衣を着ることにかなり盛り上がってしまったのだ。
 俺達は女子高生か?
 しかも他の六人にも浴衣で遊ぼうと連絡して、このむさくるしい男連中全員が浴衣を着ることになったのだ。
 最悪である。
 真山の家に残った水元とビデオ通話をしながら他のメンバーと合流し、水元が人ごみだと気持ち悪くなるのだと説明してこの方法で一緒に居ることになるがいいかと聞けば、六人とも笑顔で応じてくれた。
 元から気の良い奴らだとは思ていたが、今日改めて人の良さを知ることになるとは我ながら良い友人を持ったものだ。これで痴話げんかや人の寝てる横でセックスさえしなければ完璧なのだが、まぁそれはいいだろう。

 そんなこんなで八人という大所帯で夜店を回っていた。
 さすがに八人だと動きにくいので水元含めた六人が射的やスーパーボール、ヨーヨー釣りなどをして回り、残った三人で屋台の料理を買うことにした。
 ここで忘れてはいけないのだが、ここはBL漫画の世界であるということだ。
 カップルが三組も居るとなると、起こるのは恋人のピンチイベントだ。
 酔っ払いに絡まれて危ない所を攻めに助けられて、攻めの格好良さに胸キュンする何百回もすられている話が繰り広げられる。
 今回もあるだろうと予想はしていたが、想定外なことに巻き込まれたのは俺と秋人、涼太の別れた三人の方だった。
 いや、二人同時に物語を進めるな。せめて一人ずつ起こせ、と恨み言を考えていても進んでいくのが現実で、絶賛酔っ払いに一番絡まれているのは俺なのだ。
 いや、せめて番持ちにしてくれませんか?

「兄ちゃん達いい浴衣着てんじゃねぇか。似合ってるねぇ」
「はぁ、あの掴まないでもらえますか?苦しいので」
「苦しい~?じゃあ緩めればいいじゃねーか!」

 その声と同時に浴衣を脱がされそうになるのだから本当に意味が分からない。
 どうやったらその考えになるの?頭おかしいんじゃねーか?
 こんなこともあるかもしれないと、あらかじめ薄手のハイネックの肌シャツを着ていたので胸をさらけ出すということはなかったが非常にまずい。
 両襟を大きく開かれたので、咄嗟に自身を抱き締めるように浴衣を受け止めたのがいけなかったのだろうか。
 こんな鶏ガラの何に興奮するのかわからんが、目の前の酔っ払いが生唾を飲み込んだのが見えてしまった。気持ち悪っ。

「誘ってんのか~?お前なら抱いてやれるけど相手してやろうか?」
「気持ち悪っ」
「なんだと!」

 取り繕うのも忘れて素直な言葉が出てしまったが仕方ないだろう。脱がそうとする次は殴りかかってくんのか。この世界の秩序どうなってんだよ。
 秋人が腕を引き寄せてくれたおかげで俺は殴られずにすみ、殴りかかって来た酔っ払いは自分の足に引っかかって地面に転がった。ざまーみろ。

「ありがとう、秋人」
「助けんの遅れてごめん。俺の携帯電波悪いから、涼太が斗真に電話してくれてる」
「そっか、ごめんな」
「__が悪いわけじゃないじゃん。俺らこそ気づくの遅れてごめん」
「いいよ。人いっぱいだし、俺も咄嗟に声でなかったから」
「__。じゃあ、一回、人ごみ抜けるか。ここじゃ合流できないし」
「おう」

 俺と秋人が脚を動かす前に地面に情けなくコケた酔っ払いが、千鳥足ながらも立ち上がって詰め寄ってくる。そこはしぶといんだ。ずっと転がっとけよ。

「人の事転ばしといて逃げんじゃねーよ!」
「自分が殴りかかって、勝手に転んだだけじゃん」
「なんだと~!」

 本日二回目の殴りかかりである。
 このやりとりなら秋人に殴りかかるだろうし、秋人の番である滝本が絶妙なタイミングで助け出すだろう。
 そう思って悠長に構えていたら、どうやらこの二回目も俺に向かっているようで気づいた時には目の前に拳が迫っていた。
 あ、これ避けれないわ。せめて頬に当たるように、横を向いておこう。
 ——覚悟を決めて歯を食いしばっていたが、いつまでたっても衝撃が来ないので正面に向き直るとあら不思議。三郷くんが目の前に立っているじゃないですか。
 ふざけんな。
 なんでこんなとこに居るんだ。
 高校生に暴力を絡めるんじゃない。

「三郷くん?」
「イタ~っ!受け流したとはいえ、グーで殴られたら痛いわ!」
「いやいやいや、何でここに居るの。ていうか、手。大丈夫?」
「これ骨折れてもうたかもしれん~!——どないしてくれんのおっさん?」

 こちらの質問に一切答えず、普段のおちゃらけた声から一気に低い声に変わった。殴って来た酔っ払いの拳を手で受け流し、その手首をつかみ上げている状況に思考まとまらない。この子、こんな子だっけ?

「痛っ~、おっお、お前が!前に出てくるからだろうが!」
「はぁ?お兄が殴られそうになってんのに庇わん奴おらんくない?あほ?」
「なんだと!?」
「てかさ、おっさん酔いすぎとちゃう?人殴ったらあかんっておかんに教えてもらわへんかったん?こんなんお兄が受けとったら、歯ぁ折れとったんちゃう?傷害事件やで」
「うるさい!離せっ!」
「離すわけないやん~、一緒におまわりさんとこ行こな~!」
「はぁ!?ふざけんな!いい加減にしろよっ」
「おどれがええ加減にせえよ。人の事殴っといて、はいさいなら~、で済むはずないやろうが。ええ年こいたおっさんが恥ずかしないんか。一緒に来てもらうで、俺殴られた被害者やし、動画とっとるから逃げられへんぞ」
「ぁ……

 酔っ払いは言われた言葉を理解したのか、一気に脱力して抵抗もなく項垂れる。
 その一連の流れを見ていた俺達三人も唖然として見守ってしまっていたが、手際が良すぎる。まるで何度か経験したような行動で心臓がうるさい。
 いつにもまして三郷くんが大きく輝いて見えてしまった。普段から考えられないような鋭い表情に心臓が高鳴るのはきっと恐怖からに違いない。
 そうだ。
 そうでなければおかしい。
 恐る恐る三郷くんの服を引っ張ると、普段と変わらないニカッとした笑顔で振り返った。
 違う。
 ちがう。
 心臓が早いのは恐怖からで、ときめきなどとは別なのだ。

「三郷くん」
「お兄!偶然やなぁ、友達と来たん?」
「え、うん。大学の友達」
「一緒に祭りええよな!二日もあるんやもん!楽しまな、なっ!」
「うん、それで」
「一緒に来とる友達って二人だけなん?」
「え、いや後五人いるけど」

 いつもならこちらが話すまで待ってくれるのに、話そうとする前に質問を投げられる。

「へぇ~!大人数でええな!そっちのお兄さんら名前なんて言うん~?」
「あ、俺は秋人。で、こっちが」
「涼太。よろしく」
「秋人さんに涼太さんな!俺、三郷って言います!よろしゅうな~!」
「ああ、よろしく」
「うん」
「でな!会ってそうそうで悪いんやけど、俺さぁ、このあほ、おまわりさんに突き出さなあかんから、お兄の事頼んでもええ?せっかく遊びに来てんのに、こんなんで楽しまれへんのあほらしいやん!俺もう帰るとこやったから、頼むわぁ~!」
「別にいいけど、君一人で大丈夫なの?」
「そうだよ、俺達も一緒に」
「ちゃうねん!ホンマ帰るとこやったし、おとんもおかんも一緒やから見られんの恥ずかしいだけやねん!俺、思春期やから親に会われんのホンマ恥ずかしいねんって~!堪忍してぇ~なぁ。なぁ?」

 三郷くんの弾丸トークに二人もたじたじになりながら首を縦に振るしかなくなってしまった。そんな三人のやり取りを見ながら戸惑っていると、三郷君が先ほどと同じようにニカッと笑って歩き出してしまう。

「お兄も秋人さんも涼太さんもホンマごめんなぁ~!また今度ゆっくりどっか連れってって~!約束なぁ~!ほなねぇ~!」
「あ、ああ」
「また」
……
「あの子、すごいね」
「手際良すぎて流された」
「うん」

 バクバクとなり続ける心臓を鎮めるために浴衣を直すが収まる気配がない。
 おかしい。
 おかしいだろう。
 なんでこんなに心臓が早いんだ。
 やめてくれ。

「__。顔」
「真っ赤っかじゃん」
「うるせぇ……
「あの子カッコイイね」
「あんなにスムーズに、押しつけがましくないように助けてくれるなんてカッコいいよな」
「うるさい」
「へぇ~」
「お前、結構あの子の事好きでしょ?」
「~っ!うるさい!」

 俺は世界に負けない。
 けど、これはずるいだろう。
 三郷くんが格好良すぎる。俺はBLなんかになりたくない。それにあの子は綾人の事が好きなんだから、ありえない。
 けど、もしスピンオフが始まるのを止められないのなら。
 あの子ならいいかもしれないと思ってしまった時点で俺は世界に負けてしまっていたのかもしれない。
 とりあえず、今度会ったらお礼にどこかに連れて行くくらいならしてもいい。この二人と一緒ならフラグにはならないだろう。
 連絡先をこの二人と一緒に交換するなら一個人としてのフラグにはならないはずだ。
 そうしよう。
 まず二人の予定が合う日を聞き出して三郷くんを誘おう。
 そんなことを思いながら五人と合流し、真山の家に帰った。
 水元に心底呆れた顔をされたのは伏せておく。

「お前まじか」
「うるさいぞ、コミュ力虫以下のイケメン」
「おい、真山。こいつさっき」
「それ以上言ったらいつも以上の思考量でぶん殴るぞ」
「はぁ、難儀な奴。まぁ、いいんじゃね?いいやつそうじゃん、そいつ」
「高校生だが?」
「あっはは!」
「さてはもう酔ってるな?口滑らすなよ!まじで!」






 午前の講義も終わり、飲みメンと学食に行こうかとスマホを取り出したタイミングで洋司から着信が入る。
 待ち合わせ場所を伝えるだけならメッセージで済ますし、急用だろうか。

「洋司、どうした?急ぎ?」
「おう。門のところに__の弟の友達来てんだけどこれる?」

 綾人の友達って誰だ。来る予定なんてないぞ。東條くんは来るなら事前に連絡くれるだろうし柳くんは俺のとこに来る理由がない。三郷くんなら綾人と東條くんが付き合いだしたと泣きつきに来るかもしれないがあの子も連絡くらい入れるだろう。

「綾人の友達って誰?」
「前会ったけど名前までわかんなくて、関西弁の子なんだけど」
「あ~、三郷くんか」

 とうとう綾人と東條くんが付き合いだしたのか。思ったよりも時間かかったな。ていうか連絡入れろよ。教えてただろう。
 それよりも今はどうやって彼を追い返すかが重要だ。
 こんな特大フラグ、俺と三郷くんのスピンオフに繋がってしまう。
 傷心の彼に優しく声をかけた年上のお兄さんとしてキャラ付けされてしまう。
 どうやって追い返そうか。洋司につき返してくれなんて言っても聞かねーだろうし。
 弱ったな。
 いや、一番困るのは嫌じゃないと思ってる自分の考えの方だ。
 このままフラグが立てばいいとさえ思っているのは非常にまずい。

「三郷くんね。俺、__が来るまで傍に居るから急いできてあげてくんない?」
「なんで?」

 おっと先手を打たれてしまった。けど珍しいな、秋人ならまだしも洋司が結局的に面倒見るなんて。何か言われたのだろうか。

「泣いてる」
「はぁ?」

 泣いてる?なんでだ。失恋したからと言って他の人の前で泣くようなキャラじゃないだろ。

「なんか、俺の顔見てお兄の友達の人って泣きだしちゃって」
「本当になんで?まぁ急ぐわ」

 フラグどころではなくなった。門の前で泣いているなんて大ごとだろう。
 何よりあの子が泣いていると聞いて胸が締め付けられたように痛んだのだ。
 これは非常にまずい。いや、もう何と言うか、俺は世界に負けたのだろう。



 階段を下りるだけで体力がいる。普段から大した運動もしていない酒飲みが速足で移動するとどうなるかなんて目に見えているだろう。門に着く頃には息が上がって喉がカラカラになった。途中で水とお茶を買って鞄に入れたのも重りになってしまったのだろう。
肩が痛い。

「ご、めん!洋司っ!ヒーッ、ふぅ……酒控えよう、かなっ」
「おう、__。マジで走って来てくれたんだな。ほら、三郷くん来てくれたよ」
「お兄~~~っ!」

 勢いよく顔をあげた三郷くんが、これまた勢いをつけて俺に抱き着いてくる。咄嗟に受け身を取ったが体格差がありすぎて地面にしりもちをついてしまった。痛い。この筋肉達磨め。

「おい、__大丈夫か?」
「痛っ、なんとか」

 洋司が心配して手を伸ばしてくれたが、覆いかぶさってくる三郷くんが邪魔で手を伸ばせない。肩口で今もなお泣き続けるこの大男は、身体だけ大きくなって気持ちはまだまだ子供のままのようだ。
 夏祭りの時はあれほど格好良かったのにこれがギャップ萌えというやつなんだろう。
 ぐずぐず聞こえる泣き声に絆されそうになりながら、背中の服を引っ張って離れるように促す。
 認めてしまえばいいのだが、こんなに泣いている奴に付けこむほど俺は悪人じゃない。元気になったこの子になら絆されてやってもいい。だから、早く泣き止んで。

「三郷くん~?いきなり飛びつかれると危ないから!後重いし、一回離れよっか!」
「お兄ぃ~っ、お兄ぃっ」

 引っ張ったら引っ張った分、力を込めて抱き着いてくるのだから、全く仕方のないガキである。
 ちょっと可愛いと思ってしまうのは、彼を大型犬のように思っているからだろう。普段大声で騒いでいる奴が声を殺して泣いているのに胸が締め付けられる。
 はぁ、まったく惚れた弱みとはこのことだろう。

「はぁ、どうしたの。聞いてあげるから、一回離れてお茶飲もう」
「いらん、飲みたない」
「いっぱい泣いたんでしょ?水分とらないと」
「いらん~~っ」
「もう~。じゃあ、このままでいいから何があったのか教えてくれる?」

 離れる気のない子供の頭を撫でていると、肩に顔をぐりぐりと押し付けながら、ぽろりと零れ落ちるように話し出した。
 そういえば綾人もこうやって泣きつきに来てたな。
 懐かしい。

……おかんと喧嘩してしもた」
「うん」

 ゆっくり吐き出した言葉も震えてさらに抱き着いてくる。痛いな。

「俺が、大学いかんと、働くって言ったら怒られてもうて」
「うん」

 高校の時は色々考えるだろうし、そういう選択肢もありだろう。出てすぐに働きたいところがあるなら、その選択も進路指導の先生が教えてくれるだろうし何も問題ないはずだ。

「そんなん言うつもりなかったのに……金ないんやろって、怒鳴ってしもてっ」
「うん」
「俺、おれぇ~っ!おかんの事傷つけてもうたぁ~~っ!もう顔見せられへん~っ」

 なるほど、なんとなくやり取りが見える。きっと兄弟の多い三郷くんは両親の負担を減らすために自分が稼げばいいと考えたのだろう。それで三郷くんお母さんは心配しなくていいと話したが、お互い熱くなって強い言葉をつかってしまった。そんなところだろうか。
 ここで問題になるのだが、彼がどうやってここまで来たかだ。

「三郷くん」
「なん?」
「ここに来るときお母さんになんて言ったか教えてくれる?」

 びくりと肩を震わせた三郷くんがゆっくり顔をあげて、やっと表情を見ることができた。イケメンはいくら泣いてもイケメンなのだから世の中理不尽である。普段お調子者で笑いに生きている三郷くんですら、泣き顔をキラキラさせている。そんな彼をじっと見つめると、自分の言った言葉を思い出して俯いていく。

「こんな家、出て行ったるからな。です」
「三郷くん、離れなさい」
——はい」

 自分でも驚くほど冷たい声がでた。三郷くんは地面に正座して背筋を伸ばしてる。その様子を見ている洋司ですら肩を跳ね上げていたので相当だろう。
 こればかりは惚れた腫れたでどうにかすることではない。自分のしでかしたことの重大さをわからせて怒るのが大人の俺の役割だろう。
 嫌われようがこれはちゃんとしなくてはいけない。この子のためにも。

「はい。俺のスマホ貸してあげるから家の電話にかけて」
「えっ」
「早く」
「はいっ!」

 三郷くんが番号を打ち終わるとスマホを奪って耳に当てる。数回の呼び出し音の後焦った声が耳に届く。

「天晴っ!?」
「突然すいません、初めまして。__綾人の兄で__と言います。天晴くんにはいつもお世話になっています」
「あぁっ!いきなり叫んでごめんねぇ。私は天晴の母親の__です。こちらこそ、いつも仲良くしてもらって、ありがとうねぇ」
「いえ。急いで伝えるべきだと思ったのでお電話したんですが、天晴くん、今一緒に○○大学にいます」
「○○大学」
「俺がついているので、とりあえず安心してください」
「あぁ……ほんま、ありがとうね。あの子スマホ置いていくわ、財布の中もそんなに入ってへんわでホンマ心配しとって」

 余程心配していたのだろう。一気に気の抜けた声になる。きっといつ電話がかかってきてもいいように探しに行きたい気持ちを押さえて家で待っていたのだろう。
 母親とはいつでも子供の事を心配しているものなのだ。

「だと思いました」
「あっはは、お兄さんには筒抜けやね」
「いえ。そんなことないですよ。驚かせてしまってすいません」
「謝らんとって!こっちこそ迷惑かけてしもて、ごめんねぇ。あの子と変わってくれる?」

 きっとお母さんの方もまだ心の整理がついていないのだろう。心なしか声が固くなっていた。人様の家庭に首を突っ込むもんじゃないが、ここまで来たらしかたがない。目の前で顔を真っ青にしてる三郷くんを見つめる。二人とも今話したところで拗れに拗れるだけだろう。

「いいえ、迷惑なんかじゃないですよ。変わるのはいいんですが、少しだけいいですか?」
「ええ、どうぞ」
「天晴くんと話させてほしいんです。話し終わったら家まで送っていくので」

 柄じゃないが三郷くんが落ち着くぐらいまでは世話をしてやろう。この子の将来の事でもあるし、少しくらい手を差し伸べても罰は当たらないだろう。

「そんなっ!そこまで迷惑かけられへんよ」
「帰る方向は一緒なので、気にしないでください。それに天晴くんは大切な弟の友達ですので」
——じゃあ、お願いしよかな」
「はい。では、変わりますね」
「いや、もうええです。天晴も、私と話さん方が喋りやすいやろうから」
「そうですか」
「__さん。__さんさえよかったら、夜ご飯食べて行ってください。天晴も喜ぶわ」
……天晴くんがよければお邪魔させていただきます」
「ほんま?ふふ、あの子の好物いっぱい作って待っとるって伝えてください」
「わかりました」
「ほな、気つけて帰っといでね」
「はい」

 電話を切ってから立ち上げる。見下ろされた三郷くんが居心地悪そうに上目遣いで見つめてくるが無視して洋司に視線を移した。

「待たせてごめんな。学食行こうぜ」
「え?あ、ああ」
「お兄」
「いつまで座り込んでんの。三郷くんもお昼まだでしょ?奢ってあげるからおいで」
「そうだな!三郷くんも一緒に食べような!ここの学食美味いから!」
「おん、ありがとう洋司さん」

 洋司は気を遣ったのか三郷くんの背を叩いて励ましている。いや、今回のはこの子が全面的に悪いだろう。怒られたことも、やってしまったことにも、落ち込んでいるのはわかるが、まるで俺がイジメてるように見えるのはいただけない。悪いことをしたら怒られるものだろう。
 自分よりも頭一つ分大きい三郷くんの前に立つ。じっとしたから見つめれば、また涙を浮かべ縮こまってしまった。そこまで怖いだろうか?
 夏祭りの時の君の方がよっぽど迫力があったよ。

「三郷くん」
「はい
「俺が怒ってるのは二つ。お母さんに行先も言わないで飛び出てきたこと、スマホを置いてきたことだよ。なんでかわかる?」
「連絡手段がないから」
「うーん、惜しいね。それもあるけど、お母さんがすごく心配するからだよ」
「そっからそこやのに」

 このクソガキ。遅れてきた反抗期か?

「行先言ってないのにそっからそこってどうやってわかるの」
「すいません」

 しおしおと項垂れていく姿は可哀そうだが、ここでやったことの危険さを教えておかないとまた同じことをするだろう。

「君は大きいけどまだ高校生なんだよ。犯罪に巻き込まれたら?事故に合ったら?スマホさえあったらGPSで何とか探してあげられるけど、今の君をどうやって探すの?財布だって少ない金額しか入れてないのに、電子マネー使える端末持ってないんでしょ?俺に会えなかったらご飯どうするつもりだったの?帰りの切符代あるの?」
「ないです」
「どうやって帰るつもりだったの?」
「歩いて」
「途方もないね」
「うぅ~っ」

 ぼろぼろと涙を流す三郷くんの姿に耐えられなくなった洋司が、横から三郷くんの肩を擦って慰めている。その優しさにより一層泣くのが止まらないのかぐずぐずになっていた。俺だって泣かしたいわけじゃないんだよ。でも、自分のやったことをわからせておかないとお母さんが可哀そうだろう。

「まっ、まぁまぁ。__もそのへんで」
「洋司はちょっと黙ってて。お母さんすごく心配してたよ。電話出たとたん天晴って叫んでた。なんでかわかる?」
「わからへんっ」
「君を探しに行きたいけど、どこかで電話を借りた君から、かかってくるかもって考えて、すぐ出れるように家にずっといてくれたんだよ。きっとお父さんとかにだって連絡いってるし、友達のお母さんにだって連絡してる。皆に心配かけたんだよ。どれだけのことしたのかちゃんと自覚しなさい」
「ごめんなさいっ~」

 やっと自分がしでかした事の重大さに気付いたのか、声を上げて泣き出してしまった。これはちょっと可哀そうだな。号泣する三郷くんに焦った洋司が、頭を撫でたり肩を抱いたり忙しなく動きながら自分まで泣きそうになっているのがちょっと笑える。

「あぁ~!三郷くん泣かないでー!__~っ!」
「はぁ、おいで。涙拭いてあげるから」

 洋司からデカい子供を渡されたのでハンカチで涙を拭いて、頭くらいは撫でてやった。綾人もこんな風に声を上げて泣いては俺のとこに走って来てたな。
 こんなに大きくはなかったけど。
 そういえば三郷くんも転んだら真っ先に俺のところに走ってきて泣いてたっけ。泣き方変わんないな。

「お兄~っ、ごめんっ、俺そんなん考えてへんかったっ。お兄の友達もごめんなさい~っ」
「謝るのは俺達にじゃなくってお母さんとお父さんね」
「ほら!三郷くんはこうやって反省できたんだから偉いって!な!」
「う゛ぅ~~~っ」
「あっはは。そうそう、謝れて偉いよ。もう~泣き方、昔と変わらないんだからほら、いい子だから泣き止んで。三郷くんは良い子でしょ」

 油断した。
 あまりに昔と変わらない泣き方で、子供にするように抱きしめて頭を撫でてしまった。頭一つ分も違うこのデカ男に可愛いもくそもあるか。
 いや、可愛いわ。
 本当に最悪。これやばくない?
 俺、三郷くんにフラグ立てまくりじゃん。
 あ~~~、惚れた弱み~!
 三郷くんが泣き止んで嬉しそうに抱き返してくる。ノリなのか洋司まで俺に抱き着いてくるのだから暑苦しくて仕方ない。

「お兄ちゃん」
「お兄」
「こんなデカい弟二人もいらねーわ」

 前の方に真山が悶えてるのが見えるんだけど幻覚かな。幻覚であってほしい。

「いや、でも三郷くん本当に大きいよね。何センチあんの?」
「191!」
「でか」
「デカいな!?」
「えっへへ~せやろ?俺クラスで一番デカいねん!」
「じゃあお兄ちゃんから卒業してさっさと離れようね。洋司も離れて」
「冷たいこと言うなよ、お兄ちゃん」
「せやで~!お兄」
「ぶん殴ろうかな。ほらさっさと学食行くぞ」
「はーい」
「は~い」

 三人並んで歩くと一番背が大きいのが高校生なのが驚きだ。発育良すぎだろう。
 学食に行くとマサヤと、秋人と涼太が席を取ってくれていた。滝本と斗真は後から来るのだろう。丸テーブルの七人席ではなく、四人席を並べて八人分席を取ってくれているのを見ると洋司が連絡してくれたのだろう、ありがたい。

「席取りありがとう。助かったわ」
「おう。洋司から連絡貰ってたし気にすんなって。__、と」

 マサヤの視線が三郷くんに移る。こんなド派手な外見の奴がくれば誰だって驚くよな。見られている本人は大学が物珍しいのか、ずっときょろきょろと視線をさまよわせては俺の肩に手を置いて感想を伝えてくる。

「このデカいのは三郷くん。多分聞いてるだろうけど、門に居たお騒がせ高校生」
「三郷くんね、よろしく。俺の事はマサヤって呼んで」
「おん!初めましてマサヤさん!」
「挨拶できて偉いな。どこ座る?」
「お兄の前!」
「お兄?」
「俺のこと。綾人のお兄ちゃんだからお兄」
「ああ、懐かれてんね」
「むっちゃ懐いとるで!」

 三郷くんの受け答えが気に入ったのか、マサヤがわしゃわしゃと三郷くんの頭を撫でまわす。三郷くんも満更ではないようでされるがままに撫でられ続けている。
 こいつ年上にモテるな?

「三郷くん、お久しぶり。俺の事覚えてる?」
「俺は、俺は?」
「覚えとるで!夏祭りの時会ったもんな!秋人さんと涼太さん!」
「覚えてて偉い」
「エライぞー!」

 二人とも弟みたいに三郷くんを可愛がるので、照れながらも撫でられている姿が微笑ましい。一番背がデカいのにな。

「俺ら先食べたから、お前らも買って来いよ」
「マジ?そんな時間たってた?」
「三十分くらいは経ってるんじゃないか」
「まじか」
「マジマジ。__、今日もう講義終わりだろ?これからどうすんの?俺ら午後も講義だから洋司が食べ終わったらすぐ行くけど」
「三郷くんと話したら帰るかな」
「んー、じゃあ洋司連れて行っていい?こいつの分の弁当買ってっからさ」
「え?いいけど」
「ありがとう。じゃあ頑張れよ」
……違うから」
「違わねぇーだろ?ほら、お前らが買って来るまで見ててやるから早く行けよ」
「今度、飯奢る。洋司とかにも言っといて」
「りょーかい」

 こういう時のマサヤの勘の鋭さ嫌になるな。その勘を少しでも痴話げんかに活かしてくれ。
 だが、ここは言葉に甘えさせてもらって三郷くんと一緒に食事を買いに行く。学食なので食券を先に買ってそれを食堂の人へ渡す。
 すぐに食事は出てくるので、それぞれ食事を乗せたトレイを持って先ほどの席へ戻った。
 俺達が買いに行っている間に粗方の事を説明されたであろう洋司に、わき腹を小突かれながら窓際の席に三郷くんと向かいあって座る。
 俺達が席に着いたのを見届けてから、四人は手を振りながら学食を出て行った。
 三郷くんが洋司の事を気にしていたので、マサヤが弁当を買っていたことを説明すると納得して食べ始める。大きい口に運ばれて消えていくのが面白くてじっと見ていると照れて顔を少し背ける姿が可愛い。
 認めよう。
 俺はこの子の事が好きだ。
 認めてしまえばどうってことないものだ。フラグ回避に努めていたが、恋に落ちてしまったものは仕方がない。
 他愛もない会話をしながら食事を終えた。
 三郷くんには席に残ってもらって、二人分のトレイを返却してから併設されたカフェの飲み物を購入して帰ってくる。
 ソフトドリンクも売っててよかった。

「三郷くんはコーラでよかった?」
「おん!ご飯だけやなくて飲みもんまで、ホンマおおきに」
「食後のコーヒー飲みたかったし、ついでだよ」
「お兄は大人やなぁ。ホンマ、俺、子供っぽくて嫌になるわぁ
「三郷くん」
「なぁに、お兄」
「お母さん、三郷くんの好物いっぱい作ってるから早く帰っておいで、だってさ」
「おんっ」
「俺もついていってあげるから、ちゃんと謝れる?」
「お兄が来てくれるんやったら謝れる」

 なんともいじらしい答えで思わず笑みがこぼれてしまう。変な顔になっていないだろうか。

「今日ご飯食べて言ってって言われちゃったんだけど、どうしようかな」
「お兄と一緒に食べたい」

 あぁ、こんなに可愛いのは反則だろう。自分よりも背の高いこの子をここまで好きになってしまうなんて、きっと数年前の俺は想像もできないだろうな。

「じゃあ、お邪魔しようかな」
「おん!」
「お母さんとちゃんと話すんだよ」
「おん。お兄に言われて、いっぱい考えれた。さっきも話してくれとったけど、俺専門学校とかも視野に入れようって思っとる」
「うん」
「お金のことも色々制度あるって先生らも言っとったし、もっと色々調べてみるわ」
「一人で大変なら俺も手伝うし、お母さんたちにも相談するんだよ?今回みたいなのは最後にしてね」
「うっ、わかっとるってぇ~」

 できればこの子が綾人と一緒になれるようにサポートしてあげたいけど、これからできるだろうか。こんなにもこの子を好きでいるのに、この子は綾人の事が好きなのだ。
 俺が当て馬役かぁ。モブらしいよな。

「綾人には内緒にしててあげるね」
……

 ちゃんと笑えてるだろうか。いや、きっと酷い顔してるに決まってる。
 だって、胸がこんなに痛いのだから。

「三郷くん?」
「なぁ、こんな情けない姿見せてから言うのもなんなんやけど。俺、もう綾人の事すっぱり諦めてんねんで。知らんかった?」
「はぁ?」
「気ぃついてない?__さんに結構アピールしてんねんけど。しかも、__さんも満更やないやろ?」
「はっ冗談キッツ」
「ホンマ、気ぃついてへんの?それとも照れ隠し?」
——俺が結構疑り深いの知ってるよね、君。この間まで綾人の事が好きだって言ってたの、忘れちゃった?」
「おん、好きやで。友達として」
「友達」

 こんなことあっていいのか?いや、スピンオフが始まるとは言っていたけど。こんな俺に都合よく動いていいのだろうか?夢なんじゃ。

「だって__さん、人から好意向けられたら拒絶するやん。バレてへんって思っとった?」

 ニヤリとした笑いに反発心が湧いてくる。先ほどまでの可愛い三郷くんはどこへ消え去ったのだ。
 やられっぱなしは癪なので挑発するようにテーブルに肘をつけ、頬杖をついて睨みつける。
 三郷くんも俺と同じ格好をするが、座高まであちらが高いので見下ろされてしまう。
 傍から見ればいちゃついてるようにも見えるけど、この空気間でそう勘違いする奴はいないだろう。

——さっきまで泣きべそかいてたクソガキが大きく出るね」
「俺の事好きになってるくせに、綾人の事推してくるからやん」
「自意識過剰じゃない?俺がいつ君の事好きだって言った?」
「__さんって、自分が思っとるより人に触るの嫌いって自覚ある?」
「さぁ?あんまり得意じゃないけど、これでも友達は多い方なんだよね。友達のことはよく触るけど?」
「秋人さん、涼太さん、さっき会った洋司さん。後、真山さんと水元さんやっけ?」

 三郷くんの言葉にびくりと肩が跳ねる。こいつどこまで知ってる?

……なんで知ってるの」
「さぁ?なんでやと思う?」
「生意気」
「意地っ張り」
「可愛くない」
「カッコええやろ?」
——真山だな」
「正解!」

 あいつ覚えてろよ。なんかこそこそしてるなって思ったら、何連絡取りあってんだよ。マーヤ先生!

「俺、こそこそされるの嫌いなんだよね」
「堂々としとったで、前ご飯連れて行ってもらった時も。水族館連れて行ってくれた時も。俺スマホの画面隠してへんかったやろ?写真撮るときだって、ちゃんと友達に送ってって言われてんって伝えたけど」
「このクソガキ」
「口悪ぅ~!」
「あぁ~、やだやだ。俺、別に三郷くんの事好きじゃないよ」
「愛しとるから?」

 まるでこちらを見透かしているような笑顔に腹が立った。こっちがどれだけ悩みながらお前の事見守ってたと思ってんだよ、クソが。何回諦めようとしたか、自覚しないように目をそらしたか知らない癖に、このクソガキは軽々しく愛の言葉をつかう。

「いい性格してるね?殴られたい?」
「お兄は人に暴力振るわれへん。それくらい知っとるよ。俺、いっぱい__さんの事見とったもん」
「あっそ……
「余裕なくなったら口悪なるとこも、考え事するときに顎に手当てる所も、ちょっと左に傾くところも全部好きなんやけど。全部ひっくるめて__さんのことめっちゃ好きやねん。知っとった?」
……天晴くん」
「なぁに、__さん」
「俺も天晴くんのこと好きだよ。知ってた?」
「おん、知っとった」
「そう」
「俺が大学行くまで__さんの恋人枠、予約させてくれたら嬉しいなって思ってるねんけど。あかん?」
「いいよ、君にあげる。返品できないし、親の説得もできないと許さないけど大丈夫?」
——大丈夫かどうか、俺のいっちゃん傍で見とってーな。好きやで、__さん。将来、俺と家族になってください」
「気が早すぎる。大阪の人は皆こんなにせっかちなの?」
「__さんモテるから、俺不安やねん。やから」

 今まで一切触れてこなかった三郷くんが、俺の左手を両手で持ち上げて薬指に口付ける。

「__さんのここ。俺のために取っとってくれへん?」
……今の、ぐっときた」
「へへ~っ」

「あ゛あ゛~~~~~~~~!!!!!!!!!ここに結婚式場をたてる!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「「うるさ」」