かいえ
2025-01-22 01:02:54
2394文字
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【蘭武】愛しのヒヨコちゃん 上

某ゲームにおける蘭君の「ヒヨコちゃん」発言で、気が狂って書いたお話
パロで武道がアイドルしていて、蘭君は一般人です
武道視点
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 蘭君に指定された、待ち合わせの場所はカフェの前。
 バラエティ番組の収録が珍しく予定より早く終わり、突然できた空き時間だった。テレビ局にあり、六本木まで一キロ弱という立地で、俺は喜び勇んで蘭君に電話をした。
 蘭君が起きているかどうかの正午前という微妙な時間帯だったが、蘭君は俺の電話に出てくれた。蘭君は予想通りの寝起きだったが、今から自宅に行くと伝えたら、新作ドリンクが飲みたいから、自宅近くのカフェで会おうと言った。
 アイドル家業の自分にとって、今回できた時間はかなり希少な自由時間だというのに、蘭君はいつでもマイペースで俺は拍子抜けしてしまう。
 このところ、ずっと仕事続きで蘭君と話すこともままならなかったから、二人っきりで過ごしたいと思うのに、蘭君はそうでもないのだと落ち込んだ。いつだって、必死なのは自分の方だ。
 蘭君に会いたいのも触れたいのも、自分だけで、蘭君はたわむれで自分と付き合ってくれているのだと思い知らされる。
 プライドも何もかもがずたぼろだった。
 それでも俺は、蘭君に会いたいと思ってしまうのだから仕方がない。何万人のファンから見つめられるより、蘭君一人に見つめてもらいたい思うのだ。そして、あの深いアメジストの瞳に映るのは、自分だけにして欲しかった。
 蘭の自宅近くにあるカフェに到着すると、入り口の前で数人の女の子に囲まれた蘭君が目に入った。183センチの長身だから、蘭君の顔が女の子たちの後ろ姿から余裕で突き抜けて見えている。蘭君は個性的な金髪と黒髪のツートンカラーの髪を三つ編みにして、耳の横から胸の前に垂らしている。誰だって魅了される笑みを浮かべて立つ姿は、アイドルの俺より数倍も芸能人オーラが出ている。知らない女の子たちに、笑顔を安売りしている蘭君に苛立ちが募った。そんな表情を見せるるのは俺だけにしてくれたらと思い、そんな風に思ったことを蘭君に知られたら、重たいと言われ捨てられるてしまうと思って、俺は唇を嚙んで我慢した。
 蘭君が俺に気が付き、お目当ての新作のコップを二つ掲げてくる。
 その瞬間、蘭君の周囲に群がっている女の子たちが、目の前の美形の待ち人を見ようと一斉に振り返ったものだから、俺はかなり怖い思いをした。
 蘭君が「じゃあな」と女の子たちに言って、俺の方に向かってまっすぐ歩いてくる。女の子たちではなく、俺を選んでくれたという優越感に浸る。約束していたのだから、蘭君がオレの方に来るのは当たり前の行動なんだけれど、それでも、苛立っていた俺の心を穏やかにして甘く溶けさしてくるのだから不思議だ。
 丸首のグレーのスェットに細身のパンツ姿は日本人離れした外タレみたいな着こなしで、蘭君に良く似合っている。一般人のくせに、特に着飾らないのに魅力があるのはずるいと、現役アイドルの俺は思ってしまうのだった。
「はい、バターキャラメルミルフィーユフラペチーノ」
 蘭君が俺に妙に長い名前の新作のドリンクを手渡してきた。新作といっても発売日から一週間は経過していた。同じ事務所の千冬が、新作だと言って発売当日に飲んでいたので知っている。蘭君はこのカフェの新作に弱い。だから、いつもは発売当日に飲んでいるのに、一週間経ってまだ飲んでいなかったことを珍しいと思った。
 蘭君の横を歩きながら「あざっす」と言って受け取ると、手のひらにじんわりと冷たさが広がる。キャラメルの甘い匂いがして、歩きながら一口飲む。温かい甘さが疲れた身体に染み渡る。
「どうよ?」
「おいしいです」
「そっか」
 そう言った蘭君のたれ目がちな目は、砂糖を溶かし込んだように甘い。蘭君がいつものように俺の肩に手を回してくる。蘭君はずっしりと重い片腕を乗せるのに、俺の肩が最も適した場所だと思って居る節があるのだ。背後で先ほどの女性たちが黄色い悲鳴を上げた。
「どれくらい時間あるって?」
「えっと2時間くらいです」
 俺がそう言うと、蘭君はまた「そっか」と興味なさそうに言った。俺はちびちびと新作ドリンクを飲みながら、密着した蘭君の身体を意識し、キャラメルより甘い蘭君の香りにくらくらした。
「どした?」
 黙り込んだ俺に、蘭君が不審そうな声をかける。
「え良い匂いだなと思って」
「気に入ったんだ? じゃあ、また飲めるといーな」
 新作ドリンクの事だと勘違いした蘭君に「そうですね」と、微笑めば「メシでも食べに行くか?」と尋ねられ、俺はもう限界だった。
「蘭君の家に行きたいです」
 至近距離、蘭君と見つめあう。
 俺の顔には、蘭君が欲しくて堪らないと書いてあるだろう。蘭君はきっとそれに気が付く筈だ。恥ずかしくて死にそうだったけど、これ以上は我慢が出来なかった。次にいつ会えるか分からないのだから、多少がっついても許して欲しい。
 蘭君の形のいい唇が「いーよ」と動く。
 それから「そんなに俺が欲しいんだ、ヒヨコちゃん♡」と、頭のてっぺんに唇を落とされる。
 俺の理性は吹き飛ぶ寸前で、道の真ん中だろうが、人混みだろうが、蘭君を引き寄せてキスしたくて堪らなくなってしまった。それを何とか抑えつけたのは、俺のせいで蘭君に迷惑がかかるのが嫌だったからだ。アイドルのキス写真なんかをパパラッチにでも撮られた日には、きっと日本中が大騒ぎになってしまうのだ。
 それで俺の人気が無くなるのはどうでも良かった。それよりも、その事で、世間が灰谷蘭を見つけてしまうのが怖かった。
 これ以上遠い存在になって欲しくなくて。
 俺だけが触れられる人でいてほしくて。
 だから、俺は一刻も早く二人っきりになりたいと、衝動で震える身体を戒めるしかなかった。
 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、蘭君は平常運行で俺の横を歩いていて、俺の気持ちだけが空回りしている気がした。