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みずあめ
2025-01-21 22:08:41
4921文字
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シオじん&サクレイ
前半緑多め、後半紫多め。好き勝手書いています🙇
「え、まだレイと付き合ってなかったの?」
心から驚いたようにそう言ったシオンと、その隣でホットドッグを頬張っていたじんたろうは、二人で同じように目を丸くしてオレを見つめた。オレはその視線にほんの少し身を引き、カフェラテを一口飲んでわざと間を空けてからうーんと曖昧に笑みを浮かべる。
「ていうか別に、付き合いたいとかも思ってないし」
「は? でもおまえ、レイのこと好きだろ」
「
……
そりゃ好きだけど。好きだからって付き合えるわけじゃないっしょ? キミたちみたいにお互い好きで付き合いたくて、っていうなら良いんだろうけどさ?」
オレから視線を逸らすために二人の顔を順々に指差してやれば、素直なお子ちゃまはオレの期待通りにお互いの顔を見合ってふにゃっと表情を緩めた。あーあ、幸せたっぷりって感じ。可愛いね、キミたちは。「好き」って感情がこの二人みたいにただ幸せをくれるだけならいいんだけど。
ふぅと息を吐いて、それを隠すためにカップを持ち上げ口をつけた。ミルクが少なめのカフェラテはほろ苦くて、だけど体を温めてくれる。
「って、俺たちのことは今はよくて! さくや、おまえはレイと付き合いたくねえのか? 二人で出かけたりもしてたじゃん。もっと一緒にいたくねえの?」
「
……
どうだろうね。坊ちゃんと話すのは面白いけどさ、ずーっと一緒にいたらいいところだけじゃなくてヤなところとかも見えちゃうし、そうじゃなくてもオレたちは喧嘩ばっかりじゃん?」
「でも、レイはさくやともっと一緒にいたいと思ってると思うけど」
「
……
え?」
「だよなぁ? あいつ、結構分かりやすいし」
「は?」
「さくやは、レイのことを嫌いになるのが怖いの? それともレイに嫌われるのが怖い?」
いつも通りの口調でバッサリと斬り込んでくるシオンに思わず息を呑み、無意識のうちに視線を逸らして口を開いたり閉じたりしたけれど、残念ながら何も言葉は見つからない。だって、シオン、すっごい核心つくんだもん。
「さくやー? どした?」
「ごめん、言いすぎた?」
「
……
や、うん、
……
そうだね」
はぁーっと大きくため息を吐き机に頬杖をつく。オレを見て、それから顔を見合わせて、二人はもう一度おんなじ顔でオレを見た。年下のくせに、お兄さんのことそんな目で見ないでくれない? ぷくっと頬を膨らませてみせるとシオンはふっと小さく吹き出して、じんたろうはキョトンと首を傾げた。
「
……
好きだって言ってさ、困らないかな」
「レイが?
……
それは、さくやが一番分かってるんじゃない?」
「
……
シオンかわいくなーい。なぁじんたろう、質問していい?」
「ん? おう! なんでも聞け!」
「シオンと付き合ってからさ、嫌なことなんかあった? ひとつもない?」
「え」
「あぁ、それは僕も聞きたいな。じんたろう、なにか嫌なことがあったら教えて」
「え、えー!? なんで急に俺の話になんだよ! さくやとレイのことだろ!?」
「参考にさせてよ、センパイ」
「っ!? せ、せんぱい
……
?」
「うん。じんたろうとシオンはオレにとって両思いのセンパイだからさ、お願い」
「ま、まあ? そこまで言うなら? 話聞かせるくらいいいけど?」
「つまり僕の嫌なところが何かあるってことだね」
「え! あ、あー、いや、えーっと」
「怒ってないよ。直せることなら直すし、そうじゃなくてもじんたろうが嫌だって思うことは知っておきたい。だからちゃんと聞きたいんだ、キミの言葉で」
「
……
ほんとに怒んない?」
「ふ、うん。怒らない。約束するよ」
指切りでもする?と小指を差し出し微笑んだシオンに、じんたろうはほっぺたを赤くして視線を返す。こんな可愛らしい恋、オレにはできないんだよなぁ。頭に好きなヤツの顔を思い浮かべても心臓は高鳴るどころかギュッと縮こまるように痛むだけ。
叶わない恋じゃない。でも、未来は見えない。好きだと言って、そのあとは? 男同士で結婚なんてできない、ていうか、オレたちアイドルだし。シオンとじんたろうはそのあたりどう考えてるの?
……
なんて、まだ十代の恋愛を楽しんでいる二人に聞けるわけない。
「つっても、イヤなこと
……
? うーん
……
」
「そんな考え込む? いつもわぁわぁ文句言ってるじゃん」
「そんなガキみたいにワガママ言ってねえだろ?! それに
……
ちょっとくらいイヤでも、だって、俺はおまえのこと、好きだし」
「
……
」
「あっ! 照れたな丸眼鏡!」
「
……
そっちだって顔赤いんだけど気づいてないの?」
赤い顔で見つめ合う二人に肩を竦め、両思いとは素晴らしいコトですね〜と心の中で茶化しておく。
恋は盲目、あばたもえくぼ。そんな都合のいい言葉で、オレたちは自分の意地の強さを誤魔化せない。いくら好きでもオレはアイツのダメなところはダメだと言うし、むこうも容赦なくオレに言葉をぶつけてくる。そんな関係が心地良いんだけど、でも、付き合うにはどうにも甘さが足りない。
「あ、連絡きた」
「ん?」
「レイの仕事が終わったら買い物に行く約束をしていたんだ。時間があるならじんたろうも一緒に行く?」
「行く行く! さくやも行こーぜ」
「え」
「僕たちの話を聞くんじゃなく、レイと話すのが一番良いと思うよ」
「いやー
……
てか、そうだ、オレはこの後予定が」
「? さっき今日はもう仕事終わりで、暇だし帰って手の込んだ夕飯でも作るかなぁって言ってたじゃん。夕飯も一緒に食って帰ればちょうど良くね?」
「
……
どうしても手の込んだ夕飯を作りたいかも」
「なんだそれ。レイに会いたくねえの?」
「
……
、
……
会いたぁい」
「んじゃ決まりな」
ニカッと笑うじんたろうをシオンが愛おしそうな目で見つめてる。好きな人に会いたいって、そんな簡単なことすら、オレ一人じゃ素直に言えないんだよ。そんな不器用な大人の恋愛がうまくいくと思う? オレは全然思えないんだけど。
シオンがスマホを耳に当てて、たぶん坊ちゃんとこの後の予定について話をしていた。ホットドッグを食べ終えたじんたろうはご馳走様でしたと手を合わせてからゴミを片付けた。オレのカップの中には一口分のカフェラテが残っている。ごくっと飲み干すとミルクと混ざりきらずに底に沈んでいたエスプレッソがしっかりと苦かった。
「レイ、こっち」
「っ!」
「待たせたな。む
……
、
……
チャラ男がいるとは聞いていないが」
「ああ、うん、言い忘れてた。今日はじんたろうとさくやが一緒の仕事だったみたいで、暇そうにしてたからお茶に付き合ってもらったんだ。まだ時間があるみたいだから買い物も一緒に行こうと思うんだけど、いい?」
「
……
構わない。
……
チャラ男、どうした。妙な顔をしている」
「え、あ、
……
どっかで待ち合わせでもしてんのかなって、思ってたから」
「この近くで仕事だったのだ。もう全員飲み終わっているのなら早速買い物に行くか」
「うん、そうしよう」
「そういえば丸眼鏡、買い物って言ってたけど何買うんだ?」
「加湿器が欲しいんだよね。いま使っているやつの調子が悪くて」
自然と隣に並んだシオンとじんたろうが先を歩き出し、当然、オレと坊ちゃんが並んでその後ろをついていく。ぽんぽんと会話が続く前の二人に比べてオレたちは無言で足を動かし続けた。
気まずい。気まずすぎる。いつもは一人でペラペラ騒がしいくせになんで今日に限って静かなんだよコイツ!
様子を窺うためにそっと横目で見た坊ちゃんはまっすぐ前を向いていて、でもその横顔がどこか元気がないように見えたから、オレは自分が悩んでいることなんて忘れてつい「どうかした?」と声をかけてしまった。パッとこちらを向いた瞳が星空のように輝いて見えて目を見開く。
「えっ
……
な、なに? どうした?」
「
……
おまえこそ。普段は一人でアレコレと好きに話しているのに、今日はずいぶん静かではないか」
「ええ?
……
それを言うなら坊ちゃんもじゃない? 仕事、疲れた?」
「まさか。このくらいなんてことない」
「んじゃどうしたの。なんかあった?」
坊ちゃんが瞼を伏せると仕事で塗ったのかキラキラとアイシャドウが光った。それに見惚れている間に長いまつ毛をぱちんと瞬かせて目を上げるからガッツリしっかり目が合ってしまう。驚いたように一瞬見開かれた目はすぐに柔らかく細まって笑みに変わった。
「いま、大丈夫になった」
目を合わせたまま、本人に直接言ってはやらないけれど間違いなく世界で一番美しい微笑みを浮かべた坊ちゃんに、まるでスイッチを押されたようにオレの思考がカチッと切り替わった。
悩んでいたのがバカらしくなるほど、オレはこの男が好きだった。本当にただそれだけなんだ。この先のことは分からないままだし、これ以上を求めて嫌われるのも嫌いになるのも怖い。だけど、いま、目の前にいるレイの笑顔だけで、好きだと伝えるのに十分すぎる気持ちがある。
「
……
なぁに、それ。オレの顔見たら大丈夫になったってこと?」
「茶化すな。おまえこそ、さっきまで追い詰められたような顔をしていたくせに、今はずいぶん緩んだ顔をしている。この私のおかげだろう、褒め称え崇め奉が良い」
「はいはい坊ちゃんのおかげ坊ちゃんのおかげ。空が青いのも陽射しがあったかいのもオレがハッピーなのも全部坊ちゃんのおかげだね」
「ふふん」
「あ、だいぶ盛ったけど受け入れるんだ。オレがハッピーなの以外は坊ちゃんにはどうしようもないことでしょうが」
「宇宙にすら影響を及ぼしている可能性を否定はできない。
……
おまえがハッピーなのは私のおかげなのか」
「
……
ん、はは、そう。坊ちゃんが笑ってくれるから、オレはハッピーだよ」
「どうして」
「ええ?
……
どうしてだろうね。たぶんオレが坊ちゃんのこと大好きだからかも」
「は」
「なんちって。まあ冗談ではないんだけど。
……
あー、うん、ちょっと逃げ過ぎてダサいからもっかいやり直させて」
「
……
」
「
……
好きだよ、レイ。
……
って、ちゃんと言いたかっただけ。坊ちゃんも言っとく?」
「
……
チャラ男」
「あはは、はい」
「誤魔化そうとするな」
「
……
あー」
「おまえが私のことを好きだなんてことはすでに知っている」
「
……
うん」
「私がおまえのことを好きだということも、おまえは分かっているんだろう?」
「
……
はい」
「それならば、好きだと伝えるだけではなく、その次の言葉も必要ではないか」
「次って
……
、
……
付き合って、とか?」
「おまえがそこまで言うなら付き合ってやる」
「は。え、いや、全然そこまでって言うほどの言葉は、
……
っていうか、え!? つ、つきあう、の? オレたちが?」
「おまえがそう言ったんだろう」
ふんっと顔を前に向けた坊ちゃんの、揺れる長い髪から覗く耳が、いちごみたいに赤く染まっている。オレの心臓はバカみたいにドキドキして体の中で暴れ回っていた。顔が熱いってことは、さっきのじんたろうみたいに顔が赤くなっているんだろう。彼らの可愛らしい恋愛とは、違うはずなのに。
「
……
坊ちゃん」
「なんだ」
「
……
今度さ、デートしよっか」
「
……
仕方ない。付き合ってやってもいいだろう」
「へへ、やった。約束な」
「
……
!」
「おーいさくや、レイ、歩くの遅いぞ!」
「ちょっとじんたろう、話してるんだから邪魔しちゃダメだよ」
「あっ、そっか。悪ぃ! のんびりこーい!」
「ふっ
……
あはは! 行こっか坊ちゃん。話はまた今度」
「
……
ああ」
足取りはさっきよりもうんと軽く、会話はなくてもイヤな沈黙ではなかった。だってオレも坊ちゃんも顔が緩んで、誤魔化しようがないくらいほっぺたが赤くなっているから。
恋は盲目なんてありえないと思っていたけれど、坊ちゃんらしくないその表情を可愛いって、傲慢な物言いすら愛おしいって思うから、もしかしたらオレもまだ恋愛を楽しめるのかな。
坊ちゃんはさ、おまえといつか別れちゃうのが嫌で付き合おうって言い出せなかった情けないオレを知っても、それでも好きでいてくれる?
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