こꯓレ)ろ🌟🦄🌈🌟
2025-01-21 21:08:56
11674文字
Public コノチャ30×16♀
 

いつか恋人のキスを。③

アスハ代表の自虐ネタ不謹慎ジョーク炸裂の回。

 ⑨

 オーブでの休暇を終えて二人でミレニアムに戻った。
 艦内でもチャンドラは仕事の合間に会いに来てくれて、恋人同士の時間を過ごすようになる。
 彼女の言う通り、これまでずっと生死不明の離別状態だったのに一気に職場まで同じとなり、毎日顔を合わせられるようになったのは刺激的すぎる。
 チャンドラはプライベートな空間で二人きりになると甘えてきて、可愛くて仕方ないし、意外と積極的でスキンシップが多く、キスやそれ以上のこともしたがる。
 手を繋いできて、上目遣いを向けられて、堪らず抱きしめると嬉しそうに笑う。キスすると首に腕を回して応えてくれる。
 お互いの待機時間が三十分しか被らない時に艦長室に来たと思えば、抱いてくれなくてもいい。口でしたいとねだられて断るのが惜しくて応じたらコノエの方がそれだけでは我慢できなくなったのにチャンドラは「休憩時間終わったので」と口を拭ってさっさと勤務に入ってしまい、もしかして弄ばれているのではないかと不安になった程だ。


 お互いの気持ちが通じ合って、関係は良好。離れていた時間を埋めるべく、早急に次のフェーズに進むべきである。
 コノエはプロポーズするためにチャンドラに贈る指輪を発注した。
 希少な地球産の天然ダイヤモンドを探してプラントのジュエリーメゾンにオーダーした。一週間程して急ぎで作ってもらったものが完成したという連絡を受け取り、艦長室のデスクでプロポーズのプランを考えていた。
 行きつけの雰囲気の良いレストランはアプリリウスにある。予約するためにまずはシフトを調整して休みを合わせなければ。ついでにプラントのコノエの家にも一度招待しておきたい。
 ナチュラルのチャンドラがプラントの首都で暮らすのは抵抗があるだろうから結婚後は中立のコロニーかオーブ本国に居を構えるつもりだが、アプリリウスは治安も良いし家は郊外の閑静な住宅街で、広さも十分だし気に入ってくれたならバカンスで使う別荘として残しておいても良い。
 色々と思案していると来客を告げる通知音が鳴る。モニターで確認するとトラインが入室を求めて来たのでドアを開けた。
「失礼します。本部からの資料をお持ちしました」
「ああ、ありがとう」
 トラインが差し出してくるディスクを受け取る。デスクの端末に読み込ませ生体認証とパスワードでロックを解除してファイルを確認していく。
 建造中の地上部隊用旗艦、スーパーアークエンジェル級の最終図面と細かな修正箇所、完成予定までの最新のフローが収められている。
 完成まであと五ヶ月。チャンドラはミレニアムを降りてしまう。それまでには式を挙げて新居も決めておきたい。
 コノエの勝手な希望だが妊娠してくれれば退役させて数年は安全な場所に置いておける。その為にもまずはプロポーズをして子どもが欲しいという意思を伝えないと。
「何か良いことがありましたか?」
「うん?」
「何だか楽しそうな顔をしてらっしゃるな、と思いまして」
「そうかな?」
「自分にはそう見えました」
 にこりと笑うトライン。オーバーリアクションなところもあるが仕事は出来るし、普段は穏やかで察する能力もある。
「近々いいことがある予定だよ」
「それは楽しみですね!」
 ファイルを読み進めていくと現在ミレニアムに乗艦中のナチュラルクルーの技術評定一覧があった。ノイマン大尉とチャンドラの能力値が突出しており、その他のクルーは一般的なナチュラルの範囲内で固まっている。
「ノイマン大尉とチャンドラ中尉はやはりすごいな。フィジカルはともかく技能的にはコーディネイターの能力値と照らし合わせても標準値を上回る。個別に見ると圧倒的な項目もあるしこれが遺伝子調整を受けていない肉体に偶然備わった才能かと思うとまさに奇跡だな」
「ノイマン大尉のモビルアーマーシュミレーター訓練に同乗させてもらいましたが大変でした。モビルアーマーや戦闘機もやれるのではないでしょうか。操縦しながら狙撃までは出来ないから無理と言ってましたが複座の機体にすればいいだけですし。ハインライン大尉が興奮して「すぐ作ります!」って騒いでました」
「はは、昨日持ってきた追加予算の申請案はそれか。アルバートはノイマン大尉に傾倒しているみたいだな。楽しそうで何よりだ」
「ノイマン大尉はちょっと引いてましたけどね
「君が防波堤になってあげなさい」
「承知しました」
 雑談しながら、チャンドラのデータにも目を通していく。
「チャンドラ中尉の能力値もなかなかのものだな」
「はい、うちのブリッジクルーも驚いていました。ブリッジの操舵以外のほとんど全てのことをこなせます。正規のクルーと同じ水準かそれより上です。ハインライン大尉とハンガーで話しているのを見かけますが、兵装開発の話もしているようで
「そうかアルバートと話ができるレベルなのか」
 仕事ができるのはわかっていたがそれほどとは。
「CIC訓練中の者は全員チャンドラ中尉に色々と教えて貰っていますし。教え方もこれがまた上手くて、ハインライン大尉が文章に起こしてマニュアルに使うと言って録音してましたよ」
「やはりチャンドラ中尉のような人材は貴重。退役させるのは惜しいか
「えっ。チャンドラ中尉は辞めるのですか?」
 驚いた声を上げるトライン。
 出来ることなら軍を辞めて安全な場所にいてもらいたいというのがコノエの本音だ。妊娠は良いきっかけになるだろう。だが、そこまでの技能を持ちながらキャリアを途絶えさせて良いものかとも思う。
 そうだ、この際だからプロポーズの為の根回しをしておこうとコノエは関係を打ち明けた。
「実は私はチャンドラ中尉と付き合っていてね。結婚しようと思ってる」
「ええっ、彼女はナチュラルですが
「それが?」
「いえっ、あの、最近ですとそういう人は少ないかな、と
「まぁ、第二世代だとコーディネイター同士で結婚したいと思う者の方が多いし、そういう反応になるのかな」
「差別的な意図はありませんでした。申し訳ありません
 トラインがしゅんとして頭を下げる。
 現在進行形でコーディネイターとナチュラルは揉めている最中だし、二度の大戦でお互いに甚大な被害が出た。
 ブルーコスモスはコーディネイターを同じ人類だと思っていないし、コーディネイターの中にもナチュラルは下等種だと言い切る差別主義者もいる。
 コンパスの中ではお互い協力的、友好的だがあくまで業務上のことで恋愛や結婚の対象として考えると種族間のハードルは高くなる。
 ましてコーディネイターの両親から生まれた第二世代以降には余計に抵抗が大きいはずだ。
「結婚したら出来るだけ早く子どもが欲しいし、妊娠したら軍は退役してもらいたいと思っているからね」
「な、なるほどそういうことでしたか」
「しかし彼女のキャリアや能力を考えると退役より産休にした方が良いのかもしれないな。そこは確認してみるか
「艦長、おめでとうございます」
「え?」
「ご結婚はいつごろ?」
「今からプロポーズするんだ。オーダーしていた指輪がやっと完成したからね」
「そうでしたか」
「ああ、その為にチャンドラ中尉と一緒に休みを取ってプラントに降りたいのだが調整に協力してもらえると助かる」
 コノエが艦を離れるときには副官のトラインの負担が大きくなる。プライベートで長めの連休を取るとなればひと言頼んでおくのが筋というものだ。
「はい、喜んで協力させていただきます」
「ありがとう」
 頼れる副官の協力を取り付けることに成功した。

 艦長室でのミーティングを終えてトラインと向かった食堂ではチャンドラを含めたブリッジ勤務の女性士官たちが揃って休憩中で、食事しながら雑談をしているところだった。
 壁際のボックス席でチャンドラが先日の休暇で友人の結婚式に行った話をしている。艦長と副官が揃って食堂に入ったことに気づかないほどに盛り上がっているようだ。
 オロファトの海沿いのレストランを貸切にして、和やかで楽しい良い式が無事に終わったと微笑むチャンドラの可愛らしさときたら。
 食事のパックを受け取り、トラインと一緒に少し離れた席についてそれとなく聞き耳をたてながら見ていたコノエも和む。
 ちなみに昨今のオーブでは結婚式において「和やか」や「無事に終わった」ほどの賞賛の言葉はないらしい。
 オーブでは二年前、政略結婚しようとしたアスハ代表の式にヤマト准将がフリーダムで乱入して花嫁を攫って行った話が語り種となっている。
 当時十八歳になったばかりのアスハ代表は水面下でロゴスに与する老獪な首長の一人に利用されオーブの理念を捨て地球連合に参入するための道具にされようとしていた。
 コーディネイターとナチュラルの和平を目指すラクス・クラインと、アスハ前代表からオーブの理念と大将機である暁を託されていたキラ・ヤマトがフリーダムで花嫁姿のアスハ代表を攫って結婚を阻止し、オーブの窮地を救った。
 というのが一応政府の公式発表なのだが、ヤマト准将とアスハ代表は血の繋がった双子のきょうだいであり、重圧に押し潰され、愛のない結婚で自分を犠牲にしてオーブを救おうとしていた妹(もしくは姉)を見ていられなかった。という理由も半分以上あると思う。

「ライブラリの動画で見たけど、二年前のアスハ代表のウェディングドレスあんまり似合ってなかったよね」
「わかる。綺麗だし可愛かったけどもっと似合うデザインあったと思うわ」
「でもマリアヴェールのファーは良かったよぉ。ああいうの憧れます!」
「白にこだわらずにグリーンのドレスもいいんじゃない? アスハ代表って普段のドレスアップはグリーンが多くない?」
「でも今の恋人ってアスラン・ザラなんでしょ? 赤いドレスもあるかも!」
「ありえる〜!」
 ウィンザー中尉、トンプソン少尉、ラスカル少尉、ブリストル軍曹とブリッジの青服女性クルー揃い踏みでアスハ代表の次の結婚式について盛り上がっている。
 ミレニアムのブリッジに勤務する女性士官は全員二十代前半。そのような話題には特に興味津々な様子だ。
 同じテーブルの端の席に座っていたチャンドラが一人驚いた様子でみんなに問う。
「ちょ、なんでカガリがアスランと付きあってること知ってんです? まだ公表してないはずなんですが?」
「そんなの見たらわかりますよぉ!」
 ジェミー・トンプソン少尉が自信満々に言い切る。
「ファウンデーション事件の後、ミレニアムがオロファトに降りたときにアスハ代表が表敬に来てくださったでしょ? アスランさんオーブ軍服で護衛についてたけど雰囲気甘すぎだし、視線は熱いし、隠す気無さすぎですよ」
 アビー・ウィンザー中尉も苦笑している。
「アスハ代表は支持率高いし、オーブでもパートナー選びは注目されてるんじゃないですか?」
 オリビア・ラスカル少尉の問いかけにチャンドラが胸の下で腕を組んでしみじみと呟く。
「確かにカガリの支持率は高い。うーん、婿がアスランなぁ次の結婚式ではフリーダム出てこないと良いんだけど」
 ドッ! と笑いが起こる食堂内の一画。
 女性陣は「ヤマト准将ってシスコン?」とか「シスコンちょっとわかるかも!」とか「妹のパートナーに採点辛めなのね!」とか「フリーダムとジャスティスで戦ったりして!」などと好き勝手に言っている。いくらヤマト准将が退役しているからと言って一応元上官なのに、扱き下ろしすぎである。女性陣恐るべし。
 するとそこに比較的落ち着いているドロシー・ブリストル軍曹がチャンドラに一つ質問を投げかけた。
「チャンドラ中尉は? 結婚とか考えてないんですか?」
 コノエはどきりとした。
 チャンドラが自分との関係を惚気てくれるのが楽しみなような、恥ずかしいような。
 向かいの席に座っているトラインが満面の笑みでコノエを見てくるので照れ隠しに肩をすくめたが、次の瞬間、チャンドラの発言にそれどころではなくなる。

「あー、自分は結婚願望無いんで。恋人同士くらいの距離が気軽ですし」

 ビクッと身体が強張るコノエ。フォークを持つ手が震えた。
「そっかぁ。確かに恋人ならすぐ別れられるけど籍まで入れてると面倒ですよね」
 トンプソン少尉の声がぐわん、と頭の中で反響する。
「結婚した途端に子ども作るとか家庭に入れとか言われたら萎えますもんね」
「まあ、キャリアのことは考えますよね」
「束縛キツいのイヤだわ。こっちのタイミングを優先して欲しい」
 女性士官達の言葉を否定しないチャンドラ。彼女もそう思っているのだろうか。
 好きだと言ってくれるし、愛していると伝えた。ミレニアムでは二人の時間も確保できていると思う。再会して想いが通じあってからは二人きりになれば触れ合う機会も何度もあった。お互い問題なく付き合えていると思っていたし、当然将来のことも視野に入れていただけにショックが大きい。
「あ、あの、コノエ艦長
 トラインが気を使って声をかけてくれるが何も答えられない。
 結婚はしたいがチャンドラがしたくないと言うなら諦めるしかない。無理に迫れば別れるということにもなりかねない。
 別れるくらいなら法的な関係なんて二の次だ。しかしそうなると子どもはチャンドラは子どもは欲しくないということなのか。
 コノエは出来れば欲しい。チャンドラによく似た子なら男の子でも女の子でも絶対にかわいいはずだ。でもそれも、チャンドラの希望ありきの話で
 わずか数秒の間にぐるぐると思い悩んでいたコノエだったが、チャンドラに話しかける男の声に急に現実に引き戻された。

「チャンドラ中尉、好きです! 付き合ってください!」
 またビクッと身体が震えた。ハッとしてチャンドラの座っているボックス席に視線を向けると設計局から出向している技術士官、確かモビルスーツハンガーで勤務しているハインラインの部下のタチバナ少尉だったか、メカニックのツナギ姿の黒髪の男が顔を真っ赤にしてチャンドラに頭を下げている。
「ぅええええ⁉︎」
 向かいの席から素っ頓狂なトラインの声。
 無表情で男を見るチャンドラ。
 そして彼女と同席しているブリッジクルーの女性士官達は一瞬無言になった後、一斉に「きゃーーっ!」と黄色い声を上げた。
 女性士官達の声で衆目を集め、困惑するチャンドラに技術士官の男が言い募る。
「モ、モビルスーツハンガーでハインライン大尉とよく話してますよね。俺ずっと、気になってて
「は? はぁ
 突然早口で話しかけられて反応に困るチャンドラに、どこが好きかを熱く語り始めた。
「いつも優しいし、わかんないとこ丁寧に教えてくれるし、ニコニコしてて気づいたら目で追ってるって言うか好きになって
「いやそれハインライン大尉が毒舌すぎではなくて、ンッ失礼。指導が厳しめなだけでは? 自分は別に丁寧でも優しくもないし、相対的に優しいと錯覚してるだけだと思いますけど
「違います! チャンドラ中尉は笑顔が素敵です!」
「んなこと言われても自分、ハンガーでそんなへらへらしてました?」
 タチバナ少尉はオーブ出身のコーディネイターで、一次大戦でプラントに移住した。二十代半ばとチャンドラより若いが、プラントの設計局からの出向ということはそれなりに有能な人物であるはず。
 コノエはフォークを置いて立ち上がるとずかずかと歩いて行って男とチャンドラの間に割って入った。背中にチャンドラを隠して宣言する。
「ダリダは私の恋人なんだ。そういうのは遠慮してもらおうか」
 「えっ」と声を上げた者は複数名居た。同時にざわ、と周りのどよめきも聞こえた。
 コノエよりはるかにチャンドラに釣り合う男が、彼女に好意を寄せているのを目の当たりにするのがこんなにも焦燥感に駆られるものだと思わなかった。
 嫉妬ではなく不安の方が大きい。若い男に目移りして捨てられるのではという恐怖に駆られ、男を睨みつける。
 すると少し怯んだタチバナ少尉は薄ら笑いを浮かべて小さく呟いた。
「そんな、冗談ですよね? コノエ艦長が? だって、チャンドラさんはナチュラルなのに
「本当だ。人種の違いは関係ない。私はダリダを愛している」
 すると、コノエの後ろでチャンドラ以外の女性士官の面々が騒ぎだす。
「わ、チャンドラ中尉顔真っ赤!」
「耳まで赤いですよ!」
「中尉、かわいい〜照れてる!」
「ぷるぷるしてる
 女性士官達の実況が気になって振り返ると、頬を染めたチャンドラは立ち上がっており、涙目でコノエを見上げて震えていた。目が合うと「はゎ」と言葉にならない声を出す。
「やっ、あのっ、いや、えっコノエ艦長、なっなっ、なんで
 上手く喋れなくなるほど照れている。この状態のチャンドラは初めて見たが、確かに可愛い。絶対にチャンドラを誰にも取られたくないと改めて思う。その為にはやはり結婚しかない。
「ダリダ、結婚の意思はないときいたが、それはどうして? 束縛されるのが嫌? 資産運用やキャリアの継続についてパートナーが邪魔になると考えているのか? 子どもを持ちたくない?」
「へっ?」
「答えてくれ」
「いや、それは、だってなんとなく?」
「なんとなく⁉︎」
 なんとなくでコノエの望むチャンドラとの未来が潰えそうと知ってつい声が大きくなってしまった。それだけは避けたい。
「ひえっ、す、すみません?」
 怒鳴ったような形になり、驚いたチャンドラがビクッと身体を震わせたがコノエは両肩に手を置いて説得する。
「私と結婚した場合に君が得られるメリットをまとめた資料を十二時間以内に準備するからプレゼンを聞いてくれないか。私はどうしても君と結婚したい。もちろんダリダの気持ちを疑っているわけではないよ。ただ法的にも私のパートナーになってくれないと不安なんだ。君の気遣いや優しさを特別な好意と勘違いした男が寄ってくるのが耐えられそうにない」
 ここで一旦振り返ってチャンドラに言い寄ってきた技術士官をもう一度睨んでおく。
 男は情けなくも「ひっ」と小さく悲鳴をあげて数歩後ずさり、悔しそうに唇を噛み締め「失礼します!」と言って食堂を出て行った。
 虫を追い払ったところでコノエは改めてチャンドラに向き直り、彼女の小さな左手を両手で握りしめて懇願する。
「籍を入れるのが嫌ならせめて左手の薬指に指輪だけでもはめておいて欲しい」
 薬指の付け根をスリと撫でながら続ける。
「結婚は絶対にダメなのか? 束縛しないし、君のキャリアや資産は保証する。子どもは出来れば欲しいが君の意思を優先する。他に条件があれば何でも飲むし独身時代と生活を変える必要はない。私が全面的に君に合わせることを約束する。どうか私の妻になることを一度真剣に検討してみてくれないか」
「あ、あぁあっあのっ
 チャンドラは顔を真っ赤にしてぽかんと口を開けたまま何も言えなくなっている。照れているようにしか見えないし割と好感触なのでは? もう一押しすれば頷いてくれそうだ。
 コノエがチャンドラの手をさすりながら答えを待っていると逆に問われた。
「コ、コノエ艦長は、なんで急に自分なんかと結婚しようって気になったんですか?」
「急じゃない。ずっと考えていた」
「え、でも結婚する気ないって言ってたのに」
 チャンドラがパッと顔を上げ、泣きそうな顔をして言うが心当たりが無い。
「そんな事を言ったかな
「艦長室で、告白しに行った時ですよ結婚する気になれなくて婚姻統制のお見合いは全部断ってきたって」
「ああ、あれはダリダ以外の相手とは結婚する気になれなかったという意味だよ」
「へっ?」
「ダリダが十六のときから結婚したいと思っていたよ。でも大西洋連邦では十六歳では結婚出来ないし学校も楽しそうで辞めてプラントに来てほしいとも言えなくて、年齢も離れすぎているから慎重になっていたんだが
「そういうこと? てか、十六の時からって
「コーディネイターの成人は十五歳なんだ。ダリダとも結婚できると思っていたから、ナチュラルの成人が十八歳だと知った時にはショックだったが」
 あの時の絶望感は今でもはっきりと思い出せる。渡した援助の見返りに身体の関係を持ったせいで心は手に入らないと思うと、性犯罪に手を染めていると知ってなお、チャンドラを抱くことをやめられなかった。
 どうしても好きで、甘えてくれるのが嬉しくて、自分の手で快楽を教えて淫らに乱れる姿に依存していた。
「コノエ艦長は、自分と家族になってくれるってことですか」
「そうだ」
「家族
 チャンドラの呟きはどこか嬉しそうで、表情も照れて赤くなっているだけではなくふわりと笑みが浮かんでいる。
 心が揺れているチャンドラを説得すべく慎重に言葉を選んでいると、いつの間にか食堂に来ていたハインラインが食事のパックを手に少し離れた場所から声をかけてきた。
「先生、僕がいうのもアレですが、こんなところでする話ですか? 脈はあるようですが場所や雰囲気はもう少し考えた方が良いのでは?」
 元々一緒にいたトラインもいつの間にかすぐ後ろに居て、冷や汗をかきながら言う。
「すごい雰囲気も何もあったもんじゃないのに本人にだけは響いてるプロポーズだ……
 脈がある。響いてる。二人にもそう見えるのか。
「ダリダ?」
 もう一度名前を呼ぶとチャンドラはコノエの手を握り返すと、小さく頷き、返事をくれた。
「はいっ、自分でよければ」
「ダリダがいいんだ」
 やっとコノエの望んでいた返事が貰えた。握りしめる手に力がこもる。体温がブワッと上がり、高揚感に身体が震える。
「アレクセイさんと、結婚したいです
 チャンドラの返事の最後の方は固唾を飲んで見守る女性士官達の黄色い声にほとんどかき消される。
「きゃーっ! すごい! ほんとにプロポーズだ! おめでとうございます!」
「えええっ! ここで⁉︎」
「ていうか艦長とチャンドラ中尉いつから付き合ってたんですか?」
「中尉は今二十八歳ですよね。十六歳の時って十二年前⁉︎」
 外野がガヤガヤしている中、一瞬忘れていた場所とギャラリーを思い出したのか、ぷるぷる震えだしたチャンドラはコノエに抱きついてきた。眼鏡がズレるのも厭わず、顔を隠すためにコノエの軍服の胸元にぐりぐりと額を擦り付けてくる。
「ダリダ?」
「いや、嬉しいけど! でもなんでこんなとこで言うんですか! 恥ずかしすぎでしょう! アレクセイさんのバカ! このバカについては始末書とか絶対書きませんからね!」
「うん。わかったそうか、嬉しいのか。ははっ、そうか! ありがとうダリダ!」
 結婚願望が無いと聞いて一時はどうなることかと思ったが、チャンドラに粉をかける男は追い払ったし勢い余って結婚も承諾してもらえて照れて真っ赤になったチャンドラを抱きしめる事が出来てコノエは幸せだった。

 チャンドラの背中に手を回して、ぎゅっと抱きしめて髪にキスを落とす。唇へのキスをするためにチャンドラに顔を上げてもらおうと腕を撫でたが応じてもらえなかった。
 なぜなら、キスより先に女性士官達からの吊し上げが始まってしまったからだ。
「コノエ艦長、流石に今のプロポーズはあんまりです! もっとこう、タイミングとかシチュエーションとかあると思います!」
「花は? 指輪は? そういう時は跪いた方が良くないですか!」
「やり直し! ちゃんと準備して仕切り直しを要求します!」
「勢いでプロポーズするとか何考えてるですか! プレゼン資料って何なんですか。ふざけてんですか⁉︎」
 姦しい女性士官達に詰め寄られ、コノエはチャンドラを抱きしめたまま一歩下がる。
「しまったなこれは思ったよりやらかしたみたいだ」
 コノエは致命的な失策を悟って対応に苦慮したが、チャンドラが腕の中にいて、抱きついてくれているので全てのことが些事だった。

 ♦︎

 それからが大変だった。
 艦長であるコノエがナチュラルの士官に食堂でプロポーズした事件は瞬く間にミレニアムを駆け巡り時の話題を席巻した。
 戦艦の中という狭い社会の中で恰好の噂話のネタである。
 話はミレニアム内に留まらず、輪番勤務で乗艦していた元アークエンジェルクルーらを経由してコンパスの地上部隊、オーブまで届いた。
 まず初めに事件の三日後、ラミアス大佐がフラガ大佐を連れてミレニアムに乗り込んできた。
 艦長室で、チャンドラと付き合っているのは本当か、結婚するのかと詰め寄られる。
「ユリー軍曹の話によればチャンドラ中尉が十六歳の時から関係があったとのことですが、どういうことか説明していただきたいですわ!」
 バン! とデスクを叩かれて怒鳴られた。
 あまりの剣幕にラミアスの後ろに立っていたフラガ大佐とチャンドラがビクッと身体を震わせる。
「いや、それはですね。黄道同盟時代に仕事で北米に行った時に偶然知り合いまして
「ナチュラルの十六歳は未成年ですが、付き合っていたと?」
「それは、知らずに」
「未成年って知ってたのね」
 ラミアスは振り返るとコノエの目の前でチャンドラの両肩を掴んで問い詰め始めた。
「未成年に手を出す男はクズなのよ騙されてるんじゃない? 本当に大丈夫? 性的暴行を受けていたのでは? 裁判する?」
「ラミアス艦長、ちが、違うんですいや、待ってください本当に、そんな変な関係じゃなくて、違うので
 ラミアスにガクガクとゆさぶられながらもチャンドラは庇ってくれたが、ラミアスは根掘り葉掘り当時の話を聞き出していく。
 その際にしどろもどろにチャンドラがハイスクール時代にコノエの金銭的援助を受けていた事をぽろりと漏らしたくらいからラミアスとフラガの顔色が一層悪くなった。
「やはり性的虐待では? グルーミングって聞いたことあるかしら? カウンセリングを受けたほうがいいわね。大丈夫心配しないで
 悲壮な表情でチャンドラを心配し始めるラミアスと、二人を守るようにコノエの前に立ちはだかり汚物でも見るような目を向けてくるフラガの態度に心が抉られた。
 二人の気持ちは痛いほどわかるし、コノエもその件については後悔があり、反省しているのでどのような誹りも甘んじて受けるしかない。
 最終的には半泣きのチャンドラがラミアスを振り払い、コノエの腕に抱きついて「自分が絶対初めてはアレクセイさんが良くて無理やり迫ったんです、悪く言わないで下さいよぉ!」と言ってくれたのと、様子を見に来てくれたトラインが「コーディネイターは成人年齢が十五歳なので十六歳なら本人同士の合意があれば関係を持つのは一般的な感覚です。婚姻統制で引き合わされる相手と二十歳離れていたというケースも普通にありますので年齢差についても許容範囲内かと」という証言をしてくれて、この認識はトラインのみならずミレニアムのコーディネイタークルーのほとんどが賛同してくれたおかげで助かった。

 何とかラミアスの理解を得られ安堵していた数日後、今度はアスハ代表からの連絡があった。
 チャンドラも一緒に、と艦長室に呼んで二人で通信を受ける。
『チャンドラ中尉とコノエ大佐、結婚するんだって? おめでとう。オーブで暮らしたいなら受け入れる準備はあるぞ。ファウンデーション事件の後はキラとラクスの事で世話になったし私もできる限りのことはさせてもらう。チャンドラ中尉にも世話になったし。ついでにコノエ大佐がオーブ軍に入ってくれると助かるんだが』
「ありがとうございます願ってもないことですがどうしてそれを?」
『ターミナル経由で聞いたぞ。アレクセイ・コノエ艦長の食堂プロポーズ事件』
「そ、そうですか
 そんなところまで噂が広がっているとは。この一週間で噂の渦中に置かれ、ぐったりと疲れているチャンドラからは肘で小突かれた。
『早くも尻に敷かれてるみたいだな』
「ははは、そう見えますか」
『うん。チャンドラ中尉の結婚式にはフリーダムが乱入しなくて済みそうだ』
 わはは! と笑うアスハ代表の自虐の入った不謹慎ジョークには一緒に笑っていいものか悩んだ。

 ただ、騒ぎを起こして恥をかいたかいもあったというもので、実質的にコンパスの総裁を務めているアスハ代表からの結婚祝いということでチャンドラと二人で一か月の休暇を取ることが出来た。