三毛田
2025-01-21 14:54:09
1069文字
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79 079. 視線の意味

79日目
気づいたら、戻れない

 時折視線を感じてそちらを見ると、俺を見ていた相手は慌てたように持っているもので顔を隠して。
 またある時は、観葉植物の後ろから。
 バレてパムに怒られていたが。
「穹。言いたいことがあるなら、ハッキリ言え。他の人の迷惑だ」
「うっ」
 ショックを受けたような表情になり、胸を押さえてうずくまる。
 何故そこでそんな表情を浮かべるのかわからない。
「わかってる。俺だって、ちゃんとわかってるんだ。でも、丹恒を見ていたいんだよっ」
「それなら、一緒に掃除をすればよかろう」
 はたきを手に、今日は合成マシンの後ろに隠れていた――まったくもって隠れられていないが――穹へパムが呆れた声を向け。
 そう。
 俺は今、ラウンジの清掃の手伝い中だ。
 手が空いていたのもあるが、論文執筆に行き詰まっていたので息抜きがしたかったのもある。
「うっ……わかりました。モップがけ?」
「水拭きした後、ワックスがけもする予定じゃ。ワックスを用意してくるから、綺麗にしておくように」
「はーい」
 観葉植物たちは、ビニールを敷いたソファーの上へ。テーブルもソファーの上へ避難させ、蓄音機はどうするかはパムが戻ってきたら聞こう。
「三月やヴェルトさんたちに、しばらくラウンジは出入り禁止だと伝えてこよう。張り紙も必要だな」
「丹恒」
 動かせるものを一通りソファーへ避難させ、後出来ることはないか考えていると腰を抱き寄せられる。
「穹?」
 名前を呼ぶも、やけに熱のこもった視線をこちらに向けるだけ。
「水拭きは、終えたのか」
「今はそれどころじゃない」
「パムに怒られるぞ」
「わかってる」
 なら、その手を離せ。
 その言葉が出てこない。
 宇宙に輝く星のような瞳に、吸い寄せられる。
「コラー! 穹、まだ終わってないぞ!」
 ワックスの入った容器とバケツを手に戻ってきたパムが、穹を叱る。
「いいじゃん」
 さっきとは違ってやけに強気だ。
「パム。ラウンド立入禁止の張り紙は必要か?」
「それなら、前に使ったものが残っておる。客室車両側に貼っておいてくれ」
「わかった」
 パムから張り紙を受け取り、穹の手を叩き落として貼りに行く。
 穹の手が触れていた箇所が、まだ熱い。
「明日の朝まではラウンジは立入禁止じゃ」
「丹恒、何処で寝る? 俺の部屋に来る?」
 そう問われて初めて、ワックスがけをしたら資料室へ戻れなくなる可能性に気づく。
……そうだな。お前の部屋へ避難させてもらおう」
「やった! ちょっとだけ夜更かししないか?」
「考えておく」