タロイモ
2025-01-20 00:22:04
4045文字
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ミルクティー

パーバソワンドロライより、お題:ミルクティーをお借りしました。
バーソロミューがパーシヴァルのためにちょっと良いロイヤルミルクティーを作る話。あんまりパーバソしてないけどパーバソと言い張ります。でも砂糖はいっぱい!

 事の発端は、聖槍の騎士たる彼の一言からだった。
「ミルクティーですか私は飲んだ事が無いけれど、貴方が淹れるものなら美味しそうだ」
 などと、見てくれだけは歳下の、物腰はとても落ち着いた恋人殿が宣うものだから。
 海賊紳士とも謳われた事のあるバーソロミュー・ロバーツは、ちょっとだけ見栄を張った。具体的には、紅茶自体は嗜むものの、その飲み方や楽しみ方には疎い騎士様に、最高の一杯を供してやろうと思って、張り切ってとっておきの茶葉を用意したのだ。
 もっと言えば、ミルクティーにはアッサムだろうと、友人のカルナを通じてインドの良い茶葉を買い取った。かのカウラヴァの百王子の長兄が選んだという茶葉は、流石と言うべきか、紅茶にはうるさい自覚のあるバーソロミューの舌をも唸らせた。中々値は張ったが、これは正当な取り引きだろう。なるほど、あのドゥリーヨダナという古き叙事詩の英雄は、カルナが信頼するに足る人物なのだろうなと思った。
 はてさて、その手に入れた茶葉の入った缶を持って、バーソロミューは軽い足取りでカルデアのキッチンに辿り着いた。時刻は16時過ぎ。アフタヌーンティーにはやや遅く、ディナーまではもうしばらくあるという時間帯だ。今なら空いているだろうと思った食堂は、過たず人は少なく閑散としていた。
 キッチンの扉を潜ると、ぱたぱたと軽い足音が横を通り過ぎて行く。子供の姿形をしたサーヴァント達ーーオルタのジャンヌ・ダルクのリリィに、ナーサリー・ライム、ジャック・ザ・リッパーだ。擦れ違いざま、「こんにちは、船長さん!」と声をかけられたので、「こんにちは、お嬢さん方」と返す。きゃいきゃいと走り去る姿は、見ていて微笑ましいものだった。
「あれっ、珍しいね。この時間に一人で来るなんて」
 厨房で雑事をこなしていた赤髪の淑女、ブーディカに声をかけられて、バーソロミューは紳士然としてにこやかにちょっとね、と返した。
「良い茶葉が手に入ったから、飲み方を少し試してみたくて。キッチンをお借りしても?」
 バーソロミューが問い掛ければ、古きイングランドの女王は勿論!と応え、あぁ、でもごめんね、と付け加えた。
「さっきまでオヤツのクッキーがあったんだけど、チビっ子たちに全部あげちゃったんだ」
 空のバスケットを持ち上げ、申し訳なさそうに眉尻を下げて言うブーディカにおや、とバーソロミューは首を傾げる。彼女は何故クッキーの話をするのだろう。
「私はそんなに物欲しそうな顔をしていたかい?」
 聞けば、よく騎士さんとお茶してるじゃない、と返された。
「いつもお茶請けを沢山持って行くから、今日もそうかと思っちゃった」
 そう言えば、確かにそうかも知れない。バーソロミューは何とも言えない表情を浮かべた。
 彼女の言う騎士さん健啖家のパーシヴァルは、その食べっぷりの良さから食堂の守護者たちからも愛されていた(見た目の若い、細身の連中からは『飯を盛る人』として警戒されていたが。気持ちは分かる)。
 食堂には度々彼と一緒にお茶をしに来ていたバーソロミューだが、パーシヴァルはその度にキッチン組から菓子を山盛りに与えられていた。その殆どは彼の胃袋に消えていたのだがもしかしなくても、これは同じく食いしん坊だと思われていたパターンだろう。ちょっと恥ずかしい。
「今日は残念ながらあの騎士様はいないよついでに言えば、私はそこまで食べる方じゃないんだ」
「えっそうなの!てっきりよく食べる人かと思ってた」
 ホラやっぱり。驚く彼女に苦笑を返しつつ、バーソロミューはキッチンの戸棚に置かせてもらっているお気に入りのティーセットを取り出した。
 白磁にロイヤルブルーと金のラインが美しいカップとソーサー、それに揃いのポット。それから白いポンポンの付いたティーコジー。残念ながら今日はポットとティーコジーの出番は無いので、そっと戸棚に戻した。このコジーの隙間から覗く、ポットの取っ手近くの繊細な金紋様が(ちょっとメカクレみたいで)バーソロミューのお気に入りなのだけど、これはまたの機会に。
 さらに、ステンレスのミルクパンと、ティースプーン、計量カップ、砂時計、茶こし。冷蔵庫から牛乳を取り出し、準備完了だ。
(さて、ここからは時間との勝負だぞ!)
 心の中で独りごち、バーソロミューはミルクパンに電気ポットから湯を注いだ。だいたい200mlと少し、これは身体が覚えている。
 そのままミルクパンをガスコンローーカルデアキッチン組からの熱い要望で直火が採用されているーーに置き、そこに秘蔵の茶葉をティースプーンで山盛り一杯。ケチってはいけない、豪快に入れる。
 そのままコンロの火を強火に設定し、砂時計をひっくり返す。約1分半。その間に、計量カップに100mlの牛乳を注ぎ、ブルーのカップには湯を注いで温める。
 砂時計の砂が落ちる瞬間に、計量カップを傾けて一気に牛乳を注いだ。ぶわり、と馨しい芳香が立ち込める。隣で見ていたのだろうブーディカから、おぉっ、と声が上がって、バーソロミューはにやりと笑った。オーディエンスがいると、やり甲斐があるというものだ。
 そのまま強火で煮立たせ、突沸により噴き零れる寸前で火を止める。手早くコンロからミルクパンを上げて、茶こしで漉しながら、泡が立たないよう二つのティーカップに静かに注ぎ入れた。完成である。
 バーソロミューがふぅ、と息をつくと、隣にいたブーディカには美味しそうだね!とご好評をいただいた。まだ味見はしていないので何ともであるが、うまく淹れられた自信はある。
「勝利の女王陛下に見守っていただいたお陰に御座いますれば」
 華麗にボウアンドスクレープをきめて、バーソロミューは良ければ一緒に飲むかい?とブーディカを誘った。練習で淹れたもので良ければだけれど、と付け加えて。
「うーん魅力的なお誘いだけど、今日はやめとこっかな」
 すると意外にも、彼女からはお断りの返事をいただいてしまい、おや、とバーソロミューは顔を上げた。すると、女王陛下は無言でそっち、と指差している。その指先を辿って見上げるとそこには、バーソロミューがよく見知った白い巨躯が佇んでいた。
「パッパーシヴァル卿?!いつからそこに?!」
 バーソロミューが驚きで思わずよそよそしい呼び方で名前を呼んでしまうと、分かりやすく白亜の騎士は残念そうな顔をした。交際をあまりオープンにしていない二人であるが、こういう所でバレてるんだろうな、と頭の片隅でバーソロミューは思った。
「君、今日は周回で遅くなるって言ってなかったか?」
「今日はマスターが早目に切り上げたもので。すみません、驚かせるつもりは無かったのだけれどいつから、と言われると、貴方がスキップしながら食堂に向かう所から、かな」
 はにかんで笑う騎士を尻目に、バーソロミューは羞恥に頭を抱えていた。見られた。最初から見られていた。ルンルンで、無意識にスキップまでしていた所を。伊達男が形無しである。
 どうやら周回帰りで霊体化していたらしい騎士殿は、そのままバーソロミューに付いて食堂に入ってきたらしかった。にしても意地が悪い、そのまま霊体化して見ているなんて。一声かけてくれればいいものを。
 バーソロミューが文句を言ってやろうと思っていると、先に口を開いたのはパーシヴァルの方だった。
「ところで自惚れでなければ、それは私のために淹れてくれた紅茶だろうか?」
 そう言って彼が指差すのは、淡い色合いの飲み物が注がれた、湯気の立つカップ二つである。いや、それは練習用で、ともにょもにょ口籠るバーソロミューに、騎士はありがとう、と一つ謝辞を述べた。そして、流れるようにバーソロミューの節だった浅黒い手を取り、そこに恭しく口付ける。
 バーソロミューは助けを求めるようにブーディカを見たが、そっと目を逸らされてしまった。女王陛下、見捨てないで助けてくれ。
「私が前に言っていたことを、覚えてくれていたんだね。まずは感謝を。練習までしてくれるなんて、やはり貴方は勤勉だ」
 良ければ一緒に飲みたいな。首をこてん、と傾げながら、騎士は朗らかに海賊に微笑みかけた。海賊の弱みを全部知っているような仕草だった。
 すっかり真っ赤になって何事かを言おうとしていたバーソロミューだったが、最終的には折れてため息と共に項垂れた。
分かった。ちょっと冷めてしまうかも知れないが、君の部屋でいただこう」
 そう言って、ミルクパンなどの洗い物を済ませようとバーソロミューが目をやると、いつの間にか使ったものは全て洗われている上に、ご丁寧にもティーカップはトレーに載せられていた。しかも、冷蔵してあったと思しきクグロフも一緒に添えられている。助けてはくれないくせに、こんな手際はとても良いなんて。
 恨みがましい目でブーディカを見たバーソロミューだったが、いい笑顔で「ミルクティー、また今度飲ませてね!」と手を振られてしまった。もう、これで本当に逃げ場が無いじゃないか。
「それでは行こう、バーソロミュー」
 爽やかに、それはいい笑顔を浮かべながら、聖槍の騎士はティートレーを持った。照れ隠しなのか、眉間に手をやるバーソロミューを伴って食堂を去る。そんな二人の姿を、古イングランドの女王はにこやかに見送った。
「うーん。お祝いに何か作っちゃおうかなぁ」
 なんて呟きながら。

 翌日、早朝の食堂では昨日のバーソロミューと全く同じ要領でロイヤルミルクティーを作る騎士パーシヴァルの姿が見られたとか。少し無茶をさせてしまったから、という騎士のセリフから色々察した賢き女王は、あんまり無理させちゃダメだよ?と騎士の頭を撫でたのだった。
 後日、それは見事なシュガークラフトが厨房から送られてきてバーソロミューが頭を抱えたのは、また別の話。