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Hizuki
2025-01-19 23:33:51
2836文字
Public
あんスタ[零薫他]
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年初めの侵入者
【あんスタ】零薫。蛇蠍(天下の志×スコルピオ)パロ。新年早々に自分の城に忍び込んでいた零と顔を合わせた薫の話。設定ふわふわなので、細かいことを気にせず雰囲気で読める方向け。真っ当な方法で来ればいいのに。
新年の一族の顔合わせから自分の館に戻り、ひと息つこうとしたのも束の間。何故か暖められていた私室の空気にはっと意識を引き戻される。そして、ソファに我が物顔で座っている侵入者の姿に、思わず深い溜め息を漏らした。
「
…
ねぇ、何でいるの。どこも鍵なんて開いてないと思うんだけど」
俺の呆れ混じりの声に気付いたらしい侵入者は、こちらに視線を向けて優雅な笑みを浮かべる。館を発つ時に一通り鍵をかけたことを確認したはずで、人が入れるような場所はどこにもないはずだった。
「ん?ほら、我輩、蛇じゃから」
「
…
答えになってない」
マントを外してコートを脱ぎ、それをクローゼットにしまいながら、侵入者の声を背に受ける。楽しそうに弾んだ声。蛇だから、という全く答えになっていない返事に、また溜め息が零れた。
とはいえ、どうやって入ったのかの見当は付く。いつも彼が連れている黒い蛇を通気口から中に入らせ、適当な場所の扉を開けさせたのだろう。何度もあった手口で、実際にそれをやってみせてくれたこともある。中に入って鍵を元通りにかければ、後は勝手知ったる館の中、というわけだ。鍵を開けただろう張本人は彼の肩の上に顔を乗せ、その長い身を反対側の肩に回し床にかけて投げ出しておとなしくしていた。いや、正確には人ではないのだけれど。
「くくく。新年におぬしに会いたかった、ということで許しておくれ」
本当にこの侵入者を排除したいのなら、館の鍵を蛇では開けられないようなものに全て取り替えてしまえばいい。なのに、あえてそれをしていない、という時点で、自分も本心から彼を拒んでいるわけではないと示しているようなものだ。会いたかった、と言われてふっと心が緩んだことも否定はしない。自身に纏わりついていた堅苦しい場の空気は、彼によって一瞬で軽く、あたたかいものに塗り替えられた。だから、今回の不法侵入には目をつぶろう。
…
一体何回目の『今回』だろうと思いながら小さく息を吐くと、部屋の中のガラス張りのキャビネットを開けた。
「
…
今年は忙しくなるんだっけ?」
侵入者から客人に立場が変わった彼をもてなすために、グラスを2つ取り出した。以前ちらっと耳にした彼の話を確かめるように問いかける。
「おお、覚えていてくれたんじゃな」
彼の文化圏では毎年その一年を司る生き物が決まっているらしい。そして、今年は蛇が受け持ちの年だそうで、蛇と縁のある一族の彼もまたそういった祭事に駆り出されるのだと言っていた。
「12年に一度のお役目の年での。ここに顔を出せる機会が少しばかり減るやもしれぬ」
「あんたの不法侵入に驚かされるのが減るなら何よりだよ」
彼のお気に入りの果実酒のボトルを手にして、彼が座っているソファの前のローテーブルにわざと少しだけ音を立てて置いた。あまり意味はないだろうけれど、不法侵入への釘を刺す意味も込めて。やっぱり気にした様子もなく、ただこちらを見て笑みを浮かべている。それにしても、12年とはまた随分と長い間隔だと思う。彼の隣に腰を下ろし、コルクの栓を抜くと、2つのグラスに均等に注いだ。
「
…
いや、むしろ増えるかもしれんのう」
俺から視線を外して手を口元に添えた彼が神妙な声でそう呟いた。言わんとすることは分かる。お役目があるからこそ、その気分転換のために、ということだろう。この人ほどではないにしても、自分にだってそういう時はある。
「
…
ちゃんと正面玄関から来るなら、考えてあげる」
視線を逸らしてグラスに向けると、それを持ち上げて中身を軽く揺らした。元々彼がここに来ることを拒むつもりはない。常識から外れた方法で来さえしなければ、いつでも構わないと思っているくらいで。
―
彼は自身の『恋人』なのだから。
「ふふ、ではその時は存分に甘えさせてもらうとしようぞ」
どんな顔をしているのかは分からないけれど、柔らかい嬉しそうな声が隣から聞こえる。視界の端からもう一つのグラスが消えたのを見て、手にしたグラスを口元に寄せた。
「
…
そうじゃ。少々勝負をせぬか?」
そんなことを彼が言い出したのは、ボトルの中身が底を突き、グラスも空になった頃だった。
「勝負?」
「うむ」
突拍子のない提案を確認するようにその単語を繰り返せば、彼は首を縦に振った。顔色は普段と変わらないように見えるものの、珍しく酔いが回っているらしい。
「おぬしの毒と、我輩の毒、一体どちらが強いのかと思うてな」
それは今まで気にしたことのないことだった。生まれた一族の関係で、俺は蠍の、彼は蛇の毒が扱えることは互いに知っている。けれど、当然ながらその毒を相手に向けたことはなければ、そもそも向ける理由もない。
「ふぅん
…
?勝った方が相手を好きにしていいってこと?」
「そういうことじゃ」
何の耐性もなければ命を奪うことにもなりかねないけれど、俺達の間であればその心配もいらない。せいぜい身体の自由を奪う程度の効果にしかならないだろう。勝負とは言うものの、実際は戯れのようなものだ。
「
…
いいよ、やろっか」
そう応じてはみたものの、多分俺に勝ち目はない。蠍の星の加護が巡ってくるのはまだ当分先の話。そんな俺とは逆に、今の彼は新しい年が始まって、蛇の加護の力が強まっている時。
「では、決まりじゃな」
空のグラスをテーブルに戻すと、彼の方に視線を向ける。同じようにカーネリアンの瞳がこちらを見つめていた。とはいえ、されるがままでいるつもりもない。唇の内側を噛めば、鉄の味が薄く広がっていく。彼が動き出すより先に肩に手をかけて顔を寄せる。俺の行動に驚いたのか、一瞬目を見開くのが見えた。同時に身を預けていた蛇も彼の身体から離れていった。そのまま唇を重ねて、隙間から舌を差し入れる。さっきまで飲んでいた同じ果実酒の味がふわりと感じられた。自身の毒に触れさせるように咥内をなぞれば、ぴくりと肩を震わせる。俺の毒が効かない、ということはないようだ。
「っ!」
けれど、俺の好きにさせてくれるのはどうやらここまでらしい。ピリッとした感覚が舌先を掠めたかと思うと、途端に身体から力が抜けていくのが分かった。
「おっと」
そのまま支えられた身体はゆっくりとソファの上に寝かせられた。落ち着かせるように何度も息を吸い込んでは吐く。
「大丈夫かえ?」
…
あの一瞬で当てられてしまった。大丈夫じゃない、と言ったところで、止まらないことは分かっている。そういう話で始まっているのだから。それに、好きにされているのは『いつもと同じ』でもある。
返事の代わりに挑発するように視線を送れば、彼が口元をニヤリと歪める。わずかに開いた唇の隙間からは蛇のように舌が覗く。部屋の明かりは覆い被さってきた彼の姿で遮られた。薄暗くなった世界の中で、欲を孕んだ二つの赤だけがギラリと輝くのが見えた。
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