かのまる
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伊剣ワンドロワンライ「雪」

今年初めてのワンライ参加です。
お題は「雪」で2時間ほどです。
今回は普通に江戸の雪を楽しむ伊剣の話です。
雪が降らない地域に住んでいるため、想像の部分も多々ありますがどうかご容赦ください。
セイバーは性別不詳です。
二人は付き合ってません。

※江戸は小氷河期と言われる時代でかなり寒かったそうです。でも基本的に庶民は草履や下駄で過ごしたようです。

一等冷え込んだ江戸の朝、伊織はセイバーのはしゃぐ声で目が覚める。
ぬくい布団から出たくはないがあまりにもセイバーが楽しそうなものだから、どてらを着込み玄関に向かう。
外には昨夜降った新雪がこんもりと積もって雪景色を作っていた。
「イオリ!雪だー!!エドでは始めての雪だぞ!!」
いつもの白妙の衣のまま、雪の中をぴょんぴょんと跳ねる姿はまるで白兎のようだった。
「セイバーは雪を見るのは始めてか?」
「まさか!しかし、このように雪が降って嬉しいと思ったのは初めてだな」
生前の旅路は雪に降られてしまえばさぞかし辛かっただろうと思いながらも、伊織がそれを口に出すことは無い。
「そうか……では少し江戸での雪遊びをやってみないか?」
セイバーの瞳が星を散らしたようにきらきらと輝き出した。

伊織は雪を丸めて拳大の玉を作ってみた。
それを放ってみせると、セイバーはキョトンとした顔をしている。
「この玉を仲間の身体に当てて遊ぶんだ。雪打ちという」
「なるほどな!私も早速作ってみようではないか」
セイバーはおにぎりを作る要領で雪をしっかり固めて圧縮していく。ふわふわの雪がまるで石礫のような見た目に変わる。
「おい、セイバー……そこまで固くしなくてもいいんだぞ」
「いっくぞーー!!私の玉をくらえ、イオリッ!!」
大きく振りかぶり、完璧な投球姿勢で放たれた雪玉は伊織の顔を掠めて後方の木に当たった。
ミシッと幹が割れ、木に積もった雪がどさりと落ちる音が聞こえる。
「さすが、アーチャーにも匹敵する素晴らしき投擲だな……
引き攣った顔で皮肉混じりに褒めてやれば、セイバーはそうだろうと云わんばかりに嬉しそうに頷いた。
すっかり毒気を抜かれた伊織は頭を掻く。
「これは俺も本気を出さねばだな」
伊織も雪を丸めると、勢いよくセイバーに向けて放った。それはぽすっと袖に当たり、セイバーはころころと楽しそうに笑った。
「やったな!イオリがぼーっとしてる間にたくさん玉を作ったのだ。怪我をしても知らぬぞ!?」
不敵に微笑むと、腕に山盛りに抱えた玉を思い切り放ってくるのだった。

「あははっ!楽しいなイオリ!!」
「俺はおまえに付き合って、朝から些か疲れたぞ……
セイバーが白い息を吐き、雪をかき分けながら近づいてきた。
「あれ、雪が滑る!!わあっ!!」
足元が滑り、倒れ込むセイバーが慌てて伊織の袖を掴む。
「おい、こら!」と伊織が焦った時には二人とも雪に倒れ込んでいた。
前髪に隠れがちな夜空のような瞳と目が合うと、セイバーは妙に照れ臭くなり、天を仰ぐ。
それに倣うように伊織も仰向けになった。
……久しぶりに童心に返ったようだ。カヤとも雪でよく遊んだものだ」
「ん?つまり私は童ということか?」
「いや、そうとは云っていないが……
セイバーがむっとしたように唇を尖らせると、機嫌を損ねまいと慌てて伊織は否定した。
ふと視線を下ろした伊織がセイバーの左手を取ると、骨ばった指を細い指にするりと絡める。
突然のことにセイバーが固まったかと思うと、見る見るうちに顔に朱が差す。
「セイバーの指も随分と冷たくなって。寒くはないか?それに顔も赤いぞ」
その表情は心からセイバーの身体を憂いているようで、己の行動でセイバーが耳まで真っ赤に染まったことには気が付いていないようだった。
「も、もう雪遊びは終わりだ!!私は冷えたからナガヤに戻ってヒバチに当たるぞ」
これ以上顔を見られたないセイバーは勢いよく起き上がり、衣の雪を払った。
伊織も続いて上半身を起こすと、セイバーを見上げる。
「江戸の雪遊び、楽しかったか?」
「ああ!とても楽しかったぞ、イオリ!また今度は別の遊びも教えてくれ!」
真白な歯を覗かせながら、満面の笑みを浮かべたあと、足早に長屋までかけていった。

ぽつんと残された伊織が手で顔を覆う。
「やってしまった」
そう呟く指の間から赤らんだ頬が覗く。
寒くないかなんて白々しい。ただその美しい手に触れたくなっただけだ。
かじかみ強張った手に、はぁと息を吹きかける。
「そろそろ火鉢だけでなく、置き炬燵も借りるか」
間も無く炭団に火を付けろとセイバーが呼びに来るだろう。
伊織は顔の火照りを冷ましながら、ゆっくりと長屋に戻る。
大きな草鞋と小さな履き物。
二人分の足跡の付いた雪が、長屋まで続いていた。