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ムラタ
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ヴェラン
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ルームメイト
ヴェラン
※はるか昔に書いた学生現パロです
※パー様に名前の出てこない恋人がいる設定です
※何でも許せる人向け
パーシヴァルの部屋はいつも半分散らかっている。
生まれ育った土地を離れ、国外の大学へ進学したパーシヴァルが下宿しているのは学生寮だ。壁の薄い二人部屋はいかにも学生寮らしいが、パーシヴァルの住まうフラットには落ち着いた学生が多く、部屋はそれなりの広さがあるので、学生の身分を思えば不満は抱かない程度ではある。だから、パーシヴァルの寮生活において、部屋がいつも半分散らかっていることだけが懸念事項であった。
朝夕の食事は付くが、それ以外の生活の営みはすべて自分でこなさなければいけないのが寮生活だ。他の家庭より”少し”ばかり裕福な家庭に生まれたパーシヴァルは、自分の家事能力の低さを自覚していたが、彼のルームメイトはそれを突き破っている。
洗濯機に洗濯物を突っ込むことは辛うじてできるようだが、部屋に備え付けのミニキッチンを彼が使っているところを一度も見たことがない。
一番ひどいのは掃除の分野で、机の上にはいつも図書館から借りてきた本がうず高く積まれ、ベッドの上にはクローゼットの中身を丸ごとひっくり返したように衣類が散乱している。床には足跡がべったりついた書き物や筆記用具がばらばらと落ちていて、目にもやかましい。厳密に区切った二人の境界は辛うじて守られているが、それもいつまで保たれるか怪しいところだ。
これでいて、学業に必要な課題や教材なども部屋の中に紛失するような粗忽者であれば、パーシヴァルも取るに足らぬと切り捨てていただろうが、彼はそういったものだけはきちんと管理できているのである。それだけでなく、彼のレポートはいつも素晴らしい筆致と緻密で合理的な論述で構成されていた。それがこんな部屋で生産されているとは誰も思うまい。パーシヴァルの同室者の名をランスロットと言った。
それがある日、パーシヴァルが泊りがけのフィールドワークから帰ったその日だ。パーシヴァルの部屋は嘘のように綺麗になっていた。積み上げられた本も散乱する衣類も然るべきところに収まっている。光取りの窓枠には、空き瓶に切り花まで飾られていた始末だ。ランスロットはバラとひまわりくらいしか、花の名前が言えない男だったはずなのにだ。
当の本人は机にかじりついて読み物に没頭していた。片付いた机の上ではさぞ捗ったことだろう。パーシヴァルが声をかけて、やっと同室者の帰宅に気づいたくらいである。
「おい」
「なんだ、今帰ってきたのか」
「やればできるじゃないか」
そもそも何をやらせてもそつなくこなす男なのだから、能力は高いはずだ。自覚を促して部屋の美化に努めようとしたパーシヴァルの言葉に、ランスロットは見せたこともない柔らかい表情をした。ランスロットは基本的に明るい性格をしているが、普段人前で見せる笑みとはあまりにも違っていた。そして、聡明なパーシヴァルにはそれが何なのかすぐに分かってしまった。
彼には、大学から少しばかり離れた故郷に相思の幼馴染がいるらしい。2歳年下で、たしか金髪で、それから料理や掃除が得意だと話していたような気がする。ランスロットの恋人に露程の興味もないが、部屋に頻繁に手紙がよく届くのだ。まめまめしくそれに返事をしたためるランスロットの姿もよく目に映る光景だ。そんなときのランスロットは穏やかで幸福そうな今みたいな顔をしている。
「お前、人にやらせただろう」
パーシヴァルの詰問じみた問いかけに、ランスロットは屈託なく答えた。
「俺の幼馴染が遊びに来たんだ」
「部屋に入れたのか」
そもそもここは男子寮だ。恋人の部屋とはいえ、男子寮に入ってくるというのはなかなか豪胆な女性なのかもしれない。そこでまず嫌な予感がすぎる。
「俺の部屋が見たいというから」
ランスロットがはにかんで見せると、パーシヴァルはぞっとした。
「おい。お前たち、まさかとは思うがここで」
「すまん」
ランスロットの頬が赤く染まったのが、何よりも事実を示していた。共有の部屋でよくもと詰りたい気もするが、男所帯はこういうものなのだろうかと納得いくような気もする。同室者はなまじ顔が女のように整っているので考えたこともなかったのだが。
彼の恋人はハイスクールに通う17歳。まるっきり子どもだ。しかし、子どもですら一端に恋人と過ごしているのに、どうして自分はこうも早く自室に帰ってきてしまったのだろう。焦燥がパーシヴァルの胸に小さく灯る。着替えの詰まった鞄をベッドに放るとランスロットが目を丸くした。ベッドも鞄も痛むばかりで何もいいことがない。
*
朝日が昇り切らない薄暗い時間。パーシヴァルは自室の扉をゆっくりと開けた。人目を憚ってのことではない。集団生活の中で最低限のマナーだからだ。
気を遣ってやったというのに、パーシヴァルのルームメイトはばっちりと起きていた。彼も彼で同室者を気にすることなく、夜通し論文に没頭していたらしい。今日は特に絡まれたくはないというのに、寝不足のランスロットはいつもより不機嫌そうだった。
「朝帰りの不良め」
「飲んできたんだ。構うなよ」
「お前が? 夜通し飲んできたのか?」
「そうだ」
パーシヴァルはそこまで酒に強い方ではないから、ランスロットはいかにも意外そうな顔をした。父も二人の兄も顔色を変えることなく酒を楽しんでいたので、体質ではなく慣れの問題だと常々パーシヴァルは思っていた。地元の祭りで、子どものころからアルコールを失敬していたランスロットとは話が違うのだ。
「おい」
「うん?」
「余計なお世話だと思うけど、首元隠せよ」
パーシヴァルも朝帰りは初めてのことなので、思いがけない言葉には動揺して首元をさする。
「右だ、右」
ランスロットは直視できないとも言いたげに本でその顔を覆ったが、はみ出て見えるその耳は赤く染まっていた。付き合いの長い恋人がいるくせに、妙に純真そうな反応だ。もしかして、まだ「子ども」なのかもしれない。その「子ども」に煽られた自覚のあるパーシヴァルは苦々しく思ったが、別れ際の恋人がほほ笑んでいたのを思い出して、忘れることにした。
*
パーシヴァルとランスロットが入学してから、2年後の春にランスロットの幼馴染はやはり同じ門をくぐってやってきた。確かに金髪の碧眼で、料理や掃除が達者で、おまけにパーシヴァルよりも上背のある男だった
学生寮に住まうのは大多数が新入生と決まっている。進級するにつれて仲のいい者同士でルームシェアやシェアハウスに流れるものが多いからだ。そちらの方が学生寮のように窮屈な暮らしではないだからだろう。留学生のパーシヴァルは卒業まで寮に住まう予定だったが、ランスロットもどこかに引っ越す素振りすら見せなかった。だから、パーシヴァルの部屋は今も半分片付いていない。幼馴染が新入生としてやってくるのを待っていたのかもしれない。迷惑な話だが、健気と言ってもいいのかもしれない。
「奴の部屋は一人部屋らしいな」
「ああ」
「部屋を変わってやる。駄犬に準備するように言っておけ」
「待ってくれ」
「さっさとここから追い出したいところだが、お前の方が荷物も多いからな」
「待てって」
「さっきから何なんだ」
「心の準備ができていないんだ」
パーシヴァルがたまに外泊をすると、決まって部屋は綺麗になっている。どうやらパーシヴァルが不在のタイミングで、かの幼馴染たちは掃除をする習慣になっているらしい。
だから、ランスロットの心の準備とやらができるまでは、せっせと外泊をすることでしか部屋を綺麗に保つことしかできないのだ。パーシヴァルは甘い溜息を一つついた。
2017.8
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