雨ふる夜さり

ヴェラン
めそめそしています

 彼はベッドのほんの端に腰かけていた。
 こちらを向けられた背中は広くてたくましいのに、力なくうつむいているからうなじがよく見える。麦の穂みたいな色をした髪がきちんと刈り揃えられた生え際を見て、ランスロットはたまらない気持ちになった。
 声はかけぬまま通り過ぎて、ランスロットは彼の座る反対側からベッドに乗り上げる。温める人のいないシーツはひんやりしていた。
 シーツの中にすっかり潜り込んで、重なった枕の上でちょうどいい場所を探す。そうする間もヴェインは座り込んだまま動こうとしない。
「寒いだろ、こっちに来たらどうだ」
 すっかり口に出した後で気恥ずかしい思いにかられた。こっちに来いなんて、直接的すぎただろうか。しかし、今夜はランスロットから誘ったのだから今更と言えば今更だ。
 ランスロットが瑣末な物思いにかられていると、ようやくヴェインはおずおずと振り返った。
「ランちゃん……
 ランスロットにまっすぐ向けられたみどりの瞳はうるんで、鼻の頭は赤く染まっている。その頬が幼い丸みを帯びていたころは、涙の筋がいくつも通っていた。大人になったヴェインは乱暴に目元をこすると、またそっぽを向いてしまった。ばつが悪いというよりは、ランスロットの方を見ていられないようだ。
「ヴェイン、泣いてるのか」
 ランスロットはシーツを跳ね除けて飛び起きた。広く造られたベッドと言えど数歩もない。しかし、気が焦るだけ、寝台はたわみ、シーツは滑った。
 膝立ちのまま震える肩の真後ろまでやってくると、ヴェインがこわごわと口を開いた。
「だって、ランちゃんが俺のこと……
 言葉はそれっきり途切れてしまった。続く言葉は何だろうか。彼の琴線を刺激したものは何だろうか。気にはなるが、ちょっと恥ずかしいことを言って寝室に誘い出した自覚のあるランスロットは聞き出す勇気が持てなかった。
 代わりにもっともありふれた言葉を口にする。
「ヴェイン、好きだ」
 ランスロットの言葉にヴェインは体をすくませて、鼻をすんと鳴らした。
「なあ、こっち向いてくれないか」
 追い討ちをかけるように言葉をつづけると、ヴェインは素直に従って半身だけ向きを直す。シーツの上に乗せ上げたヴェインの片膝の近くにランスロットが腰を下ろした。二人の目線が揃うと、自然と体を寄せて抱き合っていた。

「ふふ、頬が冷たい」
 口づけの合間にランスロットは笑った。ぴったりと顔と顔がくっつくと、ヴェインの零したものはランスロットの頬も濡らしたからだ。熱いしずくだったものは、暖炉の火も途絶えた部屋の空気で冷やされてしまったようだ。
「俺、情けないかな」
 ランスロットはゆるく首を振った。ヴェインの瞳がまた潤み出す。
 そうしてまた溢れ出たしずくをランスロットは右手の人差し指ですくってやった。ヴェインは思わずぎゅっと瞳を瞑る。子どもじみた仕草にあやすように背中をさすると、ヴェインがしがみついてきた。ランスロットはそれを仰向けに受け止める。今度は顔をうずめられたシャツの襟元が濡れたのが分かった。
 今夜は裸の胸に雨が降るかもしれない。不埒な想像にランスロットはひっそりと笑った。ヴェインはまだ泣いている。

2019.2.18