ワイルドプラム

パージク
ビストロイベのときに書いた

「いいものがあるんだ」
話の途中でジークフリートはそれだけ言うと、厨房にさっと入っていった。のどを潤すためにコーヒーでも淹れるかという頃合いだった。
パーシヴァルが返事をする間もなかったが、彼がいいものと言うならばいいものなのだろう。
ジャックの店は開店前で、もっと詳しく言うと仕込みを始めるよりまだ早い時間だった。店主のジャックは、町内の寄合に顔を出している。店の中はがらんとしていた。
ジークフリートはすぐに戻ってきて、右手には何かを持っていた。いいものとやらは籠に無造作に盛られた丸い果実だったようだ。
赤い果実が黒く熟していく途中なのだろうか。色が混ざり合って、自然が見せる素朴な美しさがあった。
「ジークフリート、これは何だ」
「プラムだ、野生のものだが」
ジークフリートの返事は明瞭だが、いつもすこし物足りない。今回は、パーシヴァルが口を開く前にジークフリートが心得顔をした。
「今回の趣向にあわせてフルーツも山に自生するものを使ってみようかと考えもしたが、店に出すほどは数が見つからなくてな」
言われてみれば、籠の上の果実たちは形も大きさも不揃いだった。つまり、店に出すには至らなかった食料を腹におさめてしまおうということらしい。
「あいつらは呼ばないのか」
パーシヴァルは店の扉の方をなんとなく見た。よく知った顔が今にも扉を開いてきそうだ。
だけど、ジークフリートはゆるく首を振った。
「これは追熟するとねっとりと甘くなるんだ。まあ、ランスロットはそちらの方が好きだろう」
「そうだな」
「お前は、甘いものはあまり食べないだろ」
ジークフリートは小さな実をぽんとひとつ投げてよこした。手のひらに落ちてきたのは確かに引き締まった硬い実のようだ。ジークフリートも同じように赤い実をひとつとり、皮ごと口に持っていく。どうやらこれは皮ごと食べられるものらしい。
見よう見まねで齧ってみると、ぴりっとした酸味が口の中を走った。しかし、果肉は水気が多く柔らかい甘い味がする。
「美味い」
パーシヴァルは素直に思ったままを口にした。
「実は、俺もこのまだ青いのを食べるのが、好きなんだ」
それを聞いたジークフリートは目を細めて、いかにも嬉しそうな顔をする。
「そうか……俺も好きだ」
パーシヴァルの喉元を甘く酸っぱいみずみずしいものが通り過ぎていった。

2018.12