ぽふむん
2025-01-18 23:02:05
2716文字
Public ワンドロ
 

つがいの雪うさぎ

#童しの版深夜の真剣物書き60分一本勝負
「雪あかり」「霜焼け」「コントロール」
前回のワンドロの続編です。
霜焼けと言うより、凍傷で足を切断するかしないかの瀬戸際にいた隊士の看護で心を痛めたしのぶちゃん。
その姿を見ていたら、感情のコントロールが上手くいかなくなった童磨です
冬の陽が登りきらない雪景色の下でのデートです。
本当はもっと「狐とたぬきの化かし合い」みたいなヒリヒリした会話を書きたかったんですが、即興では無理でしたw
脳の容量をだいぶ使ったので、結構時間かかりました

激しい風が戸板をたたく音も、いつしか静かになった。
風雪に怯え、寝付けない様子だった患者も、ようやく安堵し夢の中。
当初、足の切断も考えられた患者も、何とかそこまでには至らずに済んだ。
しのぶは、ほうっと息をついた。

良かった

このようなことがないのが1番だが、一先ず良かったと言うべきだろう。

そういえば、童磨がいつの間にやらいない。
自分だけ寝に行った訳では無い。
そうならば

「しのぶちゃん。あとはみんなに任せて寝よう♬.*゚睡眠不足はお肌の大敵だよ」

というあたりの軽口を叩き、共寝に誘って来るはず。
今宵はそれがなかった。

風の音が止んでしばらく経ってから、何やら物音がした。
様子を見に行った神山が、渋い顔で戻って来るや否や、童磨に何やら耳打ちした。
それに難しい表情で応え、そちらに行ってそれっきりだ。
あまりいい話ではなさそう。
そう思いつつ、しのぶは童磨の行った方へ向かった



「いやはや、どういうおつもりだったのかな?君のご主人は……

案の定だ。
まだ陽が登らない。
なんとはなしに東の空が白んできた雪の中、童磨の声がする。
しのぶは建物の陰に隠れ聞き耳を立てた。
童磨の口調は、いつもの軽薄なものでは無い。
しのぶにだけ聞かせる、優しい、甘い声でもない。
警戒しながらも、最大限に相手を批難するもの。
それでいて……丁寧さは無くさない。
慇懃無礼というのはこのことか。

「生憎……平地の者故、山の事は分からなかったんだよ。まさかあんなにいい日和が急変するとはね……驚いたよ」
童磨のものとは違う美声が聞こえる。
発声の仕方が、人間とは違う気がする。

鴉だ
他の鴉より流暢だが、紛れもなく鴉のもの。

「ふふ……よく言う……いや、ご謙遜を。本当は知っていたのでは?産屋敷殿は」
やはり産屋敷の鴉だ。
その鴉を童磨は睨みつけている。

「そんな怖い顔をしないでおくれ。
買いかぶりすぎというやつだよ。そんなわけないさ」

「嘘は言わなくていい……未必の故意ってやつ?……もしかしてこれ、いわゆる間引きじゃない?」
童磨の冷たい声が響く
「彼らは剣士としては未熟。かといって隠になれるような器用さも無い。平凡な一般市民でいればいいのに、なまじやる気だけは強い。
かといって、鬼殺の為に使える産屋敷家の資産にも限度がある……あの屋敷の管理にも金がいる。柱にも……給金渡しすぎだよねぇ……没落したら元も子もないねぇ……ま、いいかぁ」

童磨のこの推察に、鴉は一瞬押し黙ったが

「君がそんなに義侠心に燃えるとは珍しいね……いや、義侠心とはなにか違うね」
らしくないと揶揄してきた。
「君からの下知に従い、現地民の助言も聞かず……白い闇に飲まれ遭難しかけただけなら、自業自得だね……でも、医療部隊は違う。あの子優しいから、何も出来なかったとなれば心を痛めるに決まってる」

その言葉に鴉は笑った。
「しのぶのこととなると人が変わるね」
「悪いかい?当然でしょう。
たった一つの魂すら愛おしく思えない者が、多くの魂を愛せるものか……あの子がそう教えてくれた」

君もそうじゃないのかい?と問う童磨の口調は慇懃に無礼。
キランと冷たい虹蜺が相手をうかがう。
それが、ふと背後の物を認めると柔らかくなる。

「さぁ、話はこれまで。あー寒」
大袈裟に寒がる素振りをした。
「では中に……
「野鳥はどんな菌を持ってるかわかったものじゃない。嫌だね……用は済んだろう。とっととお帰り」
鴉を追い払った。
鴉の行先を見届けながら童磨は思う。
(本当は、自分が一番なんだろう?……君にとって、妻子も目的の為の手駒に過ぎないんじゃないのかい?)
そしてクルッと、優しい瞳で振り返ると

「しーのぶちゃん♬.*゚おはよう。お外寒いよ。
あ、やだなぁ。手冷たーい」
先程までの口調は別人のよう。
まるで道化のようにおどけた口調になると、隠れていたしのぶに駆け寄った。
そして、その手を包み込んだ。

「しのぶちゃん……もしかして、少し泣いた?……目の下真っ赤。あ、擦っちゃダメ」
目をのぞき込まれたから、慌てて目を擦るとその手を抑え込まれた。
「しのぶちゃーん?泣かないでーほーら、べろべろ
……ばぁ」
赤子をあやす様に変顔までする。
しのぶに泣かれるとどうしていいのか分からなくなるのだ。
「雪うさぎ作ろうねぇ」
雪のかたまりを作り出す。
何とかしのぶを笑わせたくて必死な大男。
美青年が台無しだ

「子供扱いしないでください」
そう言うしのぶの声が震え出す。
童磨はしのぶが泣いていると判断した。
しのぶの涙が大っ嫌いなこの青年は、しのぶから目を逸らす。
「ほぉら、笑ってほら、雪うさぎ作ろう」
しのぶは、こんなものを喜ぶ幼い娘ではない。
なのに、何とか歓心を呼びたい。
必死で考えたのがこれ。
せっせとふたつの大小の雪玉を作り、傍にあった南天の実で目を作り耳を作り。
しのぶはその光景が滑稽で笑っているのだが、青年は気づいていない。
「ほら、ほぉら……泣いちゃダメ。ほら、2匹できた」

そこにあるのは大小のうさぎ
1羽は眉毛がある。
困り眉の立派な眉毛

「ぷっ……うくく…………れ童磨うさぎ」
見事なまでに童磨の顔の特徴を捉えたうさぎに、しのぶは笑いをこらえるのに必死だ。
「しのぶちゃん……笑ったね。やった♬.*゚こっちはね、しのぶちゃんだよ」
小さい方には器用に蝶々がついている。

何とか笑わせようと無理をしてあたふたしている様がおかしくて

「童磨……ちょっとこちら向いてください」
そう言って振り返らせると、しのぶは童磨の唇の端に、触れるだけの軽い口付けを落とした
「は……????え???」
童磨の動きが固まった
「元気づけようと必死になって……ふふ……おかしい……もう一回?」
そう言うと今度は唇に

……
しばしの沈黙の後

…………きゃーーーー!!!し、ししししのぶちゃ……ダメ……赤ちゃん出来」
童磨は見事なまでに真っ赤に染まって叫んだ。
その動揺っぷりがおかしい。
「ふふふ、これくらいじゃ子どもなんてできません」
子供の作り方なんて知ってるくせに、思いの外ウブな反応をする童磨がおかしくてたまらない。
「お………………しのぶちゃんの元気な子産むから……何人でも」
動揺しすぎて素っ頓狂なことまで言い出す始末。

「あなたが?」

「ん……ん???もちろ……あれ??」
傍から見たら珍妙な会話が繰り広げられる。
朝日が昇る。
雪が朝日を浴びてキラキラ光っていた。