ジョニーが暫く来訪しない内に、レオの自宅で幅を利かせているのはどうやら小型掃除機らしい。内蔵された法力が上手い事働いて動作する真っ黒い円盤型の塊は壁沿いをゆっくりと移動し、床の塵を吸い上げる使命を静かに全うしている。
王という多忙な職務に就く以上家事を自らこなす時間はそう多くなく、掃除に洗濯その他諸々の雑事は雇い入れたハウスキーパーに一任しているらしい目の前の男に、これをわざわざ買う姿がジョニーの中では妙にマッチしない。
「…こいつは新手のペットか?」
視線を手元にある書類の束から問題の小型掃除機へ向け、レオはとても深い溜息をついた。その表情は哀愁に満ちており、ただの家具でないのは明らかである。
「姉から不用品として押し付け……送り付けられた物でな」
「ほう、家族からのプレゼントか。それで大事に使ってるってか?」
いい姉と言わんばかりのその言に、首を横に振りかぶり否定する。そこにあるのは絶対的な恐怖と絶望。
「次安易に捨てたら俺の身がどうなるか俺ですら分からん…
つまり!そいつが今してるのは掃除じゃない、ある程度使った実績作りだ」
「中々ハードなレディだぜ…」
―この間送られてきた家具う?ああアレか。家にあっても使わないから捨てたぞ
馬鹿正直にそう報告したのが最後。前は正座で散々説教された直後、大砲に詰められてぶっ飛ばされた。もう次は無い。
「とは言うが、その辺彷徨かれてちゃあムードもロケーションもあったモンじゃねえ」
話を聞きながらもジョニーはいつの間にかレオの近くに立っていて、彼が座るチェアの後ろからその身を乗り出す。
こんな話の流れなのにいきなり色めいた空間となってしまった。あの低く男らしい声がわざと耳を擽るような距離で発される。意識するなという方が難しくて思わずジョニーの方に思い切り振り向くと、唇で全ての言葉を塞がれる。
「ん…ッ……」
されるばかりじゃいられないとレオから舌を絡めてみる。大胆な行動に反して、口元をモゴモゴと不器用に動かす不慣れな様子。息継ぎに一旦離すと、してやったりと言わんばかりの表情だ。その何もかもでジョニーの熱は煽られて、これ以上を求めたくなった。
「邪魔されねえ所でシよう、ッだァ!!!!!!??」
「は??」
突然叫びプルプルと蹲るジョニーの足元にそれは居た。あの真っ黒い円盤型の小型掃除機が、ガシンガシンと結構な勢いでぶつかり続けている。思わぬ方向からの予期せぬ暴力。なんだ故障かとレオが身を屈めディスプレイを確認すると、極めつけのエラー文章が表示されていく。
『進行方向に障害物が存在します。取り除いて下さい』
「こいつ…意思あるんじゃねえか…?」
ポチッ。
障害物と断定された男はボヤき、表面にあるそれっぽいスイッチをちょっと強めに押す。数秒ののち掃除機はぱったりと停止して、ようやく静寂と平和が訪れた。
あの伊達男とさっきまでのいい雰囲気の二つを一撃でぶち壊した機体を見つめ、レオは今日という日に誓う。お前達の犠牲を決して無駄にはしない。
今度から別の部屋で動かそう―。
終
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.