水樹
2025-01-17 21:30:30
2678文字
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両片思いが実る瞬間に立ち会った話

モブ店員視点スグアオ。

 ここはイッシュ某所。小さな手作り雑貨店です。……え、私? 私はそこの店員で……名前、ですか? 別にいいでしょうそんなのは。
 そんなことより聞いてください! 私、とっても尊くて素晴らしい瞬間に立ち会ってしまったんです! いや、立ち会ったというか、きっかけをつくったというか。……あれ? よくよく考えてみれば私、所謂キューピッドだったのでは……? え、なにそれめっちゃくちゃやばくないですか!?!?
 …………こほん。失礼しました。では、本題に入りましょうか。



 ある日、いつものように店番をしていたら。ショーウィンドウの前に二人組がいたんです。いや、別にそれ自体はさほど珍しくもなんともないんですけどね。この時はあんな尊いことになるなんて思いもしてなかったんですよ。ええ。
 ……話を戻しますね。
 少し会話をしていたかと思うと、その二人が来店しました。

「いらっしゃいませー」
「こんにちは!」
「こ、こんにちは」

 顔の横で揺れる三つ編みが特徴的な、元気で可愛らしい女の子と、聞き慣れない言葉混じりで話す、紫のインナーカラーが目を引く黒髪の男の子。店内には私含めその三人だけでした。まあ小さな個人経営のお店ですし、閑古マメパトが鳴いていることもしばしば……って、また話が逸れてしまいましたね。
 それで、ええと。
 時々スマホロトム――おそらくメモアプリかなにかでしょう――を見ながら、商品を手にとっては戻しを繰り返し、顔を見合わせては笑い合って。二人の周りには花が舞い飛んでいるようでした。ええもちろん私の幻覚ですよそんなの決まってるじゃないですか。

「スグリ、これとかどうかな?」
「んー……それはちょっと……あ、アオイこれは?」
「うーん……
「だめか」
「難しいね」
「だなあ……

 ふと、女の子と、目が合いました。

「あの、店員さん」
「はい、なんでしょう?」
「えっと、このお店のおすすめって、何かありますか?」
……おすすめ、ですか」

 はてさて困りました。なんてったって全部おすすめなんです。どれもこれもこだわりぬいている商品ばかりなので、いざ選べと言われるとかなり、かーなーり難しいことになります。
 なのでここは。
 選択肢を絞ってみることにしました。

……申し訳ありませんが、ひとつ質問させていただいても?」
「? はい。いいですよ?」
「お求めのものは、ご自分用ですか?」
「あ、いえ。スグリの……
「ねーちゃ……俺の姉へのプレゼントです」
「なるほど、お姉さんへの」

 ふむ……。誰かへのプレゼントとなると、さらに難しいですね。万人受けする感じのものって、あまり多くはないんですよねうち。
 ……ならば。

「こちらはいかがですか?」
「わあ……!」

 案内したのは、ポケモンモチーフの小物を集めた棚。その中の一つ、コースターを手に取る。

「これはコースターなんですが、飾ってもかわいいんですよ。両面違う仕様になってますので、気分によって使い分けたりもできますし」
「わ、ほんとだ。ねえスグリ、これ見てみて!」
……モルペコ?」
「こっちはまんぷくもようで、ひっくり返すとー?」
「はらぺこもようだ」
「ふふ。私これにしようかな。ふたつ買っていこーっと」
「ありがとうございます」
「スグリはどうする?」
「んー……俺は、これにしようかな」

 そう言って手にしたのは、ハハコモリイメージのハンカチ。コースターとは違い全面にポケモンを押し出している感じではないので、うちの商品の中では結構人気なんですよね。

「店員さん、ありがとうございました!」
「いえ。喜んでもらえるといいですね」
「はい! …………あ」
「どうしました?」
……な、なんでもないです。お会計お願いします」
「かしこまりました」

 女の子の分の会計を終え、続いて男の子の分を。

「包装はいかがいたしますか?」
「あ、お願いします」
「では少々お時間いただきます」
「はい」

 それにしても。

「お姉さんのプレゼントを一緒に買いに行ってくれるなんて、とっても素敵でいい彼女さんですね!」
「えっ」
「えっ」

 声が重なりました。
 ……私、勘違いしてたのかしら? いやでもどうみても相思相愛……では?

「や、そのっ! かっ、かかか、かの、彼女じゃない、です!!」
「っそ、そうです彼女じゃ」
「まだ!!」
「へっ?」
「あ」

 ……あら? これって、もしかして。

「〜〜〜〜っっ!!」
「あっ、スグリ待って!」
「お品物! お忘れですよ!」
「っ、ありがとうございますっ!」
「あの、ありがとうございました!」
「あ、はいっ! またどうぞ」

 店内が一気にしん、と静まりかえります。
 余計なこと言ってしまったわ、とため息をひとつおとすと、先ほどの男の子が未だ真っ赤に染まった顔のまま再び来店しました。何か忘れ物? だけどお姉さんへのプレゼントはしっかり持っていったはずよね? 買い忘れ? 返品? わ、私に文句言いに来たのかしら!?

……っ、これ、ください」
…………はい?」
「これよりも簡素でいいので、包装もお願いします」
「あ、はい。かしこまりました……?」

 ……カジッチュの、ブレスレット…………
 え、もしかして、もしかします? き、聞きたい……! ですが、さっきのことを考えると聞くわけにもいきません。ぐっと、ぐぅっとこらえます。

「ありがとうございました」
……こちらこそ」

 ――きっかけをくれて、ありがとうございます。
 男の子はぽつりと、そう言いました。


 しばらくして今度は女の子が来店し、同じ……色違いのブレスレットを購入していきました。その手首には、先ほど買われていったばかりのそれがあり。

 尊さのあまり、しばらく呆けてしまいました。

…………マメパト、クルマユ。ペア系グッズ、作った方がいい……?」
「クルッポー?」
…………

 お願い返事してよクルマユ。マメパトは……多分何もわかってない。いつもの反応だもの。
 とりあえず。
 ガラルの、カジッチュのジンクスを教えてくれた旅好きの友人に感謝しておきましょう。



 ……ということです。っはぁあぁあ、思い返しても尊すぎる……! なんていうかもう、一生ものの思い出です……
 ……え? うちの評判? 見てわかりません?


 あいもかわらず、閑古マメパトが鳴いてますよ。