望月 鏡翠
2025-01-17 21:06:32
1196文字
Public 日課
 

男は文字を知らぬ故、何も残さなかった。

モブ視点二次創作

 俺たちの流した血は、どうやら美しい花となったようだ。
 名も知らぬ小国からやってくる姫はどうやら、今までの后の中で一等美しいらしい。
 そんな前評判が聞こえていたが、やってきた后のかんばせを、我々は知らない。
 目の前を貴人が通れば叩頭するだけの一介の将。上の方々のことは、噂や命令を通して降ってくる。雨や陽と同じく、降り注いでくるものを、確と受け止め日々を繋いでいる。
 ただ街を抜ける籠の美しさ、それを歓待するために敷かれた道を見て、その中にあるものを想像しただけだ。
 そうして、どうやらあの戦いの先に結ぶ花があったのだと、ふっと思い至ったのだ。新たな后を迎え入れ、考えるのは世継ぎのこと、次の世のこと。
 戦場に出れば、死なぬために戦うだけである。領地を守り、国土を広げ、内乱を納める。振るった刃の意味は、王と将軍が決める。そうして、運良く生き延びた先が、今の地位である。
 その先のことを考えたことはなかったが、上が世が平和になった後のことを営み始めたことで、ようやく俺もこの国は先に進んだことを実感した。
 その花を、王は大層お気に召したらしい。
 まず、市井にいた腕のいい玉の職人が、王宮へ召し上げられた。
 彼を迎えに行ったのは俺だ。
 あのときの誇らしい顔が、忘れられない。
 空になった店には、誰も帰ってくることはなく、次いで一族郎党も消えた。どこぞの刑場で地面の染みになったのだという。
 国中の花を集めてこいと言われたとき、どうしてそんなことをという部下にかける言葉はなかった。
 枝を打つ背中に、それは実を取るための花だと嘆く農夫の嘆きを聞いていた。
 これは一体、何になるのだろう。
 例えば土を耕すことは、実りを生む。
 日々の鍛錬は、兵を鍛える。
 人の営みは、国を作る。
 ではこれは。
 俺は、部下に命令を下す傍ら、自分に言い聞かせる。
 世が変わったのだ。王が俺たちを顧みなくなったわけではない。戦の時代ではなくなっただけだ。
 生活のものは不足するのに、小間物や絹、調度の店ばかりが増えていく。子に与える粥すらないのに、美しい着物を後生大事に握りしめている。
 昕后が求めれば、値を問わずいくらでだって売れるからだ。市場の物は天井知らずに値を上げていく。その因果を王が知らぬはずはない。わからぬはずはない。
 そのはずだ。
 救国の英雄が、都から消えた。
 知将と謳われた男が、首を切られた。
 誰かが言った。王は徒花を掴んだのだ。どれほど水をやったところで、実を結ぶことはない。
 花が枯れるより前にそれを言った首が飛び、やがて、刃は俺の首の上にも落ちた。
 勅令である。
 名誉なことだ。顔も知らぬであろう将の言葉が、王に届くことがあるのだ。
 最後の瞬間、刑場の血溜まりを見ながら、思った。
 この国に流れた血は、一体何になったのだろう。