頻子
2025-01-17 00:49:06
1343文字
Public KODR二次
 

言ってくれればあげたのに(KODR)

ベケニュ←ウル
シリアス(ニュート没後)
ウルハム視点


 ニュート様がいなくなってから、あっというまに、魔界からはニュート様の痕跡がすっかりなくなってしまった。お城はすっかり改築されて、動かされた肖像画はどこに行ったか分からない。書庫の資料整理のとき、火事があって、いくらかの記録が焼失した。……貴重な本もあったのに。
 地図が書き変わって、地名が変わった。ニュート様の増やしたさいごの石炭が燃え尽きて、新しい色になって、なにもかもぜんぶ、最初からなかったみたいになった。
 きっと、吸血鬼一族は、元無種族の王様なんて覚えていたくないんだろう。でもそれは、ベーケス2世の……元ベーケス2世の本心じゃないと知っていた。
 僕は、ベーケス2世も、ニュート様も好きだ。
「ねえ、2世、僕……
 僕は、ベーケス2世を慰めてあげようと思って、ニュート様の写真を持って行ってあげた。1世さんにとられちゃったんでしょう。
 ご飯を食べているところ、笑っているところ、寝ているところ。無種族の、無邪気なニュート様。2世は僕の話を聞かず、しつこく話しかけていると、無表情で僕を吊り上げた。念力は昔よりもずっと弱い。僕の持っていた写真が、ひらりと落ちた。ベーケス2世は固まって、僕は地面に落とされてしまって、ちょっと頭をさすっているあいだに、ベーケス2世はいなくなっていた。僕の写真はなくなってしまっていた。あーあ。でもほら、やっぱり……
「さいしょっから、2世にあげようと思って持ってきたのに」
 欲しいなら、言えばいいのに。ニュート様を知っている人はどんどん居なくなってしまっていて、元2世は、それを共有できる相手だ。
 ニュート様が吸血鬼にならなかったら、もっと、長生きしたと思うけど。

「ねえ、2世、あの写真だけど……
 あの写真どうしたのって聞いても、2世は何も言わない。知らないとも言わない。嘘つきだ。大事にしてるの? って聞いたら睨まれた。あの写真、……僕は口を慎んだ。ほんとうにおっかない顔をしていた。
 あの写真、どうしてるの。
 僕は、知ってる。少しでも日当たりの良い場所にと置いてあった写真立て。日光で焼けて、魔界王をやっていた時みたいに、少しずつ消えていったんだろうな。こんどはロケット付きのペンダントにしまい込まれた、もうほとんど真っ白に褪せた写真。ニュート様の周りだけ、几帳面に、丸く切り抜かれた写真の残り。型抜きされたハムの残りみたいな部分。首のところだけ、どうしても、切るのがいやだったみたいで、ハサミの輪は露出している肌を避けていた。蛇行する曲線に、ほんとはニュート様、大好きなんだ、と思った。
 やっぱりね。
 きっと、顔も見えなくなって、それでもベーケス2世は、ニュート様の写真を大事に、大事に持っている。
 だったら言ってくれたらいいのに。
 僕の写真は、デジカメだから、写真はもう増えないけど、データは残っている。印刷したものはいくらでもあるし、僕に、ただ言えばあげたのに。僕に、ニュート様をくださいって言えばあげるのに。でも、2世は本当に人の話を聞かないのだ。
 僕は、たった一言、僕に、ニュート様をくださいって言えば、この写真を分けてあげてもいい。
 不意に、僕はニュート様のにおいが懐かしくなった。