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望月 鏡翠
2025-01-16 23:48:57
1204文字
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日課
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#1607 「胡麻」「古い」「バター」
#毎日最低800文字のSSを書く/三題話
とある冬の日のことである。
新雪に足跡を刻みながら歩いていると、私の眼前には普段は見えない様々な生物の痕跡が見えてくる。普段チラリとも姿を見せないが、この辺りには案外とたくさんの動物がいるらしい。うさぎや野ネズミ。雪の表面をチラチラと引っ掻くように微かに後が残っているのは、小鳥だろうか。
四足歩行の獣の肉球の形も残っている。
狸か狐か。あるいは野良犬かもしれない。その中に異質なものを見つけた。それを見つけた時点で、帰るべきだったのかもしれない。素人でも、普通山にいない物だと分かった。大きな一足は、人の足の形に見えた。
だが、そんなはずはないのだ。ここは雪の積もった山道なのだから、靴底が刻まれていたとして素足の形が残っているわけがない。
それは行きはするが、戻ってはいなかった。
薮から走り出て、途中で転んだらしい雪の乱れがある。森の奥に、真っ直ぐに向かっている。私の足を進めたのは、好奇心だった。
理性はいくなと告げていた。
仮にこの雪をものともせずに、走っていったのであれば、当然正気ではない。足跡の果てで死んでいるに違いない。関わらない方が良いものだ。仮に助けを必要としているものであったとして、私がいくべきではない。
しかし、私は足跡を辿った。冬山の奥に、素足で走り込んでいった狂人、この目で確かめてみたかったのだ。
その先にいたのは、一頭の獣だった。足跡は途中で途切れ、灰色の大きな塊が倒れていた。熊かと思った。それは少なくとも人ではないと思ったが、足元はそれ以外の何かであるとは思えなかった。
微かに動いている。呼吸をしているらしい。近づいて触れてみた。古い雑巾のような手触りだった。悪臭がした。汚れが纏わりついて、胡麻を散らしたような真鱈な毛並みをしていた。
人ではないが、獣ではない。何か、恐ろしくも素晴らしいものを発見したことを感じていた。人と獣の間の子のような、不可思議な生き物。
私はこれを、自分だけのものにしたかった。
家に帰り、雪車を持ってくると、それに乗せて運んだ。目を離した隙にいなくなるかもしれないとは思っていなかった。その獣は弱り切っていて、自力ではどこにも行けそうになかったからだ。
見た目の割に、体は軽い。毛ばかりで体が膨らんだ生き物であるらしい。
それを車庫に運び入れると、そこで餌と湯たんぽと布をやり、温めてやりながら回復するのを待った。流石に体を洗わねば、家にいることは躊躇われる汚れ具合だったからだ。
私はそれを、バターと名付けた。
汚れ切ったその生き物の本来の毛並みが、バターのようなとろりとした黄色らしいことがわかったからだ。
足は人。しかし顔は鹿に近く、指先には肉球の膨らみがある。骨格は樹上生活をする猿に近い。
しかし瞳には理性の光が宿る。
それは今までにみたことがないほど、悍ましい生き物だった。
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