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望月 鏡翠
2025-01-16 10:05:58
926文字
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日課
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#1606 「秋風」「新しい」「綱」
#毎日最低800文字のSSを書く/三題話
真夏の熱風が秋風になる頃、その場所に戻ってきた。
想像した通り、前回ほど体力を使わなかった。道に慣れていたこともあるし、下草が枯れて視界も広くなっている。雨が少なくなって、途中の地面もぬかるんでいなかった。その代わり水や食べ物の確保は課題だったが、水場の位置は前回の自分が記録してくれてある。
私の残した印は誰かの役に立ったらしく、水が沸く場所や小川に行く道は、草が踏みしめられてうっすらと道ができていた。
そうして進むと、目の前に断崖が見えてくる。前回はここで体力が尽きて、どうしても先に進めなかった。
命と引き換えにしてでも叶えたい願いは、確かにある。しかしそれは願いが叶うなら、この命を捨ててもいいという意味であって、死んでも構わないとは意味が違う。
前回の私は、何度か崖に挑戦したが、今の実力では無理だと判断した。一度引き返して近くの拠点で体力をつけ、準備を整えて、改めてこの崖に挑むことにしたのだ。
夏を過ぎれば焼け付くような日差しもましになり、体力を奪われることも少なくなるだろうとも考えていたのだ。
前回の半分ほどの日程で崖に辿りついた私は、憎い崖を見上げてため息をついた。
崖に綱が張ってある。恐る恐る体重をかけてみるが、びくともしない。手のひらがチクチクとする、麻を編み込んで作った頑丈なロープだ。
春先に来たときにはこんなものはなかった。
先人がいたのか。僕が手をこまねいている夏の間に、誰かがここを越えていったのだ。
綱は真新しい。まだ数度の風雨しか経験していなさそうだ。
ここ数日張られたというほど最近のものではないが、前回きたときに見逃したわけでもなさそうだ。
「なんだ。悔しいじゃないか」
そんなところで手をこまねいていないで、早くこっちにこいよ。そう言われている気がした。無論やってやるとも。
目の前の岩壁にとりつく。あえて、綱は使わなかった。
誰かの手助けによってではなく、自分の力で先に進む。そう思っていたのだが、結局二度ほど綱に命を救われて、方針を改める。
自尊心を優先して命を失っては元も子もない。そうだろう?
その代わり、次の場所で先人が困っていたら、私が助けてやるさ。
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