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溶けかけ。
2025-01-16 00:10:28
1456文字
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ほぼ日刊
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きみへと贈る恋歌
ヌヴィレットに失恋して傷心したフリーナと数年経って、フリーナが結婚するとなって初めて愛を理解したヌヴィレットの話。
「君のことを愛している
……
だから、行かないでくれ」
ヌヴィレットがフリーナの手首を掴む。
「
……
っ、今更、そんなことを言われて僕が喜ぶとでも思っているのか!?」
振り払ったフリーナの手首にはヌヴィレットの手の跡が薄っすらとついていた。
二年──二年だ。僕と彼の中に流れる時間が違うことは知っていた。だが、これはあまりにも惨すぎる。
「僕がどれだけの決意と覚悟でキミに愛を告げたと思っている!? 僕がどれほどの時間をかけて、キミのことを諦めたと思っているんだ! それを
……
それをキミは全て『愛している』の一言で片付ければ済むと、許されると考えているのか!?」
二年前、フリーナはヌヴィレットに愛を告げた。
臆病な彼女にとっては一世一代の大勝負であった。
結果は──フリーナの惨敗だった。そもそも彼とフリーナでは「愛」というものに対する認識すら違っていたのだ。
「当時の私が君を傷付けたことは百も承知だ。だが、このまま、君を行かせたくない」
フリーナは数日後には入籍をする予定だ。相手はフォンテーヌの有力な貴族の若者。それも恋愛結婚ではなく今どき珍しい政略結婚であった。
歴史が長く、フォンテーヌの主要な産業にも関わっている彼の者の家は、フリーナを所望した。
──手には大量の権利書と婚姻届を携えて。
フリーナとて、その意味が理解できない程馬鹿ではなかった。突然、ヌヴィレットと未来の結婚相手の談合に呼び出されて提示された条件は破格のものであった。それは、ヌヴィレットとパレ・メルモニア、メロピデ要塞の三者が抱えている問題の一端を一気に解決し、ひいてはフォンテーヌに繁栄を齎すであろうことすら、予想ができた。
フリーナ・ドゥ・フォンテーヌ────フォンテーヌを「存続」させるために生まれた、神の人性。ならば、彼女の心は既に決まっていた。
────全てはフォンテーヌのために。
フリーナが自由を諦めてフォンテーヌが栄えるのなら、喜んでその身を差し出す決意は疾うの昔に出来ていた。だが、その一方で浅ましくも望んでしまったのだ。「人としての幸せ」を。
フリーナはその後、考えに考え抜いて、一週間だけ時間を貰うことにした。やらぬ後悔よりやる後悔。彼女はその一週間で、ヌヴィレットに人並みの幸せを求めた。愛を乞うた。だが、彼の「愛の形」はフリーナもメリュジーヌも大差がなかったのだ。我が子のように慈しみ、我が子のように愛する。────ヌヴィレットの愛は彼女の心を蝕んだ。
そして、約束の一週間が終わる日、フリーナはヌヴィレットに別れを告げた。そして、フォンテーヌという愛する祖国のために人柱となることを選んだのだ。
「もう、これ以上
……
期待させないで
……
」
ともすれば、聞きそびれてしまうほど弱々しく震える声でフリーナはヌヴィレットに視線を合わせずに呟いた。
これで、僕と彼の物語は終わりを告げる────フリーナの胸に安堵が広がった。結婚相手の男性は、束縛が激しい人物だと聞いている。きっと、もう二度と会うことはないだろう。
フリーナの唇とヌヴィレットの唇が一瞬だけ触れる。
驚きに目を見開くヌヴィレットにフリーナは微笑んでみせた。
キスをしたのはちょっとした意趣返しのつもりだった。彼の一番になれないのなら、せめて、引っかき傷くらいなら残せるのではないかと思ったのだ。
「さようなら、ヌヴィレット
……
。大好きだったよ」
踵を返し、歩き出す。
行き先はもう決まっていた。
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