
イージエットとナッツイーターの出会い。
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「ご協力ありがとうございました。」
そう敬礼をする
鬼哭隊の調査隊長に手を振り、荷物を抱えて遺跡を後にする。
今日の調査は地下都市ゲルモラ時代の遺跡、イソム・ハーの
穴蔵に現れた迷宮、通称「死者の迷宮」。
話に聞いてはいたけれど、色々制限があってなかなかに手をやかされた。
面白い遺跡ではある
……のだけれど。
自分には合わないな、というのが正直な感想だ。
そんなわけで、地下五十回に到達した時点で早々に引き返してきた。
「なんか、肩が
凝る場所だったな
……。」
そう
呟きながら整理のために荷物を
漁る。すると、なぜだか温かく柔らかな物が革手袋越しに触れた。しかもモゾモゾと動いている。
おかしいな。虫でも入ったかな?
そう思いながら逃げようとするソレを素早く掴み、引き抜くと
――。
「
……?」
手の中にはくりくりとした目をした小動物がいた。
慌てて優しく地面に下ろすが、何故か逃げようとせず、小さな首を
傾げてこちらを見上げている。
え?なんでリスが荷物に
紛れているの
……?
予測していない事態に首を
捻っていると、背後からやってきた鑑定士の女性がコロコロと笑った。
「あら、珍しい。ナッツイーターじゃない。」
「ナッツイーター?」
「ええ。ラノシア地方に生息しているリスよ。アイアンエコーンが主食で、かつてはレインキャッチャー樹林にたくさんいたらしいのだけれど、人の手が入ってしまった事と霊災の影響で数が激減したとかで。今では滅多に見られない、幻のリスとも言われているわ。」
「幻のリス
……。」
「きっと冒険者か商人の荷物に紛れてきてしまったのね。けれど
幸い、ここは恵み多き
黒衣森。生きていくには困らないでしょう。」
優しい笑みを浮かべた鑑定士の女性は、そう言って地面に落ちていたウォルナットをナッツイーターに差し出す。小さな前足でそれを受け取ったものの、自分と同じ大きさの木の実は抱えきれず、全身でしがみつくような体勢となり
……コロンと転がった。
――可愛い。
じっと見つめていると、クスクスと笑われてしまう。
バツの悪さに顔を
顰め、荷物の中から埋もれた財宝を差し出せば、受け取った鑑定士の女性は本来の持ち場へと引き返していった。
しばらくウォルナットを抱えてころころ転がるナッツイーターをなんの気なしに見ていると、遠くから名前を呼ばれる。どうやら鑑定が完了したようだ。
「じゃあね。」
こちらを見上げる小さな生き物に手を振って、その場を後にした。
きっともう会うことは無いだろう。
――その時は確かにそう思ったんだ。
最初に違和感を感じたのは、ムントゥイ
醸造庫を抜け東部森林に入ったあたりだ。
何処からか視線を感じる。それも
何故か木の上のような高い場所から。
仕事柄、南部森林を根城にしている危険部族と相対することもあるし、
拠点を
潰すこともある。だから最初はそういったヤツなんだと思った。でもそのわりには殺気が感じられない。
一体何なのだろう?
首をひねりつつ街道を
逸れる。なんにせよ、尾行されているのならば森の中を通った方がいいだろう。
いつ襲撃されるか気を配りながらしばらく歩き、
境樹の脇を通り過ぎたその時
――。
ドサッと後頭部に何かが落ちてきた。
小さくてモゾモゾ動いている。しかもやけに温かくふわふわしていて、首筋が
擽ったい。
……もしかして。
思い当たる物を想像していたら、ムキュッと可愛らしい声が聞こえた。
……やっぱりか。
額に手をあて
項垂れるオレを
他所に、小さな生き物は落ち着く場所を見つけたらしい。背中に流したフードがやけに重たくなった。
本来なら森に返すべきなのだろうけど。
――まあ、いいか。
出てくる気配もないし、無理に置いていこうとしてもまたついてくるだろう。
幸い今の住居は木々に囲まれているし、餌にも困らない筈だ。
そんなことを考えながら、予定外の荷物を抱えてのんびりと
家路に着いた。
「ただいま。」
「おう、おかえり。」
門をくぐると、庭先に出て小さな畑から野菜を収穫していた同居人こと相棒兼恋人が、
朗らかな笑みを返す。
「例の遺跡はどうだったんだ?なんか変な術がかかってんだろ?」
表情を曇らせる彼に、なんともないと首を横に振った。
「入るたびにフロアの構造が変わるからね。武器も特殊なものを使わなければいけないし、制限が多い割に神経使うから、出来ればもう行きたくはない、かな。しかもなんか薄ら寒いし、空気も重いし。」
正直な感想を口にすれば、きょとんとした目をし、すぐに苦笑する。
「ああ、肌に合わねえって事か。まあ、それならそうすりゃいいさ。」
そう言いながら
採った野菜を束ねる彼の脇を通り過ぎたその時、おい、と声を掛けられた。
「?」
「なんかいるぞ?」
振り向くと、彼は
訝しげに眉を
顰めている。そして止める間もなく、背中のフードに手を突っ込んだ。と、同時に背中が軽くなる。足元には予想どおり、クォーリーミルで別れたはずのナッツイーターがいた。
「どうしたんだ?そのリス。」
「『死者の迷宮』から出たら、荷物に
紛れてた。」
跪き、その小さな
顎下を
撫でると、どことなく不満気な声の彼にそう返す。
「
……返してこい、そんなヤツ。」
「置いてきたんだけど、ついてきたんだよ。」
苦々しい顔をする彼を見上げてそう伝えれば、ますます不機嫌な顔になる。
何がそんなに嫌なのだろう?たかだかリス一匹、特に害になるような事なんて無いのに。
首を
傾げるオレを他所に、彼は
顰め
面のまま小動物の首根っこを捕まえ、目線の高さへ引き上げた。そしてされるがまま大人しくしているナッツイーターへ鋭い視線を向ける。
じっとお互い見つめあってしばらく、突然ぺいっと放り投げた。
「ちょっと!何する
……。」
んだよ、という間もなく、投げられた小動物は空中でくるりと一回転し、危なげなく木人の上へ着地する。
ほっとするオレの横で、彼は
忌々しげに舌打ちをした。そして
大仰にため息をつく。
「まあ、ついてきちまったモンはしゃあねえ。家ん中で飼うわけじゃねえんだろ?」
「ああ、うん。その方があの子も気が楽だろうし、あんまりヒトに縛り付けるような事はしたくないからね。」
そう答えると、彼はガリガリと頭をかいた。
「
……だったら、いい。」
まだ面白く無さそうな顔はしているけれど、どうやら家の周辺に居着く事には納得してくれたようだ。
その事にホッとしつつ、木人の上で
辺りを見回すナッツイーターに目を向ける。
「好きに暮らしてくれればいいからね。オレはここに居るから。」
そう声をかけると、顔を上げてムキュッと一声鳴いた。その姿に目を細めていると、不意に頭を小突かれる。
「おら、入んぞ。お前は着替えてこいよ。」
振り向けば、野菜を抱えた彼がぶすくされた顔をしていた。その顔と声と仕草が、何故だか妙に可愛いらしい。
「はいはい。」
そう軽く返事をすると、庭先の新しい住人に背を向けた。
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