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くこ
2025-01-15 14:09:46
2849文字
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たきび(王最)
https://privatter.net/p/3626432
王最ワンドロを勝手にやっていこう企画
パチパチ、火が爆ぜる。
時刻はまだお昼を過ぎた頃だったが、かまどのある部屋は薄暗く、静かだった。時折、かた、と小さな音を立てて、添え木が倒れる。
炎がゆらめく様子を、王馬は最原の背中越しに眺めていた。遠くで、茶柱の叫ぶ声がする。ほとんど同時に、夢野の笑い声も聞こえてきたから、女子のみんなで何か騒いでいるのだろう。
今日は、何の変哲もない休日だったが、誰が言い出したか、クラスメイト総勢でキャンプに来ていた。
名目は、真宮寺のフィールドワークの見学であったが、参加している面子が、それを覚えているかは定かでない。眼下に海を持つ小山のひとつを、数時間ハイキングして山小屋に到着した頃は、景色や生物よりも、見かけた河原でどうやって遊ぶかにご執心であった。荷物を小屋に投げ出して早々、一目散に駆け出すのは、当然、王馬の役目であったが。それを差し引いても、ちょっとした非日常感に、皆、多かれ少なかれ高揚していた。
小屋、というよりも、古民家に近いのであろうか。鬱蒼と生い茂る木々の合間に、そっとそびえ立つ木造の建物。しけった木板が、森のにおいをかもし出す。
ひととおり騒ぎ立て、盛り上げ、各々がなんとなくグループに別れつつある頃、王馬はそっと河原から離れた。キーボをからかったり、獄原をおちょくったり、東条に泣きついたりと、喉を酷使したせいもあり、喉がからからだ。
用意のいい東条が準備した飲み物を、獄原をはじめとする男性陣が手分けして運んできたので、冷蔵庫にいくつか飲み物が入っている。適当な飲料水を取り出して、ペットボトルのまま口をつけた。
そこで、ふと、見慣れた背中を見つける。
近頃はかぶっていなかった黒いキャップを身につけた、最原だ。今日は日差しが強かったので、日焼けを意識してかぶってきたのだろう。おそらく、春川あたりが助言したに違いない。本人発案でないことは、断言できる。
しゃがんで、何かをしているようだ。少し奥まったところにいる最原の背中で、その向こうにあるものは、よく見えない。
「なにしてんのー」
ペットボトルの中身を減らしながら、とことこと近づく。声と気配に気づいた最原が、振り返った。
「王馬くん。戻ってきてたんだ」
「まったく、みんなガキだよねー。あんなにはしゃいじゃって。オレはおとなだから、そろそろ疲れちゃったよ」
「率先して川に飛び込んでいったの、王馬くんだろ
……
」
王馬のいつもの調子に、最原が律儀につっこむ。そこがつまらなくないとこだけどね、声には出さず、代わりに別のことをしゃべる。
「で、なにしてんの。
……
ほんとに、なにしてんの」
彼の後ろを覗き込み、3回目の問いを重ねる。本音の気配を嗅ぎ取っているのか否か、少し興奮気味に探偵が説明する。
「かまどだよ、かまど! すごくない? 僕、初めて見るんだよね」
それはわかっている。古風な建物だったので、違和感もそれほど無い。
最原の手元にある、細長く切られた薪と、かまどとを交互に見遣る。
「もしかして、火、つけようとしてたの」
「うん。たぶん、こういう組み方でいいんだと思うんだけど」
もう片方の手に持ったスマートフォンの画面を、最原が確かめる。その様子をちらりと横目で一瞥し、王馬も隣にしゃがみ込んだ。
「これだと、たねが足りないかな。もう少し新聞紙入れたら? あと、ここ、空気通ってないから、ちょっとずらしたほうがいいとおもう」
「王馬くん、詳しいの」
「人並み」
火おこしができるのは、人並みなのだろうか
……
と、最原が首を傾げる。その手からライターを受け取り、少し薪のかたちを整えた王馬は、新聞紙に火を近づけた。
「もうちょい細かい木を入れといたほうがいいかもね。すぐ消えちゃいそう」
「えー、あんなにやってもつかなかったのに
……
なんで
……
すごい
……
」
赤い火がゆらめきはじめたのを見て、最原が、感嘆半分、悔しさ半分につぶやく。
ふっ、と笑った王馬が、その唇を奪った。ついばむようなキスで、すぐさま顔は離れていったが、突然のことだったので、最原はうまく反応できない。数秒後、ようやく理解した頭が、顔へ血流を促す。
「急に何!」
「間抜けな顔してたからー」
にしし、見慣れた悪戯っ子の笑顔に、最原は二の句が継げない。その様子に気をよくした王馬が、今度は最原の後頭部を押さえて、キスを深くした。
最原は王馬から離れようとするが、ずっとしゃがんでいたので、急には立ち上がれない。結果、少しよろめき、逆に王馬へ近づく羽目になる。足腰よわぁ、一瞬だけ唇を離した王馬の、からかう声が耳を打つ。
「っん、」
顔を両手で包まれて、最原は身動きが取れない。
自身の左側で、ぱち、と、火の粉が舞う。ぼんやりと二人の姿を照らす、あたたかな光は、とても心地が良い。
火の爆ぜる音に、水音が混じる。クラスメイトの声が、遠くでかすかに聞こえる。
歯列を割って入ってきた王馬の舌に、上顎を舐められると、体が大きく震えた。ゆっくりと舌の先を吸われて、最原のまつ毛が震える。
時折、ちゅ、と、わざとらしく音を立てられる。その音と、軽く唇を重ねられただけで、下腹部がずくりと脈打った。
「
……
やらし」
その欲を王馬に見抜かれて、最原が赤面する。少し見開かれた瞳に、王馬がキスを落とした。
焚き火が彼の顔に影を作り、いつもよりも妖艶に見える。
「期待させちゃってごめんだけど、さすがに続きは夜にねー」
「
……
え、
……
は
……
いやっ、期待、してないし!」
まるで説得力のない顔で、最原が反論する。わかりきった嘘には取り合わず、王馬は再び冷蔵庫を物色し始めた。
「えっ、餅が入ってるんですけど! なんで餅! これはもう焼くしかないっしょ」
「あー、それ
……
たしか、お正月に買い過ぎたって、誰かが持ってきてたんじゃなかったかな」
ハイキングにそぐわない持ち物に、王馬が爆笑しながらそれを取り出す。個包装されているので、二つだけ手に取った。
「網ないかなー」
「道具はそのへんに色々あったよ」
ライターもそこで見つけた、と、最原が台所へ案内する。簡単な食器と、調理用具が積まれているのを見つけて、王馬がうきうきとかまどへ戻る。慣れた手つきで、網に餅を乗せ、かまどへとセットした。
最原は、なんかいちいち器用なのが癪なんだよな
……
と思いながら、ぼうっとそれを眺める。また目の前が陰った。
「だから!」
「間抜けヅラしてるのがわるいんじゃん」
あっはは、王馬が笑う。
最原は、しかし、それ以上また何かしても、結局のところフィジカルで勝てないとわかっているので、おとなしく、かまどの前に戻った。
再びしゃがみ、今度はちゃんと火が灯ったかまどを眺める。じりじり、網の上で、お餅が焼けていく。
心地よい静寂が、二人を包んだ。
ぱち、と、また、焚き火の鳴る音がした。
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