えなが
2023-09-10 19:32:57
4885文字
Public 革命軍組
 

革命軍組3人が避暑地でまったりする話

直接的な描写はないですが3人肉体関係がある前提です。

 目を覚ますと広々としたベッドに一人きりだった。両脇にいたはずのレノとフィガロがいない。僕はまぶたを手の甲で軽くこすりながら身を起こし軽く伸びをした。大きなあくびを一つする。
 ベッドサイドに小さなメモが置いてあった。レノックスの筆跡だった。『ファウスト様へ。フィガロ様と釣りにいってきます』その文字を眺めながら置いてけぼりの後ろ頭をばりばり掻いた。
 ベッドから抜けだして、サンダルに裸足を突っ込む。
 昨日はどのぐらいの時間まで起きていたっけ。だいぶ夜も深まってきたころあいだったように思う。何せ途中からはアルコールのせいでところどころ記憶が曖昧だ。
 ただ、その虫食いの記憶でも三人で何をしたかまでは覚えている。吸ったり噛んだりした痕跡はさっぱり消えて、体もシーツもすっかりきれいにはなっていたが。
 裸身で眠りについたような気がするが、薄手の半袖シャツと下着を身につけていた。多分、着せてもらえたのだろう。
 別の衣服に着替えるか、ズボンを履くか少し迷って、どうせここで顔を合わせるのはあのふたりだけだからと、僕はなまけて着の身着のまま階下に降りていった。
 一階はしんと静まりかえっていた。当然だが誰もいない。
 コップに水を汲み、バスケットにいくつか入っている柑橘系のフルーツの中からレモンを拝借する。
 魔法で浮かして切断し、果汁を水の中へ思いきり搾る。
 あたりにシトラスの香りが漂い、飲み心地がさっぱりした水を手に、リビングのソファに行儀悪く足を開いて腰を下ろす。
 向かいの大きな出窓からは立ち並ぶ木々がよく見えた。窓からすぐに庭に出られる。庭は狭く、あまり手入れされていない。みっしり生えた草からかろうじて石造りの道がのぞき、林の中へと続いていく。それはそのまま、澄んだ湖へとのびていた。魚もよく釣れるのだと昨日ふたりが話していた。
 耳をすませば自然の音が豊富に聞こえてくる。野鳥がチチチと歌い上げ、それに呼応するかのように風に揺られた枝葉が擦れた。
 葉と葉の隙間からこぼれる朝日の光の筋を眺めながら、僕はレモン水に口つけた。この清涼な空気の中でする釣りはいったいどんなものだろうか。今度一緒に連れて行ってもらおうと心に決める。
 それにしても、一体いつふたりはいなくなったのだろう。あらかじめ時間を決めておいたにせよ、僕を挟むように寝ていたくせに、僕を起こさぬよう気づかって物音一つ立てずに部屋をあとにするなんて。
 僕たちは、フィガロが所有する二階建ての小屋に避暑に来ていた。魔法使いにとって身の回りの軽い気温調節はさして苦でなく、わざわざ避暑の必要などないように思われたが「こういうのは気分を味わうだけでも大事だから」とフィガロはウィンクしながら言っていた。
 場所こそ南の国ではあるが、中央の国の砂漠の近くに位置しており、魔法舎から箒を飛ばしても思ったより時間はかからない。
 高所にあるため、夏でもあまり気温があがらず、湿度も低くなりすぎない。絶壁が多く、落石が起きやすいため、ふもとから人間がのぼってこれるような道は整備されていない。
 それゆえ、自然が豊かで精霊も多い、魔法使いにとって過ごしやすい場所だ。
 フィガロとレノックスのふたりは南の国で生活しながら、年に一度ぐらいの頻度でこの別荘でちょっとした余暇を過ごしていたらしく、今年は僕も一緒にどうかと誘われた。
 別に僕に構わず、例年通りふたりで行ってくればいいのに。
 そう返事をすることも出来たし何かの理由をつけて断ることも出来た。だが、その僕の返答でふたりがどういう反応をするかは容易に想像が出来たし、彼らの誘いを一度断ったところでまた別の提案をしてきたに違いない。
 ぎこちなくではあるが、彼らを遠ざけていた僕の心は少しずつ変化して、向こうもまた、その僕に寄り添おうとしてくれている。四百年前と違う、南の国で会得した少し柔和になった優しいまなざしを向けながら。
 無理に仲のいい輪に僕を入れようとしてくれているのではなく、自分たちが楽しいと思ったことを僕にも体験して欲しいのだ。
 その気持ちを無下にしたくない。
 自分に構うな、なんてどだい無理な話なのだ。フィガロにとっても、レノにとっても。
 それに、彼らの絆を間近で見る機会でもあると思った。
 ふたりの関係を友情と称すればレノックスは複雑な表情を浮かべるが、一切否定もしなかった。
 相手が誰であっても真摯であり、表情のわかりにくいレノが、フィガロのことを口にするときは口や目元が和らいで、彼を雑に扱うような、それでいて奇妙に取り繕うような言葉を吐く。それが僕にとっては不思議でならない。
 彼らを見ていると時に落ち着かず、胃の腑がくすぐったく感じる気持ちに駆られるが、決して嫉妬や後ろ向きな感情を抱いているわけではない。
 むしろ、自然な振る舞いをそばで見ているのが楽しいぐらいだ。
 あの長命な叡智の魔法使い、恐ろしい北のフィガロ・ガルシア様に向かってあれだけふてぶてしく物を言えるのは南の羊飼い、レノックス・ラムぐらいなのだから。

 自然の気配に癒やされ、身を任せながらそいろいろ考えをめぐらせているうちに、ふたりが軽口を交わしながら帰ってきた。
 寝起きのままの僕のかっこうをみてレノックスはわずかに眉をひそめ、何か言いたげな視線をおくり、フィガロは「そんなに足出してちゃ風邪ひくよ」と呪文をとなえて服を着せてくれた。
 釣果はそれなりだったようで、何匹もの魚がバケツの中でゆらゆら泳いでいる。

「新鮮なうちに料理してしまいましょう」

 帰ってくるなりレノはキッチンへと向かった。フィガロも僕も、レノに続くようにして並び立つ。

「見てて、ファウスト。レノは魚をおろすのも上手いんだよ」
「あなたが魔法でバラせばはやいんじゃ……
「そんなことないよ。きちんと手をつかっておろした魚は美味しいから、ね、レーノ」
「いま包丁を持ってるので抱きつかないでください」

 つれないなあ、と苦笑しながらフィガロは両手をひらひらさせて離れた。
 後ろの棚の戸をあけ、その中から一本のウィスキー瓶を取り出し、僕のほうを見ながら軽く中身を揺らした。酒好きかつこんなところに貯蔵してるものだ、さぞ上等なものに違いない。

「飲む?」
「もちろん」
「水割り? 炭酸?」
「水割りがいい」
「飲むね~。レノは?」
「俺は別所で冷やしている麦酒で」
「ん。じゃああとで取ってきてあげよう」

 朝から酒、と思ったが断る理由も別段なかった。

「待ってください。すぐにつまみを……。この魚は生でも美味しいらしいので」
「らしいって?」
「レノはこう見えて生魚嫌いだからさ。でもこうして「俺のためだけ」に捌いてくれるようになって、包丁使いも上達したよね」
…………
「黙っちゃったけど」
「レノは照れ屋さんだから」
……集中してるんですよ」

 フィガロのからかいも適当にいなしてレノは手際よく魚のうろこと頭を落とした。内臓をとりのぞいてさっと水洗いをする。その行程をフィガロとふたりで眺めながらちまちま酒を飲んでいくうちに、あっというまに魚はさばけて白身の可食部だけが皿に盛り付けられた。
 料理人が腕をふるって成型されたものとは違い、切られた身の大きさはまちまちで、ただ切っただけのものを並べて置かれただけだが、自然の中では無骨なそれが一番美味いというのをここにいる全員が知っている。

「はい、出来ましたよ。味付けはご自由にしてください」
「やった。ほらファウスト」

 皿を片手でひょいと取り上げたフィガロがオリーブオイルを垂らし、塩胡椒を振りかける。その場にあったスパイスも適当にまぶし、カトラリーも使わず指でつまみ上げて口の中に放り込んだ。僕もつられて白身を摘まんで口に運ぶ。
 しめたばかりの新鮮な魚は適度に脂が乗っていて、多少のくさみがありながらもシンプルな味付けとよく絡み、酒のあてに抜群だった。
 酒が減ればそのそばからフィガロがおかわりを注いでくるので、今日は早々に酔い潰れてしまいそうだ。

「美味いなこれ。酒が進みすぎる」
「光栄です」
「なんだか悪いな、きみは食べられないのに」
「まあその食感が苦手なので、こちらはおふたりに消化してもらうとして……。俺はこっちの小さな魚をいただきます。丸ごと揚げるか……いえ、焼きにしましょう」

 レノックスは間髪入れずに次の魚に取りかかる。何か手伝うことはない? と聞いても案の定「ゆっくりなさってください」と言うだけだ。休暇といえども献身的なのは相変わらずだ。「それがレノの性分なんだから、好きにさせればいいんだよ」と知った口のフィガロが口を挟んだ。

「じゃあ皿だけ出しておくよ」
「はい。ありがとうございます」

 このままそばにいても邪魔になりそうだと判断した僕たちはキッチンから離れる。
 庭に何かを見つけたフィガロが、僕を手招いた。

「ファウスト、見て」

 彼の指さすほうを見ると、茂みのそばにリスよりも大きく、うさぎよりも小さい、ふわふわの白い毛並みの小動物がいた。
 頭部の耳は三角で、子猫のようにも見える。特定の種を断定出来ない、曖昧な小動物の姿をしている精霊だった。
 精霊を目にするのは初めてのことではないが、こんなにくっきりはっきりと見えるのは珍しい。自然が多いからこそだろう。
 くりくりのつぶらな瞳でこちらと目があっても逃げることなく警戒をすることもなくその場で毛繕いを始めた。

「ふふ、かわいいな」
「毎年ここには来るけど、姿を見るのは何年ぶりだろう。久しぶりに見たよ」
「そうなの」
「うん。ファウストが来てくれたからかな」
「関係ないんじゃないか」
「どうかな。ファウストってほら、精霊に好かれやすいじゃない。レノも結構好かれるけど」
「土地にもよると思うし、意識したことはないけど。そういうあなたは」
「俺? 俺はまあ、普通? ぐらいだよ」
「フィガロ先生はすぐ怖がらせるから」

 追加で焼いた魚を盛った皿を手にレノが声をかけてくる。

「そう? 最近はそうでもないだろ。んー、いいにおい。これは白ワインのほうがあいそうだ」

 言ったそばからボトルとグラスがそばに浮いている。酒のことになると準備が早い。

「今日はこのあとどうしますか?」
「昨日とは別のコースを散歩する? でもちょっと昼から天気が崩れそうなんだよね」
「僕はこのまま引きこもってずっと飲んで過ごすのもいいけど、ちなみにふたりだけのときはどうしてたの?」
「うーん。寝ても覚めても割とセックス三昧で」
「フィガロ様」
「なるほど。それもいいな」
「ファウスト様……こんな朝から」
「朝からしちゃいけない道理はないだろ」
「まだ一日は長いですから。あ、三人から遊べる手頃なボードゲームを持ってきました」
「あー、手頃だけど結構時間かかるやつじゃない? ファウストはどう思う?」
「魔法舎だと時間のかかる遊びは出来ないし、やりたいかな」

 ふたりが釣ってくれた魚をつまみに酒を飲んだあとは場所を二階にうつした。
 もとより引きこもるのが前提で酒もつまみもたっぷり用意がある。
 リラックスできる部屋着に着替え、軽くスキンシップをしたり、ゲームを遊び、ときには横になったりしてまどろんだ。
 フィガロの言った通り昼過ぎから雲行きがあやしくなって、雨が地面や建物を叩く音がする。
 時間がゆっくり過ぎていく心地がした。
 いつもはひとりが何より具合がいいはずなのに、すぐ触れられる場所に他人の気配があって、自分を気にかけているのにそれが嫌じゃない。
 甘えたくなったら腕にそっと触れて、腰に抱きついた。頭を撫でられ目を細める。穏やかで落ち着ける空気をふたりが作ってくれている。
 何にも代えがたい、心と魔力が満たされる心地だった。