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えなが
2022-12-29 23:59:07
3161文字
Public
フィガファウ
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フォ学(公式学パロ)のフィガファウ 放課後デートの前のちょっとしたやりとり
夕暮れどきのグラウンドからは運動部のかけ声やホイッスルの音が聞こえ、校舎からは吹奏楽部の演奏、合唱部の歌声がまばらに響いていた。
ファウストは外に人がいないのを確かめて、足早に図書室の隠し部屋から抜け出して、俯きがちで校門を出た。
駅とは反対側の道へ進み、大通りの信号を渡ったあと、傾いた標識が立つ路地の中へと折れた。
そのまま、信号もなければ歩行者専用の道もない、暗くて細い通りを歩いていると、徐行運転の車が近づいて来て、隣に横付けされる。
あたりを見渡して誰も見ていないことを確認すると、後部座席にさっと乗り込む。「助手席でいいのに」と運転席の男は笑った。
「変な噂が立って困るのはおまえの方だろ、フィガロ先生」
「もう暗いしよく見えないよ。たまたま帰りがけにきみを見かけて、具合が悪そうだから送ってあげただけなんだから」
「
……
よくもそんな嘘ばかり」
「ごめんごめん、ファウストは俺のことを心配してくれているのにね」
学校を出るときはまだオレンジ色に染まっていた空が、次第に沈んで暗くなっていく。フィガロの言う通り、車内にいる人間の顔は外からあまり見えないだろう。
ファウストは後部座席に置いてある紙袋から黒いジャケットを取り出して、それと入れ違いになるようにブレザーとネクタイ、サスペンダーを外し、丁寧にたたんで紙袋にそっと押し込んだ。
フォルモーント学園の制服は派手で目立つ。カラーシャツも着替えたいぐらいだったが、そこまでしてしまうと、本当になんだか自分たちが悪いことをしているようで気が引けた。
確かに世間体や年齢差、お互いの立場を考慮するとこの関係は不健全だ。よくないとはわかっていたが、今日も保健教諭の誘いを断ることが出来なかった。
フィガロの車に乗り、フィガロの用意した上着を身に着け、フィガロが予約をとってくれたレストランへディナーに赴く。
車のライトと街灯の光が飛び交う街の中を、車は走り抜けて行く。
街路樹のイルミネーションを眺めながらファウストは小さなため息をつき、口を開いた。
「
……
もう、会うのやめないか」
「ん?」
バックミラー越しにファウストの様子をちらりと見る。窓の外に視線は向けられて、彼の表情はよくわからなかった。車内に適当にかけていたラジオのボリュームをぐっと下げる。
「どうして。ファウスト」
「クラスメイトに見られたみたいなんだ。先週、一緒に映画を見に行っただろ」
「そうだね。誰に見られたの?」
「
……
見られたけど認識はされてなくて」
「どういうこと?」
「
…………
」
ファウストの答え方はどうも歯切れが悪い。今まで通り会うのをやめてしまうかどうかは置いておいて、運転をしながら二人の今後を決める話をするのも誠意にかける。
どこか一旦車を停めて話しあうべきか、近くの駐車場候補をいくつか頭に浮かべた。
「そいつは、僕に似てるけど僕じゃない人とフィガロが歩いているのを一緒に見たって」
「ええ、クラスメイトでしょ? きみを別の誰かと見間違えるってこと、ある?」
「僕が笑ってたから」
「
…………
」
「僕が絶対にしないような笑顔で、あなたと腕組んで楽しそうにしてたから、なんか雰囲気が違うなと、思われたようだ」
赤信号の待ち時間を持て余しているフィガロは、あー、と生返事をしたきり、指でとんとんとハンドルを軽くたたき、そのまま黙りこんでしまった。
先週デートにでかけたのは紛れもないファウストとだ。なのに、別のだれかと見間違えたとクラスメイトは思い込んでいる。
つまりそれは、級友には決して見せないような顔をフィガロと一緒にいるときは晒しているということだ。
ファウストは自分が言ってるのか、わかっているのだろうか。
彼が勤勉で模範的な生徒であろうと自他共に厳しく振る舞っていることは知っている。それが見せかけでなく、現に優れていることは教師もクラスメイトも認めていることだろう。
だからこそ、猫を抱きかかえ慈愛を注ぐような表情をしてる画像をネット上でバラ蒔かれミームにされてしまい、恥らって隠れて登校するようになってしまったのだ。
一時は完全に引きこもり、あらゆる連絡手段を絶つほどだったが、近頃は元々の友達たちとも依りを戻して少しずつ交流している。
フィガロからして見れば、学校で掲げる真面目な面も、休日に会う愛嬌のある面もどちらもファウストらしい。もっと子どもらしい面も見せてほしいと思うほどだ。
ただ、先週は特にはしゃいでいたかもしれない。見た映画の影響を受けて、台詞や仕草を真似て普段しないような手を繋いだり腕を組んでショッピングモールを回ったりもした。
二人が通う学園からはかなり遠く、駅から離れた立地の場所をデートスポットとして選択していたが、今後はもっと考えなければいけないかもしれない。
「念のために聞くけど、僕以外と出かけてないよな?」
「え、え? ああ、もちろん」
「もしかして、本当に僕そっくりの別人と股をかけてる場合もあるし」
「ないよ。ないない。俺はファウスト一途だから」
「他の生徒にも手を出してるって噂もあるし」
「だからないって」
ええ、困ったなあ。と情けない声を出すと、ふふ、とファウストは笑った。
いつもの調子が戻ってきた。
会うのをやめようと言ってきたのも、そうすべきとファウストが理性で判断したからであって、本心ではないのだろう。
ファウストはフィガロをからかうのが好きだ。普段、フィガロにからかわれている分、自分がほんのわずか優位に立てた気がして気持ちがいいのだろう。
それもまた子どもじみた仕草だとフィガロはほほえましく思うが、あえてファウストの望むように振る舞う。すると、彼は素直に予想通りの反応を見せてくれる。
勤勉であろうと務める彼の年相応の反応を、可愛らしくて好ましいとフィガロは感じる。
「ああ、だから、あなたが生徒に手を出してるってちょっと噂になってたよ」
「え。嘘お。もちろんファウストはかばってくれたよね」
「まあ、あのフィガロ先生ならありそうな話だな、と」
「同意しちゃったんだ! なんで」
「実際手を出されてる側だしな」
「出してないよ。先週はたまたま見たい映画がかぶったから一緒に遊びにいっただけだし。今からも美味しいご飯を食べにいくだけ」
「特定の生徒の依怙贔屓は
……
」
「でもファウストは俺に媚び売っても内申点があがるわけじゃないし、テストの内容を教えてもらえるわけでもない。お互い純愛でしょ」
「純愛って言うな」
「だって俺たち、セックスもまだなんだから」
「セッ
…………
」
口ごもってしまったファウストの反応に、今度はフィガロが声を出して笑った。
「し、したいのか?」
「別にしなくてもいいんだけどね」
「したいかしたくないかで言えば」
「ファウストが望むのなら、俺はいつでも」
「あなたの意思を尋ねてるのに、僕を答えにするな」
「ごめんごめん。でも俺は本当にどっちでもいいんだ。恋愛に性欲が伴っても伴わなくても、どちらも脳が発達した人間らしいと思うよ。きみに合わせるのは、単純に嫌われたくないからだね」
「
……
いまだに信じられないんだ。あなたみたいな人が、僕と、その」
「好きだよ、ファウスト。俺のスマホの中にある連絡先で、唯一の生徒がきみだよ。あ、ついた。ここだよ」
ハンドルを切り、予約していたレストランの駐車場に車をとめる。
フィガロが差し出した手にファウストは指の先だけ乗せた。
きっと会わないでいるほうが不健康になる。
わずかに重なった場所から生まれる熱が、互いの好意を示していた。
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