えなが
2022-11-28 12:23:14
2802文字
Public レノフィ
 

3周年ログスト5の後にいちゃいちゃするレノフィ。

※フィガロは猫うさぎがファウストの創作だと気付いてません


 ミチルに見つからないように、と。酒瓶を白衣で覆い隠して魔法舎三階までの階段のぼってきたフィガロは、レノックスの部屋の扉をノックした。
 身体の調子を心配して酒を取り上げるかわいい生徒に隠れてこっそり酒を飲みたいときは、シャイロックのバーに行くか、こうして誰かの部屋をたずねる。気安い関係であり、南の国にいたときから共に飲むこともあったレノックスがその相手に選ばれることが多かった。
 晩酌を断る理由もなく、レノックスはフィガロを招き入れてベッドの縁に座ると、フィガロに椅子に掛けるよう促した。
 つまみの乗った小さなテーブルを挟み、ボトルをある程度あけて適当な世間話が一段落ついたころ、そうだ、とフィガロは何かを思い出したように指をならした。

「やってあげるよ」
「何をですか?」
「なんだっけ、あの、この前のかけっこの時に言ってた、えーと、光るんだよね」
「光る猫うさぎですか?」
「そうそう!」

 呪文を唱えたあと、ぽん、と音をたててフィガロは光る白い塊に変身した。そのあまりのまぶしさに、レノックスは目を細める。
 レノックスの膝にいた羊も、突然現れた光に驚き、小さな鳴き声をあげて、ぎゅ、と目をつぶる。

「フィガロ様、光りすぎです。何も見えません」
「え? 本当? うーん、このぐらい?」

 真昼の太陽のようにビカビカと光るフィガロを直視することができなくてレノックスは思わずのけぞった。手で遮ってなんとかその姿をとらえようとするが、その姿の輪郭がわからないばかりか、目が痛くなってしまう。
 膝の羊はまばゆい光に怯え、レノックスのニットに潜り込もうとしていた。それを撫でてなだめながら、フィガロにもっと暗くしてほしいとリクエストする。
 何度も発光具合を下げて、落として、ようやくその姿が確認できるようになった。胸のあたりがぼんやり光る猫とうさぎが、椅子の上にちょこんと座っている。木製のカゴを寝床にしている羊たちの群れも、物珍しそうにフィガロとレノックスを見上げていた。
 ひとつの魂でふたつの生命体に分裂することが出来るのはさすがのフィガロというべきか、レノックスには真似出来ない魔法だ。いったいどういう仕組みなのだろう。
 そう思いながら椅子から掬いあげ、ふたつの命をベッドに乗せた。
 思うままにちょこちょこその場を歩きまわり、毛繕いをする仕草は愛くるしい。しかしこれではただの淡い光を放つ猫とうさぎである。

「どう? 結構かわいいでしょ」

 つぶらな瞳と長い耳を持つ小さな白い仔うさぎがせわしなく鼻をひくひく動かし、長いしっぽとこれまたつぶらな瞳を持つ幼い白猫がぺろぺろ顔を洗っている。どちらもレノックスの手のひらにで簡単に掬いあげることができるほど小さく、非常に可愛いことにはかわりないが、その小動物からフィガロの声がするので、レノックスはなんとも不思議な気分になっていた。

「これはこれで愛くるしいですが、光る猫うさぎとは到底言えないような」
「は? 猫は猫、うさぎはうさぎだろ」
「ですから、そのふたつの特性を合わせもつ猫うさぎでないと」
「猫うさぎって何? 俺が知らない幻獣? 具体的にどういう造形? 耳は長い? 尾はどうかな」
「さあ、ファウスト様の創作された生き物ですので、俺も詳しいことは」

 可愛らしい猫が、うさぎが、同時にきょとんとレノックスを見上げた。さすがに少し胸にぐっとくるものがある。
 正解とは逸れているが、見た目は遜色なく可愛いのだ、何者からも庇護したくなる、思わず頭や背を撫でたくなる、健やかな成長を見守りたくなるような存在に仕上がっている。
 ここにフローレス兄弟やリケがいたら大喜びしたことだろう。しかしその中身を知るレノックスには、愛くるしい小動物の姿を通して、無言で考えをめぐらせている魔法使いの姿が透過して見えていた。

「待って。タイム」

 フィガロは呪文を唱え、再びもとの人の姿に戻り、レノックスの隣に座った。自分のグラスを引き寄せて残っていた中身を一気にあおると、眉をひそめ口元を抑え、うーん、と唸る。

「光る猫うさぎがあの子の創作?」
「ええ。俺は一番に到着してるので、あのお話の流れについては誰よりも自信があります」
…………俺かなり、不味いこと言ったかも」
「そうですね、四百歳にもなって子どもっぽいと――
「あ! こら、やめ」
「俺が変身してあげるね、と」

 わあ、とフィガロは声を出して両手で顔を覆った。

……そうか。それでミスラに口答えしたり、神秘がどうのこうの言ってたのか。ちょっとおかしいと思ってたんだよ。あれから食堂で鉢合わせても目も合わせてくれないし。俺何かしちゃったかなって一応考えてあげたんだよ。でも猫うさぎなんてものが原因なんて思わないだろ」
「まあ、それなりに気に入ってらしたようなので」
「あの格好で足も速いし、一生懸命走って、お話に登場させたのが「光る猫うさぎ」なの? はあ……やっぱり全然呪い屋に向いてないね、やめたらいいのに」
「それについては同感です。もうされないのですか?」
「何を?」
「光る猫うさぎを」
「なんでしなくちゃいけないの?」
「ファウスト様に見せなくていいのですか?」
「余計機嫌をそこねないかな」
「完璧な猫うさぎであれば大丈夫です」
「ええ……、信じるからな。まあ、その……追々やるから、その時はレノもついてきて」
「はい。もちろん」

 フィガロは気まずそうに空のグラスを手の中でくるくると回していた。落ち着かない指をさえぎるように、レノックスはそれを取り上げる。
 テーブルに置くまでの一連の所作をフィガロはぼんやり見つめていた。すると、気付けばすぐ近くにレノックスの顔があって、呼吸が当たって、フィガロは大きく目を見開いた。
 あごを指ですくわれ口づけをして軽く触れてすぐに離れる。
 レノックスは膝の上の羊を下ろし、フィガロをベッドに押し倒した。
 普通この流れでする? 今日はもう遅くない? 何、レノ、むらむらしちゃったの?
 様々な意味合いを含んだ困惑の瞳が見上げて来て、レノックスはそのすべての言葉をなだめるように、再びフィガロに口づける。

「鳴いてくださると、おっしゃってたので」
……それって猫うさぎの姿じゃなくていいの?」
「どちらでも」

 唇が合わさって潜り込んできた舌が絡まる。唾液がまじる音が響いた。
 初めはわざとらしさすら孕んでる、あからさまなフィガロの嬌声が、レノックスの愛撫と突き上げを受けて次第に余裕の無い甘く濡れた音に変容する。
 身も世もなく喘いでレノックスを満たす「鳴き声」に変わるころには、とっぷり夜もふけていた。
 すすり泣いて限界を訴える鳴き声は、猫でもうさぎでもなかった気がする。