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えなが
2022-09-13 14:01:12
4006文字
Public
革命軍組
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ファウストの酔いどれ事情(革命軍組)
革命軍組。収穫祭の様子をルチルから聞いたレノックスとフィガロが魔法舎のバーでファウストに絡む話
・イベスト(未完のワインに思いを馳せて)の後の話です。
・上記イベントのSRファウスト(接客は愛想よく)のカドエピ要素があります
・イベントを読まずともたぶん読めます
・カプ要素はありませんが不健全です
ファウストは魔法舎のバーカウンターで静かに酒を飲んでいた。誰と話すでもなく、一人でぽつんと佇んでいる。いつものことだった。
時折、バーに遊びにきた西の魔法使いたちがとっかえひっかえファウストに構い、きゃいきゃい絡んでくるのを適当にいなす。
東の国でのテスト作成に行き詰ってしまい、気分転換に軽く一杯、と思って訪れたがすでに三杯ほどあおっている。ぐいぐい酒が進んでしまい、正直なところまだ飲み足りなかったが、このままだといつまでも入り浸ってしまいそうだ。
いい加減自室に引き上げよう、そう思い、腰をあげようとしたときだった。
入口のドアベルがチリンと音を立て、シャイロックが扉へと目を向けてにこりと微笑む。
振り返らずとも、だれが来たのか気配と魔力ですぐにファウストはわかった。
温厚な南の気質、フィガロとレノックスで間違いない。第一、フィガロなど、わざとかと感じられるほど自分の魔力を垂れ流しにしていた。
「おや、どうぞこちらへ」
シャイロックがファウストのそばへと二人を案内する。
もっと他にもあいてる席があるだろう、と苦言を言う間はなかった。
どうか自分に絡まないまま二人っきりで飲んでくれというファウストの願望はかなわず、二人はファウストに向かってまっすぐ近づいてきて、彼を挟んでカウンターにかける。
「何になさいますか?」
「そうだなあ、せっかくだしワインにしよう。あるんだろ? バッカスのワイン」
「そうですねえ。あるにはありますが、今年のものは入荷しておりません」
西の収穫祭での出来事は記憶に新しい。その際同行していたファウストをちらと見やったが、ファウストはあえて俯いたまま、シャイロックの視線を無視した。
「ふーん? そうなんだ。レノは? どうする」
「俺もフィガロ先生と同じものを」
「はい、構いませんよ」
「
…………
じゃあ僕はこの辺で」
二人の圧にめげずにファウストは立ち上がろうとした。しかし、「だめだよファウスト」と耳障りのいい優しい声ですぐに呼びとめられてしまう。
そのまま無視して立ち去ることも出来たが、気が引けて結局その場に座ったままでいると、シャイロックが気を利かせて、グラスを三つを用意してファウストのぶんまでワインを注いだ。
三人分のバゲットが並ぶ皿がファウストの前にことりと置かれる。バゲットにはレバーペーストとクリームチーズが乗っており、黒こしょうとパセリが軽く散っていた。
「バッカスのワイン、ご存じでしたか?」
「うん、毎年ってほどじゃないけど数年おきに飲むかな。飲むたびに芳醇さと深みが増してて、結構好みの味だよ。レノはどう?」
「俺は初めて飲みましたが、口当たりがよくて、いい香りですね」
二人で会話するなら自分を挟まないでくれ、と思いながらファウストもワインに口付ける。
バッカスのワインは祭りの時に古いものから若いものまで様々なものを味わわせてもらった。あの時の飲み比べではその場の空気も相まってかなり酔ってしまい、最終的には味わうというより浴びるようなそれになってしまったが、こうして改めて腰を据えて飲むとまた違った味わいが感じられる。舌を滑り、喉を通ったあとに残るほのかな味わいが好みだった。
「で、ファウスト。ルチルから聞いたよ。この前の収穫祭ではかなり羽目を外したみたいじゃないか」
「
……
節度をまもって酒を楽しんでいただけだよ」
「でも、ルチルと一緒に踊ったことを覚えてないんだろう。賢者様が言ってたよ」
「知らない。踊ってなんかいないからな」
「ルチルが嘘をついたってこと?」
「嘘というか、ただの勘違いだろう、て
……
」
フィガロとレノックスに挟まれたまま、ファウストは肩をすくめた。責める意図は両者にはなかっただろうが、どちらも上背があるため、二人の間にいると多少なり威圧を感じてしまう。
レノックスは何も言わなかった。フィガロとファウストのやりとりを、酒とつまみを舌に乗せながら静かに見守っている。
「あのね、ルチルは酒が入ると脳より先に体に限界が来るタイプなんだ。そもそもその限界が常人のさらに果てにあるんだけど、本当にまずくなったら意識がなくなる前に吐くか寝る子だ。だから、意識があるうちは頭が冴えて記憶はかなりはっきりしている。きみとは真逆なんだ」
「酒を覚えたての子どもじゃないんだ、放っておいてくれ。大体、酒で記憶が飛んだことなんかない」
「昔、きみと俺で飲んでた時にさ、いきなり笑い出したかと思うと歌ったり脱ぎ始めたりして」
「は? なんだそれ」
「翌朝、真っ青な顔して謝ってきたじゃないか。フィガロ様ごめんなさい、もうお酒はほどほどにしますって」
「
…………
」
途端に押し黙ってしまった。心当たりは、確かにある。
修行の合間に二人で酒を飲んで記憶を飛ばしてしまったことは、一度や二度の話ではない。ファウストは言い返せないまま、ワインに口つけて誤魔化した。
北の土地でフィガロがふるまってくれた酒は中央で流通していたものより喉が焼けるほどに熱く、強かった。
アルコールの許容量と下限が当時曖昧だったファウストは、修行の疲れも相まって、すぐに酔いがまわってしまい失態を犯した。
そも、その失態も、何かまずいことをしたということだけは理解していたが、具体的に何をしたかまでは記憶していない。
フィガロも「別に構わないよ」と笑って流すばかりだったので、何をしでかしていたのか、今初めて知ったのだ。よもや歌ったり服を脱ぐなど。
「あの時は気分がよかったから許したけど。ほら、全然反省してないじゃない。それに軍にいた時も宴できみは
――
」
「フィガロ先生」
レノックスはようやく口を開いた。放っておけばとんでもない藪蛇をつついてしまいそうなフィガロを静かにたしなめる。
ファウストは眉を寄せて口を曲げる。ワインは飲み切ってしまい、細いステムを所在なげに指でいじる。
何も言わずともシャイロックがすかさず、新しいグラスにワインを注ぎ、ファウストの前に差し出す。
「そんな大昔のこと、覚えてるわけない」
「
…………
一週間前、ネロの部屋で晩酌したあと、自分の部屋と間違えて隣の俺の部屋まで来たあなたは」
「ちょ
……
、その話は今関係ないだろう!?」
「え、なにそれ、俺知らないんだけど」
フィガロは興味深げに身を乗り出した。
「着の身着のままベッドに潜り込んできたので、仕方なく俺が靴を脱がせました」
魔法舎の三階と四階の間取りは似通っており、廊下の景色はほとんど変わらない。それに加え、レノックスとファウストの部屋は同じ角の部屋にあたる。
部屋を間違えていることにも気づかず、ベッドに入ってきたファウストは「どうして僕の部屋にレノがいるんだ?」と上機嫌に笑いながら言ってのけ、そのまま羊のクッションを抱えて「今日は冷えるからちょうどいい」とくっついて寝始めたのである。
扉をあけてベッドに一直線。口をはさむ暇もなく、レノックスは驚いて硬直し、かといってかつての主君をむげにすることもできず、気持ちよく眠っているのを起こすこともできず、あまり眠ることも出来ないまま一夜を明かした。
早朝、まだ眠っていたファウストをそのままにして鍛錬に行ったが、ランニングと軽いトレーニングを終え、シャワーを浴びて自室に戻ってきたころにはすでに姿を消していた。
その後食堂でばったり顔を合わせると、申し訳なさそうに謝られた。
「あの時は、気を付けてくださいねと済ませましたが、こうも美味しい酒につられているようでは」
咎める言葉にしては穏やかな語気だった、しかしその目は笑っていない。
「だから
……
関係ないって。いや、関係なくはないな。その節はすまない」
「とにかく、そういうことがちょくちょく起きてるから、俺もフィガロ先生も心配しているんです」
ファウストは居心地悪そうにため息をついた。
「その
…………
。わかった。心配かけてすまない。今日はこの辺にしておくから」
「えー、ボトル一本開けるぐらい付き合ってよ。俺とレノは来たばかりなんだからさ」
「おい」
「フィガロ先生
……
」
眉をひそめる元主従関係の二人を見て、あはは、冗談、とフィガロは笑い飛ばして酒をあおった。だが、本心ではまだファウストを帰す気がないかのようで、服の袖を指先で軽くつまんで引く。
すぐに振りほどけそうな軽い力だったが、ファウストは迷い、目を泳がせていた。
西の収穫祭の話が出たとき、フィガロはことさら行けないことを嘆いていた。
酒好きが多くの美酒に酔える機会を逃すことの悲しみを、ファウストは十分理解している。
「
……
じゃあ、あと少しだけ」
「やったー」
「ファウスト様、無理なさらず」
「別に無理してない」
そのままチン、とグラスを鳴らしあらためて乾杯をした三人は、そのまましばらく酒を酌み交わした。
ファウストが目を覚ました時、一体自分がどこにいいるのかわからなかった。壁に多量に設置してあるはずの鏡が視界にうつらない時点で、自分の部屋でないことはわかる。
「メェ
……
」
「わ、すまない」
そろりと上体を起こすと、ベッドの上は男三人と小さな羊でぎゅうぎゅうで、手狭どころの話ではなかった。動けばすぐに隣の体温が抗議をあげる。レノックスの部屋だった。フィガロもレノックスも、まだ気持ちよさそうに眠っている。
一体どういう流れで三人一緒に寝ているのか全く思いだせない。一応、衣服の乱れはないので変なことにはなっていないようだ。
昨晩の記憶はあまり無い。
あれだけ言われてしまたのに、またやってしまった。ファウストは静かに頭を抱えた。
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