えなが
2022-07-27 20:01:30
3269文字
Public その他
 

ピストレアージで遊ぶ魔法使いたちの話(カプ要素なし)

2022夏イベ、「熱砂のオアシスに勇者の歌を」ログスト2 の話。名前が挙がったキャラは全員います。

「さすがブラッドリーさん、やりますね! でも私も負けませんよ、この……わぷっ」
「兄様!」

 ピストレアージを構えたルチルの顔面にブラッドリーからの容赦のない水撃が襲い、応戦しようとしたミチルも次いで水をかけられる。こんなおもちゃで勝負ねえ、とバカにしていたのはほんの数分前。今では両手に持ったピストレアージを巧みに使いこなしていた。
 ルチルとミチル、アーサーの三人がかりでなんとかブラッドリーに対抗しようと果敢に立ち向かうが、元盗賊団首領の北の魔法使いは寸でのところで華麗に身をひるがえし、水を避けて魔力で払い、かわりに適格に相手をずぶ濡れにしていく。
 水を補充するとき以外は箒を使わぬ空中浮遊で上空からの集中砲火を浴びせ続ける。アーサーの見立て通り、彼は長銃のみならずピストレアージの腕も確かだった。
 お子ちゃまたちに本気だすなよ、と呆れつつ木陰から傍観していたネロも「勝負ですよ、早く来てください!」と鼻息荒くリケに駆り出された。最初は川べりで水を打ち合っていたが、ブラッドリーからの茶々が止まらず、双方流れ弾を頭に食らいルチルたちに加勢する。五対一の形勢になっても相変わらず優勢なのはブラッドリーだった。
 ネロに取り残されたファウストは、そのまま木陰で座り込み、彼らの勝敗の行く末を見守る。
 木の葉と別の影がファウストを覆った。後から遅れてやってきたレノックスとフィガロが彼を挟んで並び立ったからだ。彼らを交互に見上げて口を開く。

「なんでおまえたちもいるんだ」
「きみと同じ理由だよ。子供たちだけじゃ危ないだろ。ブラッドリーもいることだし」
「ネロもいる。一体どういう基準で声かけたんだか」
「若い魔法使いを中心に、とアーサー様はおっしゃってましたよ」

 レノックスの言葉を受けて、ファウストが首をかしげる。

「そうだったのか? ちらほらそうでもないのがいるけど。僕だって若くない」
「アーサー基準だと、オズより年が下の魔法使いは若いんだってさ」
「じゃあおまえは明確に違うな」
「やだなあ。俺とオズの年の差なんて、誤差みたいなもんだよ」
…………

 元中央の男たちが、揃って冷ややかな目でフィガロを見る。
 するとそこに、「レノックスさん、フィガロ先生!」と声をあげたミチルが裸足で駆けてきた。弟のあとを追うようにして、ルチルも裸足で追いかけてくる。水を吸ったズボンが張り付いてうまく走れないのか、のったのったと大股で草むらを歩いてきた。

「わあ、びしょびしょ」

 ずぶ濡れになったミチルを、濡れるのも構わずフィガロは正面から抱きしめた。
 魔法でタオルを呼び出して兄弟の頭にぽんぽん、とかぶせる。ミチルの頭や顔にかかった水を拭きながら、わしわし頭をかきまぜると、わぁ、と歓声があがり笑い声が響いた。

「フィガロ先生、ブラッドリーをやっつけてください」
「ブラッドリーかあ。どさくさに紛れて鉛玉も食らいそうでやだなあ」

 ルチルも髪を拭きながら、笑顔でレノックスを見上げた。

「レノさん、私の分もお願いします!」
「ああ、行ってくる。フィガロ先生は準備運動してからのほうがいいですよ。川の水は冷たいですから」
「年寄り扱いするなよ、大丈夫だって」
「アーサー様と話すまで、暑くて外に出たくないと言ってたのは誰ですか」

 兄弟からそれぞれピストレアージを受け取り、軽口をかわしながら川に向かう二人の背中をファウストは見送った。
 フィガロを見つけたブラッドリーの口角がにたりと上がる。気が高ぶり魔力が集まるのが、遠くから見ても明らかだった。
 ドォン、と大きな水柱があがり、あたり一面に水の飛沫がシャワーのように降り注ぐ。きゃあ、と小さい悲鳴をあげて尻もちつきそうになったリケを支えながら「ブラッド!」と非難するネロの声は冷静を欠いてとても大きかった。

「魔法は反則だろ!」
「うるせえ! せっかく骨のあるやつが出てきたんだ。退屈しねえためのパフォーマンスだよ」

 リケ、と友人を心配したミチルが再び川へと駆けていく。ルチルは、がんばれ~、とどちらに向けてかわからないエールを送りながらファウストの隣に座り込んだ。

「ファウストさんは行かないんですか?」

 髪の滴をぬぐいながら、ルチルがからっとした調子で話しかける。
 ファウストは静かに首を左右に振った。

「ここにいるだけで十分だよ。風が吹いて気持ちいいし」
「濡れるともっと気持ちいいですよ」


 のんびりしたルチルの声に反して、水辺では次から次へドン、ドン、とまるで本物の銃を撃っているような低音が鳴り、ばり、と空気が震えてあた。
 ピストレアージの持てる最大出力で、おおよそ人に当たれば怪我をしてしまうような水圧がブラッドリーから放たれている。主にフィガロへ向けての威嚇であったが、すぐそばにはアーサーやリケもいるのだ。若い魔法使いたちをかくまうようにレノックスが動き、フィガロ自身は面倒そうな顔をしつつも、さりげに魔法で水の軌道を逸らしつつ、射撃で応戦する。
 しかし至ってブラッドリーの独壇場。その状況を打開したのは、水を降り注がれ続けたリケだった。
 びしょ濡れになってしまった彼は、むぅ、と頬を膨らませ、箒を呼び出しすばやくまたがる。飛び上がって、空中へ浮いてるブラッドリーと向かいあった。

「おう、どうした。中央の小せえの」

 リケは勝負をする気がないのか、手にしたピストレアージはだらんと下げたままだ。
 下からの絶え間ない援護射撃もブラッドリーは避け続ける。余裕の表情を浮かべる彼に対し、さらに眉を吊り上げたリケはさらに上空高く飛びあがる。
「おっと、上から浴びせる戦法か?」
 笑うブラッドリーの思惑は外れた。リケが懐から取り出し、構えたのはピストレアージではない。振りかざした小さな瓶はブラッドリーも見覚えもあるものだった。

「ブラッドリーなんか! こうです!」
「おい胡椒はやめ、へ、へっくしょん」

 その場にいた面々が「あ」と短い嘆息を放った。
 自然物かつ液体である水は避けれても、細かい粒子は避けられない。厄災の傷の影響でどこか遠くに飛ばされたブラッドリーを見て、リケはふん、と鼻を鳴らした。
 水辺に降り立つとアーサーが手を叩きながら近寄って、リケの頭を撫でた。

「あはは、リケは勇敢だな」
「ありがとうございますアーサー様。さあミチル、これでブラッドリーに構うことなく、思う存分遊べますね」
「え、まだ遊ぶんですかリケ、うわっ!」
「いやあ、お子ちゃまたちは元気が有り余っていいねえ」

 ようやく本来の遊びが出来る彼らを後目に、ネロは川から離脱し、ファウストとルチルのそばへ歩いてくる。
 ボトムスから引き出したシャツの裾をぎゅう、と絞った。

「先生もやりなよ。さっぱりするぜ」
「僕はいいよ。そろそろ部屋に戻らせてもらう」
「そう言わずにさあ」
「ああそうだ、ネロ。きみ、昼間から飲んでた?」

 酒臭いんだけど、と苦言を呈するファウストに、ネロは「あ」と言ったきり露骨に視線を泳がせた。アーサーがブラッドリーを誘いにきたとき、ネロと、この場にはいないシャイロックの三人は魔法舎の屋根の上で麦酒を飲んだくれてた。賢者様の世界にあるビアガーデンというなんとも気持ちいい風習にかこつけて、昼間から気持ちよく酒をあおりにあおっていた。
 筆記試験が近いが、一日ぐらい勉強をさぼっても結果は変わらないだろう。その慢心が招いた怠慢だ。

「あ、あー気のせいじゃねえの」
「ふふ。次のテストの結果が楽しみだな。今度は僕も呼べ」
「すみません、なんのことでしょうか」

 興味津々にルチルが目を丸くしながら二人に問う。
 ビアガーデンなる天空の楽園の説明をネロから受けたルチルが、この場にいる面々を巻き込んで、魔法舎の屋根で宴会をセッティングするのは、そう遠くない未来のことだった。