「こはくさあああああん!!」
「わっぎゃ!?」
「君にプレゼントだあ!」
晴天の霹靂っちのはこのことや! なんでこの巨男がコズプロにおんねん!
思わずそう胸の中でツッコんでもうたけど! それでもまだ足りんわ!
「おら! プレゼントでいきなり背後取るやつがおるか!」
「おやあ? すぐに躱すと思ったんだが、君も随分と鈍ったなあ?」
「
……やかましい」
「はは! 平和平和☆」
「ほらまたやかましい
……。で? プレゼントっちのはこのダンボール箱か?」
「そうだぞお☆ たまにニューディにも君宛てのファンレターが届くことがあってなあ」
「ほおん
……」
ここまでツッコミの嵐で肩も怒らせとったけど。斑はんの持っとるダンボール箱から少しだけ溢れた手紙が見えた。お菓子も入っとる。バレンタインも近いからかもしれんけど
……。そんなものが、ぜんぶ、少しだけ
……ちゃうわ、強く。胸を刺した。ヒリヒリする。チクチクする。
その切なさを飲み込めないまま、おずおずとダンボールを受け取った。斑はんも、少しだけ安心したみたいな顔で笑いよる。
「本当は早くこはくさんの元に届けたかったんだが、忙しいつむぎさんの手を煩わせるのも悪い。君に来てもらうのも気が引ける。
……ということで! 俺に白羽の矢が立ったんだよなあ! まあ俺が自分で立てた白羽の矢だが!」
「
……ほんまに助っ人が好きやな
……。けど、おおきに。助かったわ。知らんまま受け取らないなんて申し訳が立たん」
ダンボールに回した腕に力を込めて、それだけで気持ちも新たに背筋が伸びる。切ない胸もそのままやけど、それでも溢れるあったかい気持ちがある。
「忙しいとこ、おおきにな。斑はん」
「んん? 今日は随分素直だなあ」
「あ゛? 誰かさんと違ってわしはいつでも本音やで!」
「あっはっは☆ じゃあ! 俺の役目はここまでだ」
最近随分丸くなった男を睨みつてれば、さっさと笑って躱す癖は変わらずやけど。
「また会おう相棒!」
それでもその言葉がくすぐったく感じるのは、わしらの関係があったかいもんに変わってきたからやろか。
「
……ほんまに嵐のような奴やな
……」
胸に溢れる感情は仰山あるまま、忙しなく走り去る背を見送った。
――ほんの少し、いや、胸の内がみんな切ない。
Double Faceにもれっきとしたファンがおったんや。いや、今も。今もおるから、こうしてもう籍を置いてないニューディにも手紙や贈り物を送ってくれはる。
ありがたい。申し訳ない。せやけど、やっぱり嬉しくて。
Crazy:Bが好きなことは事実や。もう〝当たり前〟みたいなもんや。
……けど、Double Faceもわしには大切で、好きで、それも当たり前やったんやな。
もっとファンの方を向いてもよかったんやろか。もっと笑顔で、応援してくれとる気持ちに応えられるように笑ってもええんやろか。そんなことしてお天道様に笑われへんやろか。許されるんやろか。
けど、
――やっぱり大切や。あの面倒臭くてうるさい男も、真っ暗闇に生きていたDouble Faceも。大切や。ほんまに大切なんや。
わし自身の奥底に眠っとった気持ちに気づいたら、少しだけ肩の荷が降りたような、余計に背負うものが増えたような、なんとも言えない心地になった。鼻の奥がツンとなる。あかん、あかんよ、耐えろ。わしは桜河の男じゃ、泣いたらあかん。
あの日坊に泣いてもええっち促されたのも思い出して
……ああ、なんや。その頃からわし、Double Faceが大好きやったんやなぁ。
こんな簡単な想いにまた気づいて、この箱いっぱいに詰まったファンレターと想いがあったかくて、いつの間にか笑っとった。
一通一通、綺麗な封筒の封を切るのがこんなに楽しい。
きらきらした便箋や色とりどりのペン。桜のシールや絵は、わしのこと考えてくれてはるのがよぉわかる。ユニットロゴの六芒星も二つ並んで、
……なんか照れるもんやなぁ
……。
どれもこれも。ほんまに、みんなおおきにな。こもってる気持ち、全部ぜんぶ受け取るで!
そんな時。
「
……ん?」
ふと、一通の手紙に目が止まって、そのまま手が止まった。
「えらい小さい子やなぁ?」
まだたどたどしい文字で、白い紙に緑色の飾り枠。ほんで、クレヨンのピンク色で書いてある手紙。
『こはくくん、たんじょうびおめでとう』
『ぼくは、しようがく3ねんせいです。もうすぐ、よねんせいになります』
『こはくくんのことが、だいすきで、いつも、テレビを、みています』
『おおきくなったら、こはくくんみたいに、やさしくて、つよい、おとこになりたいです』
『おうえんしてるよ』
こんな。
「
……なんやこんなん
……またえらい照れるわ
……」
こんな小さな子、しかも男の子。随分珍しい。小学三年生にしては幼い気もするけど、わざわざこうして文を認めてくれるなんて珍しい。一生懸命書いてくれたの、ちゃぁんと伝わるで。おおきにな。
思わず手紙をぎゅっと胸に抱いて
――自分でもなんでこんなことしたのかわからんけど
――もう一度手紙に目を落とした。
「
……ん?」
便箋の飾り枠だと思っとったもん。
……これは印刷と違う。緑のペンで、人の手で書かれたものやって気ぃついて。
「棒人間があっちゃこっちゃ踊っとる!」
微笑ましくて可愛らしくて、思わず声が出た。
「コッコッコ♪ やっぱり子供は無邪気でええね。よぉ描けとる! 楽しいのが伝わるで!」
まるで見えないその子に返事を書くみたいにして言葉がするする止まらへん。あったかい気持ちも止まらへん。けど。
「いや
――」
もう一度、目と手が止まる。
「ちゃう
……これ、暗号か!?」
心臓が跳ねた。なんやこれ、子供の力まで使って暗号を認めて、
……なんや、なんのつもりや!?
突然わしの周りの空気がピリピリ緊張するのがわかる。危険信号。どの輩はまでは、暗号を解き終わるまでわからへんけど
――。
「これは
……棒人間の頭が月の満ち欠けを示すんやろか
……?」
真っ白が満月、細く黒で塗りつぶしてあるのが上弦の三日月、次が半月
……。
だんだん見えてきた。
頭の部分が満月を含めて五パターンあるっちことは、きっと母音や。
となれば、首から下の体の向きと手足の本数の違いは子音やな。
あれから少しは平和になったって、わしの、桜河の力は衰えてないはずや。
……ほれみぃ? もう解ける。
たまたまカバンに入れていたボツになった企画書の裏に、懐かしいニューディのボールペンを走らせて。
……導いた解に息が止まった。
『ぱぱへ』
『おたんじょうびおめでとう』
『おげんきですか』
『ままとけんかしてないですか』
『ぱぱとままのこと、いつもみてるよ』
『かっこいい』
『ふたりはぼくのあこがれ』
『いつか、おとなになったら、ぼくもそこにいきたいな』
『アイドルになるよ』
『そのひまでまってて』
『ありがとう』
『さむいから、からだにきをつけてね』
『またね』
――涙、が、止まらへん。わけがわからん、前が見えん。無条件にぼろぼろぼたぼた、紙とボールペン、便箋が塩水に浸る。止まらへん
……止められるわけあらへん
……!
「
……J
……ッ!」
声にできたのはそれだけで、伝えきれない〝おおきに〟と〝堪忍な〟の言葉が溢れるのに喉につかえて、もうなにがなにやらわからないまま泣いた。ただ泣いた。
『元気にしとる?』
『ちゃんと食べとるか?』
『もう、四年生になるんやな』『からだ、少し大きゅうなったやろか?』
『友達はおる?』
『楽しいか?』
『
……幸せに、しとるんか?』
聞きたいことも山ほどあって、けどわしからの言葉を届ける術はない。それでも、それでもやっぱり、嬉しい。随分ずるいこと、調子ええことしとる気がして胸の辺りがヒュっと狭くなる。けど、
……やっぱり、嬉しい。Jが、Jがここにおる。Jがおる。着とった服の胸の辺りを強く握って、この混ざりあった気持ちと闘う。それでも涙は止まることを知らん。仕方ないやろ、今日だけや。こんなサプライズ、ずるいやろ、J!
『ありがとうな、おおきにな。
Jは、大切な、わしらDouble Faceのたった一人の自慢の息子や』
口にはできん。けど、心の中に泉みたいにして湧き出る言葉と感情は、確かにそうJに伝えた。以心伝心、テレパシーなんぞ信じとるわけやない。けど、今だけは、そう願わせてほしいんよ。
『いつか、また、会える日を待っとるから。はよ来ぃや! J!』
そう強く願って窓の外を見れば、どこまでも続く真っ青な空の上を、白い雲が穏やかに優しく流れて飛んでくところやった。
わしのこの気持ちは、あの風が、雲が、届けてくれるかもしれんね。なんてらしくないことを考えて、最後の涙を拭った。
「斑はん。そういえば、わし宛のファンレターに斑はんへの褒め言葉が書いてあったで。良かったな♪」
「おお、それは嬉しいなあ! 今度俺にもその手紙を読ませてくれると嬉しいぞお☆」
こうして訪れる〝いつか〟を、パパもママも楽しみにしとるで。J。
一個年取ったパパより、アイを込めて。
fin.
#桜河こはく誕生祭2025カウントダウン
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