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豆炭々炬燵
2195文字
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アンデッドアンラック
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【シク風】最果て
あの時の横顔の答えを公式で拝むのが絶望的なら筆を執るしかないじゃないですか、なシックさんと風子さんが待合室(広義)でダベっている話。本誌No.237要素独自解釈捏造設定有。
不意に目が覚める瞬間がある。
自分の掻いた鼾に吃驚したり、階段から踏み外す夢を見たとか、誰かが呼んでいる声が聞こえた等々。
ハッと目覚めた自分の代わりに起きる要因になった不確定要素を寝かせ態勢を整える。生き残るため無意識レベルまで動けるよう叩き込んだ体は不明瞭だった風子の意識を研ぎ澄ませ、いつどこから攻撃されてもいいように周囲を警戒し続けた。
しかし──。
「(ここは、どこ
…
?)」
耳鳴りがするほど音のない虚無が支配する空間。目を開けようが閉じようが眼前に広がる光景に差異は無く、熱くも無ければ寒くもない。かと言って居心地がいい訳でもない。
まさに暗中模索状態。低く屈めている態勢を維持しつつ前方へ右足を半歩進めた瞬間、恰もはじめからそこに地面など無かったように足が予想より遥かに沈んだ。
咄嗟に右足を引っ込めたが、如何いうわけか踏ん張りが利かなくなり風子はバランスを大いに崩した。
何かに掴みぶつかるまで止まらない止まる気配がない自分の体。我武者羅に手足を暴れさせる間、風子は以前宇宙に飛び立った記憶と感覚を思い出した。
「(だったら匂いがないのも頷けるっ!!)」
何処まで見渡しても静寂な暗闇の中で回転運動に興じている暇はない。
最後の課題を成功させるまで立ち止、回っている場合じゃ
…
。
「キミ、面白いことしてるね」
「え?」
チェロが奏でる低い旋律に似た声が鼓膜を通り越して頭蓋奥に響き渡る。
その呆れたと云わんばかりの言葉を認識した刹那、風子の体が重力を思い出したらしく背中を強かに打った。
短く濁った声を上げズレたニット帽子を被り直しつつ逆さまの視界を元に戻した。
「
……
シック?」
黒一色に映える漆黒。長い足を開き、踵をべったり見えない地面につけ深くしゃがむ所謂ヤンキー座りで風子を眺めていた蛇のような目がさらに細められた。
どうやら疑問形で問い掛けられたのがまっこと遺憾の意の様子。
「ボクを忘れるなんて記憶力悪すぎるでしょ」
「いや、確認の意味で言っただけで
…
。別に忘れてたわけじゃ
…
」
「じゃあ、いいや」
「(いいんだ)」
不思議と攻撃してこないシックに合わせ自然と正座をして対話モードに入る風子。居住いを正すべく背筋を伸ばし太腿の上に手を乗せる所作は何処となく武士を彷彿させる。
ただし、警戒心を最大限まで引き下げるのは些かお人好しが過ぎるのではなかろうか、などと舐められている気なぞ毛頭ない、そも相手はそのようなことをしないのを直接的に関わった時間が短いながらもシックは知っていた。気だるげに頬杖を突き、逆の手で行儀悪く風子を指差した。
「なんで、あんなこと言ったの」
「・・・?」
真剣な面持ちで首を傾げる察しの悪い風子をシックはそれはもう苦虫を嚙み潰したように顔を歪めた。
その内舌打ちが聞こえてきそうな気配に慌てて言葉少な且つ的確な要素皆無のシックの言わんとしているのに思考を巡らせ──、つと現在己が存在している空間の既視感に風子はポンっと手のひらを打った。
「マスタールーム」
スッキリした感覚に浸るのも程々に風子は口を動かし続ける。
「──噓偽りのない病院で対峙したあなたの強さを言ったまで。それ以上でもそれ以下でもない」
勇ましく凛々しい赤みの強い朽葉色の目がシックを真直ぐ見据えた。
さて、答え合わせの時間だ。果たして自分が言ったことがシックに取って聞きたかったことか否か。太腿の上に置いた手を握り締めれば使い込まれた手袋がギュっと鳴いた。
感情を全て削ぎ落としたのっぺりした顔でシックが風子を眺め、やにわかち合っていた視線を彼女から外し胸中独り言ちる。
「(神から上位十理UMAとして生を受けた時点で感性、価値観や思想が人間と交わることは決して無い。なのにキミ達側についた逆賊黙示録達の最後を羨望の眼差しで見ていたボク自身がいたのも事実
……
)」
ありもしない幻影に求めるのは信頼という絆か対等な立場か。
その馬鹿馬鹿しさに肩で息を吐いたシックが腰を上げれば、つられ風子も立ち上がった。物理的な身長差で風子を見下ろしていたシックは光すら飲み込む濡れ羽色の長髪を靡かせ踵を返す。
「こっち」
「え?
…
え? そちらに出口があるので?」
問い掛けに振り返ってくれないシックの背中を行く当てのない風子は追い掛けるしかなかった。
一定の距離を保つ気が毛頭ない風子が真横に来て一瞬目を丸くさせたシックはすぐさま眇め前方に視線を戻した。
「(う~ん
…
。大凡の体感時間でかれこれ10分くらい無言で歩い)て・・・?」
そして、突如風子の足元に走った罅が彼女を飲み込むのをシックは腰を屈め大層慌てふためき落ちていく様を視界に収め聞かせる気なぞ毛頭ないゆっくりとした口調で喋り出す。
「ここはキミが”キミ”になるまで用意された待合室。それを寛大なる神が与えてくれた最後の願い事に乗じてボクがお邪魔したってワケ。どうせキミがここにいる時間の短さを考慮しての有難い気紛れさ──」
悲鳴の尾を伸ばし小さくなっていく風子をシックの体が細かな粒子と化し砕けだす。
何か叫びながら手を伸ばす風子を見送ったシックは半壊した顔を穏やかに綻ばせ、生きている内にただの一言も呼んだことのない不運の名を謳い意識を闇に溶かしたのだった。
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