まきわ
2025-01-14 19:29:35
1825文字
Public クロリン
 

いつもの、冬の朝

創後、同じ家で暮らすクロリンのなにげない冬の朝の話
めっちゃ短いしやまもおちもない!

まだ静かな冬の朝。
昇りかけの太陽に照らされて、まだ明るくなったところとまだ薄暗さを残す部分に分かれている風景と、どこか清々しい空気がリィンは好きだった。
その冷たい空気をすぅっと吸い込んで太刀を構えると体と心がしゅっと引き締まる。
朝稽古は老師に剣を習い始めてから、のっぴきならない状況を除いては決して欠かしていない習慣だった。
始めたばかりの頃は苦痛に感じたこともあったけれど、今はむしろしないと落ち着かない。
一つ一つ、指先まで動きを意識しながら丁寧に、けれど鋭く型をこなしていく。
心は静かに凪いで、邪念や迷いで太刀がぶれないよう剣先まで油断なく意識を乗せて振るう。
最後までこなすと、ゆっくりと息を吐き出してから気を緩めないままゆっくりと太刀を鞘に納める。
そうしてようやく、ずっと横に感じていた気配の方へ視線を向けた。
視線を向けられたクロウは両腕で自分の体を抱き締めるようにして苦笑した。
「さっむすぎんだろ」
白い息を吐き出しながら眉を寄せるクロウにリィンは気を緩めると同時に表情も和らげた。
「まだベッドにいたっていいのに」
「一人でいるベッドほど寂しいもんはねぇっての」
リィンが冬の朝稽古を特に苦にも思っていないことをわかった上でそれでもこうして独りにはさせずに同じ寒さを共有しようとしてくれる恋人の想いを愛おしくも幸せにも感じていた。
意味はないのかもしれない。
それでもこうして傍にいて見守ってくれることが胸が痛くなるほど幸せだった。
クロウの傍まで来るとリィンはその嬉しさをそのまま表情に乗せて微笑んだ。
「なら一緒に風呂であったまるか?」
問いかけに、クロウは少し艶を瞳に込めて色事を示すようにリップ音をたててみせた。
「仕事に遅刻してもいいなら」
リィンはそれにジト目で返す。
「いいわけないだろ」
「だったらそれは夜のお楽しみにして先にシャワー浴びてこいよ。朝飯用意しとくから」
うん、ありがとう」
微笑んで返してから、リィンはふと思いついてぎゅっとクロウの腰に腕を回して抱きついた。
っと」
クロウは一瞬驚いた様子を見せてから、しっかりと抱き締め返してきた。
体は冷えているけれど、暖かい。
「こうしたら、ちょっとはあったかいだろ?」
やっぱ遅刻する気だろお前」
「ないから」
くすくす笑って体を離してからリィンは眉を寄せた。
あ。ごめん汗かいたままくっついてしまった」
「別にいいっての。むしろご褒美だご褒美。いいからほら、風呂行けって」
なんだそれ、と笑って返してから勧め通り浴室へ駆けていく。
クロウも仕事に行くのに食事の準備をさせてしまうのは申し訳なかったが、「ごめん」よりも「ありがとう」と言うべきだともう学んでいた。
その分休みの日は腕を振るうことにしよう。
(今日の朝食はなんだろうな)
リィンは温かいシャワーを全身にあびながら、なにげない日常の喜びに胸を躍らせた。


リィンが浴室に駆けていったのを確認して、クロウは湯を沸かしつつ冷蔵庫の中身を確認する。
(ホットサンドでも作るか。あとは目玉焼きと夕べのサラダが残ってるからつけるか)
飲み物はコーヒーを淹れることが多いが、ここのところリィンもクロウも持ち帰りの書類仕事が多く遅くまでブラックコーヒーを飲んでいることが多い。
胃の健康を考えて、今朝はリィンの実家から送られてきたハーブティを淹れることにした。
こういった朝食の準備はリィンが朝稽古をしている間に済ませてしまえばスムーズなのだとは思う。
そもそも朝稽古を苦にしているわけでもないリィンに付き添うのは自己満足以外の何物でもないし、意味などないのだ。
それでも、「そうしたい」と思う自分の気持ちに素直でいることにクロウはしている。
それに傍にいると、稽古を終えた瞬間リィンはとても嬉しそうな笑顔をこちらに向けてくれるのだ。
(それだけで、意味なんざ充分だろ)
クロウはホットサンドを作りながら口元を緩めた。
自分が幸せだと思えることをしたら、相手も幸せだと思ってくれる。
そんな日常をこそ、クロウは望んでいたのだから。
ホットサンドの香ばしい匂いが漂い始めた頃、身支度を整えたリィンがキッチンに顔を見せた。
「手伝うよ」
「んじゃハーブティ淹れてくれ」
「了解」
キッチンに並んで立つ、そんななにげない日常の幸せが胸を満たして、クロウは小さく鼻歌を口ずさんだ。