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ユキ
2025-01-14 13:53:46
1298文字
Public
🌙🎏
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今は、まだ
🎏を看取った🌙が海に行く話
『月島、頼みがある』
人払いをして二人きりになった部屋、一人で起き上がることも難しくなり、一日のほとんどを眠って過ごしていた鯉登がスっと背筋を伸ばし月島の目をまっすぐ見つめる。日に日に弱っていく彼のその姿と言葉にぞわりとした寒気に襲われた。息を飲む月島の姿にふっと柔らかい笑みを浮かべた鯉登が膝の上で固く握られた月島の手に触れる。固く乾いたシワだらけの手を上から包む手は同じようにシワが刻まれヒヤリと冷たい。
宥めるように手の甲を撫でる指に小さく息を吐き、ぐっと顎を上げ鯉登の目を見つめ返した。
そんな自分の様子に満足気な顔をした彼からの、最期の頼み事は
厳しい寒さが和らいできた春の朝に眠るように息を引き取った鯉登音之進の葬儀を見届けた。親族だけで行われた寂しくも温かい空間に身を置かせて貰うだけでなく、こんな頼みまで叶えてくれた彼等に深く頭を下げ鯉登家を離れ海に足を向けた。すぐに息切れする重い身体を休ませながらひたすら歩き、時折ガサリと鳴る胸元の包みを着物の上から撫でてここにあることを確かめる。
辿り着いた浜辺、ザザァ、と耳を撫でる穏やかな波の音と潮の匂いにズキリと胸が痛む。打ち寄せる波が身体を濡らす事も気にせずに膝をつき、胸元から白い紙の包みを取り出す。そっと開いたその包みの中には小さな白い欠片がひとつ。風が吹けば飛んでいってしまいそうなそれを指でつまんで手のひらに乗せ砕かないように握りしめて祈るように額に当てる
閣下
……
鯉登閣下
…………
鯉登少尉
一度だけ今まで呼んだことの無い名前を口にして握った手をゆっくり海の中に沈める。強ばった指を一本ずつ開き、彼の骨を、彼の家族が眠る海に還す。白い欠片がクルクルと水の中で泳ぎ、引く波に連れられてとうとう見えなくなった。あぁ、小さく漏れる掠れた声、いつの間にかボタボタと流れる涙もそのままにふらりと立ち上がり、一歩踏み出す。今、俺もそちらに...
ザバァ!と突然大きな波が沖へ踏み出そうとした身体を岸へ押し戻した。さっきまでの穏やかさとは違う強い力に足を取られ、よろけて背中から倒れ込み、呆然と空を見上げる。
「
……
なんで」
「
……
っなんでですか」
「あなた、いつも、はやく来いと、仰っていたでしょう」
「それなのに
……
」
「
…………
なんでっ!」
一人きりの海辺で慟哭する男の身体を穏やかな波が慰めるように撫でていく。
どれほどそうしていただろうか。遠く水平線が薄ら橙色染まり始めた頃ムクリと身体を起こす。暖かくなったとはいえ、ずっと水に浸かっていた身体がぶるりと震える。このままだと風邪を引いてしまうなと思って、そう思った事に思わず笑いがこぼれる。さっきまで死のうとしていたのに風邪の心配をするなんて。
「
……
家族水入らずを邪魔するな、ってことですかね」
ばしゃん、と足元に強めに打ち付けてきた波に違うと怒られたようで声を上げて笑う。
「
……
分かってますよ」
ギュッと服の水を絞り、寒さで上手く動かない身体を無理やり動かして海に頭を下げる
「いつか、また」
踵を返し遠ざかる背中を夜に染まり始めた海が見送っていた
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