chiri_onigiri
2025-01-14 12:37:53
1750文字
Public 玑灵
 

えっちな言葉しか喋れなくなったやつ(全年齢)


「霊淵大変だ! なんか知らないけど俺に話しかける人間の語彙がその人の思うえっちな言葉しか喋られない状況になってる!」
 勢いよく扉を開けた宣璣は、赤い翼をめいっぱい動かしながら文字通り部屋に飛び込むと、一息でそう言い切った。その顔は真面目そうな表情を保とうとしつつも、興奮と期待が入り交じって奇妙に歪んでいる。
 この現象は異控局にいるときに突然起こったもので、恐らく近くにあった呪物が原因であろうと思われるが、今の宣璣にとって原因などどうでもいい。目の前にいた肖征が突然小学生のような下ネタを連発し出したことには驚いたが、当の本人が禿げる勢いで顔から火を噴いて慌てふためいていたので一周まわって冷静になれた。彼の頭は依然としてきれいなままで抜けたり燃えたりするような毛髪はないのだが。
 育ちのいいお坊ちゃま局長の考えるすけべワードの発達レベルは想像以上に可愛らしく、彼の両親の涙ぐましい努力によって純粋培養の環境に置かれていたのだろう。宣璣は元々汚い言葉を使う方ではなかったが、彼の前で下品なワードを口にしないようにしようと密かに誓った。
 肖征でこれなら、愛しの盛霊淵だとどうなってしまうのだろう。想像するだけで宣璣の表情筋はゆるゆるに解け、背骨は抜き取られたように弛緩し、その変わりようは擦れ違う誰もが三度見する程であった。
 こうして法律速度ギリギリのラインを保ちつつ家路まで愛車を飛ばした宣璣は、ソファに腰かける盛霊淵にぴったりくっつくように座ると、嬉々としてその顔を覗き込んだ。
 盛霊淵は一日中家に引きこもっていたので、宣璣の指が触れるとその冷たさに少しだけ驚いた。視線をちらりと走らせると、目の前のローテーブルには今朝宣璣が用意してくれたお茶が置いてあるが、きっと彼の指先のように冷えきっているだろう。なぜなら、盛霊淵は今朝宣璣を見送ってから今の今までずっとソファから動いていないのだから。
 再び視線を戻すと、目の前の男は盛霊淵の惰性に気がついていないらしく、盛霊淵が口を開くのを今か今かと待ち構えている。
 バレていないのなら、そのまま隠しておこう。盛霊淵はにこりと微笑むと、愛鳥の代わりに暇潰しの相手をしてくれていたスマホをソファに置いた。
「小璣のくちびる」
 二人は十秒ほどじっくりと見つめ合い、同時に己の口を手のひらで覆った。
「霊淵。今なんて?」
「小璣のうなじ」
 盛霊淵は「なんでもない」と答えたつもりだった。しかし口から飛び出したのはとんでもない言葉だけ。まさか宣璣が言っていたトンチキな現象が起こっているのいうのか。
 対して宣璣は出しっぱなしにしていた翼をバサハザと羽ばたかせてソファから3センチほど浮いていた。シャツの穴はどんどん広がっていく。しかしそんなことどうでもいい。盛霊淵のすけべワード判定の可愛らしさの方が重要だ!
「霊淵! 霊淵!」
 可愛らしい言葉を放つ可愛らしい唇と珍しく赤く染まった愛おしい顔を見ようと、口を覆ういたずらな手首を掴むが、盛霊淵はいやいやと首を振って顔を背けてしまう。宣璣は前のめりになって殆ど盛霊淵に覆いかぶさっていた。
「霊淵、俺ともっとお話ししよう? そんないやいやしないで。霊淵がお話してくれないと寂しいよ」
 わざと幼い言葉を選んで盛霊淵の庇護欲を唆ろうとするが、盛霊淵は長い足で宣璣の腹筋を蹴ってまで抵抗してくる。だから宣璣がその足を押さえつける形で馬乗りになってしまったのも、盛霊淵を押し倒してその手の甲にたくさんキスをするのも仕方なのないことなのだ。
「ね、霊淵」
「小璣のおへそ!」
 力づくで盛霊淵の両腕を頭の上にまとめあげた宣璣は、息を弾ませながら固く閉ざされた唇の端にキスをした。
 あまりの羞恥に耐え切れず叫んだ盛霊淵だったが、飛び出した言葉にカッと顔を赤くすると宣璣に向かって頭突きをした。
 そのあと、丸一日二人の額は真っ赤に腫れていた。すっかり臍を曲げた盛霊淵は宣璣の問いかけに「ばか」としか答えなくなってしまったが、宣璣はご機嫌だった。盛霊淵のすけべワードレパートリーのことを考えれば、拗ねている盛霊淵も可愛くて仕方がなかった。ただ、なぜ自分のおへそがすけべなのかは理解できなかった。