頻子
2025-01-14 03:42:41
2151文字
Public KODR二次
 

保護者参観日(KODR)

ほのぼのベケニュ
END後~結婚前
友情出演ウルハム

 人間界の、流行りの雑誌曰く。
 人間には、なぜか、好きピ(?)のことを、急に好きじゃなくなる瞬間があるらしい。
「そりゃあ、何か手ひどい失敗をしたんだろ?」
「あ、いや、何も悪いことしてなくても、すっと気持ちが冷めることがあるらしい、ですよ」
「は? 意味が分からない。殺すぞ」
「あの、2世、その雑誌、僕の……っていうか、それ、僕の意見じゃないですからね。雑誌にそう書いてあるだけで……っていうか、雑誌……ああっ」
「まったく、人間はカスだな」
 ベーケス2世はウルハムを無視して、ページをちぎって花束の茎を巻いた。これでよし。赤い薔薇の花束。みずみずしく美しい。
 ベーケス2世は、今日は実体で城にやってきていて、ニュートとデートなのだった。ちょうどよく水を拭くものを探していたら、ウルハムがペラペラ、聞いてもいないのに雑誌について話し始めたのだ。
……いいですけどね、古いやつだし……
 でも、僕のなんだけどなあ……とウルハムはぐちぐち文句を言っていたが、ベーケス2世は聞いていなかった。

◆◆◆

「ニュート!」
 ベーケス2世は、とびきりの笑顔を浮かべ、ニュートに薔薇の花束を渡す。
「ニュート、これは俺の、愛の気持ちだ。ニュートのために、一本一本選んだんだ。ほら、ニュートの……
 唇のように赤い……とか、そういったことを言おうとしたが、ベーケス2世はそこで口を慎んだ。
 ニュートが思いのほか、喜んでくれなかったのだ。
 ベーケス2世をちらっと見て、ありがとうとぼそぼそ言うだけだ。
(なんだ、照れてるのか……?)
 婚約者が、せっかく実体で来てやったのに……
 あまり反応が良くなかったので、ベーケス2世はがっかりした。

 一緒にブランコの隣に座って、ベーケス2世はちらちら様子をうかがってみる。
 いつもなら、ニュートは、こんなふうに黙ったりはしない。
 にこにこ笑って、こんなことをした、だとか、こんなことがあったとか、それから、ベーケス2世が好きだとか、そう言ってくれるのだ。
 実体のベーケス2世と会えたらいいのにな、が口癖で、ベーケス2世だってそうだと言っていたし、ずっとそう思っていた。
「ニュート……?」
 抱き寄せようと思って手を伸ばすと、ニュートがびくっとして身を縮こまらせたので、それ以上は触れられずに手を引っ込めた。
「ああ、悪い、葉っぱがついていたから……
 念力で葉っぱをどかしてやると、ニュートはほっとした顔になる。こんなに近くにいるのに、どうして触れないのか。
(これは……なんだ……?)
 嫌われて、いる……
「やっぱり今日はやめておこうって。……どうしたんだ、ニュート、緊張してるのか? それとも、何かあったのか? なあ、ニュート。ニュート……
 ニュートはいいから、と言って、ベーケス2世の話を聞いてくれない。
――人間には、なぜか、好きピ(?)のことを、急に好きじゃなくなる瞬間があるらしい。
 今日のウルハムが言っていたことが、不意に頭をよぎった。

『おお、ニュート! 私のことは気にしなくていいんだぞ!』
「!?」
 突然、虚空から声が聞こえてきた。
 魔界王だ。魔界王の声だ。
 ベーケス2世は思わず居住まいを正していた。
 力を使い果たした魔界王はすがたが見えないのだ。全く気が付かなかった。
 ニュートが思い切り立ち上がって、ブランコがぐらりと揺れた。
 どうしてデートについてこようとするのか。
 自分はベーケス2世と一緒にいたいのに、どうして邪魔をするのか。
「あ、ニュート……
『おお、おお、ニュート、どうして怒るんだ。待ちなさい、私は――単に、お前が心配で――ほら、ニュート、待ちなさい』
 もう父様とは口をきいてあげない。
 ニュートがほっぺを真っ赤にして、すたすた歩いて行ってしまった。贈った花束だけはきちんと抱えて。魔界王はご機嫌を取りながらついていったようで、土埃が立っていた。

 一人残されたベーケス2世はひっそり思った。
……嫌われてなくてよかった。

◆◆◆

「ニュート、おいで」
 ベーケス2世が両手を広げると、ニュートは喜んで膝の上に乗ってくる。
 いつものニュート。
 甘えるように腕を回して、しっかりとベーケス2世に抱き着いてくる。愛されている。じんわりとした体温がそう実感させてくれる。花瓶にはベーケス2世の贈った花が活けてあるし、ニュートのドレスはベーケス2世が贈ったものだ。
 屈託のない笑顔を見せて、ニュートはニュートなりの愛をささやいた。
 ベーケス2世が大好き。ずーっと一緒にいたい。
「ははは、ニュート……俺も、……。っと、今日は参観日じゃないのか?」
 からかうと、ニュートが怒ってリボンを引っ張ってきた。
「いて。悪かった、悪かった。で、キスがしたいって?」
 ニュートは急にうろたえ、さっきまでの勢いを失くし、代わりにぎゅっと目を閉じた。人間の心なんて、単純で、他愛ないものなのだ。
……
……ところで、あれ以来、すっかり背後を確認する癖がついてしまった。ニュートのおねだりを叶えてやる前に、ベーケス2世は念力でそーっと半開きになっていた戸を閉めた。