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はんぶんこ
ふかとがも
深水は迷っていた。味噌煮込みうどんにしようか、あんかけスパゲティにしようか。
自宅から少し離れた場所にある大衆食堂で名古屋めしのフェアをやっているらしいと聞き、深水は蒲生を誘ってお店を訪れていた。店は家族連れや近くの大学生、一人で来店したサラリーマンのような人など多様な層の客がいる。通常メニューは定食を中心に丼ものやうどんも取り揃えているらしい。期間限定のメニュー表を見るとひつまぶし、味噌カツ、手羽先、味噌おでん、味噌煮込みうどん、あんかけスパゲティのような名古屋めしが載っている。深水は普段食べる機会のない料理を見て心が躍った。どうにか二択までしぼったものの、この二つのどちらにしようか決まらない。
味噌煮込みうどんは虹顔市ではあまり見かけない赤味噌のつゆというのが興味深い。また、麺は煮込みうどん専用のものを使用しており独特の噛みごたえがあるというのも気になる。
一方、あんかけスパゲティは極太スパゲティに香辛料をふんだんに使ったとろみのあるソースをかけたものでパスタ好きの深水にとって一度食べてみたかった代物だ。
フェアの情報を知ったのが遅かったためもうすぐ期間限定メニューは終了するらしい。そのため食べられる機会は今日が最後になりそうだ。二つの写真を見比べながら固まっている深水を見かねてか、蒲生が声をかけた。
「深水はどれとどれで迷っているんだ」
「えっと、味噌煮込みうどんとあんかけスパゲティだよ。蒲生くんはどっちが美味しそうだと思う?」
「どっちが美味しいかは知らねえが、半分ずつ食べたらいいだろ。残りの半分は俺がもらうから両方頼め」
「でもそれだと蒲生くんが食べたいもの頼めないよ」
「俺は限定メニューに興味ないから今度食べたらいい」
深水は蒲生の心に嘘偽りがないことを認識し、晴れやかな表情になる。その顔を見た蒲生も僅かに顔がほころんだ。
「じゃあ白米もつけていいかな?味噌煮込みうどんは〆で雑炊にすると美味しいらしいよ」
「勝手にしろ」
それからというもの、深水は何が気に入ったのか、時折食べ物を分け合いたがる。例えばこんな出来事があった。日曜日で図書館が閉まっており蒲生が自宅で読書をしていたある昼下がりのこと。
「ただいま」
「おかえり
……
ってなんだその袋は!」
蒲生が指摘したとおり深水は大きく膨らんだ手提げビニール袋を持っていた。
「世界のデザートフェアに行ってきたんだ。これがさつまいもボールで、こっちはティムス、これはラドゥで
……
」
深水は一パックずつ袋から取り出して机の上に置いていく。一種類毎に小分けされているため袋の見た目ほど量が多くないことはわかるが、まだ袋は大きく膨らんだままだ。
「中身の詳細までは聞いてねえ。何故そんなにも買ったんだ」
「気になるものがたくさんあってつい買いすぎちゃった」
「そんなにも食べ切れるのか?基本日持ちしないものばかりだろ」
「蒲生くんも一緒に食べようよ。少しずつしか買ってないからはんぶんこすればちょうどいいと思うよ」
「
……
せっかくだからいただく」
たくさん買う時は一言連絡よこせと蒲生は小言を言おうとしたが、深水が手を洗いに行ったためタイミングを逃す。戻ってきた時に言おうとしたものの深水の顔を見たら言う気が削がれた。いつも以上に嬉しそうな顔をしている。
深水は一つ一つパックを開けて皿に並べた。ちょっとしたお菓子パーティの様相になっている。深水はいただきますを言うとお菓子のうち一つをとって食べる。
「蒲生くん、これ食べてみて。クルアイトートっていうバナナを揚げたお菓子なんだけど、バナナじゃないみたい」
深水に促され蒲生も一口食べる。
「本当だ。ホクホクとしていて芋みたいだな」
「でも美味しいね。こうして同じものを分け合えるのって嬉しいな」
深水の笑顔を見て、蒲生はこういうのもたまにはいいか、などと考えていた。
「じゃあ、また何かあればいつでも依頼してください!」
今日は四人で依頼をこなした。依頼人に挨拶をし、退散する。太陽は一番高く登っており正午を知らせていた。
「お腹空いたなー。何か食べてから帰ろうぜ」
「何を食べるんだ?この辺りは来たことないからどんな店があるのかわからんな」
ありがたいことに仮面ライダー屋の認知度があがり、虹顔市の隣の市にある施設からの依頼だった。下調べをしてから来たため道に迷うことはなかったが、周辺のお店までは調べていない。蒲生は歩きながら周りを見渡すが、大通りから外れているためか住宅ばかりで飲食店らしき建物は見当たらない。
「バス停の近くで丼もののお店を見かけたよ。蒲生くん好きそうだしあそこはどうかな」
深水の提案に三人が賛成し、帰り道のバス停を少し通り過ぎてそのお店に入った。こぢんまりとした佇まいで中は綺麗とは言いがたいが、出汁のいい香りがして味は期待できそうだ。
店員に案内され四人掛けの席に座る。机上のメニュー表を開くと大きく載せられた天丼の写真が目につく。どうやらこの店は天丼が一押しらしい。蒲生は天丼に興味をそそられたが午前中にしっかり働いたためお腹が空いている。ガッツリ食べたい気分であるためカツ丼を食べたくもある。先日の深水ではないが、どちらにしようか迷っている。
「おれは天丼にする。才悟は?」
「オレは水を頼む」
「水でいいわけないだろ。何か頼めって」
「では伊織陽真と同じものを頼む」
「紫苑は?」
「うーん、ぼくはこの釜飯にしようかな。蒲生くんは決まった?」
「俺はカツ丼にする」
全員決まったためすぐにでも店員を呼ぶと蒲生は思ったが、そうはならなかった。伊織が蒲生の注文する品に反応を示す。
「やっぱり慈玄はカツ丼か、いいなあ。店に入った時出汁のいい匂いがしたからちょっと迷ったんだよ。出汁が美味い店はカツ丼が美味しいらしいって聞いたことあるからさ」
「なら伊織もカツ丼にすればいいだろ」
「でもこの店は天丼推しみたいだし、そっちも気になるじゃん」
「じゃあ伊織くんと蒲生くんではんぶんこしたらどうかな。蒲生くんも天丼気になっていたのでしょう?」
「なるほど。いいな、それ。慈玄もそれでいいか?」
蒲生はあまり気乗りしない。だが今まで深水の要望に応えてきた手前何となく断りづらい。
「わかったわかった。それでいい」
「よし、決まりだな。すみませーん」
伊織が店員を呼び、それぞれ注文した。深水は蒲生を心配そうに見つめていたが、蒲生はそれに気づかずお茶を啜った。
ご飯を食べた後は虹顔市方面へ向かうバスに乗った。虹顔市内に入ると所々見覚えのある場所を通り、教育地区まで来るとすっかり見覚えのある景色が広がる。バスの音声案内が降りる予定の停留所名を告げるとブザーを鳴らした。数百メート走った後バスが停止し、四人は降りて二手に分かれてそれぞれ帰路につく。なんてことはない、いつも通りの仕事終わり。
魅上と伊織と別れ、少ししてから深水は蒲生に質問した。
「蒲生くん、もしかしてはんぶんこするのずっと嫌だった?」
「別に嫌ではねえ。何故そう思った?」
「今日伊織くんと分け合うことを提案した時、心に翳りが見えたから
……
」
「
……
まあ、分け合うのはあまり好きじゃねえな。一つのものを掻き込む方が好きだ」
蒲生の回答を聞いて深水は俯く。蒲生の趣向を尊重せずに自分の意思を押し付けてしまったと反省する。
「そうだったね。ごめんね、いつもはんぶんこしようとか言っちゃって」
「謝るな。嫌じゃないって言っただろ。そもそも本当に嫌だとしてお前ならすぐに気づくはずだ」
深水はそう言われて過去に分け合った時を思い返す。確かに嫌という心は感じなかった。むしろ少し嬉しそう、だった気がする。深水は顔を上げた。
「嫌じゃなかったんだ。でも、なんで
……
?」
「お前のためになったなら、悪くないなって思っただけだ」
「ぼくが嬉しいと蒲生くんも嬉しく思ってくれてるってこと?」
「そ、そうは言ってねえだろ」
「ありがとう。すごく嬉しいよ」
「
…………
」
蒲生は少し足を早めて深水を置き去りにする。まだ日は高いのに耳が赤く見えた。深水も足を早めて再び蒲生の隣に並ぶ。
「もしよかったら、またはんぶんこしてくれる?」
「
……
好きにしろ」
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