もう何を恐れることも隠すこともないのでナチュラルにいちゃつく、現代から1000年後くらいの世界で健やかに国家元首とその伴侶やってるリオヌヴィの話その7。急に寒くなったある日の二人とマレショのメリュの話です。
苦手な寒い日お布団つむりwithリ殿になってたり、思考能力が落ちてしまって必要最低限しか喋らなくなるの翻訳してもらってたり、甘やかされ慣れたのでちょっぴり我儘言うなどするヌ様無限に可愛いなっていう夢を詰め込みました。
ぽてぽてと歩く道すがら、吐き出した息が白く曇って後ろへと流れていく。頬を撫でていく風に少しだけ身を縮めて、ちょっぴり足を早めた。
今朝のフォンテーヌは、突然の『とっても寒い』に襲われていた。もこもこになるのを忘れたクジャクバト達が身を寄せ合って暖をとっているのを見かけたくらいに。
私たちは人間より少しだけ寒さに強いのでいつもの制服にマフラーを巻いたくらいだけれど、すれ違う人間達はみんなもこもことしていて、もこもこしていない人たちは身体どころか顔のパーツもぎゅっと寄せて歩いている。きっとあの人たちも、もこもこになりそびれてしまったのだろう。
今現在、私は大切な言伝を携えてヌヴィレット様の元へ向かっている。行き先はパレ・メルモニアではなくご自宅だ。何故ご自宅なのかというと、今日が『突然』の『とっても寒い日』だから。
こんなふうに突然『とっても寒い』になった日、ヌヴィレット様は体調を崩す。『龍』であらせられるから、急激に気温が変化すると体内の元素が暴れてしまうのだそうだ。このような不安定な精神状態で皆の前に出たくないから、というヌヴィレット様のご意向を汲んで、こんな日はお仕事はお休み、どうしてもが起これば眷属であるメリュジーヌを伝令役に、というのが、いつからか人間達が決めたルールのようだ。
とてもとても申し訳なさそうな顔で言伝を頼んできた人たちのことを思い出してふふ、と笑う。優しくて可愛い人たちだなと。だって私たちは知っているのだ。ヌヴィレット様は体調を崩してるんじゃなく、ただと〜っても寒さに弱いだけなんだって。
ヌヴィレット様が“体調を崩す”ようになったのは五百年くらい前からだ。これまでのヌヴィレット様はそうじゃなかった。『とっても寒い』が来ても、いつも通りの完璧なお姿で「ごきげんよう」と微笑んでくれていた。じゃあ何故今になってって? 理由は簡単。「あっためてもらうことを知った」からだ。
ヌヴィレット様は千年ほど前に御伴侶をお迎えになった。あの方がずっと気にかけていらした人間の少年だ。元気に育って、あの方のお隣に並べるくらい大きくなった人。いつも私たちを気にかけてくれる、やさしくて温かい人。私たちはあの人が大好きなので、ヌヴィレット様のつがいになってくれたと聞いた時はメリュシー村でパーティを開いてしまった。その人はかの方を「甘やかす」のがとっても上手なのだという。じわじわ、じわじわと「甘やかさ」れたヌヴィレット様は、昔に比べて随分可愛くなった――というのが、シグウィン大先輩を始めとした「その頃」を知るメリュジーヌたちの総意だ。
実は寒さが苦手だったヌヴィレット様が、『とっても寒い』が来るたびに御伴侶様に温めてもらっていたなら、それが約千年も続いたなら、もう“これまで”になんて戻れないだろうし、今のフォンテーヌで無理にそうする必要はないと思う。ヌヴィレット様を気遣う御伴侶様の、「こういう日は体調が優れない」というちょっぴりの嘘を真摯に受け止めて、暗黙のルールを作ってくれるような人間達がいる国だもの。
突然だから駄目なのだとかの方は言う。スイッチを切り替えるように気温に変化されては私でなくとも困る者は大勢いるだろう、と。そのお話をしてくれた時の、少しだけお顔をしかめたヌヴィレット様を思い出して小さく笑う。私たちの前でそんなお顔をしてくださるようになったのも、御伴侶様がかの方の隣に掛けてからだ。あの人と一緒にいる時のヌヴィレット様はいつもふわふわとしていて、とっても幸せそうで、私たちは嬉しい――そんなことを考えていたらご自宅に着いていた。ドアの前に立って、呼び鈴を鳴らして、じっと待つ。じっとだ。『とっても寒い日』のヌヴィレット様は、基本的には寝室で過ごされている。広いお部屋は寒いし、ベッドの中は温かいから。当然御伴侶様もそこにいらっしゃるので、ヌヴィレット様に声をかけて玄関まで出てくるのにはどうしても時間がかかるのだ。
「…やあ、おはよう。待たせてすまない」
「大丈夫です。おはようございます、公爵様!」
ガチャリと金属が擦れる音がして、いつもよりゆったりとした服装の御伴侶様――公爵様が顔を出す。吹き抜けていった風に顔を顰めて、公爵様はドアを押さえてその身体を引いた。どうぞ、と促されて、少しだけ迷って、お邪魔しますとお言葉に甘える事にする。御使いが人間だと玄関でお話されるらしいし、私だって立ち話でも問題ないけれど、公爵様がお風邪を引いたら大変だもの。
「さて、この寒い中わざわざ君が俺たちに会いにきたって事は、何か事件でも起こったのかい?」
はちみつを落としたホットミルクを差し出してくれながら首を傾げる公爵様の隣には、ぴったりと張り付くようにしてヌヴィレット様がいた。公爵様がホットミルクを用意してくれている時にお部屋から出てきたヌヴィレット様は、温かそうな大きなガウン(きっと公爵様のものだろう。あの人が薄着だったのはこれが理由だと思う)にくるまって、ふわふわもこもこのルームシューズで足を守って、少しだけ眠たげで、まるで巣穴から出てくるプクプク獣みたいでとっても可愛らしかった。「早く戻ってきてくれ」、キッチンに立つ公爵様の背中へ、ルエトワールみたいにぺたっと貼り付いてヌヴィレット様がかけた声に、「大事なお客さんが来ていてね」と返しつつこちらを見た公爵様の視線を追ったかの方はああ、と呟いて、おはよう、とぽやりと笑ってくださる。ご挨拶を返した私ともこもことしたカーペットの上に一緒に座って公爵様を待ち、私の向かい、かの方のお隣へ腰を下ろした公爵様に寄り添って、今だ。『お客さん』が私たちでなかった場合は用事が済むまでお部屋でじっと我慢されるらしい。そんなことを聞いてしまったら、遂行中の任務から外れてでも私たちが御使いの役目を果たさなければと決意を新たにしてしまう。
公爵様お手製の、身体を温めてくれるホットミルクに思わず緩めてしまった表情を慌てて引き締めて、私は口を開いた。
フォンテーヌ廷地区西で違法改造のマシナリーが暴れていること。
特巡隊も出動してひとまず暴走した掘削型が作った大穴に追い込み、穴の周りを囲うように防壁を展開してそれ以上の被害は抑えていること。
制圧対象のマシナリーの数が多く、一体一体の火力も高いため、どのような方法で対処すべきか悩んでいること。
ついてはお二人のお考えを伺いたい――話し終えると、ヌヴィレット様がゆっくりと瞬く。眠い時の猫みたい、なんて思ったのは内緒だ。
「ふむ…隔離は確実にされているのだな?」
「はい! 科学院製の特殊シールドです」
「では問題ないだろう」
口にしたヌヴィレット様の指がぱちんと鳴る。けれどそれだけで、特に何も起こらない。
「えっと…?」
「水没すれば動きも止まるだろう」
「……???」
首を傾げた私にヌヴィレット様は言葉を重ねるけれど、何をしたんだろう…?
「ああ、なるほど。ヌヴィレットさんがピンポイントで雨を喚んでくれたようだから、調査員に水位と状況を見張らせて、マシナリーの停止を確認したら水を抜けばいい。必要なら俺のところから何人か連れて行ってくれ」
主さまの考えていることを読み取れなくてしょんぼりな気持ちで、つまりこの後はどうしたらいいのだろうと困ってしまった私に、公爵様がぽんと手を打つような口調で説明してくれた。ついでに待機している人達に伝えるべき事も教えてもらって、私はこくこくとうなずく。確かにどんなに強いマシナリーも水には弱い。ちょっとの湿気や雨ならともかく、水没しても動けるマシナリーは水中での作業のために開発されたものくらいだろう。
「リオセスリ殿」
「はいはい。もうちょっとだけ時間をくれ」
遂に公爵様の腕を抱え込んだヌヴィレット様がぐりぐりとその肩に懐いていらっしゃる様子は本当の猫みたいでとっても可愛い。頂いているホットミルクみたいにふんわりあまい声とやさしい指先でかの方をあやしながら(ちょっと失礼だったかな?)、公爵様がこちらを見て苦笑う。
「ヌヴィレットさんがこの通りなんで見送りもできなくてすまないな。後で様子を見にいくと現場には伝えてくれ。施錠は心配しなくていい、オートロックだからな」
「はい! ありがとうございます、公爵様、ヌヴィレット様! ホットミルクごちそうさまでした。寒い日にお邪魔してごめんなさい」
早くヌヴィレット様をあったかい場所にお帰ししなくちゃ、そんな気持ちで急いで立ち上がる。
「君たちならいつでも歓迎さ。ああ、作業担当に感電対策はするように伝えてくれ」
「はい、必ず。お邪魔しました!」
「気をつけてな」
ぺこりと頭を下げると、公爵様がひらひらと手を振ってくださって、ヌヴィレット様も伏せていた顔を上げて気をつけて、とお言葉を下さった。今の私は無敵だと思う。だってお二人からご加護を頂いたもの。
「さむい」
「ん、そうだな。早くベッドに戻ろう」
リビングルームの扉をカチャンと閉める瞬間、ひょいと軽やかにヌヴィレット様が抱き上げられるのと、抱き上げられたかの方が嬉しそうに公爵様にすり寄るのが見えてくふふと笑ってしまった。大切な主さまと、大切な主さまの大切な御伴侶様が仲良しで幸せそうだと、私たちメリュジーヌも嬉しくて幸せなのだ。
リビングルームに続いて玄関の扉もしっかりと閉めて、錠の降りた音を聞き届けて、現場へ戻るべくちょっとだけ急ぎ足。
あんな風に御伴侶様とくっついていられるから、ヌヴィレット様もきっと『とっても寒い日』が嫌いではないのだと思うけれど。
あの方のためにも、もう少しだけあったかくなってくれたらいいなあ。頬を撫でる冷たい風にきゅっと目をつむりながら、そんなことを思った。
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