紫輝
2024-12-18 10:35:53
8725文字
Public リとヌと御仔の話
 

【リオヌヴィ】レヴィのおたんじょうびだいさくせん(12月)【原神】

リとヌと御仔ととうさまの誕生日の話。助っ人の空くんを添えて。可愛いを盛りすぎて長くなっちゃった(後悔無)

 十二月某日、メロピデ要塞・特別許可食堂。
 カウンターの内側で本日のサービス食の準備に精を出していたウォルジーは、近づいてくる軽い足音に作業の手を止めた。振り返るとカウンターの向こう側から二筋の青と一筋の黒の混じった銀色の頭がひょこりと覗いている。
「おや、若様。おやつの催促ですか?」
 思わず頬を緩めながらカウンターの向こう側へ声を掛けたウォルジーに、おじちゃんこんにちは、と礼儀正しい挨拶をくれた幼仔はちがうの、と首を振った。
「おねがいをしにきたの」
「お願い、ですか?」
「えっと、ビンをわけてくだしゃい」
 眉を上げ、煌めく瞳を見下ろす。真っ直ぐにウォルジーを見返した幼子は、真剣な声でそう言った。
「瓶?」
「お水のはいってたビンがほしいの。じいがおじちゃんはいっぱいビンをもってるっておしえてくれたから
 ちらりと幼仔の向こうへ目をやると、この要塞で幼仔の目付を任されている『じい』――初老の看守、アルバートがニコニコと笑みを浮かべながらこちらを見守っている。
「構いませんが、何に使うのか教えてもらってもいいですか?」
「えっとね、お水をくんでね、とうさまにあげるの」
 もうすぐおたんじょうびだから。
 幼仔の元気な答えになるほどと小さくうなずいて、空き瓶――ではなく栓を抜く前の瓶を数本取り出し、カウンターの外へ出た。不思議そうに首を傾げた幼仔はおあつらえ向きにリュックを背負っていて(これも『じい』の根回しなのかもしれない)、ウォルジーは幼仔ににっこりと笑ってみせた。
「ではテストをさせてください。水を入れても若様が持って帰れるだけの本数、瓶をお譲りしましょう。水の入った瓶は重いですからね」
 ぱあと顔を輝かせた幼仔がくるりと背中を向けてくれる。ノンビリラッコと目の合う可愛らしいリュックを開けて、一本、二本。三本目を入れたところでちょっとおもい、と幼仔が眉を寄せた。
「二本にしておきましょうか」
「だいじょうぶ! ぼくみっつもてる!」
 ぶんぶんと首を振る幼仔の目に『とうさま』へ持てるだけの水を届けたいのだという決意を見て、ウォルジーはその気概を買う事にした。それに、我らが公爵様の子だ。自分や『じい』が説得したところでその決意を曲げられないだろうなと、そんな気もしたので。
「ありがとう、おじちゃん! パパにはないしょにしてね」
 三本の空き瓶をリュックへしまった幼仔の、愛らしい笑顔にどういたしましてと言葉を返す。小さな手で肩紐を握った幼仔がはっとしたように声を潜めてそう続けるのにやはりと笑った。
「公爵様にも内緒なんですね」
 幼仔の立場であれば、空き瓶くらい新品のそれが水の上でいくらでも手に入れられるはずだ。わざわざここで調達する必要はないし、調達するにしても父親と共に来たほうが話は早く済むだろう。そうしなかったということは、つまりそういうことだ。
「プレゼントはないしょにしないとだから。いちばんはとうさまじゃないとダメなの」
「約束しましょう」
 小声で返したウォルジーに、幼仔はひそりと笑う。じいもないしょにしてね、と水を向けられ、勿論ですともと返したアルバートと目を合わせ、互いに肩を振るわせる。
 この要塞で『公爵』が知り得ない出来事なんてないに等しいけれども。
 それをこの仔に伝える必要はないだろう、と。

***

「えっと、きょうはよろしくおねがいします!」
「こちらこそ。一日よろしくね」
「よろしくな、レヴィ!」
 ノンビリラッコの形をした可愛らしいリュックに小さな狼のぬいぐるみ(『お友達』のお出かけ形態だそうだ。看護師長謹製だと聞いた)をぶら下げた幼仔がぺこりと頭を下げるのに、相棒と共に笑顔で答える。本日の任務はこの小さな水龍の、『とうさま』へのプレゼント探しの手伝いだ。期限は日没まで。依頼主は小さな水龍の『パパ』たる公爵閣下であるが、どうやら小さな水龍様のご指名らしい。光栄な事である。
 俺と出掛けるとプレゼントの中身がバレちまうからダメだと振られちまってね。大人しくパーティの準備に従事するさ――とは件の公爵閣下の台詞だ。プレゼントがなんなのか、初めて知るのは誕生日の主役でないといけない、らしい。子どもらしい、可愛らしい理由になるほどと笑って、空は二つ返事でこの依頼を引き受けたのだった。
 ポート・マルコットで『パパ』に元気に行ってきますを告げたレヴィは、作戦会議を提案する間もなく空のマントの裾を引いてどこかを目指し始める。引かれるままに歌劇場とは反対方向へ進み、辿り着いたのは海岸だった。
「もうプレゼントは決まってるみたいだね」
 空の問いかけに、レヴィはこくりとうなずく。
「みんなにそうだんしたの。そしたら、うみのそこのどうくつにとってもきれいなお水があるよっておしえてくれたの。それをとうさまにあげたい」
「みんなって誰だ?」
「うみのおともだち!」
 相棒が重ねた問いに、レヴィはにっこりと笑った。海のお友達。思い浮かぶのはレヴィのリュックのモデルとなったノンビリラッコだ。どことなくこの仔と、『とうさま』を彷彿とさせる色合いの愛らしい海獣。こちらを見かけると寄ってきてくれる個体もいるし、この仔は未来の水元素の龍王だ。水棲生物と意思疎通ができてもおかしくないよな、と納得する。世界は謎だらけなのだから、無闇にそんなわけないを振り翳してはいけないのだ。そもそもそんなことを言い始めたらまずもってこの仔の生い立ちが――
「そらおにいちゃん?」
 愛らしい声に名を呼ばれて我に返る。いけないいけない、神だの鬼だの仙人だの精霊だの元素龍だののやる事にいちいちツッコんでいたら身が持たないのはよくわかっているのについ。
 目の前のこの仔は両親から溢れんばかりの愛を注がれて大切に育てられている、そんな素敵な事実を、事実として真っ直ぐ受け止めればいいのだ。
「ごめん、なんでもないよ。『お友達』から場所は聞いた? 案内してくれる子がいるのかな」
 振った首を傾げ洞窟の場所を聞くと、レヴィはおぼえてきた!と元気に答えてくれる。のに、相棒がそっと顔を寄せてきた。
「大丈夫か? レヴィは賢いけど、正確な場所を覚えてるとは思えないぞ
「多分レヴィにしかわからない目印があるんだと思う。近づけば分かると思うし、『友達』が助けてくれるんじゃないかな」
 出発が朝早くだったから、時間には余裕がある。一番時間がかかると見積もっていたプレゼント選びが既に終わっているのだから、予定自体はかなり巻いているのだ。最悪自力で洞窟を見つけられなかったとしても、未来の水龍王のために誰かしら、もしくは何かしらが力を貸してくれるだろう。そんな予感があった。
「そっか。じゃあ道案内よろしくね」
「あい!」
 それもそうだな、と楽観的に笑う相棒とそうそうとうなずきあって今にも海へ飛び込んでいきそうなレヴィにかけた声に張り切ったお返事をくれた幼仔といよいよ海へ入ってすぐ、空は困惑にその瞳を瞬くことになった。
 きゅ、と握られた左手。空のそれを掴むのは、レヴィの小さな右手だ。この仔は実はそれなりに警戒心が強い。両親が傍にいて、彼らが『友人』として接する人間達へ懐くのは早いが(ヌヴィレットの血筋だなと思う)、手を繋ぎたがるのも抱っこをせがむのも実は両親にだけだ。『せんせい』と慕われ袖を引かれる鍾離が次は手を繋ぐのが目標だと祖父の顔で笑っていたのを思い出し、お先に、なんて思ってしまった。
「どうしたの?」
「えっとね、パパにいわれたの。お水にはいるときはおにいちゃんとてをつなぎなさいって」
 どうやら『パパ』の言いつけだったらしい。少しだけしょんぼりした様子でレヴィは続ける。
「ぼく、うみにはいるとはしゃぎすぎちゃうの。うんとたよってもいいけどこまらせちゃだめってパパにいわれたから。ぼくがまいごになったらおにいちゃんこまっちゃうでしょ?」
 だから僕が迷子にならないように手を繋いでて欲しい、そうだ。公爵のパパぢからに感動などしつつ、幼仔の愛らしさに兄心をくすぐられ、その手を握り返す。
「了解。ちゃんと繋いでるからレヴィは迷子にならないよ」
 ふりふりと繋いだ手を振って微笑めば、レヴィはこくりとうなずく。
「ぼくがまいごになってもパパととうさまはぼくのことさがしてくれるけど、おにいちゃんは『ぼうけんしゃ』だから、たからものをみつけたらぼくのことわすれちゃうかもしれないってパパいってた。だからね、はなさないでね」
「うーん、最後の一言がリオセスリなんだよなぁ
「ウィットに富んでるよね」
 真剣にそんな事を口にする幼仔に脱力感を覚えつつ、三人はサラシア海原の冒険に出発したのだった。


 原海アベラントに挨拶しつつ『マシマシマシナリー』を避けながら海底谷を進んでいた一行に、一匹のノンビリラッコが近づいてきた。頬にぐりぐりと頭を擦り付けられたレヴィがこんにちはと笑う。どうやら『お友達』のようだ。旋回し離れていったノンビリラッコが振り返り、くるくると水中返りを繰り返す。
「どこかに連れて行きたいみたいだぞ」
「探してる洞窟かも。レヴィ、教えてもらった洞窟ってこの辺り?」
 空の問いにアイオライトが辺りを見回して、こてりと首を傾げる。「うーん?」と落ちた疑問符に、相棒と顔を見合わせ苦笑した。
「ね、レヴィ。お迎えかもしれないから、あのノンビリラッコに着いていってみない?」
「おむかえ?」
「洞窟の近くに住んでる子なのかも。レヴィが来たから、案内しに来てくれたんだよ」
「ホントか〜?」
「違ったらその時はその時」
 ぽそぽそと相棒とやりとりしつつレヴィの反応を窺う。数度瞬き、じゃあついてく、とうなずいたレヴィが軽やかに水を蹴り、身体がぐんとラッコの方へ進んだ。これは確かに本気で泳がれたら見失うだろう。『パパ』の言いつけに二度目の感謝をしつつ、相棒の腕を慌てて掴んだ。おわぁ?!と悲鳴を上げる相棒と共にレヴィに引っ張られるまま海中を進んだ先、視界に現れた岩壁の一部が口を開けていた。大人が一人通れるか通れないかくらいのあまり大きくはない洞窟の入り口は海藻や水中植物の中に溶け込んでいて、なるほどこの辺りを住処とする生き物でなければ気づかないだろうなと思わせる。
 道案内のラッコの頭を撫でてありがとうを告げたレヴィは今だけね、と念を押して繋いでいた手を離し、躊躇いなく洞窟へ入っていく。どうやら偵察済みのようだ。
 小さな背を追い水中花の淡い光に青く照らされた洞窟内を進む。程なくして近付いてきた水面から顔を出すと、そこは開けた空間だった。開けた、と言ってもそれほど広くはない。大人が数人も入れば満員になるだろう。その空間の壁には亀裂があり、そこからこぽこぽと水が溢れていた。長いことその水を受け続けていたのだろう、湧水の下の地面はボウル状に凹んでいる。時折水面が揺れて光を反射しなければそこに水があるとはわからないくらい、透明度の高い水だった。
「おお……
「これは宝物っぽい」
「たからものだから!」
 思わず相棒と顔を見合わせて呟いた空に、レヴィは得意げに笑う。お兄ちゃんにも宝物に見えるなら安心だと、そんなニュアンスの安堵を浮かべたレヴィが背負っていたリュックの中から空き瓶を取り出した。行儀良く並んだそれは三本ある。
「これに入れるんだね?」
「うん」
「オイラたちも手伝うぞ!」
 身体の前でガッツポーズを作る相棒の申し出に、レヴィはふるりと首を振った。
「うんとね、水がいろんなひとのところをとおると、そのひとたちのきもちもとけちゃうんだって。とうさまにはこのお水をのんでほしいから、ぼくがじぶんでくみたいの」
 瓶を抱きしめ、「ありがとう、パイモンちゃん」と笑顔を向けられた相棒が顔を歪めてくうぅと唸る。可愛さに殴られたらしい。気持ちがよくわかる。
「そっか。そういう事なら俺たちは応援だけさせてもらうね」
 隣で流れ可愛いにあてられつつ空は微笑んでうなずいた。お兄ちゃん力は高いと自負しているのだ。小さな子のやる気と決意はしっかり受け止めてやらねばなるまい。ここからが汲みやすいんじゃないかな、なんて、さりげなく安全性が高そうな立ち位置には誘導させてもらったけれど。
「転げ落ちるなよ!」
「おちないもん!」
 相棒の応援(?)にぷうと頬を膨らませたレヴィが、はっとしたように瓶を泉に沈めようとしていた手を止めこちらを見上げる。
「おにいちゃん」
「なあに?」
「これからぼくがお水にさわるでしょ。ぼくのきもちもとけちゃうよね? ぼくも、えっと、むしん? にならないとだめかな?」
 真剣に悩んでいるらしいレヴィに破顔する。難しい言葉を知っているようだ。
「そんな事ないよ。レヴィはとうさまとパパのご飯が好きだよね?」
「うん」
「二人はご飯を『無心』で作ってると思うかな?」
 首を振り、それから傾げる。空の問いかけに少しだけ考え込む素振りを見せたレヴィの首は横に動いた。
ううん。おいしくなあれって。あと、いっぱいおたべって」
 答えながら、レヴィの頬がふにゃりととろける。両親のおいしいご飯の事を思い出したのだろう。もにゃもにゃと動く小さな口に肩を振るわせて空は続ける。
「でしょ? 水を汲むのも一緒だよ。レヴィがとうさまの事を考えながら汲んだ水の方が、とうさまにとっても美味しい水になると思うな」
 例えばこの仔が『無心』で水を汲めたとして、ヌヴィレットは逆に訝しむだろう。愛する我が仔が手ずから汲んだ水からその思いを感じられないとなれば寂しがるまである。彼は常の彼を知る者が驚くほど素直に、わかりやすく、レヴィを慈しみ可愛がっているのだから。
「オイラもそう思うぞ! 水からレヴィの頑張りとか、大好きって気持ち感じたらヌヴィレット、めちゃくちゃ喜ぶぞ、絶対!」
 横合いから顔を出した相棒が空の持論を力強く後押ししてくれる。ぱちぱちとアイオライトを瞬いたレヴィはこっくりとうなずいた。
「そっか。じゃあ、とうさまのこといっぱいかんがえながらくむ!」
 ぎゅ、と再度空き瓶を抱きしめたレヴィが目を閉じる。『とうさま』の事を考えているのだろう。
 こぽぽ、と瓶が歌って、水が満たされていく。栓を閉めたら隣の一本。真剣に水を汲んでいるレヴィが時々へにゃりと笑んだり、「だいすき」「げんきでいてね」などと心の声を漏らすのを胸を押さえて見守る。あまりにも可愛い。たくさん愛されているのだろう。当然無意識なのだろうけれど、この仔は同じだけの愛を親に返そうとしているように見える。これは親ばかコース待ったなしだ。ご両親の気持ちがよくわかる。
 ぎゅ、と最後の一瓶の栓を押し込んだレヴィがふうと息をついて額を拭うのにお疲れ様と労いの言葉をかけて、大切な水が零れないように栓のチェックだけさせてもらい(勿論許可は得た。「お水にはさわらないからだいじょうぶ」との事だ)、バッグから取り出し手渡した物に目を丸くしたレヴィに片目をつむってみせる。
「プレゼントだから、瓶もお洒落にしないとね」
 以前ポーション販売を手伝ったときの、瓶の装飾のための飾りの余りだ。リュックに入れて持ち運んでも易々と外れたりすることはないだろう。使い道に悩んで鞄の肥やしになっていた物だが、これ以上ない活用法を見出せてよかった。
 誇らしげな佇まいとなった瓶達を丁寧にリュックへと収めたレヴィがそれを背負うのを手伝ってやって、そういえばと確認した現在地はポート・マルコットとメロピデ要塞のちょうど中間辺りだ。散策がてらに戻ったとしても公爵閣下との約束の時間に充分間に合いそうだった。幼仔の身繕いの時間を加味しても、だ。
 「多分必要になる」と含みのある言葉と共に預かった包みの中身が小さな水龍の着替え一式だった所を見るに、我が仔が何を選ぼうとしているのか薄々感づいていたのだろう。そういうところさすがだよなぁ、なんて思いながら「戻ろうか」と掛けた声に、レヴィの元気な声と小さな手が差し出された。


 海から帰還し、拠点で着替えとおやつを終え、ポート・マルコットへ戻って来たのは太陽が橙に染まり始めた頃だった。約束の時間よりは少し早いが港へ繋がる街道の終着点には黒を纏った偉丈夫が立っていて、その姿を見た途端、顔を輝かせたレヴィが掛けだしていく。
「パパ!」
「おかえり、レヴィ。とうさまへのプレゼントは見つかったかい?」
「ん!」
「そうか。よかったな」
 堅盾重甲ヤドカニも斯くやの勢いの突進を難なく受け止めたリオセスリがただいまと懐く幼仔の頭をくしゃくしゃと撫でて笑い、追いついた空達へその氷色ひいろの瞳を向けた。
あんたらも、うちの仔の護衛任務ご苦労だった。これは今回の成功報酬だ」
「あ、おやつ付きだ」
「ありがとなパパセスリ!」
 公爵閣下のお褒めの言葉と共に寄越された袋には約束通りの金額のモラと何故か晶螺マドレーヌが収まっていて、相棒が空中でステップを踏んで喜びを露わにする。
「パパ、だっこ」
「ん? その前にお兄さんたちに言うことがあるだろ?」
 呼び方、と苦く笑うリオセスリの外套の裾を引きながらのおねだりに父親の瞳が問うように細まるのを見た幼仔は、はっとしたようにこちらへ向き直った。
「おにいちゃん、パイモンちゃん、あいがとうごじゃました!」
「どういたしまして!」
 朝のようにぺこりと下がる頭と元気で丁寧な感謝の言葉を受けて、相棒と顔を見合わせて笑う。
「ヌヴィレットに俺たちからのおめでとうも伝えておいて」
「任された」
「あと俺は護衛任務中に宝探ししたりはしません」
「おっと、喋っちまったか。まあ内緒とは言ってないしな」
 よくできましたと小さな頭を撫でて幼仔を抱き上げたリオセスリに依頼をひとつ。腰に手を当てて抗議をひとつ投げれば、彼は楽しげに肩を揺らした。全くこの公爵閣下はと肩を竦め、『パパ』の腕の中でご機嫌麗しい様子の幼仔に手を振る。
「それじゃあまたね、レヴィ」
「またな!」
「ばいばい!」
「あったかくして寝ろよ」
 去り際に飛んできたテノールに「やっぱりパパセスリ」「最近父親が板に付いてきたよね」なんて会話を交わしながら、空は脳内で広げた冒険の証に依頼完了のスタンプを押したのだった。

***

 腕の中に我が仔が、傍らに伴侶がいる考えうる限り最高の居場所で、我が仔からの心尽くしのプレゼントを前にヌヴィレットは静かにため息をついた。
「君に誕生日を祝われた時も思ったのだがもう少し真剣に日付を定めればよかった。この仔の努力と思いを受けるに足る決め方ではなかった」
 少し前まで大はしゃぎで今日の冒険譚を語ってくれていたレヴィの安らかな寝息を聞きながら呟くと、吐息で笑ったリオセスリの唇がこめかみにそっと触れる。
「俺が誕生日を祝ったときも言ったが、誕生日に対する思いなんて人それぞれさ。この日が嫌いだって人間もいるだろうしな。この仔と俺にとってこの日が盛大に祝いたい大事な日だってのだけわかってくれてればそれでいい。笑顔で祝われてくれればもっといいな」
「笑顔」
 レヴィの背を撫でているのとは逆の手を頬にやり、時折リオセスリがするようにふにふにと揉んでみる。この頬の筋肉の働きに、ヌヴィレットは自信がなかった。リオセスリが、レヴィが向けてくれる笑顔は温かくてやわらかくて、疲労を忘れるくらい自分を癒し幸せにしてくれるけれど、それと同じものを自分は彼らに返せているだろうか。
 思わず落ちた肩に、頬で遊んでいた手を絡め取ってキスを落としたリオセスリがゆるりと笑う。
「難しく考えなくて良いさ。今日みたいに祝われてくれたら、それで充分」
「今日のようにそうだな。今日はとても、楽しかった」
 家族との約束を守るべく定時でパレ・メルモニアを出た自分をエントランスで待っていてくれた我が仔と伴侶。揃って辿る家路。まってて、の声に足を止めた自分にいいよとかかった声に自宅に踏み入れば、おかえりと二つの声が出迎えてくれた。
 三人で囲んだ特別な食卓。差し出された言祝ぎと、『宝物の水』と、大冒険の土産話。今に至るまで、ずっと心が熱を持ち続けている。
「笑顔には正直なところ自信はないが、君たちが祝ってくれるなら来年の私も幸福だろう」
 小さな背を抱き、傍らへ体重を預ければ、心得たとばかりに髪を梳かれる快さに目を細めて。
「誕生日ついでにもう一つわがままを言ってもいいだろうか」
「なんでもどうぞ? 俺に出来ることなら」
 ぽそり落とした呟きに、即答されてふふと笑む。
「明日の朝食はこれでスープを作って欲しい」
 あの仔の汲んでくれた水で君が作ってくれるスープは世界一の味だと確信している。楽しみだ。
 一瓶はそのまま、一瓶は彼の淹れてくれる紅茶のために。最後の一瓶の使い道を定めると、ぱちりと瞬いたリオセスリは責任重大だなぁと笑った。

ーーーーー
要塞の人たちはアルバートさんの影響で御仔の事を「若様」と呼んでいます(説明遅)
パーティまでの一部始終を書くべきか悩んだんですが冗長になるので雰囲気ポエムさんに頼りました。
リュックとお友達は完全防水です(とうさまの加護)