紫輝
2024-12-02 21:45:15
1868文字
Public しょくんば(刀剣乱舞)
 

【しょくんば】就任記念パーティと同時開催した【刀剣乱舞】

国広君の盛装最高でしたねという掌編です。ぱっと見ネクタイ周りしか変化ないのに圧倒的美を見せつけられてキュッてなっちゃった…

 時の政府から寄越された衣装箱を開け、国広はふむと声を漏らす。真新しい、何の変哲もないスーツの上下、に、見える。光忠をはじめとした長船派の戦装束のような。それこそ光忠たちであれば違いがわかったのかもしれないが、生憎その方面の研鑽を諦めている国広には生地の色があまり本丸では見ないグレーなのだな、ということくらいしか言えることがない。
 添えられていたネクタイは常の装束より緑みが強く、ネクタイ用と思われるアクセサリーもついていた。これは確か、タイリング、というものだったはずだ。スーツでも色々お洒落できるんだよ、と楽しげに語ってくれた光忠の話が役に立ったな、などと思いつつ、『一般の山姥切国広』にこんな洒落たもののつけ方がわかると思うなよ、とぼやく。下手に試行錯誤して壊す前に誰かに教えを請わなければ。そんなことを考えてから小さく笑った。誰か、などと。選択肢なんてあってないようなものなのに。
 聞けば誰かしらが教えてはくれるだろうが、きっと『唯一の選択肢』は――光忠は拗ねてしまうだろう。九年共に過ごしてだいぶん力の抜けてきた伊達男のことを考えて心を温めつつ小物類を箱へ戻し、通達に目を通して首を傾げた。
「布?」
 各自で用意するように、と記されている一行をなぞって思わず呟く。五年ほど前に修行を終えた国広は、それを手放して久しい。勿論共に戦場を駆け抜けた相棒であるから大切にしまってはあるけれど、わざわざそれを引っ張り出せとは時の政府も面倒くさいことを言う。きっと経験を積んだ余所の『山姥切国広』も同じことを考えているだろうな、と思いつつ、己が主のように十年来務めに従事している審神者であれば布を纏う国広に懐かしさを覚えてくれたりなどするのかもしれない、とも思って、主が喜ぶのならと頓珍漢な指定を受け入れることに決めて。
――ああ、そうだ」
 いいことを思いついて、国広は行李の蓋を開けた。



わあ、懐かしい格好をしているね」
 思い馳せるようなため息をついて目を細める光忠に、そうだろう、と笑ってみせる。ひらりと揺れたのは絹織りの纏い布だ。目の前の伊達男が給金を大いに無駄遣いして仕立てた、国広への誓いの証。万が一にも虫になど喰わせまいと手入れは入念に行っているし、香りが消えることがないよう箱もきちんと整えている。あの頃よりも纏う機会は減ったが、国広の少ない持ち物の中でも特別に大切な品だ。
「纏い布を各自で用意しろと丸投げされたからな。『各自で用意』した」
「まあ新品の布が送られてきても困るんじゃない? 君も、余所の『山姥切国広』も」
「普通の『俺』なら予算のことを考えて部屋に引きこもるだろうな」
 愉快げに笑った光忠が、タイリングを手に取ってするりとネクタイを撫でた。
「君の瞳の色を濃くしたような色だね。よく似合ってる」
 正直飾り気なさ過ぎて少し不満だったけど、これくらいの方が君の美しさが引き立っていいか。
 呼吸するようにそんな台詞を吐く伊達男に肩を竦める。あんたも飽きないなと口にすれば、君を見飽きることは一生ないよと返されて久しぶりに布をそっと引き下ろした。
 パチン、と首元で音が鳴って、よし、と満足そうな天鵞絨の声音が落ちる。
「挟んで留めるだから簡単だけどよかったら当日も僕にやらせて」
「あんたの準備が俺より早く終わっていたらな」
「う……
 囁かれた申し出に仕掛けたちょっとした意趣返しに成功してくすくすと声を立てて笑うと、光忠はばつが悪そうに眉を寄せた。それから取り繕うように小さく息をついた伊達男の指が纏い布に触れる。
「もう一度祝言を挙げるか?」
「する」
 まるであの日を思い出させるような瞳でそれを撫でる指に揶揄いのつもりでかけた言葉に思いの外真剣に、やや食い気味に返されて、国広は翡翠を見開いた。
するのか?」
「結局お披露目式ひろうえんはしてないでしょ? ずっと一緒の子たちは察してくれたし最近の子たちはそういうものだって認識してくれてるけど」
 あの時は君が嫌がるってわかってたしそれでいいと思ってたけどやっぱりちゃんとしたい。まるで何かをねだる短刀たちのような風情で言われれば国広には折れるよりない。
……主が良いと言ったらな」
「きっと許可してくれるよ。主殿だもの」
 纏い布に触れる指に己のそれを絡め光忠の頬に唇を寄せて答えると、空いている片腕で国広を抱き寄せた光忠は穏やかにそう言った。

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例の布の話はこちら (Pixivに飛びます)