紫輝
2024-11-23 08:24:28
5761文字
Public リとヌと御仔の話
 

【リオヌヴィ】レヴィのおたんじょうびだいさくせん(11月)

リとヌと御仔とパパのお誕生日の話です。ゲストに鐘離先生。相変わらず夢と妄想しかない

 水の国フォンテーヌ・ベリル地区。青々とした草や可憐な花々が作り上げた自然の絨毯の上で、鍾離は幼仔と顔を付き合わせていた。
「今日の俺たちの任務は覚えているか?」
 片膝をつき、幼仔を見上げるようにして問うと、菫青石 きんせいせきの瞳に真剣な色を宿した幼仔はこくりとうなずく。
「ピンクのおはなと、スースーのおはなと、ボーボーのおはなをつむ!」
「正解だ。『こわいの』が出てきた時は?」
「せんせいのいうこときく!」
「よし、完璧だ。レヴィは賢いな。さすが、ヌヴィレット殿とリオセスリ殿の仔だ」
 首から下げたカードホルダーを小さな両手で握りながら返る元気な声に微笑みつつ閃かせた手で幼仔の背中に迫るトリックフラワーを音もなく元素に還し、重ねた問いへの答えに満点を出せば、幼仔はえへへと笑う。とうさまとパパのこだもん、と続く言葉には誇らしさと微かなはにかみが滲んでいて愛らしい。
「では任務開始だ。探している花は近くにありそうか?」
 立ち上がり、両親が褒められたのが嬉しかったらしい幼仔――レヴィの手元を覗き込んで首を傾げると、小さな頭がホルダーに収められた写真と周囲を忙しなく行き来する。程なくしてその唇から「あ!」の言葉が飛び出して、あっち、と彼方を示す指。その先では確かに『ピンクのおはな』――レインボーローズが揺れていた。
「せんせい、いこ!」
 レヴィがぐいぐいと袖を引く。この年頃の子であれば止める間もなく駆け出していきそうなものだが、無意識に警戒しているのか両親の教育の賜物か、はてさて。心中呟きつつ、鍾離は小さな背を追うのだった。
「レヴィは元素の使い方は習っているのか?」
 まるでレヴィの来訪が分かっていたかのように、レインボーローズの近くには『スースーのおはな』――ミントが咲いていて、目的の花はあっという間にあと一つを残すだけになった。最後の一つ、『ボーボーのおはな』が放つ炎元素に触れないようそれとレヴィの間の距離を保ちながら聞くと、幼仔は首を傾げる。
「よくわかんないけど、お水はだせるよ」
 小さな両手のひらが合わさって受け皿のような形を作ると、鍾離の拳大の水の玉がこぽこぽと形を成した。その様に水の元素龍の裔たる潜在能力を見て瞳を細め、よし、と烈焔花を指差す。
「烈焔花ボーボーのお花は、見ての通り常に燃えている花だ。これを摘むには、まずこの火を消す必要がある。火を消せるのは?」
「お水! とこおり!」
「ふふ、そういえば確かにリオセスリ殿は一時期旅人の烈焔花の花蕊集めを手伝っていたな。では、リオセスリ殿のように火を消してみようか」
「あい!」
 嬉しそうに両親の操る元素の名を答えてくれる幼仔に肩を揺らして口にすれば、俄然真剣な表情になるのが愛らしい。間違っても身体ごと飛び込んで行かないように構えながら見守る鍾離の前で、えい!という掛け声と共にレヴィの手を離れた水の玉は見事に烈焔花を無害化した。
「よし、よくやった」
 見上げてくる輝く瞳に笑みで応えてやり、大地を離れた花を受け取る。烈焔花は大気中の炎元素を取り込んで養分とする花だ。花蕊が乾燥すれば再び燃焼してしまうため、この花の下処理だけはその場で鍾離が行うと『作戦会議』で決めていた。
「疲れてはいないか? あと二回、さっきの"ばしゃん"をしてくれたら充分な量の花が集まるんだが
「ぼくげんき! やる!」
「ふむちょっとゆらゆらしたり、足が重たい事はないか?」
「へいき!」
 半ば叫ぶように答え、ぴょんぴょんとその場で跳ねてみせるレヴィの顔はやる気に満ちている。見る限り幼仔を取り巻く元素の流れにも異常はなさそうなので引き続き採集にはレヴィの力を借りることにした。次の花へと向かうその道すがら、鍾離の袖を掴んだ幼仔はそわそわと呟く。
「ぼくのお水でボーボーのおはなつんだんだよってパパにおしえてあげたら、パパびっくりするかな?」
ああ、きっとびっくりするぞ。それからたくさん褒めてくれるだろうな」
 幼仔のやる気の源を知って肩を揺らす。この仔は本当に父親を慕っているようだ。うなずく鍾離に「その時」のことを想像したのか、レヴィは白い頬を赤くしてふにゃりと笑った。


「せんせいはパパのおちゃ、のんだことある?」
 すごくおいしいんだよ、と、くふくふ笑う幼仔の傍には丁寧に封をされた包みがある。「おはなのにおいがして」「ねむくなっちゃったときにげんきになれて」「ひみつきち メロピデ要塞はさむいから、あったかくなれる」、そんなお茶をパパに贈りたいのだと『作戦会議』で話してくれたレヴィの願いを叶えた『特別なお茶』が、その中には入っていた。沈玉の谷の誇る仙茶のひとつ『雲来の白豪』を『特別なお茶の素』とし、幼仔が手ずから摘んだ三種の花の花弁を加え、何度かの味見を経て完成した特製の品だ。今は残った雲来の白豪を饅頭と共に改めて頂いているところである。
 水龍の仔らしくその茶を「あまくてみどりのにおいがする」、と的確に評した幼仔が続けて発した台詞に鐘離はうなずく。
「ああ。何度か頂いたことがあるぞ。リオセスリ殿の紅茶はいつも美味しいなと俺も思っているよ」
 趣味が高じたと笑うリオセスリの淹れる紅茶は、普段それを嗜まない鐘離にも美味を感じさせる逸品だ。茶菓子の類いにも学びを欠かさないらしい彼が璃月の菓子に合いそうな茶葉を見つけたと誘ってくれる茶席は鐘離の生活の新たな楽しみになっている。過ぎるとヌヴィレットに拗ねられてしまうのが困ったところでもあり微笑ましいところでもあるけれども。
「おみせのおちゃもおいしいけど、ぼくはパパのおちゃがいちばんすき。とうさまもお水とおなじくらいすきっていってた」
「そうか。ヌヴィレット殿がお水と同じくらい好き、ということは大好きということだな」
「ん!」
 小さな口からしれっと暴露される『とうさま』のほんわかエピソードを胸の内の極秘事項を集めた部分へそっと収めつつ瞳を細める鍾離に、レヴィはにこにことうなずく。初対面こそ怯えられてしまったが、限りなく近い種族であると認識してくれたのか最近の幼仔は機会を得るとこうして父親たちのことを楽しそうに話してくれる。その殆どは彼らとの思い出なのだが、時々こうして火のついた花火が差し出されるから油断ならない。鍾離でなければ父親たちの前で失言して友情にヒビを入れていたかもしれない。鍾離なのでそんな愚は犯さないけれど。
"パパ"にプレゼントを渡すのが楽しみだな」
 俺からのおめでとうも一緒に伝えておいてくれ。
「あい!」
 砂漠でデーツナンを口にしたような顔をされるのが分かりきっているので絶対に口には出さないが、子のように可愛がっている水龍の番と孫のように可愛がっている二人の愛し仔にとって今日という特別な日がより良いものになるように願いながら鍾離が口にした「お願い」に、レヴィは元気にそう返じてくれたのだった。

***

 ――当日、夜。
「レヴィ、もう眠いのだろう。ほら、おいで」
「だっこだっこだめ。ねんねしちゃう
 『パパ』へのプレゼントと『せんせい』からのお願いを抱きしめたレヴィは睡魔と戦っていた。時刻は午後九時、常のレヴィであればとっくに夢の世界に旅立っている時間だ。玄関で蹲るレヴィに、先から何度も『とうさま』がかけてくれる声と伸ばしてくれる腕を、レヴィは首を振って拒否していた。
 帰りが遅くなりそうだという『パパ』からの言伝により、本日のパーティーはすでに明日へと延期されている。共に食べたい人が不在のまま食べる特別な料理にレヴィにとって意味はなく、「これはパパとたべるごはんだから」と延期を当然のように受け入れたレヴィは、『今日』プレゼントを渡すことだけは譲らなかった。なんとか十時までにはと『パパ』からの言伝にあったのも聞いていたから、こうして玄関で待ち構えているのだ。こくりこくりと舟を漕ぎながら伴侶を待つ息子を、せめて硬い床から膝の上へ移動させたいヌヴィレットの思いは先の台詞の通りのあまりにも可愛らしい理由で拒否され続けていて、彼の視線は揺れる息子と時を刻む時計、黙したままの扉の間をずっと彷徨っている。
ぱぱ、」
 カチ、とまたひとつ長針の動いた音に、ぐす、と鼻をすする音と少しだけ涙混じりの声が重なったところで、二人は同時に扉へ顔を向けた。二対の宝玉が見つめる前で、内鍵がくるりと回る。
あれ、レヴィ? ヌヴィレットさんも。なんでこんな所に」
「パパ!!」
 飛びついたレヴィの頭を撫でてくれながら寒いだろ、と首を傾げる『パパ』に、『とうさま』が肩を竦めて苦笑する。
「ここで君を待つと言って聞かなかったんだ。おかえり、リオセスリ殿」
「おかえりなしゃ!」
 『パパ』の帰宅が嬉しすぎて肝心なことを忘れていた。いつものようにその頬にキスを贈りながら『とうさま』が口にした出迎えを、同じ言葉で追いかける。慌てるレヴィに二人は微笑ましげに肩を振るわせた。
「ただいま。けど、いつもならもう寝てる時間だろ? 今日はなんでそんな頑張ってたんだ?」
 腰を落とし、目線を合わせてくれてから首を傾げる『パパ』に、小さな口をもにょりと動かす。
「おたんじょうびおめでと、パパ」
 あのね、と前置いて告げた祝福と、きょういいたかったの、と続けた言葉に、丸くなったフロスティブルーがとろりとゆるんだ。大きな手がレヴィの頭を優しく撫でて、ふわりと抱き上げてくれる。
「そうか。お祝いしてくれるつもりで待っててくれたのか。ありがとう。嬉しいよ」
 遅くなってごめんな、と眉を下げて笑う『パパ』の腕の中で、レヴィは抱きしめていたものを差し出した。
「これね、おたんじょうびのプレゼントなの。せんせいにてつだってもらってね、ぼくがつんだおはなのはいった、げんきになれるおちゃ。あっ、せんせいがね、おめでとうっていってた」
 大事にしすぎて少しだけよれてしまった包みを受け取った『パパ』が息をつくように笑う。隣から顔を出した『とうさま』が、茶葉だったのか、と呟いた。今の今まで中身は秘密だったのだ。『パパ』のためのプレゼントの中身を一番に知るのは『パパ』でないとならないと、レヴィは思っていたので。
「ボーボーのおはなはね、ぼくのお水でつんだの」
「凄いな。さすが俺たちの仔だ」
「もう烈焔花の火を消せるだけの力があるのか。立派になったな」
 むふんと鼻を鳴らせば、驚いたようにアクアマリンの瞳をまたたいた『パパ』が塞がっている両手の代わりにぐりぐりと額と額を合わせてくれる初めての感覚と、アメジストを細めた『とうさま』が頭を撫でてくれる嬉しさと誇らしさにレヴィはきゃらきゃらと笑う。それからふあ、と漏れたあくびに、穏やかな声が代わる代わる囁いた。
「プレゼントありがとうな、レヴィ。鐘離さんにも今度お礼を言っておくよ」
「たくさん頑張ったのだから疲れただろう。もうお休み」
 また明日、と大好きな声達が密やかに告げるのになんとかうなずいて、レヴィは達成感と共に眠りの国へ旅立ったのだった。


 満足げな笑顔で寝息を立てる息子をベッドへ送り届け、帰宅後の身繕いもそこそこにポットを手に取る。浮かれている自覚はあった。その証拠にヌヴィレットの視線が幼子を見るそれだ。けれど愛する息子に好物を――しかも手作りだ――贈られてガキにならない父親などいるだろうか。少なくとも自分はなる方だった。それだけの話だ。
 いそいそと茶器に唇を寄せて、馥郁たる香りを昇らせる茶の最初の一口を味わったリオセスリはその目を見開いた。
……うっま」
「美味なのは道理だろう。あの仔の君への思いが詰まっているのだから」
 らしくない感嘆詞に珍しいと肩を振るわせて、相伴に預かっていたヌヴィレットがそう応じるのに首を振る。
「あの仔が俺のために作ってくれたってだけで満点以上なんだが、単純に味が好みだ。店で売ってたら買う」
 茶のやわらかな甘みと共に華やかなレインボーローズが香り、微かなミントの香りが飲み下したあとの鼻を爽やかに抜けていく。湯温は高くないのにやたらと身体が温まる気がするのは烈焔花の効果なのだろう。鐘離の監修が入っているにしても初めての挑戦でこれだけのものを作り上げるのは一種の才能と言って差し支えないのではなかろうか。
確かに君が好む茶の味だな」
「要塞で振る舞って自慢したいがそんな勿体ないことしてたまるかって気持ちもある」
 うちの仔にはブレンダーとしての才能があるかもしれない、飲みきってしまうのが惜しいと眉を寄せるリオセスリの動きにつられるように『特別なお茶』を見たヌヴィレットがぱちりとその階調の瞳をまたたく。
「リオセスリ殿、そのカードはなんだ?」
「カード?」
 プレゼントの包みは二重になっていた。茶葉を湿気から守るためにそうなっているものと気にも留めていなかったが、袋と袋の間にカードが挟み込まれていたようだ。するりと抜き取ったそれを返すと、典雅な筆跡がそこで踊っていた。ヌヴィレットと共にそれを追うと、ベースの茶葉が何で、どの花をどの程度加えたのかが記されていると分かる。リオセスリはくつりと喉を鳴らした。
「『レヴィ』のレシピだ。良い物をもらった。鐘離さんには重ねてお礼をしないとだな」
「『レヴィ』?」
「オリジナルブレンドには名前が必要だろ?」
 茶葉がなくなる前にあの仔に花を摘んでもらわないとな。
 上機嫌に茶器を傾けるリオセスリに、ヌヴィレットは実に良い名だと微笑んだ。

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お茶回りは1から100まで捏造です。名前の響き的に白茶なのかな?って思ったので勝手に!拝借しました!あとブレンドしたときの効能も妄想です
鐘離先生との初めましてとか御仔が要塞を秘密基地って呼び始めた日の話とかを書く前にパパのお誕生日が来てしまったので取り急ぎ書きたいところから書きました。その辺りのお話もいずれ書きたいです