彼氏が人外に好かれまくるのが面白くないヌ様の話です。解説の鐘離先生を添えて。いつも通り夢とロマンと妄想でできています。動物相手でもモヤってしてしまうヌ様本当に可愛い(ただしやることはry)
「犬、猫、リフィー海域のラッコとも顔見知りだったな。ヴィシャップの中に数匹、君に懐いているものがいるのも知っている。メリュジーヌ達と懇意なのは喜ばしいことゆえこのままで構わない。それから仙霊とやらに加えて、霊炎の化身」
白くうつくしい指が順に折られると共に、法廷で罪状を述べるように淡々と動物やそうでないものの名が挙がる。折られた指が拳を作り、そこから小指が飛び出したあたりで、はあ、と、ため息が空気を揺らした。
「君はヒトならぬモノに好かれすぎだ」
呆れたような、怒りすら感じるような硬い声音。常人であれば訳もわからず謝罪の言葉を口にするだろう。リオセスリの耳はそこから『拗ね』と『嫉妬』の響きを感じ取っていたのでそうすることはなかったけれど。
ぱたりと落ちた手が、リオセスリのそれに絡む。
「私の"宝"が…君がそれほどまでに魅力的なのだと皆に思われているのが、胸がふるえるほど嬉しく誇らしいのも事実なのだ」
ゆえに標 をつけてそれらを一概に遠ざけてしまうのは正直なところ惜しくもあり――
手のひらを合わせてみたり、指同士を組んでみたり、甲を撫でてみたりしてもにもにとリオセスリの手で遊びながら麗人はぽそぽそと呟いている。嬉しい、誇らしい、惜しい、けれど面白くない…くるくると表情を変えながら、滔々と。
いつの間にやら効果範囲を、だの発動条件が、だの呟き始めた麗人に、特に意識しての行動じゃないが不快にさせてごめんと謝りたかったし、その不穏な単語は何のことだいとか、そもそも標ってなんだいとか聞きたかったし、このひとめちゃくちゃ俺のこと好きだな可愛いなを噛み締めたかったけれど。
かの麗人に、膝の上で、首筋にすりりと懐かれながら手で遊ばれている現状に既にキャパを数十倍ほどオーバーしているリオセスリにできることなど、その唄を聞きながら淹れたての紅茶を湛えたティーカップから昇る湯気が消えていくのを眺めていることくらいなのだった。
「良い品を身につけているな」
「ん? …ああ、これか。貰ったんだ」
「あの子からか」
ひょいと首を傾げる鍾離の目線の先と思われるノットに――正確にはそこに収まったタイリングに触れて答えると、黄玉の瞳が楽しげに細まる。さらりと贈り主を看破されるが鍾離相手だ。今更驚かないし、彼でなくてもリオセスリの立場を知る異邦の旅人の仲間達であれば難しくもない考察でそこに辿り着いただろう。
貰って欲しい、と唐突に差し出されたシルバーのタイリング。褒美をもらう理由がないがとまたたいたリオセスリに、君がいつも贈り物をくれるように私がそうしたかっただけだと珍しく勢い任せに押し切られ(ついでに私と君は褒美を与え与えられる間柄ではないと叱られた)リオセスリの首元を飾るようになったそれは、うねる水流のような、狼の横顔のような、力強くも優美な曲線が光の加減で赤と青に色を変える石を抱く、シンプルながら美しいデザインをしていた。明らかに「思いつき」で贈るデザインではなく、まじないもかけた、君を護るものなので身につけてくれたら嬉しいとどこかそわそわとした調子で告げられればそれはその『まじない』にそれ以外の仕掛けがあると白状しているのと同義で、先日の件の記憶も新しかったリオセスリは内心破顔しつつ「嬉しいよ、ありがとう」と紳士的に笑んでみせたのだ。
「人外に好かれすぎだと拗ねられてね」
「なるほど」
その時のことを思い出して喉奥を揺らすと、鍾離もゆるりと笑みを刷く。
失礼する、と一声。向かいから隣へ移動してきた鍾離がその顔をタイリングへ寄せてきて気持ち仰け反った。ヌヴィレットもそうだが『龍』を背負うひとは好奇心旺盛なところがあるんだろうか。
「…身体的接触が可能な距離まで近づくと気付く程度の標がついている。うん、面白い仕掛けだな。実に繊細な仕事だ。あの子らしい」
タイリングをじっと見つめ、ふむ、と呟いた鍾離は、元の席へ戻ると『まじない』の中身を解説してくれる。なるほど「護ってくれる」ものではあったらしい。
ただ、と鍾離の解説は続く。
「元素龍の気配は多くの生物にとって自然の気と同じものだ。あの子の期待した効果は出ないかもしれないな。ああいや、君を眷属やつがいにと望んで接触してくる輩にはかなりの効果があるだろうから出ないとも言い切れないか。その類いの契約は、多くの場合相手の気を自らの内に取り込み、相手の身の内に己の気を流し込むことで行われるからな」
ふふふ、と、鍾離の声が跳ねた。
「純粋に君を慕って懐いてくる子らを遠ざけたくはないが万一にも粉をかけられぬように、というところだろう。いじらしいな」
大事にしてやりなさい。あの子も、その装飾品も。
いた事もない『親戚』の年長者を思わせる顔で穏やかに結ぶ鍾離に出所不明の気恥ずかしさを覚えつつ、はい、なんて答えてしまったその音律はごくたまに『姉』を覗かせる看護師長へ応える時のそれに似ていた。
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